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(ティアの物語)
(カタリナを味方につけ、正直浮かれていたのかもしれない。……実際は、まだ何一つと手に入れられていないのに。)
クラスから泣いて飛び出し、やってきたのは中庭だった。ベンチに腰を掛け、ただ時間を忘れ噴水を眺めていれば、ティアを追ってやってきたカイトが目の前に現れた。
『……カイト様』
「隣、いいか?」
正直今、会いたくはなかった。先程のあの場で自分ではなくリリアを庇ったカイトに、ティアはどこか寂しさを感じていた。だが優しく微笑むカイトの姿は美しく、ティアはどうしても断ることができず、コクンと頷いた。
「ここお気に入りなのか?」
先程の状況を見ていながらも、直接問い詰めたり、咎めたりしないところがやはり彼らしい。そんな事を思いながら、ティアはカイトを眺める。
(カイト様は、私が嘘をつきデマを流したと思っているかしら……)
そんな不安を抱きながらも、カイトと言葉を交わす。
『はい。ここにいると何故か心が落ち着くのです』
「そうか。実は俺もよくここに来るんだ」
『そうなのですか?』
「ああ。なんだかよくわからないんだが、ここに来ると懐かしい気持ちがして」
その言葉を聞き、ティアは唐突に泣き出した。
「え? どうしたんだ? 俺、何か変な事を言った?」
『いえ……。ただ少し、私も懐かしい気持ちになりまして』
そう涙を流しながら微笑んだ。
「そうか。ティアは、なんだか不思議なんだ。初めて会った気がしないと言うか……」
『……そうですか?』
「ああ。俺たち、昔どこかで会ったことあるのかもな」
そう笑うカイトに、ティアはどこか胸が締め付けられるような感覚を覚えた。でもそれは不思議と不快に感じることはなく、どちらかと言うと心地よいものであった。
『ふふふ、きっと、前世で会ったことがあるのですわ。』
そう微笑みながら、また瞳を潤ませるティア。
「そうかもしれないな」
そんなティアを眺めながら、カイトは優しく微笑む。
それから2人は暫くの間、たわいもない会話を楽しんだ。ティアの涙は消え、曇っていた表情もいつのまにか微笑みに変わった。
カイトは最後までティアを攻めることはしなかった。だが、カイトは言った。
「俺はリリアのことをとても大切に思っている。妹として、友達として、1人の人間として……」
真剣な瞳でそう言うカイトに、ティアはどこか少し悲しそうな顔をした。
(私では……1番にはなれないのかしら……)
カイトにバレないよう、歯を食い縛り、涙を我慢した。
『リリア様が羨ましいですわ』
ティアは涙を押し殺し、そう微笑むのが精一杯だった。
暫くしてカイトが行ってしまうと、ティアは天を見上げた。
『神様……、私は幸せにはなれないのでしょうか』
その呟きは、ポツンと誰にも届くことなく消えていった。
それから数日の時が経った。
相変わらずティアはカイトを想う毎日を過ごしている。
少しだけ変わったのは、リリアとバロンの関係性だ。
あの日以来、何故か少し前よりも親密に見える2人を見つめ、ティアは思った。
(何故、リリア様だけ……。)
幸せそうな2人を見つめ、ティアの心は暗く、どんよりとした気持ちが占めていった。
そんな時、クラスの授業で男女ペアを組みテニスを行うことになった。
(ぜひカイト様と……)
そう思い、カイトの元へと向かえば、カイトは既にリリアとペアを組んでいた。
(なんでバロン様じゃなくて、カイト様なの?)
ティアは少し苛立ちを感じた。だが、その時思ったのだ。
リリアにもこの苦しさを分からせたいーーと。
ティアはバロンの元に向かった。
『バロン様、私なかなかお相手が見つからなくて……。もしよろしければ私とペアを組んでもらえませんか?』
バロンは少し悩み、離れた場所にいるリリアを見つめた。
「いいよ。僕もペア見つからなくて困ってたし」
こうしてバロンとペアを組むことになったティア。
ティアは、わざとテニスが苦手なフリをしては、スポーツ万能なバロンに指導を仰いだ。
「ティアはスポーツ苦手なの?」
『も、申し訳ありません!』
「いや、全然大丈夫だよ。ティアが苦手な分、僕が頑張ればいいし」
そう言ってバロンは微笑んだ。
(バロン様はお優しいのね……)
テニスの授業は、しばらくの間このペアで繰り返し行われた。その度に熱心に教えてくれるバロン。
ティアは、そのお礼としてバロンにクッキーを焼くことにした。
『バロン様!あの、いつもテニスを教えてもらっているお礼に、クッキーを焼いてきました!ぜひ……、お召し上がりいただけないでしょうか?』
「わぁ!クッキー?ありがとう!あ、でも……」
リリアの方を見つめ、一瞬迷うバロンに
『あ、そうでした。私などが、ご迷惑でしたよね。申し訳ありません……!』
そう悲しそうに伝えれば、バロンは簡単に答えを翻す。
「ごめん、やっぱり頂くよ!ありがとう」
そう言ってティアのクッキーを1つ掴み、口に入れた。
「ん〜!!すっごい美味しい!」
美味しそうに食べるバロンに、ティアの顔は思わずほころぶ。
『ありがとうございます。よろしければまた作ってきても良いですか?』
「うん!大歓迎だよ」
バロンは、嬉しそうな顔で微笑んだ。
そしてティアはその日から毎日、クッキーや焼き菓子などを作ってはバロンにプレゼントをするようになった。
「カイト〜!これティアが作ってくれたマドレーヌ。すっごく美味しいよ〜」
「へぇ〜。本当だ、すごくいい香りがするな」
『よろしければカイト様も召し上がっていただけませんか?』
「いいのか?ありがとう」
そういうとマドレーヌを一つティアから受け取り、口に頬張った。
「……うん。すごく美味しい」
その言葉を聞いて、ティアは嬉しそうに目を細めた。
『ありがとうございます』
「僕最近、ティアのお菓子にすごくハマってるんだよね」
「そうなのか。でもわかる気がするよ。なんだか、どこか懐かしい味がする」
『そう言っていただけると嬉しいです。明日も作ってくるので、また召し上がってくれると嬉しいです』
「わーい、楽しみにしてるね」
「僕も楽しみにしてるよ」
ティアはそんな2人の様子を眺め、嬉しそうに笑った。
(ティアの物語)
(カタリナを味方につけ、正直浮かれていたのかもしれない。……実際は、まだ何一つと手に入れられていないのに。)
クラスから泣いて飛び出し、やってきたのは中庭だった。ベンチに腰を掛け、ただ時間を忘れ噴水を眺めていれば、ティアを追ってやってきたカイトが目の前に現れた。
『……カイト様』
「隣、いいか?」
正直今、会いたくはなかった。先程のあの場で自分ではなくリリアを庇ったカイトに、ティアはどこか寂しさを感じていた。だが優しく微笑むカイトの姿は美しく、ティアはどうしても断ることができず、コクンと頷いた。
「ここお気に入りなのか?」
先程の状況を見ていながらも、直接問い詰めたり、咎めたりしないところがやはり彼らしい。そんな事を思いながら、ティアはカイトを眺める。
(カイト様は、私が嘘をつきデマを流したと思っているかしら……)
そんな不安を抱きながらも、カイトと言葉を交わす。
『はい。ここにいると何故か心が落ち着くのです』
「そうか。実は俺もよくここに来るんだ」
『そうなのですか?』
「ああ。なんだかよくわからないんだが、ここに来ると懐かしい気持ちがして」
その言葉を聞き、ティアは唐突に泣き出した。
「え? どうしたんだ? 俺、何か変な事を言った?」
『いえ……。ただ少し、私も懐かしい気持ちになりまして』
そう涙を流しながら微笑んだ。
「そうか。ティアは、なんだか不思議なんだ。初めて会った気がしないと言うか……」
『……そうですか?』
「ああ。俺たち、昔どこかで会ったことあるのかもな」
そう笑うカイトに、ティアはどこか胸が締め付けられるような感覚を覚えた。でもそれは不思議と不快に感じることはなく、どちらかと言うと心地よいものであった。
『ふふふ、きっと、前世で会ったことがあるのですわ。』
そう微笑みながら、また瞳を潤ませるティア。
「そうかもしれないな」
そんなティアを眺めながら、カイトは優しく微笑む。
それから2人は暫くの間、たわいもない会話を楽しんだ。ティアの涙は消え、曇っていた表情もいつのまにか微笑みに変わった。
カイトは最後までティアを攻めることはしなかった。だが、カイトは言った。
「俺はリリアのことをとても大切に思っている。妹として、友達として、1人の人間として……」
真剣な瞳でそう言うカイトに、ティアはどこか少し悲しそうな顔をした。
(私では……1番にはなれないのかしら……)
カイトにバレないよう、歯を食い縛り、涙を我慢した。
『リリア様が羨ましいですわ』
ティアは涙を押し殺し、そう微笑むのが精一杯だった。
暫くしてカイトが行ってしまうと、ティアは天を見上げた。
『神様……、私は幸せにはなれないのでしょうか』
その呟きは、ポツンと誰にも届くことなく消えていった。
それから数日の時が経った。
相変わらずティアはカイトを想う毎日を過ごしている。
少しだけ変わったのは、リリアとバロンの関係性だ。
あの日以来、何故か少し前よりも親密に見える2人を見つめ、ティアは思った。
(何故、リリア様だけ……。)
幸せそうな2人を見つめ、ティアの心は暗く、どんよりとした気持ちが占めていった。
そんな時、クラスの授業で男女ペアを組みテニスを行うことになった。
(ぜひカイト様と……)
そう思い、カイトの元へと向かえば、カイトは既にリリアとペアを組んでいた。
(なんでバロン様じゃなくて、カイト様なの?)
ティアは少し苛立ちを感じた。だが、その時思ったのだ。
リリアにもこの苦しさを分からせたいーーと。
ティアはバロンの元に向かった。
『バロン様、私なかなかお相手が見つからなくて……。もしよろしければ私とペアを組んでもらえませんか?』
バロンは少し悩み、離れた場所にいるリリアを見つめた。
「いいよ。僕もペア見つからなくて困ってたし」
こうしてバロンとペアを組むことになったティア。
ティアは、わざとテニスが苦手なフリをしては、スポーツ万能なバロンに指導を仰いだ。
「ティアはスポーツ苦手なの?」
『も、申し訳ありません!』
「いや、全然大丈夫だよ。ティアが苦手な分、僕が頑張ればいいし」
そう言ってバロンは微笑んだ。
(バロン様はお優しいのね……)
テニスの授業は、しばらくの間このペアで繰り返し行われた。その度に熱心に教えてくれるバロン。
ティアは、そのお礼としてバロンにクッキーを焼くことにした。
『バロン様!あの、いつもテニスを教えてもらっているお礼に、クッキーを焼いてきました!ぜひ……、お召し上がりいただけないでしょうか?』
「わぁ!クッキー?ありがとう!あ、でも……」
リリアの方を見つめ、一瞬迷うバロンに
『あ、そうでした。私などが、ご迷惑でしたよね。申し訳ありません……!』
そう悲しそうに伝えれば、バロンは簡単に答えを翻す。
「ごめん、やっぱり頂くよ!ありがとう」
そう言ってティアのクッキーを1つ掴み、口に入れた。
「ん〜!!すっごい美味しい!」
美味しそうに食べるバロンに、ティアの顔は思わずほころぶ。
『ありがとうございます。よろしければまた作ってきても良いですか?』
「うん!大歓迎だよ」
バロンは、嬉しそうな顔で微笑んだ。
そしてティアはその日から毎日、クッキーや焼き菓子などを作ってはバロンにプレゼントをするようになった。
「カイト〜!これティアが作ってくれたマドレーヌ。すっごく美味しいよ〜」
「へぇ〜。本当だ、すごくいい香りがするな」
『よろしければカイト様も召し上がっていただけませんか?』
「いいのか?ありがとう」
そういうとマドレーヌを一つティアから受け取り、口に頬張った。
「……うん。すごく美味しい」
その言葉を聞いて、ティアは嬉しそうに目を細めた。
『ありがとうございます』
「僕最近、ティアのお菓子にすごくハマってるんだよね」
「そうなのか。でもわかる気がするよ。なんだか、どこか懐かしい味がする」
『そう言っていただけると嬉しいです。明日も作ってくるので、また召し上がってくれると嬉しいです』
「わーい、楽しみにしてるね」
「僕も楽しみにしてるよ」
ティアはそんな2人の様子を眺め、嬉しそうに笑った。