【いちみか】壁ドンから再開する恋模様【完結】


粟田口派登場あり/全員は喋らない

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 一期の笑顔は爽やかだと聞いて三日月は首を傾げた。
(爽やかな笑顔…?はて、一体それは誰のことだろうか)
 思い出せども豊臣の元で共にあった時も、一期の笑顔は爽やかからほど遠いものであったと記憶している。勿論、今現在の一期の笑顔も爽やかだと思ったことはない。
爽やかな笑顔だなんて、陸奥守あたりの笑顔の方がよっぽどそれに相応しいだろうと三日月は眉を顰めて本気でそう考えた。
 そんな三日月の様子に気が付かずに兄自慢をする鯰尾と黙って頷いて肯定する骨喰に、三日月は無言で苦笑した。記憶をなくす前の彼らならそう言わなかっただろうからだ。
(よく三人で一期の笑顔は裏がありそうだと盛り上がったものだが…。記憶がないとそれも語れなくなって寂しいものだ)
 粟田口の脇差たちと別れて本丸の廊下を歩いて行く三日月は、庭で粟田口の短刀と遊ぶ一期の後姿を見つけて足を止めた。
 一期の表情は見えないが、短刀たちの嬉しそうな顔を見れば、一期の表情は優しいものなのだろうなと推測することは出来た。
(…確かに、外見だけならば爽やかだからなぁ…)
 しかしやはり解せないと三日月はまた首を捻るしかなかった。
「…ん?三日月さんだ!」
 廊下の真ん中で一人唸っていた三日月の姿に気が付いた乱が彼の名前を呼んだ。途端にその場に居た粟田口の短刀と一期が三日月の方へと振り向く。ここで挨拶を返さないのもおかしいかと三日月は笑顔で手を振ると、短刀たちが嬉しそうに手を振り返してくれる。何とも可愛らしい光景だ。
 ただ一人、一期だけは含みのある笑顔を崩さないまま三日月の方へと歩み寄って来た。三日月はその笑顔を見て、やはり爽やかとはほど遠い笑顔じゃないかと心の中で毒吐いた。
「三日月。居たのならば声を掛ければ良いものを…何か用ですか?」
「いいや。見ていただけだ」
 一期の笑顔が爽やかということに疑問を抱いていたと言ったが最後、三日月は寝室に引きずり込まれてしまい「お仕置き」と称したその行為によって一日潰されてしまうだろう。それは避けたいため疑問の内容は一切顔に顔に出さなかった。
 それでもこの夫は三日月のことは全て把握している男である。一瞬流れる沈黙に三日月は冷や汗をかく。
「…まあ、そういうことにしておきましょうか」
 どうやら三日月は許されたようだ。何故三日月が一期に対して失礼とも取れるようなことを考えていたと一期は悟れるのか、三日月はその不可解さにまた別の恐怖に支配される。
 一期から言わせれば三日月がたいそう分かりやすいという理由であるのだが、当の本人はそれに気付いていない。
「しかし、見ていただけとは…構ってあげられずに寂しい思いをさせてしまいましたか?」
 目を細めた一期が三日月の頬に指を滑らせ、そのまま首筋を意味深く撫ぜる。ぞぞぞと背筋に走るくすぐったさと、何か別の感覚に三日月は甘い吐息を漏らしながら「そんなことない」と首を横に振って否定した。
「そうですか。しかし、今は弟たちの話を聞いてやらねばなりませんので、夜に構ってあげますね」
「違うと…」
 否定したにも関わらず、わざとそれを聞かなかった振りをする一期に、三日月はもう一度否定の言葉を紡ごうとしたところで秋田の一期を呼ぶ声が聞こえた。一期の意識はそちらに向いてしまう。
「申し訳ない。また後で」
 子供に言い聞かせるような笑顔で三日月の頭を撫でた一期は真っ直ぐに弟たちの元へ戻って行ってしまった。
 撫でられた頭を押さえながら三日月はやはり、爽やかとほど遠いではないかとまた眉を顰めた。今度はその顔を朱色に染めている。
 三日月に対してだけ見せる、少し意地の悪いこの笑顔。しかし、結局三日月はこの笑顔が好きなのだ。
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