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【いちみか/現パロ】合同誌「paraphilia」寄稿のストーカー本


 さて、友人がもしかしたらストーカー予備軍でないかと判明してしまったわけだが、俺も別に鬼ではない。好きな人と友人どころか、ほぼ知り合いですらないという一期を少し哀れに思い、一期を友人として三日月に紹介することにした。
 俺がお節介をするのはここまでだ。この後三日月と友人以上の関係になれるかは一期次第だ。
 なんて格好良いことを考えてみるが、三日月の鈍さを思えば一期のひとり相撲になることは目に見えていてきっと面白いだろうなと考えたことが本音だった。それに俺が手伝ったところで三日月に思いが届くかはちょっと分からないからな。
 俺がそんな薄情なことを考えているとは知らずに、一期は片思いの相手を紹介してもらえることに対して俺に何度も感謝の言葉を並べる。止せよ、罪悪感を抱いてしまうだろう。紹介以上のことは恐らくしてやれないからな。
 学校を後にして正門から駅へと向かう大通りを進行する。公園を横切って住宅街に入っていくと途端に一期がキョロキョロと辺りを見渡す。一期の家は反対方向だからこの辺りの道に明るくないのだろう。
「つ、鶴丸殿・・・私たちは今何処へ向かっているのでしょうか。もしかして・・・」
 一期が言葉を切り、喉を鳴らした。その顔は何か期待しているように見える。
「お察しの通り三日月の家だ」
「うぇっ!?ま、まだご自宅までお邪魔する心構えが出来てませんが大丈夫でしょうか!??」
「え!?三日月の家に行くのに心構えなんているのかい!?」
 片思いの相手の自宅に行くのに緊張するのは分かるが、今日は俺も一緒だし三日月に友人として紹介するだけなのでそれ以上に発展することはない・・・よな?
「俺だっていきなり家に行くのはどうかとも思ったんだが、今日は三日月の奴休んでいただろう?三日月の兄から三日月の様子を見てくれって頼まれているんだ」
 君を連れて行って紹介するのはそのついでだ、そう続けながら一期の顔を見ると今度は眉間に皺を寄せて暗い顔をしている。忙しい奴だな。
「休んでいるのは存じてましたが・・・それなら急いでご自宅に向かうべきでは」
「小狐丸・・・三日月の兄なんだが、心配性な奴でな。今日は生徒会の活動で遅くなるから三日月の様子を代わりに見てこいって頼まれただけだ。そんなに急ぐ必要性はないと思うぜ」
 小狐丸は先程言ったとおり生徒会の活動で遅くなる。さすがに生徒会長が休んでいる弟のために活動を投げ出すということがはばかれたらしく、従兄弟の俺に命令に等しいお願いをしてきたというわけだった。
 だからどうせただの風邪とかだろうからそんなに心配する必要性はないと告げても一期の顔は晴れることはなかった。


 *


 高級団地の一角に三日月の家がある。三日月の実家は奈良にあるため、彼と兄の小狐丸はふたりで東京に出て来て、お手伝いの人間と共に暮らしている。
 赤煉瓦で舗装された歩道を居心地悪そうに進みながら、一期はおそるおそるといった風に「薄々気が付いていましたが三条さんってお金持ちなんですね」と聞いてきた。
「そうだぜ。名家のお坊ちゃん」
「・・・ということは、鶴丸殿も良いお家の出ですか・・・?」
「そうだぜ?この高貴さを見れば分かるだろう?」
「いえ、全く高貴さを感じないです」
 迷いもなく否定の言葉を発した一期のわき腹を小突いた。こんなことを言っているが脇腹を押さえて涙目になっているこの男、聞いた話では警視総監の息子である。警視総監の息子なら一期もお坊ちゃんだろうに、何をそんなに青くなっているのか…。
 そんなやり取りをしていたらあっという間に三日月と小狐丸が暮らすマンションに到着した。入り口はオートロックに阻まれてるため、オートロックを解除してもらえるようにチャイムを鳴らしてみる。
 ・・・反応は無かった。
「あれー?おかしいな」
 いつもならすぐに応答してくれるというのに。それならば仕方ないと鞄の中から鍵を取り出した。オートロックを解除してエレベーターを呼ぶ一階に呼び出す。到着したエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押して扉が閉まったところで一期が口を開いた。
「…鍵を持っていたのなら最初から使えば良かったのでは?」
「三日月に開けてもらった方が楽じゃないか」
 そう言えば一期は呆れたような溜息を吐くが無視を決め込んだ。それよりも、何時もならすぐに応答する三日月がしばらく待っていても全く反応が無かったことに嫌な予感を覚える。動き出したエレベーターの階数を示す数字が増えていくことがとてもゆっくりに感じた。それくらい俺は何かに焦っているようだ。
 最上階にある部屋はひとつだけだ。つまり、最上階のフロア全ては三条の兄弟が住む敷地というわけだ。エレベーターを降りた目の前にある扉が彼らの住まいである。その扉も鍵を開けて中へと入り、一期を中へと促した。
「三日月ー。三日月、見舞いに来てやったぞ。大丈夫かい?」
 玄関が開かれても姿を現さない三日月に向けてわざと大声を出しながら長い廊下を歩く。光が差さない廊下が暗く、それがまた不安を煽ってくる気がしてならない。
 無遠慮に三日月の寝室の扉を開けると、部屋の中から息を詰まらせたような声がした。カーテンを締め切り、灯りを消した暗い部屋の中、ベッドの上で三日月が俺たちを恐る恐る見つめてくる。
「あ、ああ…鶴丸か。すまない、出迎えられなくて…」
 弱弱しく微笑む三日月は少しやつれており、暗闇の中でもそれが分かることが痛々しかった。まさかあの三日月が、見た目に反して心臓に毛が生えたような豪胆さを持っている三日月がここまで憔悴することがあるとは一体何があったというのか。
「…鶴丸、お前の後ろに居るのは誰だ?」
 三日月に言われてようやく俺はここまで一緒に来た男の存在を思い出すことが出来た。後ろを振り向くと、三日月を心配しながらも状況に付いていくことが出来ていない一期と目が合った。
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