夢を見た。


とても心が懐かしくなる…


暖かな夢…



『お前は、なんも気にする事ねぇよ』



誰？



知らない場所。


沢山並べられたバイクの中央で、私に背を向けて誰かが座っている。


誰？



『もっとお前は、ガキらしくしてろ。』



あ…



立ち上がって振り向いたのは黒髪で背が高い男の人。

口には加えタバコ…


誰かは分からない。


でも…


その顔は不思議と懐かしくて、誰かの笑顔に似てる。


男性は私の前まで歩いてくると、ポンッと私の頭に手をおく。


夢なのに不思議。


とても暖かくて…


とても安心する手…



『もっと、ワガママ言っていいんだ。我慢すんじゃねぇよ。…お前は、お前がやりたい事をやればいいんだ。


な…六花』





ピピピピ…




「…………」



瞳を開いたら、涙が一筋…流れ落ちた。


携帯のアラームにムクリと起き上がるとそれを消して頬に流れた涙に指で触れる。



「なんで…泣いてるんだろ」




あれは…あれも記憶の欠片？



暖かい、優しい夢だった…



彼は誰？






「あ」


寝室を出ると、コーヒーの香りが鼻を掠めた。


新聞越しに、彼はチラッと私を見てまたすぐに新聞に視線を落とす。


ああ、そうだった。


お母さんがいなくなってから、父とは会話をまともにしてなかったな…

するとしたら…


「勉強はどうだ」


でた…


私達の会話は主に勉強、進路、その話ばかりだ。


で、きまって私は…



「うん、頑張ってる」



そう答える。



「A高以外認めんからな」


でたでた…お決まりのセリフ。


都内トップの進学校。
入学すれば、そこからエスカレーター式でこちらも都内トップのA大に上がれる。

ちなみに父の母校だ。


父の希望通り、私はこの高校、大学を出て弁護士になる。


父の敷いたレールを歩く人生。


1回目の人生はそうだった。

夢もあったけど、諦めた。


父に逆らう勇気が、私にはなかったからだ。


でも…


今回は2回目。


願わくば、自分の思うとおりの人生を歩みたい。


キッチンにあったコーヒーをカップに入れながらそんなことを考えていると、ふと父が私を見た。


「……コーヒー、飲めるようになったのか？」


「え？…あ」


つい、コーヒーのいい香りにつられて入れたけど…そうだ、私は社会人になるまでコーヒーは飲めなかったんだっけ？
コーヒーどころかカフェオレすら無理だった。


「…あ〜…ま、間違っちゃった〜」


「…………」


ハハ〜と笑った私に父はまた新聞を見た。


父の前ではコーヒーは飲めなさそうだな…