「お母さん…久しぶり、だね．長い事来れなくてごめんね」


そっとお墓に手を添える。



「あ、さっきの私の今のボス。めっちゃ怖い顔してるけどさ…まぁ悪い人ではないから安心して」


いや、実際悪い人、ではあるのかな…


「はぁ…なんか、最近色々ありすぎて、ちょっと疲れてたんだよね。」


父の事、あの男が死んだ理由。
この数日で色んな事を知って、正直言っていっぱいいっぱいだった。

でも仕事も次から次へとやってくるから、弱音なんてはいてられなくて…


「こんな時…お母さんがいたら…相談相手にきっとなってくれたんだろうね。」


質問しても、冷たい墓石は答えてはくれない。


「あー…ハハ…」


その事実に、この1年の我慢していたものが一気に溢れ出す。

歯を食いしばっても、瞳から流れるものが止められない。


絶対泣くもんか、泣いちゃいけない。


そう思って必死にやってきたのに。


今日は、だめだ。


こうなると分かっていたから、ここに来るのも遠ざかっていた。


ここに来たら、弱い自分がでてしまう。


どうしても



「っ‥会いたい、よ、お母さんっ…」



幼い子供みたいに、涙がボロボロ次から次にでてくる。


お母さんと話したい。


お母さんのご飯が食べたい。


お母さんと買い物に行きたい。


そんな当たり前の事がしたい。



そして何より




大丈夫だよ、って言って



抱きしめてほしいよ。



「っ…うっぅぅ…」





「一人で、泣くなよ」





え‥……？




ザッ…と海風がふいて、近くの花々が揺れる。




背中に感じる重みと、温もり。


鼻にフワリと感じる知った香水の香り…




顔を上げて振り返ると、頬に金色の髪が触れた。


「一人で泣くのは…辛い」


「！」



ぎゅっと後ろから抱きしめた腕に力が籠る。




まるでその言葉が



自分自身に言っているようだった。