「あ、あの、大丈夫ですか？」


目の前のフラフラ歩く男に私はついて行く。


「あ、っちょ！財布！落としてますって！」


「ん？…ああ、やる。」


「……いりません」


いや、やる。じゃないのよ。


なんでこうなった？


たしか亡くなったご友人の命日だと聞かされ、献杯した後、彼はウィスキーをロックで3杯飲んだ。
飲んだのはそれだけだ。


もしかして、お酒弱いのかな…


「ちょ！危ない！」


グラりと揺れた体を倒さまいと腕をとっさに掴む。
壁のお陰で倒れずにはすんだが…


「ボス？聞こえます？」


ふと横顔を見ると少し顔色が悪い。
目の下のクマのせいか余計にそう見えた。

眠れてないのだろうか。


私は近くにいたボーイに手を挙げて呼ぶ。


「今日、彼の護衛って誰か来てました？」


「いえ、今日は完全プライベートだから、と全員帰らせたみたいです。」


電話で呼び出すか？
ふと携帯をみるともう3時をまわってる。
こういう組織なので関係はないかもしれないが、ちょっと呼びずらいな…


「すみません、タクシー、呼んで貰えますか？」