恋のクロスロード
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夏休みが始まった。
高校生活初めての夏、と言えば、恋に遊びに様々な妄想が膨らむものだ。
ちょうど今、実際に俺の隣にいる三人は浮かれ気味に夏休みの計画を立てている。
「今年の夏は遊びまくるでえええ!海行ってプール行って、海行って夏祭り行って海…」
「何回海行くつもりだお前」
「あ、はーい。俺はみんなで自転車旅とかしてみたいかな」
「わぁ!真波くん、それすっごくいいね!」
「よっしゃあーっ!早速明日から遊んだるでえええ
まずはプールや!小野田クン、学校指定の水着で来るとかゆーボケかましてくれんなや!」
「えぇっ!?さすがの僕も普通の水着くらい持って…あれ?あったかな…?最後に着たの小学生の時だったかも…
い、今泉くんは持ってるよね?」
「俺は行かないぞ」
「えっどうして!?」
「それ、本気で言ってるのか?」
「あ……」
小野田がしまった、というように口を塞ぐ。
そう、俺にはまだ追試が残っている。
すっきりとした気分で夏休みに入らせてくれればいいものを、この学校はわざわざ終業式後に追試を行うという、ある意味生徒にとっては意地が悪いと思わざるを得ない形式をとっている。
小野田は悪気があって言ったのではないとわかってはいるが、明日、明後日に控える追試を思うと、どうしても不機嫌な態度になってしまう。
「悪いな。プールは三人で行ってきてくれ。俺はこれから図書室で勉強する、またな」
俺は一方的に言い放つと、友人たちに背を向けた。
すると、俺が歩き出すと同時に鳴子が言った。
「今度海行く時はスカシも来いよー」
「あぁ、わかってる」
……しょうがないな。
水着、買っとくか。
終業式の後だからか、図書室は普段よりも圧倒的に人が少なかった。どの席に座るか迷うふりをして、俺はちらっとカウンターに目を向ける。
やっぱり、いた。
俺が入ってきたことに気づいた鈴谷が、小さく手を振った。
それに答えるように、俺は軽く片手を上げる。
あの日から、お互いに挨拶を交わす程度の仲にはなった。
まぁ、それ以上に進展する気配もないのだが…。
俺は窓際の席に腰掛けると、いつものように勉強を始めた。
クーラーの音に混じって聞こえてくる蝉の大合唱。
改めて夏を実感する。
太陽の下で力いっぱいペダルを漕ぐのも好きだが、こうやって涼しい室内で穏やかな時間を過ごすのも悪くないかもしれない、と俺は思い始めていた。
三十分ぐらい経った頃だろうか。
廊下の方でこちらを覗く人影が見えた。
顔を確認すると自転車競技部の先輩の荒北さんではないか。
あの人こそ図書室などには縁が無さそうなのだが、どうやら人を探しているようだった。
もしかしたら自分に用があるのかもしれないと思い、俺は席を立とうとした。
しかし、それよりも先に荒北さんに駆け寄った人物がいた。
鈴谷だ。
彼女は廊下に出て、すぐさま荒北さんに話し掛ける。
会話の内容までは聞き取れないが、二人が仲良さげに話しているのだけはわかった。
彼女たちが知り合いであったことに俺はまず驚いた。
それに親しげな二人の様子からしても、ただの知り合いではなさそうだ。
鈴谷はこれまで見たことがないほどに、表情をころころと変えて楽しげに話している。
自分でも理由はわからないが、なんとなく胸がざわついた。
ようやく長かった追試が終わり、俺は机に突っ伏していた。
今まで自分をガチガチに縛り上げていた鎖から解き放たれたような気分だった。
幸い今日は部活の日なので久しぶりに学校で練習が出来る。
俺は逸る気持ちを抑え切れずに、校舎を出るとすぐに部室に向かって全力で走った。
もう図書室に行く用もない。
数ミリでも縮まったと思っていた鈴谷との距離も、また遠のいてしまうかもしれない。
…それでもいい。大好きな自転車に乗れるならそれでも。
部室には福富部長と荒北さんがいた。
他の部員は皆、既に練習中らしい。
「久しぶりだな、今泉。
荒北と同じくしばらく休んでいた分、他のメンバーと開いた練習量の差を挽回出来るよう努めろ」
「え、荒北さんも休んでいたんですか」
「ちょっ!?福チャン、内緒だっつったろォ!!!」
「実は荒北も追試だったのだよ!ワッハッハー!」
その時、タイミング良く部室の扉が開く。
このテンションの高い人は『東堂尽八』、三年生。
頭には彼のこだわりであるカチューシャがその存在感を放っており、自らを美形クライマーと称するナルシストな自信家だ。現にファンクラブまで存在するらしいが加えて、無駄のないペダリングで巻島さんと並ぶほどの実力を兼ね備え、その速さから『山神』とまで呼ばれている。
「アァ東堂てめェ!なにバラしてんだボケェ!!」
「俺だけじゃなかったんですね、追試…」
「今泉もホッとしてんじゃねぇヨ!」
「で、東堂。何かあったか?」
「おぉ、そうそう。フクに頼みたいことがあってな。 ちょっと来てくれんか?」
「別に構わん。
荒北、今泉。お前たちも早く着替えて練習に合流しろ」
「へいへい、わかってンよ」
福富部長と東堂さんが出ていくと、部室には俺と荒北さんの二人きりになった。
昨日の光景が頭に浮かぶ。
彼女との関係を聞いてみたくないかと問われれば、割と興味はある。
だが、なんと切り出せば良いのだろうか…。
荒北さんと話すときはいつも少しばかり気を遣う。
うっかり何らかの形で地雷を踏んでしまえば、他に誰もいない現状止めてくれる人はいない。
あぁ…こんな弱気だからこそ『アイツ』にも弱泉などと侮辱されるのか。
「なんだァ…?言いたいことがあるならはっきり言えよ」
よほど俺が挙動不審に見えたのか、荒北さんの方から話しかけられてしまった。どうしようか。
…もう仕方ない。男らしくはっきり聞いてやろう。
「荒北さんはその、えっとー…」
「アァ?」
「好きな人とかいるんですか?」
「ハァ!?」
ちょっと待てちょっと待て。何を口走っているんだ俺は。
どうして恋バナを始めようとしているんだ?
よりにもよって荒北さんとだぞ?
これでますます彼女のことを聞きづらくなった。
ここで鈴谷の名前を出そうものなら、俺が彼女を好きだと告白しているようなものではないか。
「すいません。無かった事にして下さい。着替えも終わったので先に練習行きます。失礼します」
俺は早口でその場から逃げるように去った。
俺が練習に参加してから数分後に、荒北さんも合流した。
最初は恐ろしくて顔を見ることが出来なかったが、途中で普通に話しかけられた感じからして、さっきのことをそれほど気にしてはいないようだ。
普段から東堂さんや新開さん辺りにその手の質問をされたりしているのだろうか。何にせよ助かった。
およそ三週間ぶりに走る実践形式のレースは、楽しくて楽しくて仕方がなかった。
高校生活初めての夏、と言えば、恋に遊びに様々な妄想が膨らむものだ。
ちょうど今、実際に俺の隣にいる三人は浮かれ気味に夏休みの計画を立てている。
「今年の夏は遊びまくるでえええ!海行ってプール行って、海行って夏祭り行って海…」
「何回海行くつもりだお前」
「あ、はーい。俺はみんなで自転車旅とかしてみたいかな」
「わぁ!真波くん、それすっごくいいね!」
「よっしゃあーっ!早速明日から遊んだるでえええ
まずはプールや!小野田クン、学校指定の水着で来るとかゆーボケかましてくれんなや!」
「えぇっ!?さすがの僕も普通の水着くらい持って…あれ?あったかな…?最後に着たの小学生の時だったかも…
い、今泉くんは持ってるよね?」
「俺は行かないぞ」
「えっどうして!?」
「それ、本気で言ってるのか?」
「あ……」
小野田がしまった、というように口を塞ぐ。
そう、俺にはまだ追試が残っている。
すっきりとした気分で夏休みに入らせてくれればいいものを、この学校はわざわざ終業式後に追試を行うという、ある意味生徒にとっては意地が悪いと思わざるを得ない形式をとっている。
小野田は悪気があって言ったのではないとわかってはいるが、明日、明後日に控える追試を思うと、どうしても不機嫌な態度になってしまう。
「悪いな。プールは三人で行ってきてくれ。俺はこれから図書室で勉強する、またな」
俺は一方的に言い放つと、友人たちに背を向けた。
すると、俺が歩き出すと同時に鳴子が言った。
「今度海行く時はスカシも来いよー」
「あぁ、わかってる」
……しょうがないな。
水着、買っとくか。
終業式の後だからか、図書室は普段よりも圧倒的に人が少なかった。どの席に座るか迷うふりをして、俺はちらっとカウンターに目を向ける。
やっぱり、いた。
俺が入ってきたことに気づいた鈴谷が、小さく手を振った。
それに答えるように、俺は軽く片手を上げる。
あの日から、お互いに挨拶を交わす程度の仲にはなった。
まぁ、それ以上に進展する気配もないのだが…。
俺は窓際の席に腰掛けると、いつものように勉強を始めた。
クーラーの音に混じって聞こえてくる蝉の大合唱。
改めて夏を実感する。
太陽の下で力いっぱいペダルを漕ぐのも好きだが、こうやって涼しい室内で穏やかな時間を過ごすのも悪くないかもしれない、と俺は思い始めていた。
三十分ぐらい経った頃だろうか。
廊下の方でこちらを覗く人影が見えた。
顔を確認すると自転車競技部の先輩の荒北さんではないか。
あの人こそ図書室などには縁が無さそうなのだが、どうやら人を探しているようだった。
もしかしたら自分に用があるのかもしれないと思い、俺は席を立とうとした。
しかし、それよりも先に荒北さんに駆け寄った人物がいた。
鈴谷だ。
彼女は廊下に出て、すぐさま荒北さんに話し掛ける。
会話の内容までは聞き取れないが、二人が仲良さげに話しているのだけはわかった。
彼女たちが知り合いであったことに俺はまず驚いた。
それに親しげな二人の様子からしても、ただの知り合いではなさそうだ。
鈴谷はこれまで見たことがないほどに、表情をころころと変えて楽しげに話している。
自分でも理由はわからないが、なんとなく胸がざわついた。
ようやく長かった追試が終わり、俺は机に突っ伏していた。
今まで自分をガチガチに縛り上げていた鎖から解き放たれたような気分だった。
幸い今日は部活の日なので久しぶりに学校で練習が出来る。
俺は逸る気持ちを抑え切れずに、校舎を出るとすぐに部室に向かって全力で走った。
もう図書室に行く用もない。
数ミリでも縮まったと思っていた鈴谷との距離も、また遠のいてしまうかもしれない。
…それでもいい。大好きな自転車に乗れるならそれでも。
部室には福富部長と荒北さんがいた。
他の部員は皆、既に練習中らしい。
「久しぶりだな、今泉。
荒北と同じくしばらく休んでいた分、他のメンバーと開いた練習量の差を挽回出来るよう努めろ」
「え、荒北さんも休んでいたんですか」
「ちょっ!?福チャン、内緒だっつったろォ!!!」
「実は荒北も追試だったのだよ!ワッハッハー!」
その時、タイミング良く部室の扉が開く。
このテンションの高い人は『東堂尽八』、三年生。
頭には彼のこだわりであるカチューシャがその存在感を放っており、自らを美形クライマーと称するナルシストな自信家だ。現にファンクラブまで存在するらしいが加えて、無駄のないペダリングで巻島さんと並ぶほどの実力を兼ね備え、その速さから『山神』とまで呼ばれている。
「アァ東堂てめェ!なにバラしてんだボケェ!!」
「俺だけじゃなかったんですね、追試…」
「今泉もホッとしてんじゃねぇヨ!」
「で、東堂。何かあったか?」
「おぉ、そうそう。フクに頼みたいことがあってな。 ちょっと来てくれんか?」
「別に構わん。
荒北、今泉。お前たちも早く着替えて練習に合流しろ」
「へいへい、わかってンよ」
福富部長と東堂さんが出ていくと、部室には俺と荒北さんの二人きりになった。
昨日の光景が頭に浮かぶ。
彼女との関係を聞いてみたくないかと問われれば、割と興味はある。
だが、なんと切り出せば良いのだろうか…。
荒北さんと話すときはいつも少しばかり気を遣う。
うっかり何らかの形で地雷を踏んでしまえば、他に誰もいない現状止めてくれる人はいない。
あぁ…こんな弱気だからこそ『アイツ』にも弱泉などと侮辱されるのか。
「なんだァ…?言いたいことがあるならはっきり言えよ」
よほど俺が挙動不審に見えたのか、荒北さんの方から話しかけられてしまった。どうしようか。
…もう仕方ない。男らしくはっきり聞いてやろう。
「荒北さんはその、えっとー…」
「アァ?」
「好きな人とかいるんですか?」
「ハァ!?」
ちょっと待てちょっと待て。何を口走っているんだ俺は。
どうして恋バナを始めようとしているんだ?
よりにもよって荒北さんとだぞ?
これでますます彼女のことを聞きづらくなった。
ここで鈴谷の名前を出そうものなら、俺が彼女を好きだと告白しているようなものではないか。
「すいません。無かった事にして下さい。着替えも終わったので先に練習行きます。失礼します」
俺は早口でその場から逃げるように去った。
俺が練習に参加してから数分後に、荒北さんも合流した。
最初は恐ろしくて顔を見ることが出来なかったが、途中で普通に話しかけられた感じからして、さっきのことをそれほど気にしてはいないようだ。
普段から東堂さんや新開さん辺りにその手の質問をされたりしているのだろうか。何にせよ助かった。
およそ三週間ぶりに走る実践形式のレースは、楽しくて楽しくて仕方がなかった。