「はい、どうぞ」


「ありがとうエマ」



「おじぃちゃんも」



「うむ」


エマは私の前にお茶を出すとお爺さんの所にもお茶を出す。


佐野家の女はエマ一人だと聞いていた。

きっと、家事を全般に担っているのはエマなんだろうな…


綺麗に片付いたキッチンや部屋。



エマはまだ１４歳なのに…とてもしっかりして見えるのは、きっと家族を支えているからなんだろう。



「随分と久しぶりに顔を見たが、元気そうでよかったわい。」



「その節は…大変お世話になりました。」



「ほほ…大人みたいな言葉を言えるようになったんじゃな」



「あ…はははは…」



中身は一端の大人です…



「それに随分と美人になったんもんじゃな。小学生の時も可愛かったが」



「！あ、ありがとうございます」



「お母さんによく似てる」



そう言ってお爺さんは笑った。



「あの…聞かせてもらえませんか？私が…こちらにお世話になってた理由を」



「うむ…万次郎がお前さんをここに連れてきた話はもう聞いとるな」



「はい。」




「ここに来た時、六花はひどい熱でな…わしはすぐに親御さんに連絡をと思ったんじゃが、六花が断固として嫌がってな…
一人で帰ると言って聞かなかった。

それで真一郎が…」







『大丈夫だ。…お前が嫌がる事はしねぇ。
だから…事情話してみろ。』





「それで、お前さんが自分の家庭について話してくれてな…
真一郎が説得して、お母さんの方に連絡をいれたんじゃ」




真一郎お兄さんの事は、正直全然まだ思い出せない。


でもきっと…



暖かくて、優しい人だったのだろうと



そう思った。




「六花のお母さんがすぐに来て…
寝込んでる娘を見て…酷く


泣いておられた」




「え…」




「娘をここまで追い込んで、傷つけて…辛い思いをさせてしまったのは…

自分達親のせいだと…自分を責めておられたよ。」



「………」




「そんなお母さんに…真一郎が言ったんじゃよ」





『六花を…しばらくウチに預けてください』





「ワシも正直驚いたが…真一郎にも何か考えがあったんだろう。
まずは一週間…そう言って六花を預かる事になった。
お父さんには、夏のサマースクールに入れた、て言っていたようじゃがな。


一週間して…お母さんは驚いてたよ」





『あの子が…六花が…あんな風に子供らしく笑ってる所…

久しぶりに見た気がします。』





「万次郎やエマと友達と一緒に毎日駆け回って…沢山ご飯を食べて、寝て…

最初うちに来た時はまるで人形みたいだったお前さんが楽しそうに笑ってる姿に…


またお母さんは泣いておられた」




ああ…そうだった。


あの頃の私は…


まるで操り人形だった。



なんの為に生きてるのか？


誰為に生きているのか…



その意味がわからなくなるほどに



追い詰められていた。