「木村のやろう…ぜってぇぶっ潰す」


喧嘩はしなかったが、やはり言われた事が忘れられずイライラする…


「圭介君」



「？おお…どうした？」



道場の縁側に座っていた俺に六花が柱からひょっこり顔を出す。


「頬っぺた…平気？」



「ああ…」



木村との事で、師範に罰、として頬をつねられだ。

それが結構痛い。



「よかったら…これ」



そう言って六花が持ってきたのは氷の入った袋。



「冷やしたら、少しましかなって」



「おお…あり、がとな」


六花からそれを受け取り頬にあてる。



「痛い？」


「おふくろのに比べたらへでもねぇよ」



普段から母親から頬を抓られるのは当たり前だったので特に気にした事はなかった。


だからこそ、こんな風に心配されるのが少し…不思議だ…



「圭介君のお母さんってどんな人なの？」



「おふくろか？……まぁ、蹴る、殴るは日常茶飯事だな。」


そう言って圭介ー！とキレてるおふくろを思い出して笑う。



「……きっと、素敵なお母さんなんだろうね」



「え？」


「圭介君を見てたら分かる。

圭介君は…



心が暖かい人だから」




今思えば…




俺は多分




もうこの時




お前を好きになっていたんだな。




六花…




ただ、この感情の意味が分かったのは




もう会えなくなってしまった後だった。




マイキーや俺、ドラケンや三ツ谷、ぱー、一虎、そして六花…



毎日毎日飽きずに遊んだ。


男の中に紅一点…でも六花は俺らのくだらねぇ話も、興味無ぇだろうに、喧嘩の話も…いつもニコニコキラキラした瞳で、笑って聞いていたよな。



あの火事の日から…



その輪の中に六花がいなくなって



ぽっかり俺達の中にあいた穴。



マイキーが六花の話はするなと…俺達の間には禁句になってしまった。



でもじつはこっそり引っ越したと聞いて、家の前まで行った事もあったんだ…


でも


会いに行く勇気はなかったんだ。




だから



俺はこの感情を



封印した。