バトル・オブ・バトラー!
name change
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「……当然の結果だな」
「ぐわああああ、マジかよ……!」
ジャンケンバトルを制し、涼しい顔で呟いた飛影に対し、桑原はまるでこの世の終わりかのように打ちひしがれた。
「よりによって飛影……終わった……」
「飛影がエスコート役?」
床に膝をついて嘆く桑原だが、当の名前はのほほんとして飛影に話しかける。
「ああ。オレが勝ったからな」
ジャンケンに勝っただけで満足している節のある飛影だが、今宵が本番だ。
「そっか。よろしくね」
名前は嬉しそうにふんわりと微笑んだ。
「飛影、頼むから舞踏会では粗相すんじゃねーぞ! お嬢様の大事な晴れ舞台だからな!」
名前が雪菜とともにパーティー用のドレスに着替えるため支度部屋へと向かうと、半ば泣きそうな顔で桑原が飛影へ懇願した。
「んな大袈裟な……ただの踊る会だろ?」
「何ふざけたことぬかしやがる浦飯! 舞踏会は見合いみてーなもんなんだぞ!」
「見合い!?」
思わず幽助の声が裏返った。
「エスコート役がいかに上手く立ち回れるかが重要なんだ。スゲー金持ちのスゲー優しい王子に見初められて結婚することがお嬢様の幸せなんだからな」
熱く語る桑原からは、お嬢様の幸せを願う執事としての真摯な想いが伝わってくる。
「あとスゲー顔も良けりゃ言うことないな! ま、毎日オレの顔に見慣れてるお嬢様は目が肥えていらっしゃるだろーから難しいかもしれねーが」
「フン。お前に比べれば大抵の王子が美男子だ。どんな不細工だろうとな」
「んだとテメー!」
激昂する桑原が飛影の首根っこを掴む。
「飛影、ダンスの練習しなくていいんですか?」
「必要ない」
迷う素振りもなく言い切った飛影に、蔵馬が呆れたように、それでいて愉快そうな笑みをこぼすのだった。
◆
舞踏会の夜。
城の大広間は、まるで絵本の中の世界だった。
巨大なシャンデリアが煌めき、クラシックな音楽が優雅に流れる。
各国の貴族や令嬢たちがドレスとタキシードに身を包み、笑顔で談笑していた。
そんな中、飛影は壁際に立ち、まるで獣のような目で会場を見渡していた。
名前は華やかなドレスに身を包みながら、ただ一人――飛影の隣に立っている。
「踊らないのか?」
「うん。だって、飛影と離れたくないし」
名前の答えに、飛影は満足した様子で小さく口の端を上げる。
「飛影、これすごく美味しいよ。食べてみて」
ふたりが舞踏会で出された料理に舌鼓を打っていると、一人の若い貴族の青年が近づいてきた。
「美しいお嬢さん。次の曲は私と踊ってもらえませんか?」
彼の手が、名前の白い手に伸ばされ触れようとした瞬間――
「触るな」
何が起きたかわからぬ速さで、飛影が貴族の青年を突き飛ばしていた。
「な、何を……」
「気安く触るなと言った。聞こえなかったか?」
尻もちをついた男が呻き声を上げる中、周囲のざわめきが広がる。
だが飛影は、名前の手を引いて、無言でその場を離れた。
「……飛影、怒ってるの?」
そうして連れてこられた月明かりの差し込む無人のテラスで、おそるおそる名前が訊ねる。
「お前にじゃない。あいつにな」
飛影からしたら、名前に躊躇もなく触れようとした時点であの男は重罪だった。
「でも……やりすぎじゃないかな?」
「甘くした方だ」
言い放った飛影に、名前はあの青年に同情しつつ、ふっと頬を緩める。
「今日のオレの役目はお前の護衛だからな」
「飛影が私を守ってくれるのは……執事だから?」
言い訳するように付け加えた飛影に、静かに名前が訊ねた。
驚いた飛影が横を振り向くと、名前が真剣みを帯びた表情でこちらを見つめている。
「オレは……」
ゆっくりと口を開いた飛影に、名前は緊張で唾を飲み込む。
「他の男がお前に触るのを見ると、虫唾がはしる。それだけだ」
その言葉が、真っ直ぐに名前の胸を突いた。
「そっか……嬉しい」
じわじわと喜びが胸をせり上がって、名前がはにかむ。
その名前の笑顔に、飛影は確かに自分の胸の内が揺さぶられるのを感じていた。
鼓動がいやに速く脈打つが、嫌ではない。
「名前」
飛影の手がそっと、ぎこちなく、けれど離さない強さで名前の手を包む。
「まだここにいるか」
「抜け出しちゃおっか」
悪戯っぽく笑った名前に、飛影も小さく口角を上げる。
「行くぞ」
「わっ」
言うが早いか、飛影は名前を姫抱きにしてテラスから飛び降りる。
突然の浮遊感に、名前は飛影にしがみついた。
どこに連れられるんだろう。
夜の森の中、風を切りながら名前は思う。
けれど、どこだっていい。
飛影と一緒なら。
「飛影、大好き」
お姫様抱っこで運ばれるまま名前が囁けば、飛影の耳がわずかに赤く染まったのだった。
*fin*
