「…やられたね」


クックッと笑うクソメガネにイラッとさせられたが今は違うことの方が気になる。


「あの野郎、本当に平凡な成績か？」


投げ飛ばされた体勢から戻り、服についた汚れを落とす。


「あぁ、わたしも見ていたけどとても平凡な動きとは思えなかったね…人類最強とも呼ばれる男をあんないとも簡単に投げ飛ばすなんて」


クソメガネは俺を見ながら言う。


「でもね、あれはリヴァイが悪いからね！あんな言い方はないよ！！あーあ…これで調査兵団に来てくれなくなっちゃったじゃんかよぉ…」


ガシガシとクソメガネは頭を掻きながら喚く。


「…どうだろうな」


「え？なにか案でもあるの？」


あの目つき…いままで見てきた女たちとは明らかに違う。


いままで兵団内で言い寄ってくる女はたくさんいた。けどあの目は違う。


まるで挑発的に誘ってくるような目…


「おーい、リヴァイ？」


クソメガネは能天気に俺の目の前で手のひらをヒラヒラとさせている。


「…こんな暗がりだ…あいつは俺たちが調査兵団だってことに気付いてねぇよ…」


クソメガネの手を叩き落とし、来た道を引き返す。


「ちょっとぉ…どこ行くのさ」


「エルヴィンのとこだ」


クソメガネを取り残しエルヴィンのところへ向かう。


対人格闘成績360人中180位だと？あの動きで180番目ってことは104期生は怪物だらけかよ…


「(それはないな…)」


あの女は絶対に実力を隠している。だからこそあのキースがエルヴィン宛に手紙を出したんだろう。


ー104期生の中に怪物がいるー


その1文の確認のために何度かハンジと訓練中に確認に行ったが目立ったやつは特にいなかった。


「そりゃあそうか…訓練中も実力を隠していたなら見つけられないわけだ…」


先程の動きを思い返す。


気を抜いていたとはいえ、距離があったにも関わらず踏み込み速度、腕を引き寄せ重心が崩れたところに足払いをかけるー


やった事はそれだけだが、それだけの事を理解したのは投げ飛ばされた後だった。


「おもしれぇ…」


ぶつかったときはオドオドした気弱な性格だと思った。見た目はそこらの女よりかは遥かに可愛いとよばれる方だろう。


だが、そんな見た目とは裏腹にあの毅然とした態度ときた。


見た目からは想像できないような行動だった。


思わず背筋がゾクリとする。


「…こんな気持ちは初めてだ」


あの女のことを考えながら歩いていたからか思ったより早くエルヴィンの執務室に着く。


コンコン…


「エルヴィン、俺だ」


「リヴァイ？どうした？」


扉の中からの返事を確認すると扉を開け中に入る。


「例の怪物にあってきた」


俺の言葉にエルヴィンは持っていた筆を下ろす。


「あいつは…あの女は…」


バタンと閉まった扉を見て思わずため息がでる。


リヴァイはいつも突然だ。行動が勝手すぎる。リヴァイの残した言葉、


「あの女は俺がもらう、だから…何がなんでも調査兵団へと引き込むぞ」


鋭い眼光を光らせ不敵な笑みであんなことを言うなんてな。


「名前・苗字か…」


机の引き出しを開け、キースからもらった手紙を見つめる。


あの女を寄せ付けなかったリヴァイがあそこまで言うとは…一体どんな女性なのか…


リヴァイの服には土の汚れが薄らとついていた。もしかしたら一悶着あったのかもしれないー


俺は名前・苗字に会ったことがないからどんな女性かはわからない。


ハンジとリヴァイの話ではリヴァイより小柄で可愛い顔をした女性としか聞かされていないからな。


「エルヴィン～リヴァイいる～？」


不意にノックもせずに開け放たれた扉。外からやってきたのはハンジだった。先程までリヴァイと一緒に居たはずだが…


「ハンジ、ノックくらいしてくれ…リヴァイならさっき来たぞ」


「あの話したの？！！？」


「なんのことだ？」


ハンジの様子がおかしい。おかしいのはいつもの事だが鼻息を荒くしてまるで巨人でも見たかのような荒ぶり方だ。


「リヴァイったらねぇ～訓練兵に投げられちゃったんだよ！！！！」


ゲラゲラと笑い出すハンジ。


そういう事か、どうせリヴァイのやつが何か言って揉めたんだろう。それにしてもあのリヴァイを投げるなんてな。


「名前はぜひうちに来てほしいもんだね！！！」


鼻息を荒くしたハンジの相手は大変だ。


これ以上は仕事が進まないと思い、席を立ちコーヒーをいれる。


「その話、詳しく聞かせてくれ」


104期生の怪物の話しをな。