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（ティアの物語）



ティアの計画は順調だった。
リリアの側からカイトとバロンを離し、カタリナを使ってリリアの悪い噂を流した。
リリアを孤立させる。それがティアの狙いだ。


『カタリナ様……、あの私……』
「どうしたの？言ってごらんなさい」
『はい……。私、リリア様に意地悪をされているのです……』
そう言えば、カタリナは驚いた顔でティアを見つめた。その顔は、まるで可愛い我が子を心配するかのような驚いた表情だ。
「リリア様に？大丈夫？何をされているの？」
『実は……、私の靴を泥水につけたり、この前も私の制服を……このようにビリビリに破いたり……』
そう言いながらカタリナに制服を見せ、泣き出すティア。カタリナは、その衝撃的な言葉に絶句した。

「リリア様……なんて事を！」
『きっと私がバロン様と仲良くさせていただいているからですわ……。だから……私のせいなのです……』
「ティア！そんなことはないわ。例えどんな理由があったとしても、そのような行為をしていいはずがないわよ」
『うう……、そう、ですよね。ありがとうございます。またいつものように自分を卑下してしまうところでした』
「いいのよ。ティア、あなたはとっても心が綺麗で優しいわ。あなたはとても素晴らしい人間よ」
『カタリナ様……！ありがとうございます』
「それにしてもリリア様……、どうにかしなくてはいけないわね」
カタリナはそう呟くと考えごとを始め、すぐに動いてくれた。
（ふふふ、悪いけど私のために動いてもらうわね、カタリナ……）


そしてティアにはもう一つ大きな任務があった。それはいつもリリアにくっついている、バロンを味方につけること。

ティアはテニスのペアを組み、少し仲良くなったタイミングで、お菓子が好きなバロンのためにクッキーを作った。
最初こそ渋ったが、心優しいバロンはティアが悲しそうな素振りを見せれば、すぐにクッキーを食べてくれた。

そしてその姿を見たリリアは、自らバロンと距離をあけるようになり、ティアの計画は全てうまくいっていると思われた……。




ティアがカイトとバロンと一緒に、クラスでクッキーを食べていれば、リリアがリアムを連れやってきた。
「バロン！」
「あ、リリア！どうしたの？」
「授業が終わったら一緒に街に買い物に行かない？」
「それって……王女として言ってる？それとも友達として？」
「どうしてそんなこと聞くの？もちろん友達としてよ」
「そっかぁ〜。じゃあ、ごめん。僕今日、予定があるんだ」
そう言ってバロンはチラッとティアの方を見つめた。
「……そう。わかったわ」
そう言って微笑み立ち去る姿は、とても気高く、美しかった。
（ふふふ。大切なものを奪われる気持ち、これであなたもわかったかしら……）



カイトとバロンが初めてティアのクッキーを食べてから、2週間ほどが経ったころーー……

ティアと2人はだいぶ親しくなっていた。今まではずっとリリアと共に過ごしていたが、今では2人はティアと過ごす時間のほうが多くなった。
それでも最初の頃は、リリアが2人に接近してくることもあったが、最近ではそれもあまり見られない。


「ティアの作るお菓子ってどうしてこんなに美味しいの〜？僕毎日食べても全然飽きないよ！」
そう屈託なく笑うバロン。
「本当だな。俺もそう思うよ」
つられて笑うカイトに、ティアは見惚れていた。
（あー……、早くあなたを私だけのものに……。）

ティアの作るお菓子を与えてから、もう2週間……。

（あと2週間で、カイト様は私のものに……）
ティアは、そうこっそりと微笑んだ。