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女の子なら誰もが憧れるであろうヒロインーー。
可憐で可愛らしく、誰からも愛される。
そして素敵な王子様と……
それはきっと女の子の誰もが、一度は願ったことがあるのではないだろうか?
そして物語にはほぼ必ずと言ってもいいほど出てくる、ヒロインを虐める悪役……。
よく小説なんかではヒロインの恋敵として、優しく可愛いヒロインを虐めたりすることがある。
そうだな……。この小説では悪役令嬢とでも言っておこうか。
"ヒロインと悪役令嬢……"
でもーー
それを決めるのは誰なのだろう。
神様?それとも……周りの人間たち?
ここに2人のヒロイン、もしくは悪役令嬢がいた。
さぁ……、どちらが悪でどちらが正義なのだろう?
あなたは本物のヒロインを見極められるだろうか……?
ーー何百年も昔。それはまだこの国が、国として成り立っていない時のことーー
ジャック・カルロスという1人の青年がいた。
青年はサラサラとした金の髪に、燃えるようなオレンジの瞳を持つ、今の時代で言えばイケメンとでも言われる風貌をしていた。
ジャックは、一つだけ人とは違う能力を持っていた。
それは動物と話しができるということ。
その頃、この地域を仕切るものは誰もおらず、人々は各々が領地を拡大するために、どんどんと森を切り崩していった。
当然、森には何千と言う動物たちが住んでいた。
人間たちの私利私欲のためだけに森を燃やされ、何百という動物が死んでしまった。
そして命からがら生き残った動物たちも、森を追われ住む場所を失った。
かく言う人々は領地を広げ、村をどんどん拡大していったのである。
だが、人々の幸せは束の間で、人間を恨んだ動物たちの襲撃を受けた。
当然の報いーー…。そう思うだろうか?
村では森を燃やした男たちだけではなく、村で生活をしていた女や子供など、何百人もが動物の襲撃を受け亡くなったーー。
それに心を痛めたジャックは、動物との和解に向け動き出す。
だが、それには数々の困難がついて回った。
いくらこちらに戦う気持ちがなくても、人間を恨む動物たちは、一切の手加減もなく襲いかかってくる。
だからジャックは、まず仲間を探した。勇敢で強い者。
そう、勇者とでも言われる存在を。
勇者はすぐに見つかった。
村1番の戦士であるウィリアム・キャンベル。
彼は金色の髪に翡翠の瞳をもつ、美しい青年だった。
ジャックは初めてウィリアムを見た時、こんなにも線の細い青年が、本当に村一番の戦士なのか…?と疑問に思った。
だが直後、村の襲撃を守る姿を見て、ジャックは圧巻した。軽やかな身のこなし、そして重たいはずの剣を簡単にも振り下す姿は、勇者そのものであった。
勇者ウィリアムには、なによりも愛おしい妻子がいた。
その美しい妻ミラベルは、まだ2歳の赤子を襲撃から守るために亡くなった。その日ウィリアムは、この世の終わりかの如く泣き続けた。
まだ幼い我が子を抱き、どうしてもこの戦いを終わらせなければいけない、そう胸に誓ったのだ。
そして、動物語を話すことのできる青年・ジャックに出会い、2人は意気投合をすることになる。
その頃、天界ではその様子を天使が眺めていた。
天使の名前はミラ。まだ生まれたばかりの天使だ。そうはいっても、天に生まれてから17年ほど。寿命のない天使にとっては、まだまだ赤ん坊の新米天使であった。
天使は森を追われた動物に同情をしながらも、襲撃を受けている村の人々にも心を痛めていた。
「どうかこの戦いが早く終わりますようにーー」
そう願う毎日を送っていた。
ーー地上ではジャックとウィリアムが、この戦いを終わらせるために、動物たちの王に接近を試みた。
動物王のいる森の奥へ向かう途中、何度も動物たちに襲われそうになったジャックとウィリアム。
だがウィリアムの剣でそれは防がれた。
何百もの動物をかき分け、やっと動物の王と対面できたとき、彼らは同志である人間を恨んだ。
自分たちの2倍はあるであろう大きな身体を持つ獅子。
だがその大きな身体の半分を、酷い火傷で覆ったその身体は、すでに腐敗を始め、生きているのが不思議なほどだったからだ。
ジャックとウィリアムはその姿を見つめ、大きく声をあげて泣いた。そして、我々人間が申し訳ないことをしたと、動物王に頭を下げ、謝ったのだ。
動物王は言った。
「我が死ねば、何万といる動物たちは人間を許すことはないであろう……。
我がいかに動物たちを説得しても……、復讐の相手がいかに慈悲深い心を持った人間であろうとも、やつらにはもう関係はない……。
すまないな、青年たちよ。我にもう動物たちを止められる力はないのだ……」
「そんな……」
崩れ落ちるジャック。
それからというもの、いくら模索しても糸口の見つからない難問を追い続けるジャックは、次第に見るも無惨にやつれていった。
美しかった金色の髪は色が抜けて白くなり、頰もこけ、かつての美しかった青年はどこに行ったのかと思うほどに変わり果ててしまった。
そんな様子を天界で眺めていた天使・ミラ。
ミラは神にお願いをして地上に降ろしてもらうことにした。
そして、天使の姿のままジャックの元へ向かった。
ジャックは天使を初めて見たとき、あまりの美しさに心を強く惹かれた。
天使はジャックに言った。
「動物王のもとにわたしを連れていって」
言われるがまま、ウィリアムと一緒に動物王の元に向かうジャック。
動物王の元に着けば、天使は祈りの唄を歌った。
あたりはキラキラと輝きを持ち始め、動物王の腐敗した身体はみるみるうちに治り、変わり果てたはずのジャックの姿も、元の美しい青年の姿に輝きを取り戻したのだ。
そこにいた動物たちは皆、動物王の復活に涙を流した。動物王の復活はすぐに、全ての動物たちに伝わった。
そして動物王とジャックは、動物と人間の間で協定を結んだ。
領地を切り分け、お互いに必要以上の干渉をしないこと
。不必要な殺傷はしないこと。
たった2つの約束だが、これによりたくさんの動物と人間達が守られることになったのだーー…。
ジャックは声高らかに言った。
「ジャック・カルロイーー
私はこの命全てを賭け、動物王との約束守らせていただく」
そう言うジャックは輝きを放ち
その瞬間、天使・ミラは恋に落ちたのだったーー…。
ジャック・カルロイは、動物の襲撃を抑え、動物王との協定を確約したことを称され、この国の王として崇められた。
ウィリアム・キャンベルはその腕を認められ、この国を守る第一騎士として名を馳せることとなる。
動物の襲撃も無くなり、人々の平和を取り戻したジャック。人々と動物たちを守りぬくと言う、重大な任務を追いながらも、天界へ戻ってしまった天使・ミラへの恋心を忘れられずにいた。
毎日国の為に必死に動きながら、夜になればミラを想い、祈りを捧げるジャック。
その姿を天界から眺め、天使・ミラは悩んでいた。
初めて間近で見た人間。
動物王のために涙を流し、人々と動物達のことを考え、白髪になるほど悩んでしまう心優しい青年。
そして勇ましく、命を賭けて約束を守ると言った姿が今でもミラの心に深く焼きついていた。
ミラは、幾日も幾日も天界の上からジャックを眺めては
「はぁ……」
とため息をついた。
そしてある日、ミラは同じ天使であるアリアに相談をした。
「わたし、恋をしてしまったの。」
ベラはミラの大親友だ。
天使の中でも優秀なミラとは違い、ベラはいつもドジばかりして、周りを困らせている。
ベラの中でミラは特別だった。
優秀で優しいミラは、まるでベラのお守り係と陰で噂をされるほどに、いつも失敗ばかりのベラを助けてくれていた。
そんな大親友の恋を応援しないわけがない。
「がんばって!私どんな恋でも応援するわ!」
そう……。その一言で、ミラは天界から地上に降りることを選んだのだ。
神の命令では無い、地上への立ち入りは禁止をされている。もし地上に降りるのであれば、天使の羽を奪われてしまう……。
だが、それでもーー…
ジャックへの想いが止められなかったのだ。
決心したミラは、天使の自分を捨て、地上に降りることを選んだ。なるべく神に気づかれぬよう、神が他の地域を眺めている時にこっそり逃げ出した。
気づかれる前に急いで、急いでーー……。
だが神はそんなに甘くはなかった。
ミラは地上に着く前に、羽を奪われてしまったのだ。
堕ちていく少女・ミラ。
そのまま地上にぶつかり致命傷の傷を負った。
そこに気付いた人々が集まり、その騒ぎに気づいたジャックが現れた。
ジャックは驚いた。
倒れているのは、あの時動物王と自分を救ってくれた天使ミラではないか。
ジャックはミラをすぐに城へ運び、医者を呼んだ。
だが天使の傷を癒やすことのできる医者はいなかった。ジャックは何日も泣き続けた。無力な自分が悔しくて。
そして、我々の命の恩人であるミラを助けてくれたものには、何でも欲しいもの与えると言う約束の元、国中の者に助ける事のできる者を尋ねたのである。
しばらくして現れたのは、聖女・ティア。
この少女もまたとても美しい少女であった。ピンク色のサラサラとなびく髪に、ローズクウォーツのような優しいピンクの瞳。
優しい雰囲気を纏った彼女は、ミラを見ると辛そうな表情を見せ、ミラに祈りを捧げた。
するとみるみるとミラは回復をし、意識を取り戻したのだ。
ミラが目を覚ますと聖女・ティアは言った。
「王様、どうか私をあなた様の妃にしてください」
ミラは思った。この人は何を言っているのだろうと。
そして知った。今までの事の成り行きをーー……
ティアは元々、ジャックの妃になりたくて、自分を助けたのだ。頭では理解できたはずなのに、どうしても心はついていかなかった。
羽を奪われてまで地上に降りてきたのに……
神の教えに背いてでもジャックと一緒にいたい、そう思ってやっとの思いでここまできたのに……。
ジャックを愛している。ただそれだけのことなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ミラは元はといえば天使だ。だから人を憎む気持ちや、人を羨む醜い気持ちは、元々持っていないはずだった。
だから最初は自分のしてしまった大きな罪を悔やんだ。
神に背き、神の教えに背いたからこそ、翼をもがれ、最愛のジャックすらも他のものに奪われようとしている。
……こんなことになるのならば、いっそのこと聖女に助けられることもなく、ジャックの腕の中で死んでしまいたかった。そう思った。
その想いは次第に大きくなり、
目の前の聖女と名乗る女を見て、思ってしまったのだ。
この女が憎いーー……と。
全てを賭けて、命からがらやって来たこの世界で、命を捨ててでも欲しかったものを、他の女がサラリと盗んでいこうとしているのだ。
天使の心は崩れ堕ちた。そしてその痛みは、ゆっくりと深く根を張っていった。
だがジャックはそこで聖女に言った。
「僕はミラを愛している。ミラを妃にしたいのだ。だから、悪いが願いを変えてはくれないだろうか……」
ミラの澱んだ心は、その一言で報われた。愛するジャックと同じ気持ちだったのだ。
そして愛するジャックが自分を妃にしたいと申し出てくれている。ミラは泣いて喜んだ。
だが聖女は言い放つ。
「それはできません。私はこの願いのもと、こちらの少女を助けたのです。一国の王としてできない約束をするのはどうなのでしょう。王様として、ご自分の発言には責任を持たれたほうが良いのではないでしょうか」
そう聖女に言われてしまっては、王としては要求を受け入れるしかなかった。
聖女・ティアはジャックと2人の話し合いを希望した。
そしてしばらくの時が経ち、ジャックがミラの元に戻ってきた。ジャックはミラに告げた。
「私は、聖女・ティアと婚約をする。だが私は心から君を愛している。それだけは忘れないでくれ。君は天に戻っておくれ。それが私の唯一の願いだ。」
そう告げられ、ミラは落胆した。いや、落胆という言葉では表せられないほど、醜い感情がミラを襲った。
ジャックは私を愛している。なのにどうして結ばれないのだろう……。
邪魔をした聖女・ティアが憎らしかった。憎らしい……そんな言葉では表せないほど、ミラの心の中にはどんよりと暗くドロドロとした醜い感情が覆っていた。
もがれた羽はもう2度と生えてこない。だからミラはもう2度と天に戻ることは出来ないのだ。だが、それはジャックには伝えられなかった。ジャックの顔があまりにも辛そうだったから……。
愛するジャックの最後の願い、本当は叶えてあげたかった。でも、もうそれすらもできなかったのだ。
「神に見捨てられた子……。」
ミラは、神がこの世界に干渉しないのは知っていた。
これも神がわざわざ与えた試練ではないであろう。
そんなことはわかっていたが、神を恨むことでしか、ミラは自分を保つことができなかった。
ミラは、愛するジャックに最後に一つだけお願いをした。
「生まれ変わったらまた、私と恋に落ちてね」
ジャックは泣きそうな瞳でミラを眺め、何度も、何度も頷いた。
「私は君の事をいつまでも想うーー…」
ミラは旅立った。遠い遠い国へ。だが人間とは違い、年のとらないこの姿。愛する人を失ったあと、ゆっくりと流れる月日は、あまりにも地獄のような日々だった。
ミラが旅立った後、ジャックとティアは正式に結婚をした。
そしてまだ名前のなかったこの国は、カルティア王国という名がつけられたーー。
さぁ、ここから本当の物語が始まる。
だがその前に読者のみなさまに聞きたいことがある。
さて、今回のヒロインは誰だったのだろう。
神に見捨てられた天使・ミラ?
それとも王と結婚を許された聖女・ティア?
愛してやまないジャックと結ばれることのなかった天使・ミラは、悲劇のヒロインなのだろうか?
そして急にやってきていとも簡単に、ジャックを奪っていった聖女・ティアは悪役?
いやいや、それとも天使・ミラの話は前置きで、聖女・ティアが本物のヒロインだったのか?
どちらが悪役で、どちらがヒロイン……?
さあ、その結果は、
最後まで物語を読んで確かめていただきたい。
本物のヒロインは誰だったのかをーー……。
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女の子なら誰もが憧れるであろうヒロインーー。
可憐で可愛らしく、誰からも愛される。
そして素敵な王子様と……
それはきっと女の子の誰もが、一度は願ったことがあるのではないだろうか?
そして物語にはほぼ必ずと言ってもいいほど出てくる、ヒロインを虐める悪役……。
よく小説なんかではヒロインの恋敵として、優しく可愛いヒロインを虐めたりすることがある。
そうだな……。この小説では悪役令嬢とでも言っておこうか。
"ヒロインと悪役令嬢……"
でもーー
それを決めるのは誰なのだろう。
神様?それとも……周りの人間たち?
ここに2人のヒロイン、もしくは悪役令嬢がいた。
さぁ……、どちらが悪でどちらが正義なのだろう?
あなたは本物のヒロインを見極められるだろうか……?
ーー何百年も昔。それはまだこの国が、国として成り立っていない時のことーー
ジャック・カルロスという1人の青年がいた。
青年はサラサラとした金の髪に、燃えるようなオレンジの瞳を持つ、今の時代で言えばイケメンとでも言われる風貌をしていた。
ジャックは、一つだけ人とは違う能力を持っていた。
それは動物と話しができるということ。
その頃、この地域を仕切るものは誰もおらず、人々は各々が領地を拡大するために、どんどんと森を切り崩していった。
当然、森には何千と言う動物たちが住んでいた。
人間たちの私利私欲のためだけに森を燃やされ、何百という動物が死んでしまった。
そして命からがら生き残った動物たちも、森を追われ住む場所を失った。
かく言う人々は領地を広げ、村をどんどん拡大していったのである。
だが、人々の幸せは束の間で、人間を恨んだ動物たちの襲撃を受けた。
当然の報いーー…。そう思うだろうか?
村では森を燃やした男たちだけではなく、村で生活をしていた女や子供など、何百人もが動物の襲撃を受け亡くなったーー。
それに心を痛めたジャックは、動物との和解に向け動き出す。
だが、それには数々の困難がついて回った。
いくらこちらに戦う気持ちがなくても、人間を恨む動物たちは、一切の手加減もなく襲いかかってくる。
だからジャックは、まず仲間を探した。勇敢で強い者。
そう、勇者とでも言われる存在を。
勇者はすぐに見つかった。
村1番の戦士であるウィリアム・キャンベル。
彼は金色の髪に翡翠の瞳をもつ、美しい青年だった。
ジャックは初めてウィリアムを見た時、こんなにも線の細い青年が、本当に村一番の戦士なのか…?と疑問に思った。
だが直後、村の襲撃を守る姿を見て、ジャックは圧巻した。軽やかな身のこなし、そして重たいはずの剣を簡単にも振り下す姿は、勇者そのものであった。
勇者ウィリアムには、なによりも愛おしい妻子がいた。
その美しい妻ミラベルは、まだ2歳の赤子を襲撃から守るために亡くなった。その日ウィリアムは、この世の終わりかの如く泣き続けた。
まだ幼い我が子を抱き、どうしてもこの戦いを終わらせなければいけない、そう胸に誓ったのだ。
そして、動物語を話すことのできる青年・ジャックに出会い、2人は意気投合をすることになる。
その頃、天界ではその様子を天使が眺めていた。
天使の名前はミラ。まだ生まれたばかりの天使だ。そうはいっても、天に生まれてから17年ほど。寿命のない天使にとっては、まだまだ赤ん坊の新米天使であった。
天使は森を追われた動物に同情をしながらも、襲撃を受けている村の人々にも心を痛めていた。
「どうかこの戦いが早く終わりますようにーー」
そう願う毎日を送っていた。
ーー地上ではジャックとウィリアムが、この戦いを終わらせるために、動物たちの王に接近を試みた。
動物王のいる森の奥へ向かう途中、何度も動物たちに襲われそうになったジャックとウィリアム。
だがウィリアムの剣でそれは防がれた。
何百もの動物をかき分け、やっと動物の王と対面できたとき、彼らは同志である人間を恨んだ。
自分たちの2倍はあるであろう大きな身体を持つ獅子。
だがその大きな身体の半分を、酷い火傷で覆ったその身体は、すでに腐敗を始め、生きているのが不思議なほどだったからだ。
ジャックとウィリアムはその姿を見つめ、大きく声をあげて泣いた。そして、我々人間が申し訳ないことをしたと、動物王に頭を下げ、謝ったのだ。
動物王は言った。
「我が死ねば、何万といる動物たちは人間を許すことはないであろう……。
我がいかに動物たちを説得しても……、復讐の相手がいかに慈悲深い心を持った人間であろうとも、やつらにはもう関係はない……。
すまないな、青年たちよ。我にもう動物たちを止められる力はないのだ……」
「そんな……」
崩れ落ちるジャック。
それからというもの、いくら模索しても糸口の見つからない難問を追い続けるジャックは、次第に見るも無惨にやつれていった。
美しかった金色の髪は色が抜けて白くなり、頰もこけ、かつての美しかった青年はどこに行ったのかと思うほどに変わり果ててしまった。
そんな様子を天界で眺めていた天使・ミラ。
ミラは神にお願いをして地上に降ろしてもらうことにした。
そして、天使の姿のままジャックの元へ向かった。
ジャックは天使を初めて見たとき、あまりの美しさに心を強く惹かれた。
天使はジャックに言った。
「動物王のもとにわたしを連れていって」
言われるがまま、ウィリアムと一緒に動物王の元に向かうジャック。
動物王の元に着けば、天使は祈りの唄を歌った。
あたりはキラキラと輝きを持ち始め、動物王の腐敗した身体はみるみるうちに治り、変わり果てたはずのジャックの姿も、元の美しい青年の姿に輝きを取り戻したのだ。
そこにいた動物たちは皆、動物王の復活に涙を流した。動物王の復活はすぐに、全ての動物たちに伝わった。
そして動物王とジャックは、動物と人間の間で協定を結んだ。
領地を切り分け、お互いに必要以上の干渉をしないこと
。不必要な殺傷はしないこと。
たった2つの約束だが、これによりたくさんの動物と人間達が守られることになったのだーー…。
ジャックは声高らかに言った。
「ジャック・カルロイーー
私はこの命全てを賭け、動物王との約束守らせていただく」
そう言うジャックは輝きを放ち
その瞬間、天使・ミラは恋に落ちたのだったーー…。
ジャック・カルロイは、動物の襲撃を抑え、動物王との協定を確約したことを称され、この国の王として崇められた。
ウィリアム・キャンベルはその腕を認められ、この国を守る第一騎士として名を馳せることとなる。
動物の襲撃も無くなり、人々の平和を取り戻したジャック。人々と動物たちを守りぬくと言う、重大な任務を追いながらも、天界へ戻ってしまった天使・ミラへの恋心を忘れられずにいた。
毎日国の為に必死に動きながら、夜になればミラを想い、祈りを捧げるジャック。
その姿を天界から眺め、天使・ミラは悩んでいた。
初めて間近で見た人間。
動物王のために涙を流し、人々と動物達のことを考え、白髪になるほど悩んでしまう心優しい青年。
そして勇ましく、命を賭けて約束を守ると言った姿が今でもミラの心に深く焼きついていた。
ミラは、幾日も幾日も天界の上からジャックを眺めては
「はぁ……」
とため息をついた。
そしてある日、ミラは同じ天使であるアリアに相談をした。
「わたし、恋をしてしまったの。」
ベラはミラの大親友だ。
天使の中でも優秀なミラとは違い、ベラはいつもドジばかりして、周りを困らせている。
ベラの中でミラは特別だった。
優秀で優しいミラは、まるでベラのお守り係と陰で噂をされるほどに、いつも失敗ばかりのベラを助けてくれていた。
そんな大親友の恋を応援しないわけがない。
「がんばって!私どんな恋でも応援するわ!」
そう……。その一言で、ミラは天界から地上に降りることを選んだのだ。
神の命令では無い、地上への立ち入りは禁止をされている。もし地上に降りるのであれば、天使の羽を奪われてしまう……。
だが、それでもーー…
ジャックへの想いが止められなかったのだ。
決心したミラは、天使の自分を捨て、地上に降りることを選んだ。なるべく神に気づかれぬよう、神が他の地域を眺めている時にこっそり逃げ出した。
気づかれる前に急いで、急いでーー……。
だが神はそんなに甘くはなかった。
ミラは地上に着く前に、羽を奪われてしまったのだ。
堕ちていく少女・ミラ。
そのまま地上にぶつかり致命傷の傷を負った。
そこに気付いた人々が集まり、その騒ぎに気づいたジャックが現れた。
ジャックは驚いた。
倒れているのは、あの時動物王と自分を救ってくれた天使ミラではないか。
ジャックはミラをすぐに城へ運び、医者を呼んだ。
だが天使の傷を癒やすことのできる医者はいなかった。ジャックは何日も泣き続けた。無力な自分が悔しくて。
そして、我々の命の恩人であるミラを助けてくれたものには、何でも欲しいもの与えると言う約束の元、国中の者に助ける事のできる者を尋ねたのである。
しばらくして現れたのは、聖女・ティア。
この少女もまたとても美しい少女であった。ピンク色のサラサラとなびく髪に、ローズクウォーツのような優しいピンクの瞳。
優しい雰囲気を纏った彼女は、ミラを見ると辛そうな表情を見せ、ミラに祈りを捧げた。
するとみるみるとミラは回復をし、意識を取り戻したのだ。
ミラが目を覚ますと聖女・ティアは言った。
「王様、どうか私をあなた様の妃にしてください」
ミラは思った。この人は何を言っているのだろうと。
そして知った。今までの事の成り行きをーー……
ティアは元々、ジャックの妃になりたくて、自分を助けたのだ。頭では理解できたはずなのに、どうしても心はついていかなかった。
羽を奪われてまで地上に降りてきたのに……
神の教えに背いてでもジャックと一緒にいたい、そう思ってやっとの思いでここまできたのに……。
ジャックを愛している。ただそれだけのことなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ミラは元はといえば天使だ。だから人を憎む気持ちや、人を羨む醜い気持ちは、元々持っていないはずだった。
だから最初は自分のしてしまった大きな罪を悔やんだ。
神に背き、神の教えに背いたからこそ、翼をもがれ、最愛のジャックすらも他のものに奪われようとしている。
……こんなことになるのならば、いっそのこと聖女に助けられることもなく、ジャックの腕の中で死んでしまいたかった。そう思った。
その想いは次第に大きくなり、
目の前の聖女と名乗る女を見て、思ってしまったのだ。
この女が憎いーー……と。
全てを賭けて、命からがらやって来たこの世界で、命を捨ててでも欲しかったものを、他の女がサラリと盗んでいこうとしているのだ。
天使の心は崩れ堕ちた。そしてその痛みは、ゆっくりと深く根を張っていった。
だがジャックはそこで聖女に言った。
「僕はミラを愛している。ミラを妃にしたいのだ。だから、悪いが願いを変えてはくれないだろうか……」
ミラの澱んだ心は、その一言で報われた。愛するジャックと同じ気持ちだったのだ。
そして愛するジャックが自分を妃にしたいと申し出てくれている。ミラは泣いて喜んだ。
だが聖女は言い放つ。
「それはできません。私はこの願いのもと、こちらの少女を助けたのです。一国の王としてできない約束をするのはどうなのでしょう。王様として、ご自分の発言には責任を持たれたほうが良いのではないでしょうか」
そう聖女に言われてしまっては、王としては要求を受け入れるしかなかった。
聖女・ティアはジャックと2人の話し合いを希望した。
そしてしばらくの時が経ち、ジャックがミラの元に戻ってきた。ジャックはミラに告げた。
「私は、聖女・ティアと婚約をする。だが私は心から君を愛している。それだけは忘れないでくれ。君は天に戻っておくれ。それが私の唯一の願いだ。」
そう告げられ、ミラは落胆した。いや、落胆という言葉では表せられないほど、醜い感情がミラを襲った。
ジャックは私を愛している。なのにどうして結ばれないのだろう……。
邪魔をした聖女・ティアが憎らしかった。憎らしい……そんな言葉では表せないほど、ミラの心の中にはどんよりと暗くドロドロとした醜い感情が覆っていた。
もがれた羽はもう2度と生えてこない。だからミラはもう2度と天に戻ることは出来ないのだ。だが、それはジャックには伝えられなかった。ジャックの顔があまりにも辛そうだったから……。
愛するジャックの最後の願い、本当は叶えてあげたかった。でも、もうそれすらもできなかったのだ。
「神に見捨てられた子……。」
ミラは、神がこの世界に干渉しないのは知っていた。
これも神がわざわざ与えた試練ではないであろう。
そんなことはわかっていたが、神を恨むことでしか、ミラは自分を保つことができなかった。
ミラは、愛するジャックに最後に一つだけお願いをした。
「生まれ変わったらまた、私と恋に落ちてね」
ジャックは泣きそうな瞳でミラを眺め、何度も、何度も頷いた。
「私は君の事をいつまでも想うーー…」
ミラは旅立った。遠い遠い国へ。だが人間とは違い、年のとらないこの姿。愛する人を失ったあと、ゆっくりと流れる月日は、あまりにも地獄のような日々だった。
ミラが旅立った後、ジャックとティアは正式に結婚をした。
そしてまだ名前のなかったこの国は、カルティア王国という名がつけられたーー。
さぁ、ここから本当の物語が始まる。
だがその前に読者のみなさまに聞きたいことがある。
さて、今回のヒロインは誰だったのだろう。
神に見捨てられた天使・ミラ?
それとも王と結婚を許された聖女・ティア?
愛してやまないジャックと結ばれることのなかった天使・ミラは、悲劇のヒロインなのだろうか?
そして急にやってきていとも簡単に、ジャックを奪っていった聖女・ティアは悪役?
いやいや、それとも天使・ミラの話は前置きで、聖女・ティアが本物のヒロインだったのか?
どちらが悪役で、どちらがヒロイン……?
さあ、その結果は、
最後まで物語を読んで確かめていただきたい。
本物のヒロインは誰だったのかをーー……。
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