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【いちみか/現パロ】合同誌「paraphilia」寄稿のストーカー本


 それは偶然だった。
 一期が俺を見下ろして絶望したように顔を青くしている。一期の視線は俺の手の中にある一期のスマホを、詳しく言えばそのスマホに表示されている画面に固定されていて、動揺を隠せずに瞳がゆらゆらと落ち着かない様子で揺れている。
「あー…えっと、一期?」
「皆まで言わないで下さい!!…見たのでしょう?その、画像を…」
 見た。確かに見てしまった。言い訳をさせてもらうと、見るつもりなんか無かった。何度でも言うが本当に偶然だった。
 教室の片隅に落ちていたスマホが誰の物か分からなかったから、手掛かりになればと電源を付けてみたら表示されたのがその画像だった。見られたくないものがあるながパスワード付けとけよ!と言いたいのを我慢した。どう考えてもプライバシー侵害している俺が悪いよな…。
「ま、まぁ、その…よく撮れてるぜ。その三日月」
 スマホに映っていた画像は俺の従兄弟の三条三日月の写真だった。桜の木を眺めている横顔は従兄弟の俺から見ても美しい。風邪になびく髪まで計算されているのかと疑いたくなる絵だ。
 問題なのはその三日月がカメラ目線をしていない、横顔が写されているその写真がどう考えても盗撮だということだった。一期もそれを自覚して顔を青くしているのだろう。何時もはハッキリと喋るというのに、今はか細い声でぼそぼそと「返して下さい」と繰り返すばかりだ。はっきり言おう。とても居た堪れなかった。
「…もしかして、三日月が好きなのか?」
 他に言うべき言葉はあっただろうに、口から出たのはそれだった。
 途端にぼふんと一期の顔が赤くなった。一期の顔から一瞬湯気が見えたような気がした。狼狽えてまともに言葉すら呟けなくなってしまった一期を見て、やはり三日月が好きなのかと思うと同時、可哀想なくらい平静さを保てない一期に、素直に「すまん…」と謝ることしか出来なかった。


 *


 三日月は俺の従兄弟だ。少し天然なところもあるが、簡単に言えばすごく良い奴だ。ふわっとした言い方だが良い奴だ。良い奴過ぎて人を疑うことをしない。何なんだお前は聖人君子かと彼の兄弟含めて周りの人間がハラハラするくらいには良い奴だ。
 その上顔が良い。これまでの人生の中で三日月程顔が整った奴は見た事がない。俺もまだ二十年も生きていない若造だけどな。三日月が微笑むと大勢の人間が呼吸を止める程だ。いや、比喩でもなんでもなく。
 そんなわけで三日月はモテる。本人は天然でスルーしてしまいがちだがよく告白される。それを羨ましいと思ったことはあまりない。俺も顔が整っているから告白された経験があるというのもあるが、三日月に告白するのは女子だけではないからだ。驚いたか?俺も最初にそれを知った時は驚いた。
 性格が良く、愛嬌も良く、何より顔が良いことが「あ、俺三日月ならイケるかもしれない」という感覚にさせてしまうらしい。また、三日月本人も同性愛に理解があっても、自分がその対象になっていることを理解していないことが危ういなと従兄弟として心配するところだ。
「三日月は俺の従兄弟だから生半可な覚悟だったら許さないからな」
「生半可な気持ちで男性に好意を寄せたりしませんよ。・・・勿論、三条さんには迷惑はかけません」
 声を低く押さえ気味に一期に告げると、一期もまた真面目な顔をして真っ直ぐに俺と目を合わせる。その瞳がこれ以上ないくらいに真剣だと語っていると分かって俺は安心した。一期は本当に、純粋な気持ちで三日月のことが好きなんだと判断することが出来た。
(まぁ、一期の性格上顔が綺麗だからとか、そんな浮付いた理由で相手に恋愛感情抱くような奴じゃないよな)
 一期の生真面目でお堅い性格を俺は信用しているわけだ。そんなこと本人相手に直接は言えないわけだが。
 しかし、それとは別にひとつ確認したいことがあるのは事実だった。俺は勇気を出して一期が強く握りしめている彼のスマートフォンを指さして口を開く。
「でもその写真は感心しないな。三日月の目線がカメラを向いてないからまるで隠し撮りのようじゃないか」
「うっ・・・」
「そもそも君と三日月は大して親しくなかったと記憶している・・・。今の内に正直に言った方が良い。その写真はどうしたんだ?」
 一期の顔に自分の顔を近づけて威嚇をしながら詰め寄る。こうしてプレッシャーを与えて口を割らせるという魂胆だ。案の定目を逸らすまいと頑張っていた一期も、俺の圧力に負けて目線を外した。勝利を確信した瞬間だった。
「先程の写真は・・・確かに三条さんに許可を取って撮影したものではありません」
「ほう・・・?」
 先程のこいつの言葉を覚えているだろうか。確か三条さんには迷惑をかけないと言っていたと俺は記憶しているのだが。しかし、まだ続きがありそうなため水を差すことは控える。
「これは入学式の時、偶然裏庭の大きな桜の木を眺めている三条さんを見かけまして・・・。風に煽られて散る花弁に囲まれた横顔が美しかったので、その…つい持っているスマートフォンで」
「・・・盗撮した、と?」
「・・・結果的にはそうなりますね・・・。撮影した写真の彼もまた美しいままだったから思わず待ち受けに設定してしまったのです。ここまでしてようやく三条さんに一目惚れしたのだと気付きました」
 前言撤回。一期は面食いだったらしいことを訂正する。でも罰が悪そうに言う彼はやっぱり心根は良い奴だとそう思った。

・・・そう信じて良いんだよな、一期?
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