「少し歩くか」.


食事を終えて店を出ると、満月が夜空に浮かんでいた。



カツンカツンとヒールの音が


コツンコツンと革靴の音が



静かな夜に響く。



前を歩くマイキーの背中を見つめる。




私達のこの関係は何？



前までは



ただの雇用主と弁護士だったのは間違いない。



でもこの数日の出来事。



それはその関係には当てはまらない、そう思っていた。



モヤモヤする。



階段に差し掛かった所で、マイキーは振り返ると私の方に手を出した。


これは、暗くてよく見えない階段が危ないから掴め…ってところかな。


彼は時々子供のようで、たまにこうやって紳士的な事もあるんだな…


胸がキュッとしたが、私はその手をとるか、悩んだ。


「………」


戸惑っているような私に、マイキーは私を見つめた。


正直


私は白黒ハッキリつけたいタイプだ。


多分


私がこんな質問をしたら


もしかしたら彼は面倒くさいと感じるか？


それとも


真っ直ぐ答えてくれるのか？



どちらにせよ



この胸のモヤモヤは無くしたかった。




「マイキー、一つ聞いてもいい？」



私の問いに、マイキーはyesともnoとも言わない。
私の質問に、答えられるかが分からないからだろうか？



「私と、こうやって食事したり、服や靴をくれたり…だ、抱きしめたり…今みたいに手を差し出してくれたり
そういうのって…さ…

あなたの恋人が


怒ったり、しないの…かなって」


白黒つけたいと思いながらも、最後の方は言葉が小さくなってきて我ながら情けない。


変な沈黙が流れる。


な、何か言ってほしい…


そう訴えるように彼を見つめた。


マイキーは私を見つめて、ふと満月を見上げた。



「かもな」



そう言った彼に、自分で聞いたくせにショックを受けてしまう。


ああ、やっぱり…



「…だ、だよね！じゃあ、もう「俺に」


こういうのはやめよう。そう繋げようとして、マイキーがそれを遮る。



「恋人がいたなら、な」


「え？」



それは…どういう…



「俺に恋人はいない」


「えっ…じゃ、じゃあさっきのエマって…」


あなたの恋人じゃ…


マイキーは私を見つめながら、小さく口を開く。




「 」




え？何？


なんて言ったの？



夜風が二人の髪を揺らす。



マイキーはフッと口角をあげて笑う。



「エマは…俺の妹だ」


「い、もうと？」






【…昔、妹がそう言ってた】




そういえば、前に妹がいると言っていた。