「傷つけた……最低な事を言った。

でも……それでもあいつ……

笑っててさ…」



マイキー君の声が……


震えていた。




「俺は逃げた。……六花から…


妊娠して、体調が日に日に悪くなってきた時も……俺は1度だって寄り添わなかった。


1人にした…孤独にした……」




心細くて…




泣いていたかもしれない……




分かっているのに……



俺は……







『マイキー…』



真っ青な顔で、少し痩せた顔…



『マイキー…話があって……忙しいって分かってるんだけど……

少しだけ、時間がほしくて…』




『……悪い。時間がない。

何か必要なら鶴蝶に頼んでくれ』




『…………』




『……もう行く…』




『マイキー！』




出ていこうとした俺の腕を六花が掴む。




『……あ…ご、ごめんね。最近…全然ちゃんと話せてないから……

忙しいのに……ごめんね。

また今度…』



そう言って……



また六花は笑った。




その時……



俺の中で…



何かがパチンと弾け飛んだんだ。




『何……笑ってんの？』



『え？』



『俺、最低だろ？六花をずっとほったらかしにして、避けて…

なのになんでそんな風に笑ってんだよ！』



『っ…』



掴む腕に力が入って、眉を寄せる六花。



『もっと俺を罵れよ！怒れよ！！』



止まれ……



俺……




『……私、は…』




『辛い』




『え…』




『六花の…真っ直ぐすぎる所が……俺には辛い』



『！』



瞳を開いて俺を見つめる六花…



『お前を見てると……苦しくなる。』



だめだ……



止まれ…




『……出会わなかったら……よかった』



やめろ…



『………マイ、キ…』



『お前に出会わなかったら…こんなに苦しい気持ちにならなくてすんだ！！』



やめろ！！



心はそう叫んでいるのに…



なんで俺は……



こんな事……




『出会ってなかったら……


エマも六花の代わりに……


死なずにすんだんだ……』



『！！！！』






「あの時の……六花の顔が……


忘れられない」





ずっと笑ってた



苦しい思いをさせる事が多かった中



それでも笑ってた六花がみせた……




初めての涙だった。








『ごめんねっ……マイキー…』




違う



そんな事



言いたかったわけじゃないんだ。



そんな事……



『っ…』



泣き崩れた六花を置いて…



俺はまた逃げた。






「……それが…最後に見た…


六花の姿だ……」







『マイキー！！！！六花がっ！！』





え………





鶴蝶の真っ青になった顔……






1人でどこかに行っていた帰り……


悪阻で気持ち悪くなりしゃがんだ所に……



トラックが突っ込んできた。





即死だったらしい。




「……後から…鶴蝶から聞いたんだ。

六花……体調悪いのに……

たい焼き……買いに行ったんだって……


事故現場に……たい焼き買った袋が…散乱してて……」















『…六花、どこか行くのか？』



顔色の悪いまま歩く六花に通りかかった鶴蝶が声を掛ける。



『う、うん…ちょっと外に』


『車まわすか？悪阻、辛いんだろ？』



『だ、大丈夫だよ…平気。ありがとう』



『……何か、あったか？』



『え？』



『目…腫れてるぞ』



そう言った鶴蝶に六花は視線を下に向けると苦笑いした。




『ちょっと…マイキーと喧嘩しちゃって…』



『……そう、か…』



マイキーが最近六花を避けている事は、周りはなんとなく分かっていた。



『だから…仲直り、したくて……

マイキーの大好きなお店のたい焼き…買いに行きたいんだ』


『だったら部下に、』



『ううん！私が…自分で行きたいんだ。


マイキーの……


喜ぶ顔が……見たいから』