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(ティアの物語)
ティアの計画は順調だった。
リリアの側からカイトとバロンを離し、カタリナを使ってリリアの悪い噂を流した。
リリアを孤立させる。それがティアの狙いだ。
そのためにティアは、まずいつもリリアにくっついているバロンを味方につけることにした。
テニスのペアを組み、少し仲良くなったタイミングで、お菓子が好きなバロンのためにクッキーを作った。
最初こそ渋ったが、心優しいバロンはティアが悲しそうな素振りを見せれば、すぐにクッキーを食べてくれた。
そしてその姿を見たリリアは、自らバロンと距離をあけるようになり、ティアの計画は全てうまくいっていると思われた……。
「バロン!」
ティアがカイトとバロンと一緒に、クラスでクッキーを食べていれば、リリアがリアムを連れやってきた。
「あ、リリア!どうしたの?」
「授業が終わったら一緒に街に買い物に行かない?」
「それって……王女として言ってる?それとも友達として?」
「どうしてそんなこと聞くの?もちろん友達としてよ」
「そっかぁ〜。じゃあ、ごめん。僕今日、予定があるんだ」
そう言ってチラッとティアの方を見つめた。
「……そう。わかったわ」
そう言って微笑み立ち去る姿は、とても気高く、美しかった。
(大切なものを奪われる気持ち、これであなたもわかったかしら……)
カイトとバロンが初めてティアのクッキーを食べてから、2週間ほどが経ったころーー……
ティアと2人はだいぶ親しくなっていた。今まではずっとリリアと共に過ごしていたが、今では2人はティアと過ごす時間のほうが多くなった。
それでも最初の頃は、リリアが2人に接近してくることもあったが、最近ではそれもあまり見られない。
「ティアの作るお菓子ってどうしてこんなに美味しいの〜?僕毎日食べても全然飽きないよ!」
そう屈託なく笑うバロン。
「本当だね。僕も、そう思うよ」
つられて笑うカイトに、ティアは見惚れていた。
(あー……、早くあなたを私だけのものに……。)
ティアの作るお菓子を与えてから、もう2週間……。
(あと2週間で……、手に入る……)
ティアはそう微笑んだ。
(リリアの物語)
リリアは日に日に離れていく、バロンとカイトとの距離に胸を痛めていた。
2週間前はいつも4人で一緒に行動していたはずなのに、リリアの隣にはもうリアムしかいない。
リリアはふと思った。
(リアムはなんで一緒にいてくれるのかしら……)
リアムは元はと言えば、カイトと仲が良く一緒に行動をしていたはず。だからリリアではなく、カイトの元に行ってしまうと思っていたのに……。
リリアは隣に座り、カフェオレを飲むリアムをボーッと眺めた。
「……何?」
相変わらず冷たい反応だが、それでも一緒にいてくれることはありがたい。
『リアムは何で私と一緒にいてくれるのかなと思って』
そう聞けば、少しびっくりしたような顔でリリアを見つめた。
「何でって言われても……。まぁ、聖女様よりは君のほうがマシだからかな」
『……ふ〜ん。カイトはいいの?』
「うーん……、なんかさ、最近のカイトってなんかおかしくない?聖女様ばっかりと言うか……」
それはリリアも感じていたことであった。
『……そうだね』
そう話をしていればティアとカイトとバロンがクラスに入ってきた。リリアはカイトとバロンに声をかける。
『カイト、バロン!あ、あのね、久しぶりにアップルパイ作ってきたんだけど……、一緒に食べない?』
そう言いながら箱に入ったアップルパイを2人の目の前に差し出した。
「僕はいいや〜。さっきティアにお菓子貰っちゃったし」
「僕も遠慮しておくよ」
そう言ってバロンとカイトは、席に着こうと歩き出した。
『そっか……』
か弱い声で絞り出した言葉に、気づいたのはリアムだけ。
「ねえ。リリアがせっかく作ってくれたのに、何その態度」
リアムが珍しく2人に突っかかる。
その声に先に反応したのはバロンだった。
「別にいいでしょ?食べたくないって言ってるんだから」
その視線はあまりにも冷たく、リリアは深く胸を痛めた。
「バロンもカイトも、最近ちょっとおかしいんじゃない?聖女にうつつ抜かして。リリアのこと傷つけてるのわからないの?」
「そんなの、リアムには関係ないでしょ?」
そう言ってリアムを睨むバロンに、リリアはショックを受けた。
(あの優しいバロンがあんな顔をするなんて……)
『リアム……、もういいよ……』
その言葉にリアムは不満そうに眉を下げる。でももう、リリアは見ていられなかった。
ギュッとリアムの裾を掴むその手が、震えているのに気付いたリアムは、もう一度バロンとカイトに目を向け、悔しそうな顔を見せた。
放課後、リリアとリアムが帰ろうと支度をしていれば、そこにテオドールが声をかけた。
「お前たち、少し付き合え」
『げ、テオドール……』
「え。僕も?」
「あぁ。2人だ」
リリアはわかりやすくため息をつくと、テオドールの元に着いていく。その姿を見たリアムも、渋々と後に続いた。
テオドールがやってきたのは、テオドールの自室だ。
2人が部屋に入ると、テオドールはドアに鍵をかけ話し始めた。
「最近、カイトとバロンと仲がよろしくないようだな」
『別に、前ほど一緒にいないだけよ』
「そうか。ところでリアムは何故、聖女になびかないんだ?」
「特に理由なんてないけど。ただ好きじゃないだけ」
「そうか。……ところで、今日呼び出したのには理由がある。聖女について、ある重大なことがわかったのだ」
「重大なこと?」
「あぁ。この国では昔、聖女がいたことは知っているな?」
『それは知ってるわよ。童話にも出てくるもの。お母様にもよく聞かせてもらったわ』
「童話?どんな話なの?」
『聖女様が羽根の折れた天使を助けるの。それで天使はまた空へと羽ばたいて、天国に戻るのよ』
「へぇ〜。」
「じゃあ、その聖女様がどんな姿をしていたか知っているか?」
『それは知らないわ。』
「そうか……。それもそのはずだ。それはこの国の機密事項として大切に保管をされたものだからな」
「機密事項?なんでそんなに厳重に守られてるわけ?」
「ふっ、それはだな。この国の王妃が聖女だったからだ」
『え?この国の王妃?』
「……ってことはリリアのお婆様ってこと?」
「あぁ。この国の初代王妃。つまり王女の先代の祖母が聖女だったらしい」
『へぇ〜。知らなかったわ』
「でも王妃が聖女って別に隠すようなことじゃないと思うんだけど」
「あぁ。聖女は普通、繁栄の象徴にもなるからな。隠す理由はわからなかったが、だが面白いことがわかった」
『何、楽しんでるのよ。テオドール。』
リリアは少し呆れた顔でテオドールを眺める。
「聖女であった初代王妃の名前はティア」
『ティア?あの子と同じ名前じゃない』
「あぁ。だがその姿は、ピンク色の長い髪にローズクウォーツ色のピンクの瞳。文献を確認したが、その姿はリリア王女、お前に瓜二つだった」
『……私?まぁ、お婆様なら似ていてもおかしくはないわよね?』
「まぁな。そして、もう一つ。先程の物語に出てきた天使の話だが……、その天使は実在したそうだ。」
『実在?天使がいたってこと?』
「あぁ。それはしっかりと文献に残っている。それも機密事項として守られていたようだがな」
『へぇ〜。いまいち実感が湧かないわね。でもそれが何だって言うのよ』
そういえばテオドールは、リリアを眺め意味ありげに、含み笑いをした。
「その天使の特徴が今この学園に通う聖女ティアとそっくりなのだ。茶色の髪に金色の瞳。持ち出すことはできなかったが、文献に載っていた絵を見れば一目瞭然だ」
『え?天使の子孫ってこと?』
「いや、テオドールは、その天使が聖女ティア本人じゃないかと疑っているんだと思うけど」
「あぁ。さすが物分かりがいいな」
『え?だって……。え?あのティアが……天使?』
「う〜ん……、確かに天使には思えないかも」
「何故そう思う?」
『だって、天使って……』
リリアにとって、ティアは性格が良いようには見えなかった。だが、もしかして自分がそう思っているだけで、周りから見れば天使のように優しく見えるのだろうか……。
(バロンも、カイトも……あんなに惚れ込んでいるのだから……)
「リアムはどう思う?」
「僕は……、聖女が天使だとは思えません」
「それは何故だ?」
そういうと少し悩んだ末、リアムは真剣な顔でゆっくりと話を始めた。
「信じてくれるかはわかりませんが、僕は人の心の音が聞こえるんです。ティアはその音がすごく濁った音がする」
「……やはりそうか。」
『え?』
納得するテオドールに、理解が追いつかないリリア。
『どういうこと??』
「やはりお前は、審判の家系の者だったのか」
そうテオドールが問えば、リアムは驚いた顔で見つめた。
「……テオドール先生はご存知だったのですか」
『ちょっと、待って!審判の家系って何?』
「審判の家系。それは神から命(めい)を授かった家系のことだよ。」
「別名、神の血を引く家系とも呼ばれている。悪人や罪人を神の元に導くため、嘘と真実を見破ることができると聞いている」
『……それ本当に言ってる?』
「もちろん。まぁ、普通信じられないよね」
「国の機密事項の中でも、かなり厳重に管理されているからな」
「まぁ、僕は次男だから音でしか判断できないんだけど、兄さんは心の声が全て聞こえるらしい」
『へぇ。すごいわね。……でも、心の声が聞こえるって嫌じゃないの?』
「まぁね。生まれた時から人の嘘がわかるから、やっぱり嫌な思いは多かったかもね」
『……そう、だよね』
「でも嫌なことばかりじゃないよ。やっぱり正直な人もいるからさ。まぁ、だからこそ今のティアみたいな人を許せないんだよね」
「リアムはティアを天使ではないと思うんだな?」
「はい。ティアから聞こえる音は、どう聞いても天使の音ではない。ティアの周りからはまるで不協和音のような……耳障りな音がする」
『……じゃあ、結局ティアは何者なのかしら』
「……まだ、わからないことばかりだな」
「うん。でも、カイトのことは本当に好きみたいだよ。カイトと話している時だけは、すごく優しい音を奏でるんだ」
『そうなんだ……。ってかさ、リアムは私たちの心の音も全部聞こえてるってこと?』
「うん。さっきからそう言ってるでしょ」
『そうだけど……。なんか……それ……』
気持ち悪い……そう続くと思ったリアムは、一瞬悲しそうな顔をした。幼い頃は素直に話しては、よくそう言われていた。だがリリアの反応は違った。
顔を赤く染め、少しもじもじとした動作をし、リアムから目線を逸らしたリリアは、
『……恥ずかしいんだけど』
そう呟いたのだ。それにはリアムも驚いた。軽蔑されると思っていたのに、そうではなかった。
リアムは、ぷっと吹き出した。
「あ、ははは……!」
リリアは初めてリアムがこんなにも笑うことを知った。でも、なかなか笑い終わらないリアムに、だんだんと苛々がつのる。
『ちょっと!いつまで笑ってるのよ!』
「ははは……!ごめん……。はぁ……、だってあまりにも面白くて」
『どこが面白いのよ!』
ふん、と完全にそっぽを向いて拗ねてしまったリリアに、リアムはそっと微笑む。
「リリアにも可愛いとこあるんだね」
そう言ってリアムは少し意地悪な顔をして笑った。
『何よ、それ……!』
それに少し照れるリリア。氷の王子と呼ばれるほど、普段は冷たいリアムだが、こうやって笑みを浮かべればそれはそれは美しい少年だ。年頃のリリアが照れるのも無理はないだろう。そんな2人を見たテオドールは、ほんの少しだけ優しい眼差しで2人を見つめている。
「……リリアの音はいつもすごく綺麗だよ。」
『え……?』
ふいにリアムにそう優しく言われたリリアは少し驚いた。
(いつもそんなこと言うようなタイプじゃないのに……、もしかして……)
『もしかして……からかってるの?』
まるで真意に気づいたかのような表情でリアムを問い詰める。
「……ふふ。どうかな?」
何故か嬉しそうに微笑むリアムに、胸がドキッとした気がした。
(え?待って、今ドキッとした……?いや、そんなはずない……!だって……だって……)
『ちょっと待って、リアムは心の音が聞こえるだけだよね?心の声は聞こえないんだよね?』
「うん。心の声は聞こえないよ」
『そう。……ならいいわ』
あたりはもう暗くなり始めていた。
「まずい、もうそろそろ鍵が締まる時間だ」
そう言うテオドールに、我に帰るリリア。そしてその日はそのまま解散をして、また何か情報が入り次第協力し合うことでまとまった。
(ティアの物語)
ティアの計画は順調だった。
リリアの側からカイトとバロンを離し、カタリナを使ってリリアの悪い噂を流した。
リリアを孤立させる。それがティアの狙いだ。
そのためにティアは、まずいつもリリアにくっついているバロンを味方につけることにした。
テニスのペアを組み、少し仲良くなったタイミングで、お菓子が好きなバロンのためにクッキーを作った。
最初こそ渋ったが、心優しいバロンはティアが悲しそうな素振りを見せれば、すぐにクッキーを食べてくれた。
そしてその姿を見たリリアは、自らバロンと距離をあけるようになり、ティアの計画は全てうまくいっていると思われた……。
「バロン!」
ティアがカイトとバロンと一緒に、クラスでクッキーを食べていれば、リリアがリアムを連れやってきた。
「あ、リリア!どうしたの?」
「授業が終わったら一緒に街に買い物に行かない?」
「それって……王女として言ってる?それとも友達として?」
「どうしてそんなこと聞くの?もちろん友達としてよ」
「そっかぁ〜。じゃあ、ごめん。僕今日、予定があるんだ」
そう言ってチラッとティアの方を見つめた。
「……そう。わかったわ」
そう言って微笑み立ち去る姿は、とても気高く、美しかった。
(大切なものを奪われる気持ち、これであなたもわかったかしら……)
カイトとバロンが初めてティアのクッキーを食べてから、2週間ほどが経ったころーー……
ティアと2人はだいぶ親しくなっていた。今まではずっとリリアと共に過ごしていたが、今では2人はティアと過ごす時間のほうが多くなった。
それでも最初の頃は、リリアが2人に接近してくることもあったが、最近ではそれもあまり見られない。
「ティアの作るお菓子ってどうしてこんなに美味しいの〜?僕毎日食べても全然飽きないよ!」
そう屈託なく笑うバロン。
「本当だね。僕も、そう思うよ」
つられて笑うカイトに、ティアは見惚れていた。
(あー……、早くあなたを私だけのものに……。)
ティアの作るお菓子を与えてから、もう2週間……。
(あと2週間で……、手に入る……)
ティアはそう微笑んだ。
(リリアの物語)
リリアは日に日に離れていく、バロンとカイトとの距離に胸を痛めていた。
2週間前はいつも4人で一緒に行動していたはずなのに、リリアの隣にはもうリアムしかいない。
リリアはふと思った。
(リアムはなんで一緒にいてくれるのかしら……)
リアムは元はと言えば、カイトと仲が良く一緒に行動をしていたはず。だからリリアではなく、カイトの元に行ってしまうと思っていたのに……。
リリアは隣に座り、カフェオレを飲むリアムをボーッと眺めた。
「……何?」
相変わらず冷たい反応だが、それでも一緒にいてくれることはありがたい。
『リアムは何で私と一緒にいてくれるのかなと思って』
そう聞けば、少しびっくりしたような顔でリリアを見つめた。
「何でって言われても……。まぁ、聖女様よりは君のほうがマシだからかな」
『……ふ〜ん。カイトはいいの?』
「うーん……、なんかさ、最近のカイトってなんかおかしくない?聖女様ばっかりと言うか……」
それはリリアも感じていたことであった。
『……そうだね』
そう話をしていればティアとカイトとバロンがクラスに入ってきた。リリアはカイトとバロンに声をかける。
『カイト、バロン!あ、あのね、久しぶりにアップルパイ作ってきたんだけど……、一緒に食べない?』
そう言いながら箱に入ったアップルパイを2人の目の前に差し出した。
「僕はいいや〜。さっきティアにお菓子貰っちゃったし」
「僕も遠慮しておくよ」
そう言ってバロンとカイトは、席に着こうと歩き出した。
『そっか……』
か弱い声で絞り出した言葉に、気づいたのはリアムだけ。
「ねえ。リリアがせっかく作ってくれたのに、何その態度」
リアムが珍しく2人に突っかかる。
その声に先に反応したのはバロンだった。
「別にいいでしょ?食べたくないって言ってるんだから」
その視線はあまりにも冷たく、リリアは深く胸を痛めた。
「バロンもカイトも、最近ちょっとおかしいんじゃない?聖女にうつつ抜かして。リリアのこと傷つけてるのわからないの?」
「そんなの、リアムには関係ないでしょ?」
そう言ってリアムを睨むバロンに、リリアはショックを受けた。
(あの優しいバロンがあんな顔をするなんて……)
『リアム……、もういいよ……』
その言葉にリアムは不満そうに眉を下げる。でももう、リリアは見ていられなかった。
ギュッとリアムの裾を掴むその手が、震えているのに気付いたリアムは、もう一度バロンとカイトに目を向け、悔しそうな顔を見せた。
放課後、リリアとリアムが帰ろうと支度をしていれば、そこにテオドールが声をかけた。
「お前たち、少し付き合え」
『げ、テオドール……』
「え。僕も?」
「あぁ。2人だ」
リリアはわかりやすくため息をつくと、テオドールの元に着いていく。その姿を見たリアムも、渋々と後に続いた。
テオドールがやってきたのは、テオドールの自室だ。
2人が部屋に入ると、テオドールはドアに鍵をかけ話し始めた。
「最近、カイトとバロンと仲がよろしくないようだな」
『別に、前ほど一緒にいないだけよ』
「そうか。ところでリアムは何故、聖女になびかないんだ?」
「特に理由なんてないけど。ただ好きじゃないだけ」
「そうか。……ところで、今日呼び出したのには理由がある。聖女について、ある重大なことがわかったのだ」
「重大なこと?」
「あぁ。この国では昔、聖女がいたことは知っているな?」
『それは知ってるわよ。童話にも出てくるもの。お母様にもよく聞かせてもらったわ』
「童話?どんな話なの?」
『聖女様が羽根の折れた天使を助けるの。それで天使はまた空へと羽ばたいて、天国に戻るのよ』
「へぇ〜。」
「じゃあ、その聖女様がどんな姿をしていたか知っているか?」
『それは知らないわ。』
「そうか……。それもそのはずだ。それはこの国の機密事項として大切に保管をされたものだからな」
「機密事項?なんでそんなに厳重に守られてるわけ?」
「ふっ、それはだな。この国の王妃が聖女だったからだ」
『え?この国の王妃?』
「……ってことはリリアのお婆様ってこと?」
「あぁ。この国の初代王妃。つまり王女の先代の祖母が聖女だったらしい」
『へぇ〜。知らなかったわ』
「でも王妃が聖女って別に隠すようなことじゃないと思うんだけど」
「あぁ。聖女は普通、繁栄の象徴にもなるからな。隠す理由はわからなかったが、だが面白いことがわかった」
『何、楽しんでるのよ。テオドール。』
リリアは少し呆れた顔でテオドールを眺める。
「聖女であった初代王妃の名前はティア」
『ティア?あの子と同じ名前じゃない』
「あぁ。だがその姿は、ピンク色の長い髪にローズクウォーツ色のピンクの瞳。文献を確認したが、その姿はリリア王女、お前に瓜二つだった」
『……私?まぁ、お婆様なら似ていてもおかしくはないわよね?』
「まぁな。そして、もう一つ。先程の物語に出てきた天使の話だが……、その天使は実在したそうだ。」
『実在?天使がいたってこと?』
「あぁ。それはしっかりと文献に残っている。それも機密事項として守られていたようだがな」
『へぇ〜。いまいち実感が湧かないわね。でもそれが何だって言うのよ』
そういえばテオドールは、リリアを眺め意味ありげに、含み笑いをした。
「その天使の特徴が今この学園に通う聖女ティアとそっくりなのだ。茶色の髪に金色の瞳。持ち出すことはできなかったが、文献に載っていた絵を見れば一目瞭然だ」
『え?天使の子孫ってこと?』
「いや、テオドールは、その天使が聖女ティア本人じゃないかと疑っているんだと思うけど」
「あぁ。さすが物分かりがいいな」
『え?だって……。え?あのティアが……天使?』
「う〜ん……、確かに天使には思えないかも」
「何故そう思う?」
『だって、天使って……』
リリアにとって、ティアは性格が良いようには見えなかった。だが、もしかして自分がそう思っているだけで、周りから見れば天使のように優しく見えるのだろうか……。
(バロンも、カイトも……あんなに惚れ込んでいるのだから……)
「リアムはどう思う?」
「僕は……、聖女が天使だとは思えません」
「それは何故だ?」
そういうと少し悩んだ末、リアムは真剣な顔でゆっくりと話を始めた。
「信じてくれるかはわかりませんが、僕は人の心の音が聞こえるんです。ティアはその音がすごく濁った音がする」
「……やはりそうか。」
『え?』
納得するテオドールに、理解が追いつかないリリア。
『どういうこと??』
「やはりお前は、審判の家系の者だったのか」
そうテオドールが問えば、リアムは驚いた顔で見つめた。
「……テオドール先生はご存知だったのですか」
『ちょっと、待って!審判の家系って何?』
「審判の家系。それは神から命(めい)を授かった家系のことだよ。」
「別名、神の血を引く家系とも呼ばれている。悪人や罪人を神の元に導くため、嘘と真実を見破ることができると聞いている」
『……それ本当に言ってる?』
「もちろん。まぁ、普通信じられないよね」
「国の機密事項の中でも、かなり厳重に管理されているからな」
「まぁ、僕は次男だから音でしか判断できないんだけど、兄さんは心の声が全て聞こえるらしい」
『へぇ。すごいわね。……でも、心の声が聞こえるって嫌じゃないの?』
「まぁね。生まれた時から人の嘘がわかるから、やっぱり嫌な思いは多かったかもね」
『……そう、だよね』
「でも嫌なことばかりじゃないよ。やっぱり正直な人もいるからさ。まぁ、だからこそ今のティアみたいな人を許せないんだよね」
「リアムはティアを天使ではないと思うんだな?」
「はい。ティアから聞こえる音は、どう聞いても天使の音ではない。ティアの周りからはまるで不協和音のような……耳障りな音がする」
『……じゃあ、結局ティアは何者なのかしら』
「……まだ、わからないことばかりだな」
「うん。でも、カイトのことは本当に好きみたいだよ。カイトと話している時だけは、すごく優しい音を奏でるんだ」
『そうなんだ……。ってかさ、リアムは私たちの心の音も全部聞こえてるってこと?』
「うん。さっきからそう言ってるでしょ」
『そうだけど……。なんか……それ……』
気持ち悪い……そう続くと思ったリアムは、一瞬悲しそうな顔をした。幼い頃は素直に話しては、よくそう言われていた。だがリリアの反応は違った。
顔を赤く染め、少しもじもじとした動作をし、リアムから目線を逸らしたリリアは、
『……恥ずかしいんだけど』
そう呟いたのだ。それにはリアムも驚いた。軽蔑されると思っていたのに、そうではなかった。
リアムは、ぷっと吹き出した。
「あ、ははは……!」
リリアは初めてリアムがこんなにも笑うことを知った。でも、なかなか笑い終わらないリアムに、だんだんと苛々がつのる。
『ちょっと!いつまで笑ってるのよ!』
「ははは……!ごめん……。はぁ……、だってあまりにも面白くて」
『どこが面白いのよ!』
ふん、と完全にそっぽを向いて拗ねてしまったリリアに、リアムはそっと微笑む。
「リリアにも可愛いとこあるんだね」
そう言ってリアムは少し意地悪な顔をして笑った。
『何よ、それ……!』
それに少し照れるリリア。氷の王子と呼ばれるほど、普段は冷たいリアムだが、こうやって笑みを浮かべればそれはそれは美しい少年だ。年頃のリリアが照れるのも無理はないだろう。そんな2人を見たテオドールは、ほんの少しだけ優しい眼差しで2人を見つめている。
「……リリアの音はいつもすごく綺麗だよ。」
『え……?』
ふいにリアムにそう優しく言われたリリアは少し驚いた。
(いつもそんなこと言うようなタイプじゃないのに……、もしかして……)
『もしかして……からかってるの?』
まるで真意に気づいたかのような表情でリアムを問い詰める。
「……ふふ。どうかな?」
何故か嬉しそうに微笑むリアムに、胸がドキッとした気がした。
(え?待って、今ドキッとした……?いや、そんなはずない……!だって……だって……)
『ちょっと待って、リアムは心の音が聞こえるだけだよね?心の声は聞こえないんだよね?』
「うん。心の声は聞こえないよ」
『そう。……ならいいわ』
あたりはもう暗くなり始めていた。
「まずい、もうそろそろ鍵が締まる時間だ」
そう言うテオドールに、我に帰るリリア。そしてその日はそのまま解散をして、また何か情報が入り次第協力し合うことでまとまった。