審神者、夫婦に振り回される(いちみか)


俺は無関心でいたかった。しかし、面白いものを見たという鶴丸がご丁寧に一期と三日月のカップル成立までを説明してくれやがったため、俺の一言がふたりをくっつける切っ掛けになったことを悟るしかなかった。そりゃあ一期が落ち込んでたから何とかしなくちゃ本丸の危機だなんて思っていた訳だが、誰がこの本丸でカップル成立させて良いと言ったんだよ。彼女いない俺への当て付けかよ…。
「間違ってるぜ主。聞けば元々夫婦だったって言うじゃないか。つまり元の鞘に収まったわけだ」
「刀だけにか。ってやかましいわ」
鶴丸の言葉に思わずギャグで返すと、「今の冗句本気で言ったのか?しかもノリ突っ込みだと…?驚いたな…」と何故か引かれてしまった。うるせえ、お前の驚きの沸点の低さに俺が驚いたぞと心の中でぼやく。
「まあ、それはともかく今夜は夫婦がよりを戻した祝いに宴会をすることにしたんだが、ひとつ問題があるんだ」
真面目な顔で、深刻そうに言う鶴丸に思わず「問題?」と聞き返したことが今回の俺の失敗点だった。俺が聞き返すと鶴丸は待っていましたと言わんばかりに目を光らせる。
「三条が三日月を素直に嫁に出すとは思えない。あいつらは癖が強く、そして歪んでいる。近しい俺が言うんだ。間違えてない筈だぜ」
鶴丸の言葉に思い至るものはないとは言えない。今剣以外の三条とは長い付き合いとは言えないが、各々好きに動くし、とても自分本位だ。素直といえば聞こえは良いが、欲望に忠実と言ってしまえば欠点になりうる。そして、それぞれ我が強い上に、三条だけで固まって行動しようとする傾向がある。あの中で美しさ故に人に構われるのに慣れている三日月を除いた他の刀は、社交性がないわけではないのにどこか他の刀と一線を引いていることが多い。お前らそんなんだから審神者たちの間で妖怪扱いされるんだぞと思ったことは一度や二度ではない。
しかし、今は妖怪疑惑の三条のことを回想している場合ではなかった。鶴丸が何故今それを言うのか、それが問題だ。
「…そうだとして、それを俺に言ってどうするつもりだ?」
「何、簡単な話だ。宴会の間、君が三条を抑えてくれないかと頼みに来たわけだ」
何言ってるんだこの白いの。俺の今の気持ちを表した言葉はそれに尽きた。そんな訳で勢いに任せて俺は叫んで全力で抵抗することにする。
「自分でやれよ!」
「機嫌の悪い三条に関わらずというのが俺の信条なんだ!悪いな!」
自分の刀工の師匠の作品である三条派の刀たちは、鶴丸にとっては親戚筋みたいなものだろうに、そんな近しい刀たちを厄介者扱いするとは良い性格をしてやがる。三条の刀たちを頭おかしい扱いしているが、そもそも俺はお前も結構アレな性格していると俺は思ってるんだからな。
(…まあ、でも祝いの場で暗い奴らが居たら盛り下がるだろうな)
鶴丸は一期と三日月に宴会を楽しんで欲しいと思っているんだろう。その辺りは空気を読む奴だ。普段は驚き驚きうるさいけれど。それから、妻のことを夢に見るのに思い出せなくて嘆く一期の姿を思い出す。直後に妻の正体が発覚したとはいえ、普段なら辛いことを表に出そうとしない一期が吐いた弱音が解決したのだから、カップルを僻んでいないで祝ってやるべきだよな。それが台無しになるのは俺も本意ではない。
三条のご機嫌取りの生贄に俺を選んだのはふざけんなとは思うが、主である俺が抑えたら流石の三条も宴会をぶち壊したりしないだろうという魂胆の元なんだろう。それなら一肌脱いでやろうかという気持ちにはなる。
「それにほら、俺には一期と三日月を冷やかすという重要な役目があるからな」
「最低だなお前!」
俺の殊勝な気持ちを返せよ!そう思っても小心者な俺はその文句を口に出すことは出来ずに嫌々ながらも了承してしまうしかなかったのだった。

  *

あれから時間が経って夕食の時間になった。鶴丸の頼みを思い出したら憂鬱な気分になってしまい、一晩の空腹くらい我慢して逃げようかと考えだが、なんと一期の弟の短刀たち全員で俺を迎えに来てしまったのだ。彼らの無垢さを前に逃げようとした罪悪感が湧いてしまったために、素直に宴会会場と化したらしい大広間へと連行されることになったのだった。
「それで三日月さんが逃げちゃって、いち兄が大変そうだったんですよ」
「僕たちもいち兄に協力して三日月さんを捕まえたんです!」
「いち兄に綺麗なお嫁さんが来て嬉しい」
キャッキャッとはしゃいでいる短刀たちは先ほど鶴丸から聞いた、一期と三日月がよりを戻した経緯を嬉しそうに話してくる。三日月は一期の弟たちからの好感度が高いらしく、ふたりがよりを戻すことには反対する者はいないらしい。
一週間の間に三日月が短刀たちと遊んでいる場面を何度か見かけたが、まさか一期の家族から堀固めていく作戦だったのだろうかと疑いを持ってしまったのは、多分鶴丸が三条は歪んでいるとか言い出したからだろう。先刻の一期に口説かれるような形になって恥ずかしそうにしていたと思われる三日月が、割と天然を丸出しにしている三日月がそんな計算をしていたら夢が壊れる。綺麗なものには心も綺麗でいて欲しいのが男心というものだ。
「しかし主君。僕たち結構騒がしかったと思うんですが、お気付きにならなかったんですね」
前田の純粋な疑問に思わずギクリとする。
「主様はお仕事に集中していたから気が付かなかったんですよ。そうでしょう、主様」
平野がすかさずフォローをしてくれるが、申し訳ない気持ちになって無言を貫き通すことにした。まさか本丸にカップル、しかも見た目男同士が誕生する可能性に戦慄して、知らない振りをしていただなんて言えない。
いや、一期も三日月も綺麗な顔してるし、男臭さが全くないから仮に目の前でイチャイチャされても暑苦しさは感じないだろう。しかし、だな…。刀でさえリア充なのにその主が童貞だなんて現実逃避したくなるだろ…。そんなこと彼らに言えるはずもなく、愛想笑いで乗り切ることにした。そんな俺に薬研が近付いてきて耳打ちしてきた。
「…大将、本当はこの宴会も逃げたかったんだろう?」
「え!?そんなことは…」
「無理するな大将。大将の時代では衆道は歓迎されないのか?」
薬研は他の弟たちに聞こえないように声を潜める。前を先行する彼らには俺たちの会話は聞こえていないようで、一期と三日月がどれくらいお似合いかで盛り上がっていた。
「そ、んなことはねーけど…」
衆道、というか同性愛については数百年前に比べれば大分認知され、事実俺の友人の中にも同性同士で付き合っている奴がいたし…。しかし、俺が懸念しているのは男同士とかそういのではなく、身近にカップルがいるという事実が独り身には辛いというだけなんだ。
しかも今回の宴会に関してはカップルを祝うという死地に行かなくてはいけないという点に、三条たちを宥めるというミッションが追加されている。どちらかというと後者が本気で嫌なんだ。しかし、それを脳内で説明したところで薬研に伝わるわけはなかった。
「まあ、俺たちは人間とは概念が違うから、大将の気持ちを推し量りきれねぇこともあるけどな、無理はして欲しくねーんだよ」
そう言ってニカッと笑う薬研はとんでもないイケメンだった。
「勿論、いち兄たちのことはちょっとずつ認めてくれる嬉しいなとは思ってるぜ」
薬研が言い終わるか終らないかのタイミングで彼の弟たちから名前を呼ばれる。薬研と話している内に大広間の前まで来たようだった。中には既に刀たちが揃っており、いつもなら俺が座る上座に一期と三日月の姿があった。俺はどこに座ればいいんだろうと途方に暮れていると、俺に気が付いた鶴丸に声を掛けられる。
「おお!逃げないで来てくれたのか!君の席はこっちだ」
笑顔で鶴丸が指さした先には人を殺しそうな顔をしながら黒いオーラを撒き散らす三日月を除いた三条の姿があった。うわあ…これを、抑えろと…?すごく、お部屋に帰りたいです…。
大広間に入った途端、粟田口の短刀たちは一期と三日月の元へと一目散に走って行った。「主様を連れて来たよ」「褒めて」と口々に言う彼らが群がったのは一期ではなく、その妻の三日月だった。三日月が一人ひとり頭を撫でて応えると短刀たちは嬉しそうに微笑んだ。そして、その様子を愛おしそうに見つめる一期…何アレあそこだけ家族が生成されてるんだけど。
「じゃあ俺っちも行くぜ大将。後は任せたぜ鶴丸の旦那」
「あっ…」
鶴丸が席を用意しているのなら任せると言って薬研も上座の方へ歩いていく。歩いていく背中がやけにカッコイイけど、出来れば見捨てないで欲しかった。そうこうしている内に鶴丸に背中を押されて、石切丸の横の空いていた席に押し込まれたのだった。
「じゃあ主も来たことだし、ふたりの門出を祝ってカンパーイ!」
乾杯の音頭を取ったのは次郎だった。高いテンションで一人乾杯した直後、持っていた酒を一気に煽っている。唐突な乾杯に刀たちは一拍遅れて乾杯をして盛り上がった。「ふたりの門出」の言葉に早速鶴丸が囃し立て、一期と三日月は顔を見合わせて同時に照れていた。あんな風に可愛い彼女との関係を囃し立てられて恥ずかしがってみたいぜ。羨ましい…。何だか近侍の筈の一期が遠い存在になっていってしまった気がして寂しさを覚えた。
「ああ、でも良かったな一期…。あんなに熱く語っていた妻とよりを戻せて…」
そう思ってた時期が俺にもありました。
宴会が開始されても真横の刀たちのどんよりした空気が変わらないことに胃がきゅうぅっと締まる感じがして、酒が喉を通らなかった。
「一期一振…三日月にくっつく過ぎではあるまいか…?」
「小狐丸、落ち着きなさい」
「……」
何時もなら敬語口調で落ち着きを払っている小狐丸は一期に対して呪詛を吐いている。赤い目が獲物を狙うように光り輝いていて、これ野生返りいるんじゃないかと思ってしまう程だ。俺の横の石切丸は言葉では小狐丸を諌めているものの、決して一期たちの方を見ようとしない。その徹底振りが逆に怖い。顔は笑顔なのに、怖い。そして、一言も発せずただひたすらに酒を煽る今剣…。子供の見た目な今剣が酒を浴びるように飲んでいる姿がおかしいはずなのに、何故か違和感を持たせない老成のようなものを目の前の短刀から感じる。あと威圧感も。とにかく怖い。
「悪いな、主よ」
この中で唯一の良心である岩融が俺に詫びの言葉を入れた。その手元には酒の瓶があり、次々と今剣のグラスへと注いでいる。お前も大変だな、と声を掛けてやろうとした矢先に今剣が机の上にグラスを勢いよく置く。酒が器から溢れて机を汚すのにも関わらず、今剣は何故か俺を睨みつけながら語り始めた。
「べつに、ふたりがよりをもどしたことはいいんです」
「ア、ハイ」
「このいっしゅうかん、三日月はすごくおちこんでいました。小狐がりゆうをきいたらおっとにわすれられたせいだとなげいていたそうです」
「ア、ハイ」
やばい。要領の得ない内容の所為で、今剣が主張したいことがいまいち分からないから生返事になっていた。とにかくこの一週間三日月が落ち込んでいたということは理解した。そこへ助け舟を出してくれたのは岩融だった。
「ガハハ、今剣はな今の状況があんまり面白くないようだ」
「岩融!」
今剣が鋭い声で岩融に静止をかけたが、俺が続きを促した。今剣は俺が許可したことで不満げな顔をしつつも仕方なく口を閉じることにしたようだった。
「…というと?」
「我ら三条は平安の頃、しかも極僅かな時しか共に過ごせなかったからなぁ。ここでようやく兄弟で過ごせるかと思った矢先、末弟の三日月が知らない間に夫婦の契りを交わした相手が居た上に、再び恋を実らせたじゃないか。可愛い可愛い弟を愛でる時間が減ってしまう、それが面白くないようだ」
「それは…」
とんだブラコンじゃないか。というか三日月より今剣の方が兄なのか。初めて知った。末っ子三日月…おっとりしたマイペース天然ぶりと、世話慣れし過ぎた様子を見るにそこは分からなくもないと納得してしまった。
「因みに三日月を一番溺愛している小狐丸なんかは、もう祟り殺してしまうんじゃないかという勢いでね…。止めるのが大変だったよ」
石切丸が会話に加わるもその内容が本当に物騒だ。そんなことはしないと信じてはいるんだが、一応小狐丸に「一期は大事な近侍だから危害を加えないでくれよ」と釘をさしておいた。因みに返答は「善処いたします」だった。お前、それいいえって言ってるようなものなんだが…。
「お前らが大事な弟を取られて寂しいのは分かった。けどな、三日月の顔を見てやれよ。幸せそうな顔してるぜ」
お前らにあの笑顔を壊せるのか、そういう意味を込めて三条派の刀たちに言うと、彼らは罰の悪そうな顔をして黙り込んだ。三日月を他人に持っていかれるのは気に食わないが、三日月を悲しませたいわけではないから複雑なんだろう。
「…たしかに、ぼくたちがみとめなきゃ三日月はかなしむでしょうね」
今剣が溜息を吐きながら俺の言葉に同意した。先程まで荒れようが嘘のような冷静さで、淡々とそう言い切った。
「兄上様!」
「小狐、それに岩融も石切もちょうなんのぼくのきめたことにはしたがってください」
今剣の言葉に他の刀たちは黙る。長男って言いましたか今剣さん。変わり種の三条の長兄は今剣さんだったんですね。だからさっき酒を呑んでても何故か違和感を感じなかったんだな…とそんな場違いな考えが脳を過った。
「だからあるじさま、もう三条だけでえんせいはなしでいいです」
「元々は三日月傷心旅行の予定だったからねぇ…」
正直に言うと三条で遠征って、何のことだ?と思ってしまった。話を聞きながらそう言えばあの時三日月のお願いの内容がそれだったことを思い出した。三日月は今剣が行きたいと言ったと言っていたが、実際は三日月のための旅行計画だったらしい。
こいつらはこいつらで兄弟を大切にしてるって分かるほのぼとするエピソードだな…とは思えなかった。先程までの荒れようを見たら尚更。重度すぎるブラコンは面倒だという典型例のひとつだな全く。ようやく淀んだ空気が和らいだその時だった。
「えっ…」
後ろから驚いたような声が聞こえて、そちらを向くと三日月が立っていた。兄たちを見つめながら顔を曇らしていく三日月に加護欲のような何かを感じてしまったが、全力でその何かを俺の中で無かったことにした。
「兄上たちとの遠征、楽しみにしていたのに…俺と行くのが嫌になられたのか?」
「そんなことあるわけないでしょう!」
「そうじゃ!すぐにでも参ろう!!」
「私たちが三日月と行くのを嫌がるはずがないだろう?」
裾で口元を隠しながら、よよよと泣く様な真似をする三日月に、兄たちは慌てて駆け寄って口ぐちに三日月を元気付けようとする。というかそれ泣き真似だから、どう見ても泣き真似だから…現に兄たちに構われて超絶笑顔になっているじゃないですかとツッコミは入れられなかった。
「本当か?じゃあ主には高錬度の者の同行必須と言われたからもう一人は一期にたの、」
「それなら鶴丸にでも頼もうか。構わないだろう主よ」
「ア、ハイ」
口々に話す三条たちに俺は無心で頷いた。因みに周りの刀たちは突然三条派の刀が三日月を抱きしめて可愛い可愛いしだしたため何事かと驚いている。普段彼らは他刀の前では兄弟らしい態度を振る舞うことは無いから、珍しい場面を見たと目を白黒させていた。
因みに、何気に一期を同行させたいと主張しようとした三日月を遮って鶴丸を同伴させること提案してきた岩融の言葉に頷いたのは、こんな役目を押しつけやがった鶴丸へのささやかな復讐でもあったのだった。
次の日若干嫌がっている鶴丸を連れて遠征へと旅立った三条を見送ってから、何時ものように書類と格闘を始める。近侍である一期は涼しい顔をして俺がサボらないか見張っていた。よりを戻したばかりの妻を遠征に行かせて良かったのか、書類から目を反らしたいばかりに聞いてみると、一期は爽やかに笑った。
「三日月はご兄弟たちに私とのことを認めてほしいと思ってくれています。そんな三日月がこの遠征で説得すると張り切っていたのです。夫として素直に見送るのは当然でしょう」
ロイヤリティ溢れるスマイルを浮かべる一期の笑顔は眩しいが、何故か本音を隠した胡散臭さが滲み出ていたので質問を重ねた。
「…本音は?」
「早く三日月に帰ってきて欲しいです。大事な妻をこの手で抱きしめたいですな」
「ハハハ、素直でよろしい。爆発しろよ」
因みに三日月による兄たちの説得は一応成功したらしく、あのブラコン共が歯軋りして血涙を流しながらも渋々末弟の恋を認めたことを、鶴丸が「おもしろいものを見た!」と疲れたような顔をしながらもこれまた楽しそうに報告をしてきた。
これでブラコン三条の一期への確執はこれで終了した…かのように思えたのだが、残念なことにまだ続きがあるのだ。
それは三条派と鶴丸が遠征から帰って来た当日の夜のことだった。鳴狐のオトモの狐が転がり込むように俺の自室にやって来た時は何事かと驚いた。「主殿!!大変でございます!!」とただでさえ甲高い声音を更に張り上げて叫ぶオトモに、いよいよ深刻なことが起きたのだと重い腰を上げざる負えなかった。
「今度は何だよ!」
走るオトモの後を追うために、運動不足気味の体に鞭を打って付いて行くと、辿り付いた先は粟田口派が身を寄せる部屋だった。中から聞こえる喧噪にあんなに仲の良い粟田口の兄弟たちが喧嘩しているのかと思い、慌てて乱暴に襖を開くと予想外の展開が待っていた。
「三日月様はいち兄のお嫁さんなんです!だから粟田口の部屋にいらっしゃるのが筋というものです!」
「何をおっしゃる。天下五剣の三日月が嫁入りとはおかしな話じゃ。ここは一期一振殿に三条に来ていただくのが筋なのでは」
「いち兄だって天下五剣に数えられた時期があると聞いたことがあります…!」
「今はそうではないだろう?」
「それは…」
涙目で三条に食って掛かる粟田口の短刀と脇差たちと、大人気ない態度でのらりくらりと躱す年寄たちの壮絶な舌合戦が待っていようとは誰が想像しようか。敬語なのに威圧的に威嚇する小狐丸に噛みつく五虎退…珍しいものを見た。呆然としていると、入り口付近で正座して事態を見守る件の夫婦に話し掛けられた。
「おお、主」
「主殿」
一期も三日月も困ったような笑顔を俺に向ける。お前ら見守ってないで止めろと思いつつ、ふたりに何があったか訊ねる。
「それが…私たち夫婦が粟田口と三条のどちらの部屋で過ごすのが良いかで争いになりましてな…」
粟田口が兄である一期を慕っているのは周知の事実だが、夫婦誕生の件で三条も隠れブラコンだったことが発覚した訳だが、どちらも兄弟と離れて暮らすことに抵抗の意を示しているんだと理解した。勝手に決めろよとすごくこの場から立ち去りたい衝動にかられながらも当人たちの意見を聞いてみた。
「弟たちだけというのは心配ではありますが、鳴狐殿が面倒を見てくれるとおっしゃって下さったので時折様子を見にいければ、まぁ…」
「んん…兄上たちと離れるのは些か寂しいなぁ…」
一期の方は渋りながらも柔軟な考えを持っているようだ。その一方で三日月の方はと言うと兄たちと離れるのは寂しさを隠しもしない。三条は全員ブラコンなんだな、気付いてた。
「でも三日月がいれば私はどちらでも構いません」
「俺はお前様の居るところに行くだけだからなぁ」
そう言ってお互いに手を取って微笑み合う夫婦。こいつら…早く爆発すればいいのに…。何故この世に生を受けてから一回もお付き合いなるものをしたことのない俺の前で平然とイチャつけるのか。遺憾の意である。
「こうなったらもう勝負しかねぇだろうな」
「おや、こちらは四振りしかいないのに多勢に無勢では?」
「太刀と大太刀と薙刀、それに第一部隊所属の高錬度の今剣まで居てそちらの不利はないでしょう」
しばらく見てない間に両派の舌合戦はガチの殺し合いに発展しようとしていた。本体を手に持って威嚇し合っている彼らを、俺は慌てて間に入って止める。
「三条のじじいたちは大人気ないぞ」
「あるじさま、ぼくはこどもですよ」
「お前がこの中で一番じじいだろうが」
今剣が三条の長男ならこの中で一番古い刀ってことだからな。見た目幼くてもこの中で一番じじいだろ、子供の振りすんなと言いたいのを我慢して、柔らか目に言っておいた。
しかし、これでは埒が開かない。こうなったら俺がなんとかしなくては…そう思って粟田口と三条の面々を見渡す。
「こうなったら仕方ないからな、一期と三日月は実家から離れて別部屋でふたりきりで暮らすことを命じる!」
それしか手は無かった。どちらかの実家暮らしは不公平というものだろう。だからって交代で暮らすとしたら両方の兄弟は嬉しいだろうが、夫婦に負担がかかるだけだ。つまり、正しい解決方法はもう一期と三日月には核家族となってもらう。それしかない。
「えー!?」
「実家って言い方は合っているのでしょうか?」
「兄弟だからまあ、間違っていないのでは?」
微妙にツッコミを入れられているが、無視だ。無視。それよりこの無益な争いを収める方が先だ。江雪風に言えば和睦の道がこれなんだ!
「これで解決だな。解散!かいさーん!」
俺が叫ぶとブーイングが起こったが、主は俺だぞと高々に宣言して強行した。すぐに長谷部を呼んで、粟田口の部屋と三条の部屋の丁度中間点の空き部屋を掃除するように頼んだ。起動が早いってだけで雑用を押し付けてごめんな長谷部…。夫婦は最後まで困ったように笑いながら、しかしふたりきりになれるためか、全く抵抗はしなかった。これだからバカップルは…。
これで全て解決した。部屋を分けた夫婦からそれぞれ相談されるまではこれで平和が訪れたと信じて疑っていなかった。初めに来たのは三日月だ。部屋を分けた日から数日が経過していた。
「主、一期がふたりきりだというのに中々共寝に誘ってくれないのだが、どうすれば良いだろうか」
「知らないよ!童貞舐めんなよ!!」
「どうていとは何だ?」
「…俺みたいな、魔法使い予備軍のことかな…」
主は魔法とやらが使えるのかと理解していない様子で微笑む三日月は、自分が相談に来たことなどすっかり忘れてしまったようでそのまま帰って行った。三日月が天然で良かった…これで俺のプライドは若干ではあるが守られる…。だが、三日月に心を抉られた数刻後に来たのは一期だ。
「主殿、三日月とふたりきりでは今にも襲ってしまいそうで私の理性が持ちそうにありません。どうすれば…」
「どうでもいいよ!襲えばいいだろ夫婦なんだから!!何なら今夜にでも!」
 内容が内容だったため思わずキレながら返答してしまうが、一期は怯む様子を見せない。
「しかし三日月の明日の予定は出陣になっています。疲労で三日月にもしものことがあったらと思うと…」
「じゃあ明日三日月は非番で良いよ…」
もう、俺を巻き込むのは止めてくれよ…そう呟くと、一期はただ微笑んで、「じゃあ私の近侍の仕事も明日は外し下さい」といけしゃあしゃあと言いやがりました。もう好きにしろよ…。
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