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(リリアの物語)
リリアがカタリナに咎められたあの日以来、カタリナは無理に干渉はせず、ただリリアの出方を伺っている。
そしてバロンとはあの日以来、お互いに想い人として更に親密な関係になっていた。
だが恋心とは思うように上手くいかないもので、リリアはもどかしい気持ちを感じていた。
そんなある日、授業の一環として男女でペアを組みテニスを行うことになった。
リリアが真っ先に思った相手はもちろんバロンだ。
だが、バロンと一緒にいるとドキドキと胸が苦しく、緊張をしてしまうため、リリアは照れ隠しにカイトとペアを組むことに決めた。
「リリア!一緒にペア組もう」
そう屈託ない笑顔で言うバロンに
『ごめん、もうカイトに頼んじゃった』
と言うのは少し心苦しかったが、リリアはこれで緊張から解放される、と少し安堵した。
「ねえ、本当にカイトでいいの?」
「それってどうゆう意味だ?」
不満げに聞くリアムに、カイトが尋ねる。
「そこは普通バロンじゃないの?だって君たち両思いなんでしょ?」
リアムがそう言えば、顔を真っ赤にするリリアと、その言葉に驚くカイト。
「え?両思いってどう言うことだ?」
『い、いいでしょ!もう!』
リリアはそう言うと、2人を残しスタスタとどこかへ行ってしまった。
しばらくしてバロンのペアが、ティアになった事を知ったリリア。
リリアは少し不安げな顔をし、バロンを見つめた。
(私がカイトとペアを組んだから……)
だが今更後悔しても遅い。回ってしまった歯車は、大きくなって、もう止まることはないのだ。
テニスの授業はしばらく続き、常に男女ペアで行動するため、どうしてもバロンとティアが仲良くしているの見てしまう。リリアはその度、心をグサグサと刃物で切り刻まれたような感覚に陥った。
(バロン楽しそうだな……)
そう思いながらぼーっとバロン達を眺めていれば、それに気づいたカイトが不思議そうな顔でこちらを眺めていた。
「リリア?どうしたんだ?」
『え? なんでもないよ!』
カイトにそういっても、つい目で追ってしまうリリアに向かい
「あーあ。だから言ったじゃん。バロンと組まなくていいのって」
リアムが自分のペアの子の元から離れ、リリアに小言をぶつける。
『だって……』
リアムはそんなリリアを呆れたような表情で見つめた。
カイトはリアムの一言で泣き出しそうなリリアを眺め、
「そんなことより、リアムはパートナーのとこ行ってあげなよ」
そう声を掛けた。
「はいはい〜」
リアムが行ってしまった後も、ただひたすらぼーっとバロンとティアを見つめるリリア。
「リリア、大丈夫だよ。バロンはリリアのこと大好きだろ?」
『……うん。ありがとう』
そしてバロンは、テニスの授業が終わればすぐにリリアの元へとやってきた。
「リリア〜! ねえねえ、今日お昼ご飯何食べる〜?」
いつも通り嬉しそうに話すバロンに、リリアも少し安堵の表情を浮かべる。
3度目のテニスの授業の日、授業が終わりバロンの元に向かえば、バロンとティアは仲良さげに話をしていた。
『バロン! 帰ろ?』
そう言えば、
「ごめん。今日はティアと一緒に帰る約束しちゃったんだ」
そう、リリアは初めてバロンに断られたのだ。
『え……』
「すみません、リリア様」
『いえ、大丈夫よ。じゃあ、失礼するわね』
そう自分を取り繕うのに精一杯だった。
次の日クラスに着くと、バロンはもう到着してティアの横で仲良くクッキーを食べていた。
心に鈍い音が響く。そんな2人を見るのが苦しかった。
(バロンは、ティアが好きになってしまったのかな……)
そう思って、バロンに声を掛けられずにいれば、リリアに気づいたバロンのほうから声を掛けてきた。
「リリア! おはよ、こっちおいで〜!」
大きく手を振りながらいつもの笑顔を向けるバロンに、すこしだけ安心したリリアは、バロンとティアの元に向かった。
『おはよう。バロン、ティア。』
「おはよ〜」
「リリア様、おはようございます」
「今、ティアの手作りのクッキーを食べてたんだ!すっごく美味しいんだよ」
そんな嬉しそうな顔を見て、またリリアの心がざわめき始める。
『そうなのね』
「はい。もし、よろしければリリア様もいかがですか?」
「うんうん! リリアもきっと気にいると思うよ」
『ありがとう。でも私、今お腹が空いてないから遠慮しておくわ』
それは嘘でもあり、本当でもあった。
(今はとてもクッキーを頂く気持ちになれないわ……)
「え!すごい美味しいのにもったいないよ〜」
「私も、ぜひリリア様に食べていただきたいですわ」
2人ともキラキラとした瞳でリリアを見つめた。
『え……、いや、でも、今はごめんなさい』
そう断れば、ティアは悲しそうな顔をして言った。
「そう、ですよね。私などの貧しい下級貴族の作ったものをリリア様に食べていただこうだなんて……、とても失礼でしたよね。申し訳ございません」
そう悲しそうに言われてしまえば、いつのまにか周りにいたクラスの者達も、リリアを冷たい瞳で見つめる。
「食べてあげればいいのに」
「クッキー1枚くらいお腹が空いていなくたって食べれるわよね」
辺りからはコソコソとティアを擁護する声が聞こえた。
(え……、そんな意味で言ったわけじゃないのに)
こうなってしまえば、もう食べるほか選択肢は見当たらない。
リリアは気の乗らないままだが、ティアのクッキーをいただくことに決めた。
『そう言う意味ではないのよ。ただ、本当にお腹がいっぱいだったの。でも、せっかくだからやっぱり頂くわ』
ティアからクッキーを貰おうと手を伸ばした。
「待って!」
だがそんなリリアを呼び止めたリアム。
『え?』
「美味しそうなクッキーだな。リリアの代わりに俺が貰ってもいいか?」
そして、リアムと一緒にやってきたカイトは、クッキーを眺め、ティアに聞いた。
「ええ、もちろんです。どうぞお召し上がりください」
そうカイトに向かってクッキーを差し出したティアは、誰が見てもとても嬉しそうな顔をしていた。
カイトがティアのクッキーを食べる中、
「リリア、ちょっと話したいことがあるからいい?」
リアムはリリアを呼び出した。
『え?いいけど……』
リアムに手を引かれ、リリアはそのまま人気のない教室まで連れていかれた。
「……大丈夫?」
『え?』
(大丈夫……?)
言葉の意図がわからずにきょとんとしていれば、リアムは真剣な瞳でリリアを見つめた。
「……クッキー食べた?」
『食べてないよ。どうして?』
「いや、べつに。それよりなんであんなにクッキー食べるの拒んでたの?」
『え?そんなに拒んでたわけじゃないよ?ただ、なんだか食べる気になれなかっただけ』
「そっか」
そう言うとリアムはリリアを残し、スタスタと歩いて行ってしまった。
『……え?なんだったわけ?』
それから数日が経ち、リリアはテオドールに呼び出された。
学園内に用意されたテオドールの自室。人嫌いのテオドールが自室にだれかを呼ぶのはごく稀なこと。それを知っているリリアは、扉の前でため息をつく。
(テオドールが私に何の話があるのよ)
コンコンーー
広い廊下に、ドアを叩く音が鳴り響いた。
『私よ。リリア・カルロイ。』
「入ってくれ。」
ドアを開け中に入れば、テオドールはテーブルに肘をつき書類に目を通していた。
「急に呼び出してしまってすまないな。」
テオドールが相手を気にかけるなど、王族であるリリアやカイトくらいだろう。
『いいわ。早速要件を聞いてもいいかしら』
「あぁ。最近うわさが悪いようだな。」
『……何のこと?』
「王女が聖女ティアを虐めていると、生徒の中でだいぶ噂が広まっている。」
『え?そうなの?』
「知らなかったのか……?」
テオドールは呆れたようにため息をついた。
『そんなの知らないわよ。そもそも最近関わってもないのに』
「今や生徒たち以外にも、貴族界隈でも有名な話らしいがな。」
『何よ、それ。私何もしてないわよ』
「そうだろうな。だが、世間はティアに味方をしているらしい」
『……』
正直、そんな気はしていた。カイトもバロンも、最近ではティアと随分仲が良さそうだし、クラスのほとんどがティアに対していい印象を持っているだろう。
(これじゃあ、まるで私が悪役令嬢みたいじゃない……)
少し気が滅入ったリリアに、テオドールは質問を投げかける。
「王女よ。お前は聖女ティアは本当に聖女だと思うか?」
『……どう言う意味?そもそもテオドールが聖女と言っていたんじゃないの?』
「まぁ、そうだが。俺は最近疑っているんだ。」
『疑ってるって何を?』
「俺にはアイツが聖女だと思えない」
『ふ、ははは……。何よそれ。』
神妙な顔でそう言うテオドールについ、笑いが溢れた。
「ふん。お前なら何か感じとっていると思ったのだが、とんだ勘違いだったようだ」
『何かって言われてもね……』
「おかしいと思わないのか?カイトもバロンも、あんなにお前にべったりくっついていたのに、最近では聖女ばかりだろう?」
『それは……、ただティアのことが気に入っただけじゃない?』
認めたくない言葉……、リリアはできるだけ心を無にして呟いた。
「そうか……。まぁ、また何か気付いた事があれば教えてくれ。」
『私に教えられることなんて、何もないわ』
珍しく弱気なリリアにテオドールは顔を歪める。
「珍しく弱気になっているのだな。らしくもない。どんな時でも気高く生きろ。それが唯一のお前の魅力だ」
『テオドール……。それ、褒めていないわよ』
だが不思議と、苦しかったはずの心が少しだけ軽くなった気がした。
そのままテオドールの自室を出てクラスに向かった。リリアがクラスの前に着くと、ちょうどクラスの中からリアムが出てくるところだった。
リアムはリリアの顔を見ると、クラスの方に冷たい視線を向け、そのままリリアの方に歩き出した。
(何かしら……)
そう思っていれば、リリアの近くまできたリアムは、リリアの腕を引っ張り、クラスとは反対側に向かった。
『え!何?』
「行くよ」
『私、クラスに行くんだけど』
「……だめ。一緒に来て」
普段と違うリアムに違和感を感じるものの、クラスに入らなければ次の授業の準備もできない。
それになんだか嫌な予感がした。この胸騒ぎを確認しなければいけない。そう思い、リリアはリアムの制止を振り切り、クラスに入った。
クラスでは、カイトとバロンがティアの横に座り、3人仲良くクッキーを食べていた。ティアはバロンの口に、クッキーを運ぶ。バロンは嬉しそうにそのままクッキーを頬張った。
(あ……。そうゆうこと、か……。)
リアムがクラスから遠ざけようとした理由がわかった。
(もう、バロンは……、私のことなんて好きじゃないのか……。ティアのことが……、好き、なんだ)
今にでも泣き出してしまいそうだった。
でも、先程のテオドールの言葉が頭に浮かんだ。
(どんな時でも気高く生きろ、か……。)
リリアは初めてテオドールに感謝をした。
もしこの言葉がなければ、泣いてしまっていただろうから……。
「リリア……?大丈夫?」
リアムは心配そうな顔でリリアの顔を覗いた。
『大丈夫よ。これくらい。』
リリアはまるで自分に言い聞かせるようにそう宣言した。
「そっか。じゃあ、行こう。王女様?」
リアムはリリアに手を差し伸べ、どこか挑発的な瞳で微笑んだ。
『そうね。行くわよ』
リリアはリアムの手を取り、そのままクラスに向かったーー
(リリアの物語)
リリアがカタリナに咎められたあの日以来、カタリナは無理に干渉はせず、ただリリアの出方を伺っている。
そしてバロンとはあの日以来、お互いに想い人として更に親密な関係になっていた。
だが恋心とは思うように上手くいかないもので、リリアはもどかしい気持ちを感じていた。
そんなある日、授業の一環として男女でペアを組みテニスを行うことになった。
リリアが真っ先に思った相手はもちろんバロンだ。
だが、バロンと一緒にいるとドキドキと胸が苦しく、緊張をしてしまうため、リリアは照れ隠しにカイトとペアを組むことに決めた。
「リリア!一緒にペア組もう」
そう屈託ない笑顔で言うバロンに
『ごめん、もうカイトに頼んじゃった』
と言うのは少し心苦しかったが、リリアはこれで緊張から解放される、と少し安堵した。
「ねえ、本当にカイトでいいの?」
「それってどうゆう意味だ?」
不満げに聞くリアムに、カイトが尋ねる。
「そこは普通バロンじゃないの?だって君たち両思いなんでしょ?」
リアムがそう言えば、顔を真っ赤にするリリアと、その言葉に驚くカイト。
「え?両思いってどう言うことだ?」
『い、いいでしょ!もう!』
リリアはそう言うと、2人を残しスタスタとどこかへ行ってしまった。
しばらくしてバロンのペアが、ティアになった事を知ったリリア。
リリアは少し不安げな顔をし、バロンを見つめた。
(私がカイトとペアを組んだから……)
だが今更後悔しても遅い。回ってしまった歯車は、大きくなって、もう止まることはないのだ。
テニスの授業はしばらく続き、常に男女ペアで行動するため、どうしてもバロンとティアが仲良くしているの見てしまう。リリアはその度、心をグサグサと刃物で切り刻まれたような感覚に陥った。
(バロン楽しそうだな……)
そう思いながらぼーっとバロン達を眺めていれば、それに気づいたカイトが不思議そうな顔でこちらを眺めていた。
「リリア?どうしたんだ?」
『え? なんでもないよ!』
カイトにそういっても、つい目で追ってしまうリリアに向かい
「あーあ。だから言ったじゃん。バロンと組まなくていいのって」
リアムが自分のペアの子の元から離れ、リリアに小言をぶつける。
『だって……』
リアムはそんなリリアを呆れたような表情で見つめた。
カイトはリアムの一言で泣き出しそうなリリアを眺め、
「そんなことより、リアムはパートナーのとこ行ってあげなよ」
そう声を掛けた。
「はいはい〜」
リアムが行ってしまった後も、ただひたすらぼーっとバロンとティアを見つめるリリア。
「リリア、大丈夫だよ。バロンはリリアのこと大好きだろ?」
『……うん。ありがとう』
そしてバロンは、テニスの授業が終わればすぐにリリアの元へとやってきた。
「リリア〜! ねえねえ、今日お昼ご飯何食べる〜?」
いつも通り嬉しそうに話すバロンに、リリアも少し安堵の表情を浮かべる。
3度目のテニスの授業の日、授業が終わりバロンの元に向かえば、バロンとティアは仲良さげに話をしていた。
『バロン! 帰ろ?』
そう言えば、
「ごめん。今日はティアと一緒に帰る約束しちゃったんだ」
そう、リリアは初めてバロンに断られたのだ。
『え……』
「すみません、リリア様」
『いえ、大丈夫よ。じゃあ、失礼するわね』
そう自分を取り繕うのに精一杯だった。
次の日クラスに着くと、バロンはもう到着してティアの横で仲良くクッキーを食べていた。
心に鈍い音が響く。そんな2人を見るのが苦しかった。
(バロンは、ティアが好きになってしまったのかな……)
そう思って、バロンに声を掛けられずにいれば、リリアに気づいたバロンのほうから声を掛けてきた。
「リリア! おはよ、こっちおいで〜!」
大きく手を振りながらいつもの笑顔を向けるバロンに、すこしだけ安心したリリアは、バロンとティアの元に向かった。
『おはよう。バロン、ティア。』
「おはよ〜」
「リリア様、おはようございます」
「今、ティアの手作りのクッキーを食べてたんだ!すっごく美味しいんだよ」
そんな嬉しそうな顔を見て、またリリアの心がざわめき始める。
『そうなのね』
「はい。もし、よろしければリリア様もいかがですか?」
「うんうん! リリアもきっと気にいると思うよ」
『ありがとう。でも私、今お腹が空いてないから遠慮しておくわ』
それは嘘でもあり、本当でもあった。
(今はとてもクッキーを頂く気持ちになれないわ……)
「え!すごい美味しいのにもったいないよ〜」
「私も、ぜひリリア様に食べていただきたいですわ」
2人ともキラキラとした瞳でリリアを見つめた。
『え……、いや、でも、今はごめんなさい』
そう断れば、ティアは悲しそうな顔をして言った。
「そう、ですよね。私などの貧しい下級貴族の作ったものをリリア様に食べていただこうだなんて……、とても失礼でしたよね。申し訳ございません」
そう悲しそうに言われてしまえば、いつのまにか周りにいたクラスの者達も、リリアを冷たい瞳で見つめる。
「食べてあげればいいのに」
「クッキー1枚くらいお腹が空いていなくたって食べれるわよね」
辺りからはコソコソとティアを擁護する声が聞こえた。
(え……、そんな意味で言ったわけじゃないのに)
こうなってしまえば、もう食べるほか選択肢は見当たらない。
リリアは気の乗らないままだが、ティアのクッキーをいただくことに決めた。
『そう言う意味ではないのよ。ただ、本当にお腹がいっぱいだったの。でも、せっかくだからやっぱり頂くわ』
ティアからクッキーを貰おうと手を伸ばした。
「待って!」
だがそんなリリアを呼び止めたリアム。
『え?』
「美味しそうなクッキーだな。リリアの代わりに俺が貰ってもいいか?」
そして、リアムと一緒にやってきたカイトは、クッキーを眺め、ティアに聞いた。
「ええ、もちろんです。どうぞお召し上がりください」
そうカイトに向かってクッキーを差し出したティアは、誰が見てもとても嬉しそうな顔をしていた。
カイトがティアのクッキーを食べる中、
「リリア、ちょっと話したいことがあるからいい?」
リアムはリリアを呼び出した。
『え?いいけど……』
リアムに手を引かれ、リリアはそのまま人気のない教室まで連れていかれた。
「……大丈夫?」
『え?』
(大丈夫……?)
言葉の意図がわからずにきょとんとしていれば、リアムは真剣な瞳でリリアを見つめた。
「……クッキー食べた?」
『食べてないよ。どうして?』
「いや、べつに。それよりなんであんなにクッキー食べるの拒んでたの?」
『え?そんなに拒んでたわけじゃないよ?ただ、なんだか食べる気になれなかっただけ』
「そっか」
そう言うとリアムはリリアを残し、スタスタと歩いて行ってしまった。
『……え?なんだったわけ?』
それから数日が経ち、リリアはテオドールに呼び出された。
学園内に用意されたテオドールの自室。人嫌いのテオドールが自室にだれかを呼ぶのはごく稀なこと。それを知っているリリアは、扉の前でため息をつく。
(テオドールが私に何の話があるのよ)
コンコンーー
広い廊下に、ドアを叩く音が鳴り響いた。
『私よ。リリア・カルロイ。』
「入ってくれ。」
ドアを開け中に入れば、テオドールはテーブルに肘をつき書類に目を通していた。
「急に呼び出してしまってすまないな。」
テオドールが相手を気にかけるなど、王族であるリリアやカイトくらいだろう。
『いいわ。早速要件を聞いてもいいかしら』
「あぁ。最近うわさが悪いようだな。」
『……何のこと?』
「王女が聖女ティアを虐めていると、生徒の中でだいぶ噂が広まっている。」
『え?そうなの?』
「知らなかったのか……?」
テオドールは呆れたようにため息をついた。
『そんなの知らないわよ。そもそも最近関わってもないのに』
「今や生徒たち以外にも、貴族界隈でも有名な話らしいがな。」
『何よ、それ。私何もしてないわよ』
「そうだろうな。だが、世間はティアに味方をしているらしい」
『……』
正直、そんな気はしていた。カイトもバロンも、最近ではティアと随分仲が良さそうだし、クラスのほとんどがティアに対していい印象を持っているだろう。
(これじゃあ、まるで私が悪役令嬢みたいじゃない……)
少し気が滅入ったリリアに、テオドールは質問を投げかける。
「王女よ。お前は聖女ティアは本当に聖女だと思うか?」
『……どう言う意味?そもそもテオドールが聖女と言っていたんじゃないの?』
「まぁ、そうだが。俺は最近疑っているんだ。」
『疑ってるって何を?』
「俺にはアイツが聖女だと思えない」
『ふ、ははは……。何よそれ。』
神妙な顔でそう言うテオドールについ、笑いが溢れた。
「ふん。お前なら何か感じとっていると思ったのだが、とんだ勘違いだったようだ」
『何かって言われてもね……』
「おかしいと思わないのか?カイトもバロンも、あんなにお前にべったりくっついていたのに、最近では聖女ばかりだろう?」
『それは……、ただティアのことが気に入っただけじゃない?』
認めたくない言葉……、リリアはできるだけ心を無にして呟いた。
「そうか……。まぁ、また何か気付いた事があれば教えてくれ。」
『私に教えられることなんて、何もないわ』
珍しく弱気なリリアにテオドールは顔を歪める。
「珍しく弱気になっているのだな。らしくもない。どんな時でも気高く生きろ。それが唯一のお前の魅力だ」
『テオドール……。それ、褒めていないわよ』
だが不思議と、苦しかったはずの心が少しだけ軽くなった気がした。
そのままテオドールの自室を出てクラスに向かった。リリアがクラスの前に着くと、ちょうどクラスの中からリアムが出てくるところだった。
リアムはリリアの顔を見ると、クラスの方に冷たい視線を向け、そのままリリアの方に歩き出した。
(何かしら……)
そう思っていれば、リリアの近くまできたリアムは、リリアの腕を引っ張り、クラスとは反対側に向かった。
『え!何?』
「行くよ」
『私、クラスに行くんだけど』
「……だめ。一緒に来て」
普段と違うリアムに違和感を感じるものの、クラスに入らなければ次の授業の準備もできない。
それになんだか嫌な予感がした。この胸騒ぎを確認しなければいけない。そう思い、リリアはリアムの制止を振り切り、クラスに入った。
クラスでは、カイトとバロンがティアの横に座り、3人仲良くクッキーを食べていた。ティアはバロンの口に、クッキーを運ぶ。バロンは嬉しそうにそのままクッキーを頬張った。
(あ……。そうゆうこと、か……。)
リアムがクラスから遠ざけようとした理由がわかった。
(もう、バロンは……、私のことなんて好きじゃないのか……。ティアのことが……、好き、なんだ)
今にでも泣き出してしまいそうだった。
でも、先程のテオドールの言葉が頭に浮かんだ。
(どんな時でも気高く生きろ、か……。)
リリアは初めてテオドールに感謝をした。
もしこの言葉がなければ、泣いてしまっていただろうから……。
「リリア……?大丈夫?」
リアムは心配そうな顔でリリアの顔を覗いた。
『大丈夫よ。これくらい。』
リリアはまるで自分に言い聞かせるようにそう宣言した。
「そっか。じゃあ、行こう。王女様?」
リアムはリリアに手を差し伸べ、どこか挑発的な瞳で微笑んだ。
『そうね。行くわよ』
リリアはリアムの手を取り、そのままクラスに向かったーー