料理が運ばれてきて、シャンパンで乾杯した。


「…シャンパン、程々にしてね」


前みたいな事は勘弁してほしい。



「…分かってる」



バツの悪そうな感じでマイキーはシャンパンに口をつける。


こういう拗ねたような顔をする時のマイキーはまるで子供みたいで、口元が緩んでしまう。



「にしても、こんなハイブランドもお得意様なんて、驚いたよ」


「別に興味があったわけじゃない。
ただ…思いだしたんだよ。

エマが
いつか…大人になったらここの服を着るんだって言ってた事。」


「……」


エマ、という名前に私は食事の手を止める。


エマって…女性の名前、だよね？


彼の口から出たその名に少し胸がざわついた。


マイキーが女に不自由してない事ぐらい知っている。


この前のバーで出会った女性の敵意剥き出しの視線。


極悪組織のボスであっても、彼はこの容姿だ。


言い寄ってくる女性は多いだろう。


でも


私が弁護士になって1年と少し…


彼が恋人らしき人を連れているのを見たことがなかった。


だから勝手に特定の相手はいないと思ってしまっていた。




私…ばかかも。



何故そんな風に感じでいたのだろう。


服を買ってもらって、靴を買って貰って、こんな素敵なディナーに連れて来て貰って…舞い上がってた自分が恥ずかしい。


少しだけ思ってしまっていたんだ。


彼にとっての特別に


なれている、なれるのかな？なんて…



「どうした？」


「あ…う、ううん！なんでもないよ。」


曇った気持ちも悟られたくなくて


私は「美味しい」と食事を口に運ぶ。




胸が




少し




ちくちくと痛かった。