恋を知る①
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恋を知る①
最初は、何とも思わなかった。
ただ、視線が合うと、はるは決まって目を逸らした。
俺を見ていたのか。
偶然なのか。
分からない。
俺の中で、少し変わっている奴だ、という印象だった。
無論、呪術師といえば「変わった奴」だらけだ。俺もその一人なのだろう。
だから、「少し」変わった奴という印象は、決して悪くはない。
次に会ったとき、「脹相さん」と呼ばれた。
俺は声の方へ視線を落とした。声の主は落ち着かない様子だった。
「どうかしたのか?」と俺は答えていた。
通常の俺なら「なんだ」と短く答えていたのかもしれない。
不愛想にしているつもりはないのだが、よく悠二からは「もっとにこやかにしろよー」と言われる。
特に、弟を守るために笑顔が必要だと思っていなかった。
だが、無意識に、少しだけいつもの俺とは違う雰囲気だったと自覚している。
緊張している様子のはるが、話しやすいように。
「あの、どうしてその髪型にしているんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
唐突な質問に、俺はしばらく考えていた。
聞かれたことがなかったことだ。
はるは俺の沈黙に口を挟まず、俺を見上げて返答を待っていた。
「・・・・・・特に理由はない・・・。」
考えてみたが、本当に理由はなかった。
「そう、なんですね。ありがとうございます。」
何に対してありがとうなのかがよく分からないが、はるはそう言って走り去っていった。
次に会ったとき、気づくと俺は、はるを見ていた。
他の奴と話しているはる。
笑っているはる。
ふと、視線が合った。
また、はるは目をそらした。
こういうことが、何度か続いた。
よく目が合うということは、俺もはるを目で追っているのか。
どうしてだろうか・・・理由は、分からない。
「脹相さん、どんな食べ物が好きなんですか?」
次に会ったときは、はるは以前の緊張した様子が薄くなっていた。笑顔で話しかけてきた。
俺に興味があるのだろうか。
・・・分からない。
「・・・・・・・・ミートソースのパスタ・・・・?」
昨夜、悠二が作ってくれたメニューだった。
俺の中での記憶に出てきた料理で、昨夜は少し驚いたんだ。
「あーん」はしなかったが、俺は残さず食べた。
「えっ・・・パスタ??あははっ。洋食は意外でした。」
和服のような恰好をしているからか、意外性があったらしい。
「・・・・和食も、好きだ。」
何を言っているんだ俺は?
「ふふふ。脹相さん、面白いですね。」
俺の発言の何が面白いのか、分からなかった。
ただ、はるの笑顔を見ると、少し胸のあたりが騒がしくなった。
「・・・また、お話したいです。」
「……あぁ。また話そう。」
そう答えると、
はるは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、
俺も少しだけ安心した。
理由は分からない。
はるは安堵したような表情を浮かべ、一礼をして足早に去っていった。
次に会うときは、はるの好きな食べ物を聞いてみたいと思った。
……いや。
聞いて、どうする。
「…………。」
分からない。
次に会ったときは、はるは一人で呪霊と対峙していた。
街中だったが、人通りがなく、薄暗く狭い通りだった。
俺は任務の帰り道で、呪霊の気配を追ってきた。
気づいたときには、俺は血液を練り、放っていた。
後味のよくない感触と共に、呪霊が空気に溶けていく。
はるは少し苦戦していたようだった。
「怪我はないか?」
俺はすぐさまはるに駆け付けた。
「あ・・・脹相さん。・・・助かりました・・・。」
肩で息をしているはるを見て、俺は安堵した。
「よかった。」
俺は少し息を吐いた。
「送る。」
「ありがとうございます。すみません・・・。」
感謝と謝罪を一緒に伝えられたのは初めてだ。
高専の方面に歩き出した。
俺の部屋とそう遠くないようだ。
「ここで大丈夫です。本当にありがとうございました。」
はるは、すぐそこに見えている建物を指さした。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・?」
「・・・・・・・・好きな食べ物は何だ?」
「ふぇっ」
・・・唐突すぎか?失敗したかもしれない。
?・・・何に失敗したというのだろうか?
先の呪霊を祓ったときよりも、はるかに不安を覚えた。
「・・ふっ。はは・・・。やっぱり脹相さん、面白い。」
「・・・何か変だったようだな。すまない。聞き流してくれ。」
何故だか自分の発言を取り消したくなった。
きっと、この話を悠二にすると、おちょくられるんだろう。
呪霊を祓ったことは報告する決まりだが、
はると会ったことは、黙っておこう・・・。
「抹茶パフェが大好きです。」
「まっちゃぱふぇ・・・。」
確か、甘味か。
「あはは。もし良かったら、今度ご馳走します。今日のお礼もしたいですし。あ、ミートソースのパスタでも良いですね。」
展開に追いつけず、返答も間に合わないまま、
はるは一礼をして部屋に戻っていった。
「・・・・・・・・。」
俺はしばらく立ち尽くしていた。
まっちゃぱふぇ。
甘味なのはなんとなく想像できたが、
甘いのか渋いのか分からないそれを、
悠二に聞いてみるか・・・。
・・・・・?
俺はなぜこんなに、あいつのことを考えている。
「・・・・・・。」
分からない。
つづく
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