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(リアムの物語)
リアムは幼い頃、それは可愛らしい子供であった。
今のように性格もひねくれる事もなく、とても素直で優しい心を持っていた。
だが小さな頃から人の心の音が聞こえたリアムは、人の嘘に直接触れていくことになる。
『あの子嘘ついてる』
「僕嘘なんてついてない!」
『だめだよ!嘘をつくと神様が怒るよ?』
「だから嘘なんてついてないって言ってるだろ!」
そうやって素直に話しては、いつも人を怒らせてしまっていた。
そして、ある日……
『僕は、人の心の音が聞こえるんだ』
そう周りの子供たちに言ってしまったのだ。
すると、周りの子供たちは口々に声を揃えて言った。
「そんなの嘘でしょ」
「ありえないよ」
「なんでそんな嘘つくの?」
リアムは信じてもらうために、今まで聴いてきた心の音を他の子供たちに伝えた。
『アクアはこの前、ご飯の時間隣のカミラのデザートのケーキを取ったでしょ。僕は見ていなかったけど、心の音ですぐにわかった』
『他にもキース、君はこの前先生の花瓶を割って、他の人のせいにしたよね』
そうやって人の嘘を見破っていくリアムに、みんなは
「気持ち悪い……」
そう口々に言い放った。それはみんなの本心からの物であった。それを音で感じたリアムの声は次第に弱々しくなっていく。
「こっちに来ないで!」
「勝手に人の心を読むなんて最低」
そう口々に言われては、軽蔑の視線を向けられた。
それからリアムと関わろうとするものはいなくなった。
誰もが人に心の音を聞かれるのを嫌がったのだ。それは、至極当然のことだった。
リアムはその時以来、人の心の音が聞こえることは誰にも言わないと誓った。誰もが気持ち悪い、そう思うはずだ。もし自分が反対の立場であっても、そう思う。
だがそう決意しても嫌と言うほど聞こえてくるのだ。
心の音は、心が綺麗な人ならば、それはまるで心地の良い音楽のように流れ、嘘をついたり汚い心を持った人ならば不協和音のように耳障りな音が鳴り響く。
小さな頃はそれでも綺麗な音の持ち主が多かった。だが歳を重ねる毎に、綺麗な音を聞くことは滅多になくなっていった。それは嘘だけでなく、私利私欲の強いものからも不協和音が奏でられるからだ。
リアムの兄は審判の家系を継ぐものとして、人の心の全てを読むことができた。今誰が何を考えているのか、全てを知っていた。
小さな頃はそんな兄の能力を羨ましいとすら思っていた。だが現実はそんな甘くはなく、リアムの兄は人の心が全て読めることで、だんだんと自分の心が崩壊していってしまったのだ。
そんな兄の姿を見ていたリアムは、ある時からこの審判の家系を受け継いでいくのは辞めようと決意をした。
もし自分に愛する人が出来、子供を授かった場合、子供は必然的にこの能力を受け継ぐことになる。そうなった場合、その子供は幸せに暮らす事ができるだろうか?
そう考えれば考えるほど、恋をするのが怖くなってしまったのだ。
リアムは小さな時こそ笑う事も多い子供だったが、成長するにつれて自分の心を閉ざし、笑うことすら忘れてしまった。いつしか、リアムは氷の王子と呼ばれる存在へとなってしまったのだ。
そしてリアムは心を閉ざしたまま〇〇学園に入学した。
誰とも仲良くするつもりはなかったリアムだったが、この国の王子と王女が同じ学年にいる事を知り、少し興味を持った。この国の将来を覗いてやろう、そんなただ少しの好奇心。
(どうせ、王子と言っても心は汚れているだろう)
そう思っていた。だが実際にカイトに会ったとき、その予想は見事に覆された。
「やぁ。ごきげんよう。君の名前は?」
『僕はリアム。よろしく、王子様』
そう、少し嫌味たらしく言ったはずなのに、カイトの反応は思っていたものとは違った。
「王子様だなんて。君のほうがよっぽど王子っぽいだろ?」
嘘偽りなく、純粋にでてきた言葉。そんなカイトに、リアムは少し呆気にとられてしまった。
そして、それからと言うものなんとなく一緒に行動するようになった2人。
カイトにからはいつも優しい音が聞こえた。何かを守るような優しいハーモニーを奏でるカイトは、一緒にいてすごく心地が良かった。
カイトには仲の良い妹と友人がいた。そう、リリアとバロンだ。次にリアムが会ったのはバロンだった。
「ねえねえ!君が白雪の王子でしょ?」
そうニコニコと話しかけてくるバロンは、屈託のない無邪気な笑みをしていた。陽気な音を奏でるバロンの心。
リアムも心なしか楽しい気持ちになれる気がした。
『リアムだよ。君の名前はなんて言うの?』
「僕はバロン!バロン・」
『もしかして、国の1番騎士の……?』
「そうそう!それ僕のお父さん。僕も将来はこの国の王子と王女様を守るんだ」
そう無邪気に笑うバロンからは、優しさと、強さに満ちた美しいハーモニーが鳴り響く。
『へぇ』
「ほら、あそこにいるのが僕のお姫様」
そう言って嬉しそうに指をさすバロンの視線を追って見れば、そこには息をのむほどに美しい少女が立っていた。彼女の周りだけ、何故か後光が差しているように見える。
『綺麗な人……』
思わず口から出てしまった言葉。それを聞いたバロンは
「あー!だめだめ!僕のお姫様なんだから」
と頰を膨らませる。そんな様子を見て、そしてバロンの心の音を聴いて、リアムはそっと微笑んだ。リリアを見つめるバロンの心の音が、あまりにも美しい音を奏でるから。
その少女はバロンの方を向いて、こちらに歩いてきた。
「こんにちは。バロンのお友達?」
そう優しく話しかけてくる少女に、リアムの心は高鳴った。初めて聞くような、まるで何かを暖かく包み込むような優しい音を奏でる少女。リアムはこの音をずっと聴いていたいと思った。
「リアムだよ!ほら、さっき噂されてた白雪の王子」
「へぇ〜。確かに王子様みたい」
そうニコッと笑う姿が可愛らしくて、その濁りのない賞賛が気恥ずかしくて、リアムは少し冷たく言い放つ。
『君はあまり王女ぽくないね』
ツンとした態度でそう告げれば、リリアは少しムッとした表情で
「失礼ね。さすが氷の王子ね」
そう言い返してきた。だけどリリアの心の音は濁らない。
(なんで怒ってるのに音は濁らないんだろう……。普通怒れば、音が濁るはずなのに)
それからと言うもの、その単純な疑問を確かめるべく、リリアに失礼なことをたくさん言い放つリアム。
だがリリアはまるで怒ったように言い返してくるものの、いつも心の音は綺麗なままだった。
(居心地がいいーー……)
そう思っているのはきっと自分だけ。リアムは、リリアがバロンに向ける音を知っていた。儚く美しい旋律を奏でるその音たちは、まるでハープの音色のように美しく、優しいものであった。
リアムはその音に恋をしたのだ。自分に向けられるものではない、その音。だが、恋愛に恐怖心を抱くリアムにとっては、それがちょうど良かった。ただリリアとバロンがこのまま幸せに結ばれればいい。そう願っていたのだ。
カイトとリリア、バロンの音は、3人揃えばまるで陽気な音楽でも聴いているようで、リアムは初めて心の底から楽しいと感じていた。リアムにとってこれが初めての自分の居場所であった。
だがそれは聖女・ティアによって徐々に崩れていったのだ。
聖女・ティアからはギシギシと言うような、それともミシミシと言うような……とてもこの世のものとは思えない耳障りな音が聞こえていた。
だがそんなティアも、唯一カイトと話をしている時だけは、哀しくも美しい音を奏でていた。
聖女・ティアはリリアに向かって、とても強い憎しみのような音をぶつけていた。
(耳障りだ……)
最初はただそう思っていただけ。だが次第に状況は悪化していった。
ある日、バロンの音に濁りを感じたのだ。
(え……、昨日まではこんなに濁っていなかったはず……。なにかあったのかな?)
そう思っていた。だがしばらくして濁りはどんどん強くなりいつの日からか、まるでティアから聞こえるものと同じような不協和音が鳴り響くようになっていた。それはバロンだけではなく、カイトも同じであった。あんなに優しい音を奏でていたカイトからも、その音は消え、反対に濁った耳障りな音が流れている。
それだけではなく、それに影響されたリリアからも、時折暗く悲しい音が鳴り響いた。
それはリアムにとってあまりにも辛い出来事であった。
各々の不協和音が混じり合えば、居ても立っても居られないほどの苦痛を感じるのだ。
そしてそんなある日、テオドールとの話し合いが行われた。悩んでいるリリアを眺めてきたリアムは、観念したように告げた。
『僕は人の声が聞こえるんです』
信じてもらえないかと思ったが、意外にも簡単に信じてもらえた。
だがリリアの言った言葉に、リアムは昔の辛かった記憶を思い出してしまった。
「リアムは私たちの心の音も全部聞こえてるってこと?」
『うん。さっきからそう言ってるでしょ』
「そうだけど……。なんか……それ……」
そう言うリリアを少し悲しい気持ちで眺めた。
(やっぱり気持ち悪い、よね。当たり前だけど……)
言ったことを後悔した。そんな時、
「……恥ずかしいんだけど」
その予想外の一言にリアムは驚いた。
(軽蔑されるかと思ったのに……)
『……リリアの音はいつもすごく綺麗だよ。』
これは本心だった。
「え……?もしかして……からかってるの?」
だがリリアには伝わらなかったらしい。でもリアムにはしっかりと伝わる。リリアの美しい心の音が。
(あぁ、簡単なことのはずなのに難しいな……。今まであまりにもからかいすぎて……)
リアムはリリアを喜ばせてあげたいと思った。だが、今まで散々リリアのことをからかってきたリアムにとって、それは少し難しいことだった。
(こんな状況になっても強く美しい音を奏でるリリアに、僕がしてあげられることってなんだろう……)
リアムはリリアを見つめた。少し照れているリリアが可愛らしくて。
「まずい、もうそろそろ鍵が締まる時間だ」
テオドールの声でハッと我に帰る。もう日の暮れた空を見つめ、何故かすごく嫌な予感がした。
『リリア、送るよ』
リアムからの珍しい言葉に、リリアは少し驚いたが
「ありがとう」
すぐに、そう微笑んだ。
テオドールと別れ、リリアの住む城まで2人ゆっくりと歩く。
『リリアはさ、僕のこと気持ち悪いと思わないの?』
「え?なんで?」
『だって心の音が聞かれてるのって嫌でしょ?』
「あぁ〜。なんでもバレちゃうのかって思うと恥ずかしいけど、別に嫌じゃないよ。私あんまり隠し事とかしないし、思ったこと言っちゃうタイプだし」
『ふ、ははは……!』
突然大声で笑うリアムに、リリアは少しご立腹だ。
「何よ」
『だって、初めてそんなこと言われたから。でも確かにリリアって裏表がないよね』
笑いながら答えるリアムに、つられてリリアも笑う。
「お父様にね、誰にも恥じないように生きなさいって言われたの。だから思ったことは、思った時に本人に伝えるようにしてるわ。陰で言うと陰口だけど、本人に言えばアドバイスでしょ?」
『あっ、ははは……!何それ!それ一歩間違えば暴君だね』
「え?なんでよ?陰で言われるより直接言われたほうがいいでしょ?」
『そこに言わないって言う選択肢はないわけ?』
「……ないわね。溜め込むといつか爆発しちゃうでしょ?」
『まあね?』
「だからさ、リアムも溜め込む前に吐き出していいんだよ?しょうがないから友達のよしみで聞いてあげる」
そう言って少しツンとした表情で言うリリアの音は、とても優しい音をしていた。
(……本当、敵わないな。リリアには)
リアムはそっぽを向き、少し赤くなった顔をそっと隠した。
(リアムの物語)
リアムは幼い頃、それは可愛らしい子供であった。
今のように性格もひねくれる事もなく、とても素直で優しい心を持っていた。
だが小さな頃から人の心の音が聞こえたリアムは、人の嘘に直接触れていくことになる。
『あの子嘘ついてる』
「僕嘘なんてついてない!」
『だめだよ!嘘をつくと神様が怒るよ?』
「だから嘘なんてついてないって言ってるだろ!」
そうやって素直に話しては、いつも人を怒らせてしまっていた。
そして、ある日……
『僕は、人の心の音が聞こえるんだ』
そう周りの子供たちに言ってしまったのだ。
すると、周りの子供たちは口々に声を揃えて言った。
「そんなの嘘でしょ」
「ありえないよ」
「なんでそんな嘘つくの?」
リアムは信じてもらうために、今まで聴いてきた心の音を他の子供たちに伝えた。
『アクアはこの前、ご飯の時間隣のカミラのデザートのケーキを取ったでしょ。僕は見ていなかったけど、心の音ですぐにわかった』
『他にもキース、君はこの前先生の花瓶を割って、他の人のせいにしたよね』
そうやって人の嘘を見破っていくリアムに、みんなは
「気持ち悪い……」
そう口々に言い放った。それはみんなの本心からの物であった。それを音で感じたリアムの声は次第に弱々しくなっていく。
「こっちに来ないで!」
「勝手に人の心を読むなんて最低」
そう口々に言われては、軽蔑の視線を向けられた。
それからリアムと関わろうとするものはいなくなった。
誰もが人に心の音を聞かれるのを嫌がったのだ。それは、至極当然のことだった。
リアムはその時以来、人の心の音が聞こえることは誰にも言わないと誓った。誰もが気持ち悪い、そう思うはずだ。もし自分が反対の立場であっても、そう思う。
だがそう決意しても嫌と言うほど聞こえてくるのだ。
心の音は、心が綺麗な人ならば、それはまるで心地の良い音楽のように流れ、嘘をついたり汚い心を持った人ならば不協和音のように耳障りな音が鳴り響く。
小さな頃はそれでも綺麗な音の持ち主が多かった。だが歳を重ねる毎に、綺麗な音を聞くことは滅多になくなっていった。それは嘘だけでなく、私利私欲の強いものからも不協和音が奏でられるからだ。
リアムの兄は審判の家系を継ぐものとして、人の心の全てを読むことができた。今誰が何を考えているのか、全てを知っていた。
小さな頃はそんな兄の能力を羨ましいとすら思っていた。だが現実はそんな甘くはなく、リアムの兄は人の心が全て読めることで、だんだんと自分の心が崩壊していってしまったのだ。
そんな兄の姿を見ていたリアムは、ある時からこの審判の家系を受け継いでいくのは辞めようと決意をした。
もし自分に愛する人が出来、子供を授かった場合、子供は必然的にこの能力を受け継ぐことになる。そうなった場合、その子供は幸せに暮らす事ができるだろうか?
そう考えれば考えるほど、恋をするのが怖くなってしまったのだ。
リアムは小さな時こそ笑う事も多い子供だったが、成長するにつれて自分の心を閉ざし、笑うことすら忘れてしまった。いつしか、リアムは氷の王子と呼ばれる存在へとなってしまったのだ。
そしてリアムは心を閉ざしたまま〇〇学園に入学した。
誰とも仲良くするつもりはなかったリアムだったが、この国の王子と王女が同じ学年にいる事を知り、少し興味を持った。この国の将来を覗いてやろう、そんなただ少しの好奇心。
(どうせ、王子と言っても心は汚れているだろう)
そう思っていた。だが実際にカイトに会ったとき、その予想は見事に覆された。
「やぁ。ごきげんよう。君の名前は?」
『僕はリアム。よろしく、王子様』
そう、少し嫌味たらしく言ったはずなのに、カイトの反応は思っていたものとは違った。
「王子様だなんて。君のほうがよっぽど王子っぽいだろ?」
嘘偽りなく、純粋にでてきた言葉。そんなカイトに、リアムは少し呆気にとられてしまった。
そして、それからと言うものなんとなく一緒に行動するようになった2人。
カイトにからはいつも優しい音が聞こえた。何かを守るような優しいハーモニーを奏でるカイトは、一緒にいてすごく心地が良かった。
カイトには仲の良い妹と友人がいた。そう、リリアとバロンだ。次にリアムが会ったのはバロンだった。
「ねえねえ!君が白雪の王子でしょ?」
そうニコニコと話しかけてくるバロンは、屈託のない無邪気な笑みをしていた。陽気な音を奏でるバロンの心。
リアムも心なしか楽しい気持ちになれる気がした。
『リアムだよ。君の名前はなんて言うの?』
「僕はバロン!バロン・」
『もしかして、国の1番騎士の……?』
「そうそう!それ僕のお父さん。僕も将来はこの国の王子と王女様を守るんだ」
そう無邪気に笑うバロンからは、優しさと、強さに満ちた美しいハーモニーが鳴り響く。
『へぇ』
「ほら、あそこにいるのが僕のお姫様」
そう言って嬉しそうに指をさすバロンの視線を追って見れば、そこには息をのむほどに美しい少女が立っていた。彼女の周りだけ、何故か後光が差しているように見える。
『綺麗な人……』
思わず口から出てしまった言葉。それを聞いたバロンは
「あー!だめだめ!僕のお姫様なんだから」
と頰を膨らませる。そんな様子を見て、そしてバロンの心の音を聴いて、リアムはそっと微笑んだ。リリアを見つめるバロンの心の音が、あまりにも美しい音を奏でるから。
その少女はバロンの方を向いて、こちらに歩いてきた。
「こんにちは。バロンのお友達?」
そう優しく話しかけてくる少女に、リアムの心は高鳴った。初めて聞くような、まるで何かを暖かく包み込むような優しい音を奏でる少女。リアムはこの音をずっと聴いていたいと思った。
「リアムだよ!ほら、さっき噂されてた白雪の王子」
「へぇ〜。確かに王子様みたい」
そうニコッと笑う姿が可愛らしくて、その濁りのない賞賛が気恥ずかしくて、リアムは少し冷たく言い放つ。
『君はあまり王女ぽくないね』
ツンとした態度でそう告げれば、リリアは少しムッとした表情で
「失礼ね。さすが氷の王子ね」
そう言い返してきた。だけどリリアの心の音は濁らない。
(なんで怒ってるのに音は濁らないんだろう……。普通怒れば、音が濁るはずなのに)
それからと言うもの、その単純な疑問を確かめるべく、リリアに失礼なことをたくさん言い放つリアム。
だがリリアはまるで怒ったように言い返してくるものの、いつも心の音は綺麗なままだった。
(居心地がいいーー……)
そう思っているのはきっと自分だけ。リアムは、リリアがバロンに向ける音を知っていた。儚く美しい旋律を奏でるその音たちは、まるでハープの音色のように美しく、優しいものであった。
リアムはその音に恋をしたのだ。自分に向けられるものではない、その音。だが、恋愛に恐怖心を抱くリアムにとっては、それがちょうど良かった。ただリリアとバロンがこのまま幸せに結ばれればいい。そう願っていたのだ。
カイトとリリア、バロンの音は、3人揃えばまるで陽気な音楽でも聴いているようで、リアムは初めて心の底から楽しいと感じていた。リアムにとってこれが初めての自分の居場所であった。
だがそれは聖女・ティアによって徐々に崩れていったのだ。
聖女・ティアからはギシギシと言うような、それともミシミシと言うような……とてもこの世のものとは思えない耳障りな音が聞こえていた。
だがそんなティアも、唯一カイトと話をしている時だけは、哀しくも美しい音を奏でていた。
聖女・ティアはリリアに向かって、とても強い憎しみのような音をぶつけていた。
(耳障りだ……)
最初はただそう思っていただけ。だが次第に状況は悪化していった。
ある日、バロンの音に濁りを感じたのだ。
(え……、昨日まではこんなに濁っていなかったはず……。なにかあったのかな?)
そう思っていた。だがしばらくして濁りはどんどん強くなりいつの日からか、まるでティアから聞こえるものと同じような不協和音が鳴り響くようになっていた。それはバロンだけではなく、カイトも同じであった。あんなに優しい音を奏でていたカイトからも、その音は消え、反対に濁った耳障りな音が流れている。
それだけではなく、それに影響されたリリアからも、時折暗く悲しい音が鳴り響いた。
それはリアムにとってあまりにも辛い出来事であった。
各々の不協和音が混じり合えば、居ても立っても居られないほどの苦痛を感じるのだ。
そしてそんなある日、テオドールとの話し合いが行われた。悩んでいるリリアを眺めてきたリアムは、観念したように告げた。
『僕は人の声が聞こえるんです』
信じてもらえないかと思ったが、意外にも簡単に信じてもらえた。
だがリリアの言った言葉に、リアムは昔の辛かった記憶を思い出してしまった。
「リアムは私たちの心の音も全部聞こえてるってこと?」
『うん。さっきからそう言ってるでしょ』
「そうだけど……。なんか……それ……」
そう言うリリアを少し悲しい気持ちで眺めた。
(やっぱり気持ち悪い、よね。当たり前だけど……)
言ったことを後悔した。そんな時、
「……恥ずかしいんだけど」
その予想外の一言にリアムは驚いた。
(軽蔑されるかと思ったのに……)
『……リリアの音はいつもすごく綺麗だよ。』
これは本心だった。
「え……?もしかして……からかってるの?」
だがリリアには伝わらなかったらしい。でもリアムにはしっかりと伝わる。リリアの美しい心の音が。
(あぁ、簡単なことのはずなのに難しいな……。今まであまりにもからかいすぎて……)
リアムはリリアを喜ばせてあげたいと思った。だが、今まで散々リリアのことをからかってきたリアムにとって、それは少し難しいことだった。
(こんな状況になっても強く美しい音を奏でるリリアに、僕がしてあげられることってなんだろう……)
リアムはリリアを見つめた。少し照れているリリアが可愛らしくて。
「まずい、もうそろそろ鍵が締まる時間だ」
テオドールの声でハッと我に帰る。もう日の暮れた空を見つめ、何故かすごく嫌な予感がした。
『リリア、送るよ』
リアムからの珍しい言葉に、リリアは少し驚いたが
「ありがとう」
すぐに、そう微笑んだ。
テオドールと別れ、リリアの住む城まで2人ゆっくりと歩く。
『リリアはさ、僕のこと気持ち悪いと思わないの?』
「え?なんで?」
『だって心の音が聞かれてるのって嫌でしょ?』
「あぁ〜。なんでもバレちゃうのかって思うと恥ずかしいけど、別に嫌じゃないよ。私あんまり隠し事とかしないし、思ったこと言っちゃうタイプだし」
『ふ、ははは……!』
突然大声で笑うリアムに、リリアは少しご立腹だ。
「何よ」
『だって、初めてそんなこと言われたから。でも確かにリリアって裏表がないよね』
笑いながら答えるリアムに、つられてリリアも笑う。
「お父様にね、誰にも恥じないように生きなさいって言われたの。だから思ったことは、思った時に本人に伝えるようにしてるわ。陰で言うと陰口だけど、本人に言えばアドバイスでしょ?」
『あっ、ははは……!何それ!それ一歩間違えば暴君だね』
「え?なんでよ?陰で言われるより直接言われたほうがいいでしょ?」
『そこに言わないって言う選択肢はないわけ?』
「……ないわね。溜め込むといつか爆発しちゃうでしょ?」
『まあね?』
「だからさ、リアムも溜め込む前に吐き出していいんだよ?しょうがないから友達のよしみで聞いてあげる」
そう言って少しツンとした表情で言うリリアの音は、とても優しい音をしていた。
(……本当、敵わないな。リリアには)
リアムはそっぽを向き、少し赤くなった顔をそっと隠した。