【いちみか/女体化注意】ままごと並みの恋【完結】

刀剣男士、と名の付くからには刀の付喪神は男の姿をしているはずである。しかし、天下五剣のうち最も美しいと言われる三日月は女の姿で鍛刀部屋に現れた。着ている服こそ資料と同じく青い狩衣だったが、男性とは思えない体の線の細さと名乗った時の鈴の音を思わせる美しい声が目の前の美しい刀を女性だと強く主張させていた。三日月は自分の性別が変わっていることに慌てる様子は見せずにただ静かに微笑んでいる。
近侍としてその場に居合わせた一期は目の前の刀の美しさに目を奪われ言葉を失う。言葉に尽くし難い何とも美しい刀だと、一期は目の前の刀のことしか考えられなくなっていた。ふと打ち除けの残る印象的な瞳と目が合い、一期のこめかみに痛みが走る。それも一瞬のことで気に所為だと思うことにした。

「み、三日月、宗近…」

美しい刀の名を呼んだのは一期の横で固まっていた審神者だった。呼び掛けられた三日月は審神者に目線を寄越すと「何だ主」と微笑みながら返事をした。三日月は微笑みながら返事をしただけで他に何をしたわけではないのだが、その美貌の微笑みに堪えられなかった審神者は失神をして後ろ向きに倒れ込みそうになる。

「あ、主殿!?」

一期が慌てて支えるものの、審神者は目を回して完全に伸びていた。顔が真っ赤になっているのは三日月の微笑みにやられてしまったのだろうか。何て殺傷力だ。一期はやや警戒心を持って三日月の方へ顔を向けると、三日月は状況を把握していないかのように目を瞬いているだけだった。

「主は寝てしまったのか?」
「いや…寝たと申されますか、」
「まあ、良い。一期」

名を呼ばれて一期はひとつ疑問を持った。何時この目の前の刀に名前を名乗っただろうか、と。
しかしその疑問はふわりと目の前まで歩み寄って来た三日月が一期の頬に手を触れたことでその疑問は四散してしまった。美しい顔が目の前にある、それだけで一期の心の臓が忙しなく暴れまわる。

「お前のために刀剣女士として顕在したのだ」
「…え、」

信じ難い言葉を聞いて、一期は言葉を失う。自らの意思で刀剣女士として顕在出来るのかは分からないが、天下五剣の一振りならそれが可能なのかもしれない。

「だから」

三日月がゆっくりと目を細める。蠱惑的な微笑みに一期は視線を逸らせなかった。

「夫婦の契りを交わしてくれお前様」


*


審神者が目を覚ますと鍛刀したばかりの三日月から「一期と夫婦になった」と報告されて目を剥いた。一体自分が気絶している間に何が起こったのか、その疑問を口にすると三日月は嬉しそうに笑って答えた。

「一目見て一期が気に入ったのだ。丁度刀剣女士の姿、夫婦となっても何の問題もあるまい」

今三日月が説明した言葉と一期に言った言葉は一致していないことに気が付いているが、一期には何も言えなかった。美しい刀に迫られて思わず頷いてしまった手前指摘し辛かったのだ。
一方審神者は三日月の説明を聞いて目の前の刀が女として顕在したことを思い出したようで、三日月に体調は大丈夫か訊ねる。

「どうしてその姿なのか三日月は理由が分かりますか?」
「んー。俺には心当たりがないなぁ」

三日月は審神者に対して口を割るつもりはないらしい。どこまでもはぐらかしている。それは審神者に対してまだ信用を置いていない所為なのか、それとも単純に説明するのが面倒なのか一期には判断は付かなかった。
それもそのはず。一期にとっては初めて会った刀だ。主である審神者が欲しい欲しいとずっと言っていたため名前は覚えていたが、彼女のことを一期は何も知らなかった。

(それなのに夫婦の契りを迫られて同意してしまうなんて…)

あの時は審神者が倒れた直後で一期自身も少し混乱していた。だからだろう、夫婦の契りを交わしてくれと言った三日月の顔が悲哀を秘めているように見えて一期は思わず頷いていた。しかし、今人を食ったような笑みを浮かべる三日月を見ていると、あの時感じた悲哀の情は気の所為だったのではないかと一期は遠い目をした。
その間にも審神者と三日月の話は続いている。この本丸での決まり事を説明した審神者は、三日月にしばらくは出陣を控えて貰うと言い切った。それを聞いた三日月の顔が曇る。

「早く夫の一期と同じ部隊になりたいのだ。俺を戦場へ出してくれ」
「え…でも、三日月は今女の人の姿だし…」

ただでさえ希少な刀だというのに、女の身となっている三日月が万が一折れてしまったら…そう考えた審神者は許可を出しかねてしまう。といっても相手は刀剣女士となっても天下五剣。ステータスだけならば他の刀剣男士の追随を許していないことは審神者には分かっていたのだが。それでも許可を出せないのは、想像以上に美しい刀に傷付いて欲しくないと思ってしまったからだろうか。
それを察したのか、三日月は眉を下げて視線を落とした。

「…主も俺を飾るだけで使ってはくれぬのか?」

ポツリ、と呟かれた言葉の何と哀憐の情を誘うことか!一期は自分の主が絶世の美女の皮を被った刀に心を完全に奪われた瞬間を目撃してしまった。

「喜んでで使わせていただきます!!その代り怪我は絶対にしないでください!」
「あい分かった。傷付かぬよう気を付けよう」

嬉しそうに微笑む三日月につられて審神者の顔も思わず緩んでいる。一期は一連のやり取りを見て、女性とは如何に恐ろしい存在か…とそっとふたりから目を離した。
夫婦になったのなら部屋は一期と同室が良いですね。完全なる善意で言われた言葉に喜んだのは三日月だけだった。一期は流された手前もあり、喜ぶ三日月を見ていたらとても遠慮出来ずに複雑な心境になる。女性とふたりきりで大丈夫だろうか、何か過ちを犯さないだろうかと。何かやらかしてしまったら弟たちに何て顔向けすれば良いのか…、今日から三日月と同室となる自室へと案内しながら一期は内心で葛藤していた。

「ごっこ遊びで構わぬのだ」

一期の葛藤を読んだように三日月が言う。一期は斜め後ろに控えて歩く彼女の方を振り返った。

「俺が満足するまで夫婦の真似事をしてくれ、お前様」

だからお前様はそんなに気負わくて良い、口元を隠しながらそんなことを言う三日月に心が軽くなると同時に、「ごっこ遊び」をどこか残念に思う自分がいることに一期は酷く戸惑った。
そんな時後ろから明るい声が三日月の名前を呼んだ。ふたりが同時に振り返ると、獅子王がこちらに走り寄って来て勢いよく三日月に抱き付いた。

「うわー!三日月じゃねーか!やっと来たんだな!」
「はっはっはっ、獅子王は元気だなぁ」

同じくらいの背丈の獅子王に飛びつかれても三日月はビクともしなかった。それどころか微妙に飛びついて来た彼を抱き上げているではないか。天下五剣恐るべし。
じゃれ付いていた獅子王だったが、己が抱き付いている三日月に違和感を覚えたらしく無遠慮に三日月の体を触り始めた。

「あれ?三日月背が縮んだ?それに…柔らかい…女!?」

頭、肩と触った獅子王の手が三日月に胸に到達した時、ふにゅんとした柔らかい感触を鷲掴んでしまった。それが何か理解してしまった獅子王は大袈裟に仰け反った。三日月は突然己から離れ、顔を赤面させる獅子王に首を傾ける。
この一連のやり取りを間近で見ていた一期は、わざとでは無かったとはいえ胸を鷲掴んでしまったて叫び声を上げる獅子王に同情した。
騒ぐ獅子王に刀たちが何事かと集まってくる。集まった刀の中には一期の弟たちの粟田口派の姿が多く、その中には獅子王と同じく三日月と同じ博物館に寄贈されている厚の姿があった。厚は混乱している獅子王から断片的に何があったか聞くと、女性体しているらしい三日月に突っ込んだ。

「何で女の姿になってんだ!?」
「おお、厚ではないか」
「おお、じゃねーよ」

主が見せてくれたお笑いのこんとのやり取りに似ているなと一期は的外れな感想を抱いた。

「うむ。一期と夫婦の契りを交わそうと思ってな。こちらの姿の方が事が運びやすいだろうと判断した」

突然の三日月の爆弾発言にざわつく場に一期は乾いた笑いしか浮かべられなかった。審神者には誤魔化していたというのにこちらは一言といえちゃんと説明したのは、知り合いらしい厚が聞いたからだろうか。
乱が「いち兄のために女の子に!?ロマンチックー!」と黄色い悲鳴を上げたことで、今度は三条の刀たちが何事かと寄ってくるのが見えた。

「あ、兄上たち」

三日月の姿を認めた途端三日月の兄たち―今剣と岩融と石切丸は末弟のはずの三日月の性別が変わっていることに気が付いたらしく、集まる刀たちを掻き分けて慌てて三日月の元へ来る。

「ん?小狐丸の兄上はいないのか?」
「この本丸にまだ来ていないぞ」
「それよりそのすがた、どうしたのですか?」
「呪術にやられたのかい?私がお祓いをしよう」

口ぐちに三日月の心配をする兄たちに三日月は朗らかな笑顔で「一期に嫁入りするのだ」と説明になっていない説明をした。一期はここで確信する。三日月という刀は気分屋なところがあって、審神者への適当な誤魔化しや自分の兄たちにした説明ではない説明は、単にきとんと説明をするのが面倒だっただけだと。

「三日月が一期殿の嫁に?…まあ、節度ある付き合いというなら…」
「三日月をなかしたらめっですからね!」
「まぁ、小狐丸が顕在してなかったのはらっきーというやつよ。あ奴がいたらうるさかっただろうな」

一瞬だけ三条の刀から一期へ圧力がかかったが、三日月が「ありがとう兄上たち。俺は幸せになってくるぞ」と微笑む三日月によってその圧力は消えた。
やはり頷くべきでは無かったんじゃ…と一期は胃を抑えながら後悔に囚われた。そんな一期の真横に立ったのは含むような笑いを浮かべた薬研だった。

「いち兄のために刀剣女士に、ねぇ…。まぁ、別嬪な嫁さんを貰えて良かったじゃねーか」

ニヤニヤ笑う薬研に一期はやはり乾いた笑いしか返せなかった。


*


あの後本丸中の刀たちに冷やかされてもみくちゃにされた一期と三日月はやっとの思いで部屋に辿り着いた。そういえば夕食を食べ損ねたと気付いたものの、何だか疲れてしまった一期はこのまま休んでしまいたかった。そのことを興味深そうに部屋を見渡していた三日月に言うと、「お前様が寝るなら俺もそうしよう」と彼女が答えたためふたりで寝る用意をすることにした。
本丸に来たばかりの三日月の服は今現在着ている狩衣しかないため、一期の寝巻のうち着物の形となっている服を貸した。女の体である三日月には少し大きいかもしれないが、ジャージよりは調整がしやすいだろう。三日月の方を見ないようにしてジャージに着替えた一期は三日月に呼びかけられて振り返った。

「お前様、脱げないから手伝ってくれないか」

防具を外そうと頑張ったらしい形跡はあるものの、三日月は狩衣を着たままだった。一期は顔を引き攣らせながらも三日月の要求に応じた。この狩衣をひとりで着脱するのは難しそうだったからだ。
なるべく直視しないように彼女の防具を外し、帯、狩衣と脱がせる。ついに一番下の単を寛げた。見ないように意識していたはずだった一期だが、三日月がさらしで胸を固定していたことに気が付いて思わず見つめてしまう。

(意外と胸が大きい…)

つぶした胸の脂肪が上方に寄って、深い谷間を作り出していた。ゴクリ、と喉を鳴らした一期は視線をそのまま三日月の下腹部の方へと移動させる。くびれの下にある腰は袴に隠されて見えないが一期の見立てでは三日月は安産型である。思わず舐めまわすように三日月の肢体を見ている一期を彼女は不思議そうな顔で覗きこんだ。

「お前様どうしたのだ?」
「はっ!」

三日月に声を掛けられて一期は我に返る。

(いけない!私はどこを見ているんだ!仮にも女性の体を見つめてしまうなんて失礼だ)

具合が悪いのか心配してくる三日月に上手い誤魔化しも思いつかなかった一期は「何でもありません」と繰り返すしか無かった。
様々な葛藤の末、ようやく狩衣を全て脱がせてやりついでに着れないという着物の着付けまでも煩悩と戦いながら一期はやり遂げたのだった。

(ごっこ、といってもこれは心臓に悪い…)

激しく脈打つ心臓を抑えながら一期は深い溜息を吐いた。しかし、一期の苦難はまだ続く。今度は布団を敷こうと押入れを開けると、寝具がひとつしかないことに気付いたのだ。一期は頭を抱えながら「主殿にもう一式寝具を用意してもらわなければ…」と小さく呟いた。そこに気が回らなかった自分が腹立たしい。

「お前様、添い寝をすれば良いではないか」
「えっ!??」

添い寝!?
いきなり何て無防備な発言をするんだこの刀はと一期は信じられない思いで三日月の顔を凝視する。

「ごっことはいえ夫婦なのだから良かろう?勿論共寝をするというのなら俺は構わぬが、ごっこ遊びだから気は乗らぬだろう?だからそれはまた今度、その気になってくれてからで良い」
「え、え、ちょ…」

ごっこ遊びと名打っておいて共寝をしたいと言う三日月に一期は顔を赤くしたり青くしたり忙しい。一期の煮え切らない反応に焦れた三日月は一期の右腕に両腕を絡めて上目遣いで「…駄目、なのか?」と催促をした。
結果として一期は三日月のダメ押しの一言を拒絶出来ずに一晩ただ添い寝することになってしまった。三日月に背を向けることで何とか理性を保とうとしても、その三日月が一期の背中にぴったりとくっついた上に足まで絡めてきたことで一期は目が冴えて仕方が無かった。背中越しに「お前様…」と悲痛な声で呟かれた寝言を聞かなければ一期の理性は振り切れていたかもしれない。

(…この方は、私を誰かと重ね合わせているのかもしれない)

強引といえる迫り方をしておいて、ごっこ遊びと言ったのもそういうことか。そうだとしたら振り回されてしまった身としては腹立たしくはあるが、辛そうに一期の背中を掴む三日月に彼女の気が済むまで付き合おうと一期は腹を括った。鈍く痛む胸には気付かない振りをして。


*


そして一期にとって長い夜が明けた。明け方になってようやく眠りに落ちたため、一期は十分な睡眠をとることが出来なかった。疲れた顔をしながら身を起こすと、朝食の知らせが聞こえて来る。まずい、寝過ごしたと一期は慌てて横に眠る三日月を起こそうとする。

「三日月殿、朝ですよ。おはようございます」
「ん~…」

数度肩を揺らせば三日月は愚図りながらも目を覚ました。

「ふぁぁ、顕在したばかりの所為か体が馴染まなくて困るなぁ」

ゆっくりした動作で三日月が身を起こすと同時に着物の合わせ目が肌蹴て白い肌を露出させる。しかし、一期が驚いたのはそこでは無かった。昨日着替えを手伝う際に身に着けていたさらしがその胸に巻かれていなかったのだ。三日月が動く度に豊かな胸が外に曝け出されそうになる。

「って、三日月殿!!胸、胸隠して下さい!さらしはどうしたんですか!?」
「さらしとは何だ?…ああ、あの布きれのことか。寝苦しくて取ってでしまったぞ。はっはっはっ」
「うわあああああ!胸を張らないでください着物が余計に肌蹴る…!!」

なるべく見ないように三日月の恰好を整えながら、一期は何度目かの溜息を吐いた。



**********************

小狐丸難民本丸なのは色んなパターンの本丸を書いてみたかっただけで特に深い意味はないです。
でももしこの場に居れば多分三日月を嫁にするというのなら私の屍を超えて行けイベントが発生したと思います。
2/6ページ
スキ