「はぁ…はぁ…」


言った。


初めて……



お父さんに言い返した…



27年…


ずっと叫びたかった事…




「…先生、そろそろフライトの時間が…」



秘書の男がコソッと耳打ちするとお父さんは舌打ちをした。



「分かってる…とんだ無駄足だった。こんな娘は…娘でもなんでもない…」



「………」



お父さんはネクタイをぐっ、と直すと私に背を向けた。



「…もう帰って来なくていい。」


「っ…」


やっぱりこの人には…



何を言っても…通じない…


自分の世界が全てなんだ。




「行くぞ」



「はい」






「……あの…」




病室を出て行こうとしたお父さんを、マイキーが呼び止めた。



「？…なんだ…」



「お、おいマイキー…やめろよ！」


三ツ谷君が慌てる。



お父さんを睨むように見つめるマイキーに、私も皆も息を飲んだ。



ま、まさかマイキー……お父さんを殴り飛ばしたり……しない、よね？



さすがにそれはまずい。


相手は弁護士だ…



「マ、」



立ち上がろうとした私の瞳に…頭を下げるマイキーの姿が映った。




え………



お父さんに向かって…しっかり頭を下げてるマイキー…


それに驚いたのは…私だけじゃない。


そこにいた全員が驚いていた。


あのマイキーが…


頭を下げた…と。





「…娘さんを…危険な目に合わせてしまって……すみませんでした。」



ま、マイキー…？



「六花の親父さんからしたら…俺らはたしかにクズに見えちまうかもしんねぇ…

でも……」



マイキーが顔を上げる。



「六花を好きな気持ちと、大切に思う気持ちは…誰にも負けねぇ…一生…ずっと…

一緒にいたいと……そう思って………ます」


そう言ったマイキーにけんちゃんがフッと笑うと私を見た。


私の視界がじわりと滲む。



「………ふん。子供が何を…」



「今は子供でも…いつかかならず…娘さんを貰いに行きます。
だから…覚悟しといてください」



真っ直ぐ父を見上げたマイキー…


「……ふん」



父はその瞳に何を思ったのかは分からない…



マイキーから視線を離すと病室を出て行った。