【いちみか】壁ドンから再開する恋模様【完結】
三日月一人称
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足利の頃から長い時を過ごした骨喰があの時の炎の所為で記憶がないと知った時は、正直に言えば悲しい気持ちが強かった。それと同時に頭を過ったことは一期も記憶がないのではないか、ということだった。
骨喰に忘れらたことは確かに悲しかったが、友人だからまた思い出を作れば良いと笑えた。本人にもそう言うことが出来た。それに偽りの気持ちはない。
しかし、一期に忘れられてたら骨喰の時のようにまた笑えるだろうか。不安に思ったものだった。
結論から言おう。改めてよろしくと笑うことが出来なかった。一期が顕現して、人伝に記憶がないことを知った時はやはりそうかと気持ちが沈んでしまった。だから、一期との顔合わせをする際には挨拶もそこそこについ逃げ出してしまったのだ。驚いた一期は一瞬俺を引き留めてくれようとしたように思えたが、彼の弟たちに捕まって追いかけては来なかった。
「記憶がないと分かっていても、追って来て貰えないのは辛いものだな」
先程引き留めようとしてくたのも、突然俺が逃げ出してしまったから反射的なものだったのだろう。
しかし、記憶がない一期にそれを求めるとは酷く身勝手な感情だ。それでも夫婦をしていたあの時のなら、恐らく追って来てくれて抱き締めてくれただろう。大丈夫と背中を撫でてくれただろう。
(…もう、俺の想い人であった一期一振はいないのだと理解しなければ…)
本人はすぐ近くに居るというのに、何て酷な話だと俺は悲観することしか出来なかった。
それから一期が話し掛けて来ても、何かしら理由を付けて避けた。話すことで彼の記憶がないことを実感したくなかったからだ。その度に一期は何とも言えない微妙な顔をしていたのだが、俺はその顔を見ないようにしていた。
*
その日も何時もの様に一期を躱そうとしたら、突然一期が俺の顔の真横に勢いよく手を付いた。一期の両腕に挟まれ、しかも背後には壁があり身動きを封じられてしまったのだ。
場所が本丸の庭で、丁度缶蹴りをしていた短刀たちが俺たちを見て「壁ドンだ!」と騒ぎ出した。
壁ドンが如何なるものか知らなかったが、これは困ったと途方に暮れた。一期の顔が近い。思わず目線を逸らすと一期に顎を掴まれて無理矢理顔を一期の方へと固定される。
「何故避けるのですか」
目の前の一期の声音はとても低い。静かな怒りが感じられるそれに俺は思わず背中が竦んでしまった。
「避けてなど…」
「いいえ、避けてますよね。現に今も私の顔を見ようともしない」
「そ、それは…」
目を見てしまったら夫婦だった時に一期に感じていた感情が溢れて止まらなくなりそうだったからだ。覚えていない一期にそんな感情をぶつけたくはなかった。
頑なに目線を逸らそうとする俺に、一期は深く長い溜息を吐いた。
「三日月、何か言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」
んん?他の刀を呼ぶ時は殿を付けているというのに、俺にはそれがないことに違和感を感じた。恐る恐る一期と目を合わせると、一期の目には何か情熱的な色が見える。思わず胸が高鳴った。
「一期…?」
「何て他人行儀に呼ぶのですか。何時もみたいに呼びなさい」
そっと頬を撫でられて、期待する気持ちが溢れてきた。
「お前様…?記憶がないはずでは…」
「……まさか、私の記憶がないことをお前は疑っていたのか。確かに記憶は殆どないが、愛しい妻のことまで忘れていると見くびられては困りますな」
存外に優しい口調で囁かれ、抱き締めて来た腕が俺の背中を優しく撫ぜる。ああ、一期だ。俺が愛した夫の一期だ。そう思ったら涙が溢れて止まらなくなる。
「記憶がないと聞いて不安にさせたのですね」
「いや、俺が勝手に避けていたのだ。自業自得というもの…夫の記憶を疑っていたのだから…」
初めにちゃんと向き合えば、ここ数日の辛い思いなどしなくて済んだことだったのだと気が付いてしまった。ここ数日の寂しかった感情を思い出した所為だろうか、涙を拭ってくれる一期の手に思わず頬を擦り寄せたところで、粟田口の短刀たちが「いち兄と三日月さまがラブラブになってる!」と騒いでいることで我に返った。
幼い見た目の彼らに見られているということに途端に気恥ずかしくなってしまい、一期の胸元に赤くなっているだろう顔を押し付ける。
「三日月の甘え癖は相変わらずですな」
一期に頭を撫でらた。分かっているだろうにわざと的はずれなことを言う夫と、今夜はふたりが結ばれたお祝いだとはしゃいで本丸中の刀たちにそれを伝えていく短刀たちに対して益々羞恥心で悶える俺は一期の胸に頭をぐりぐりと押し付けることしか出来ない。一期は俺をあやすように撫でて微笑むだけだ。
「お前が逃げなければこんな風に伝わらなかったのでしょうな」
確かに、最初の段階で記憶の有無をちゃんと確認しておけばこんな、こんな大恋愛の末に結ばれたかのような騒ぎにはならなかっただろう。意地の悪いことを言う夫にしがみ付きながら、あの時の俺に一期とちゃんと話せと言いたくて仕方なくなった。
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足利の頃から長い時を過ごした骨喰があの時の炎の所為で記憶がないと知った時は、正直に言えば悲しい気持ちが強かった。それと同時に頭を過ったことは一期も記憶がないのではないか、ということだった。
骨喰に忘れらたことは確かに悲しかったが、友人だからまた思い出を作れば良いと笑えた。本人にもそう言うことが出来た。それに偽りの気持ちはない。
しかし、一期に忘れられてたら骨喰の時のようにまた笑えるだろうか。不安に思ったものだった。
結論から言おう。改めてよろしくと笑うことが出来なかった。一期が顕現して、人伝に記憶がないことを知った時はやはりそうかと気持ちが沈んでしまった。だから、一期との顔合わせをする際には挨拶もそこそこについ逃げ出してしまったのだ。驚いた一期は一瞬俺を引き留めてくれようとしたように思えたが、彼の弟たちに捕まって追いかけては来なかった。
「記憶がないと分かっていても、追って来て貰えないのは辛いものだな」
先程引き留めようとしてくたのも、突然俺が逃げ出してしまったから反射的なものだったのだろう。
しかし、記憶がない一期にそれを求めるとは酷く身勝手な感情だ。それでも夫婦をしていたあの時のなら、恐らく追って来てくれて抱き締めてくれただろう。大丈夫と背中を撫でてくれただろう。
(…もう、俺の想い人であった一期一振はいないのだと理解しなければ…)
本人はすぐ近くに居るというのに、何て酷な話だと俺は悲観することしか出来なかった。
それから一期が話し掛けて来ても、何かしら理由を付けて避けた。話すことで彼の記憶がないことを実感したくなかったからだ。その度に一期は何とも言えない微妙な顔をしていたのだが、俺はその顔を見ないようにしていた。
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その日も何時もの様に一期を躱そうとしたら、突然一期が俺の顔の真横に勢いよく手を付いた。一期の両腕に挟まれ、しかも背後には壁があり身動きを封じられてしまったのだ。
場所が本丸の庭で、丁度缶蹴りをしていた短刀たちが俺たちを見て「壁ドンだ!」と騒ぎ出した。
壁ドンが如何なるものか知らなかったが、これは困ったと途方に暮れた。一期の顔が近い。思わず目線を逸らすと一期に顎を掴まれて無理矢理顔を一期の方へと固定される。
「何故避けるのですか」
目の前の一期の声音はとても低い。静かな怒りが感じられるそれに俺は思わず背中が竦んでしまった。
「避けてなど…」
「いいえ、避けてますよね。現に今も私の顔を見ようともしない」
「そ、それは…」
目を見てしまったら夫婦だった時に一期に感じていた感情が溢れて止まらなくなりそうだったからだ。覚えていない一期にそんな感情をぶつけたくはなかった。
頑なに目線を逸らそうとする俺に、一期は深く長い溜息を吐いた。
「三日月、何か言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」
んん?他の刀を呼ぶ時は殿を付けているというのに、俺にはそれがないことに違和感を感じた。恐る恐る一期と目を合わせると、一期の目には何か情熱的な色が見える。思わず胸が高鳴った。
「一期…?」
「何て他人行儀に呼ぶのですか。何時もみたいに呼びなさい」
そっと頬を撫でられて、期待する気持ちが溢れてきた。
「お前様…?記憶がないはずでは…」
「……まさか、私の記憶がないことをお前は疑っていたのか。確かに記憶は殆どないが、愛しい妻のことまで忘れていると見くびられては困りますな」
存外に優しい口調で囁かれ、抱き締めて来た腕が俺の背中を優しく撫ぜる。ああ、一期だ。俺が愛した夫の一期だ。そう思ったら涙が溢れて止まらなくなる。
「記憶がないと聞いて不安にさせたのですね」
「いや、俺が勝手に避けていたのだ。自業自得というもの…夫の記憶を疑っていたのだから…」
初めにちゃんと向き合えば、ここ数日の辛い思いなどしなくて済んだことだったのだと気が付いてしまった。ここ数日の寂しかった感情を思い出した所為だろうか、涙を拭ってくれる一期の手に思わず頬を擦り寄せたところで、粟田口の短刀たちが「いち兄と三日月さまがラブラブになってる!」と騒いでいることで我に返った。
幼い見た目の彼らに見られているということに途端に気恥ずかしくなってしまい、一期の胸元に赤くなっているだろう顔を押し付ける。
「三日月の甘え癖は相変わらずですな」
一期に頭を撫でらた。分かっているだろうにわざと的はずれなことを言う夫と、今夜はふたりが結ばれたお祝いだとはしゃいで本丸中の刀たちにそれを伝えていく短刀たちに対して益々羞恥心で悶える俺は一期の胸に頭をぐりぐりと押し付けることしか出来ない。一期は俺をあやすように撫でて微笑むだけだ。
「お前が逃げなければこんな風に伝わらなかったのでしょうな」
確かに、最初の段階で記憶の有無をちゃんと確認しておけばこんな、こんな大恋愛の末に結ばれたかのような騒ぎにはならなかっただろう。意地の悪いことを言う夫にしがみ付きながら、あの時の俺に一期とちゃんと話せと言いたくて仕方なくなった。
