恋焦がれていても(櫻井×松本)※裏





松本side



静かな部屋でソファーに座り、前屈みになりながら机の上の紙を見つめステージの構成を練っていた。指の動きに合わせ、力の入っていないペンは何度も顎に緩く当たる。その度に“カチっ”と頼りない音が部屋に響く。渡されたステージの資料写真を捲ると、その音さえ大きく聞こえるほどの静けさだった。会社なのに誰も残っていないのだろうか。

ふと窓を見ると、外は既に暗くなっていて、時間を確認する為に時計に目を向けた。もう19時を回っていた。ぐっと両腕を上に伸ばし、伸びをする。新鮮な空気が肺に入り、頭がすっとする。
窓に近付き、外を見下ろすと行き交う車のライトが綺麗に思えた。

そろそろ帰ろうかな、そう思った時だった。ノックの音が聞こえ、返事をする。


松本「はーい」


ドアが開き、やたら嬉しそうな顔で翔くんが顔を覗かせる。


櫻井「お疲れ」


ふと体の力が抜けた。きっと、今まで仕事モードだった自分の気が抜けたんだろう。そして、俺の口元は嬉しさで緩んでいるのだろう。


松本「なに?どうしたの?」

櫻井「いや、会社に預けてた荷物取りに来た」


俺の側に座り、ステージ構成の資料に目を落とす。じっくり目を通しながら、少し微笑みこっちを向く。大きく開かれた瞳には光が入り、キラキラとして見えた。


櫻井「すごいじゃん。だいぶ進んでない?」

松本「だいぶ形になってきたところ。もうちょっと詰めなきゃいけないけど」

櫻井「へぇー、すごいよ」


独り言のよう褒めながら、再度写真を見る翔くんを見つめた。


松本「今から帰ろうとしてたところなんだけど、翔くんは?この後予定ある?」

櫻井「うんん、帰るだけ」

松本「じゃあ、何か食べてく?」

櫻井「いいね」


外に出ると、温い風が2人を包んだ。やけに湿度がある風が肌に当たってくる。翔くんは、そんなこと気にせずにスマホで電話を掛けていた。きっと、お店を探してくれているのだろう。


櫻井「あー、なんかどこも空いてなさそう」

松本「いいよ、家にする?」

櫻井「ほんとに?突然だけど大丈夫?」

松本「うん、全然いいよ」


二人でコンビニに寄り、お酒や食べ物を買う。いつも寄っているコンビニは、翔くんがいるだけで違う場所のようだった。

白いビニールを下げながら、家に向かう。


櫻井「明日も仕事だから飲みすぎないようにしないと」


そう言う横顔はやたら嬉しそうで、気を付けようという気は微塵もないようだった。何故かそんな顔を見ると嬉しいような切ないような恋愛に似た感情が溢れそうになる。そういったものを誤魔化すように口を開く。


松本「最近忙しい?」

櫻井「変わらずって感じだよ」

松本「そっか」


家のドアを開けた。先に入りドアを押さえると、翔くんが中に入ってくる。


櫻井「お邪魔しまーす」


間取りは説明せずとも分かっていて、真っ直ぐリビングへと向かって行った。そして懐かしそうな口ぶりで話す。


櫻井「あっ、これまだ持ってんだ」


インテリアを見ながら手に取る翔くんを置いて、キッチンに向かった。棚からグラスを二つ取り、手に持って部屋に戻る。テーブルにグラスを置く音で、翔くんは向かいに座った。


松本「あんまり変わってないでしょ?」

櫻井「変わってないね」


缶ビールのタブに爪を掛けて引くと、現実に戻れと忠告されているような勢いのいい音が鳴った。傾けて注ぐと泡を立てながらグラスに落ちていく。


松本「昔はあんなに来てたのよく来てたのに」

櫻井「そうだね」


少し嫌味を含んで発した言葉を翔くんは軽く受け流した。
こっちは未だに会えない時間にも恋焦がれているというのに。考えもくれないなんて卑怯だ。“置いてかれた”そんな淋しい気持ちになってしまう。

グラスに入ったお酒を飲み干してテーブルにグラスを置く。お酒を飲む度に動く翔くんの喉元を見つめていた。

昔の話から近況まで、話題は尽きることがなかった。
アルコールで赤く染まる顔が変な気持ちにさせていく。忘れていた恋心を思い出させるような、少しあどけなくて悪い顔。

氷がカランと音を立て、水になっていく。


櫻井「あぁ、飲み過ぎた。そろそろ帰らないと」

松本「泊まっていけば?」


テーブルに頬杖をついたまま、翔くんの顔を覗く。全然目を合わせようともせずに、ポケットからスマホを出し、時間と連絡が入っていないかを確認していた。


櫻井「いや、明日早いからさ」

松本「起こすよ?」

櫻井「うーん、でも怒られるし帰らないと」


奥さんの存在がチラつく。こうやって軽く俺のことを交わして、また置いていくんでしょ?そんなの分かってる。でも、少しくらい期待したっていいじゃないか。

こっちに背中を向け、上着を羽織ろうとする腕を掴み引き寄せた。驚いた様子で振り向いた翔くんに唇を重ねた。


櫻井「っ…、ダメだって、結婚してるし…」

松本「え?こういうの男同士はノーカンでしょ?」


着ようとしていた上着を脱がせていく。淡々と話す俺とは対照的に翔くんは焦って困惑している様子だった。


松本「昔よくしたじゃん」

櫻井「昔は昔でしょ…。松潤が一番こういうの嫌いそうなのに」

松本「俺だけずっと忘れられずに取り残されてるんだから仕方ないじゃん」


再びキスを交わし、翔くんの身体のラインを辿るように手を肩から腰へと下ろしていく。たまらず抱き返すように俺の腰に添えられた手にドキッとした。


櫻井「俺だって忘れられるはずないじゃん…」


そう言った声があまりにも悲しそうで、責めたことを後悔した。翔くんの迷いを振り払うように、首に腕を回し抱きしめた。


松本「いいよ、全部俺のせいでいい」


キスをしながらどちらともなく寝室へと向かい、ベッドに倒れ込む。暗い部屋で、荒くなっていく呼吸はかつての自分たちを思い出させた。
愛に溺れ、愛だけで生きていけた。将来のことなんか全く考えずにただ、好きという感情だけで突っ走っていた。そんな記憶が懐かしく、痛く、愛おしい。

お互いを求め合いキスを繰り返す。蒸されるほどに熱く、身体は汗ばんでいく。翔くんは弄るように服の中に手を入れ、身体に触れる。


松本「んっ、はぁっ…」


乱れていく声が部屋に響く。
良くない、ダメだ、そう思うほどに声は止まらなくなる。

首筋に舌が這い、身体の神経が全部翔くんの動きに向く。どっからともなく与えられる刺激が、何も考えられなくなる程、快感となり身体中を巡る。

脱がされた服が床に落ちる。2人の空気を壊さないように床に落ちた服は空気のように存在を消していった。素肌が触れ合い、余計に熱を持つ。下に伸びた手は脚の間に滑り、中に入ってくる。


松本「あぁっ…!」


久々の感覚が、翔くんの感覚が蘇っていく。あぁ、夢じゃないよな、あの頃の記憶じゃないよな、目の前の翔くんを何度も確認した。


松本「翔く、んっ…、」

櫻井「松潤、」


大人になった俺らの声が部屋に淋しく浮かぶ。
指が引き抜かれて、翔くんは自身を押し当てる。もうとっくに準備は出来ていて、身体は欲していた。

体重がかかり中に沈んでくる感覚が愛しくて、全身で受け止める。


松潤「っん、気持ち…い、い…」

櫻井「よかった、俺も気持ちいいよ」


“イケナイコト”そんな言葉は、もう頭の中になかった。過ち、そう言われたらそうなんだろう。だけど、それっていつからの過ちだったのだろう。正直、好きになったことを一度だって後悔したことがない。

入りきって、腰が動く。その度に俺の奥を揺さぶってくる。腰からお腹まで一定の感覚で送られてくる振動が快感だった。止まらない声はひたすら部屋に響いていた。もっと濡れて、濡らされていく。


櫻井「ねぇ、松潤っ、」


少し苦しそうな声で名前を呼び、腰の速度は上がる。もう息も切れ切れで頭の中は翔くんでいっぱいになっていた。この瞬間だけでも好きでいてくれたのだろうか。

引き抜かれて、翔くんの愛液は少しだけ身体にかかる。自己処理をする翔くんを見つめた。今すぐにでも抱き着きたいが、残念ながら今その体力はない。


櫻井「きつくなかった?」

松潤「うんん、全然」


そう言った俺は息が切れていて、説得力はないのだろう。それでも翔くんはそのことには触れずに俺の隣で横になる。


櫻井「ねぇ、松潤」


さっきから聞くその名前の呼び方の先に、きっと言えない言葉があるのだろう。だからいいや。聞かずに受け取っておいてあげる。真面目な翔くんに、一番の理解者の俺が。

続きが言えないように、唇で塞いだ。

重なった唇は熱くて、濡れていて、少し震えていた。
だから、目を閉じてしばらくキスを繰り返した。そんな夜が、たまらなく愛しかった。













end
1/1ページ