バトル・オブ・バトラー!
name change
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「ぐわあああああ! マジかよ!」
「浦飯、お嬢様を頼んだぜ!」
バン!と強く桑原に背中を叩かれながら、ジャンケンで勝利をおさめた幽助は思わず頭を抱えた。勝ったからといって、喜べるわけがない。
“お嬢様である名前を舞踏会へエスコートする”という珍妙な任務を引き受けるハメになってしまったのだから。
「……ったく、これ夢なんだよな?いよいよ意味わかんねーぞ」
「幽助が私のエスコート役?」
ブツブツ幽助が言っているそばで、名前がパチリと目を丸くする。
「なんか変な感じ!」
「じゃ、オレは喜んで他のヤツに譲るぜ」
「でも幽助が一緒なら、ちょっと安心かも」
ふふっと名前が柔らかく微笑んで、幽助も憎まれ口を叩くのをやめる。
「浦飯、くれぐれも舞踏会では粗相すんじゃねーぞ! お嬢様の大事な晴れ舞台だからな!」
名前が雪菜とともにパーティー用のドレスに着替えるため支度部屋へと向かうと、真剣な顔つきの桑原が幽助へ命じた。
「んな大袈裟な……ただの踊る会だろ?」
「何ふざけたことぬかしやがる浦飯! 舞踏会は見合いみてーなもんなんだぞ!」
「見合い!?」
思わず幽助の声が裏返った。
「エスコート役のテメーがいかに上手く立ち回れるかが重要なんだ。スゲー金持ちのスゲー優しい王子に見初められて結婚することがお嬢様の幸せなんだからな」
熱く語る桑原からは、お嬢様の幸せを願う執事としての真摯な想いが伝わってくる。
「あとスゲー顔も良けりゃ言うことないな! 毎日オレの顔に見慣れてるお嬢様は目が肥えていらっしゃるだろーから難しいかもしれねーが」
「フン。お前に比べれば大抵の王子が美男子だ。どんな不細工だろうとな」
「んだとテメー!」
激昂する桑原が飛影の首根っこを掴む。
桑原にケンカを売るのは毎度の光景だが、なんだかいつも以上に飛影は機嫌が悪そうだ、と幽助は思った。
ジャンケンに負けたせいか、そもそも名前が舞踏会へ行くことを面白く思っていないのか。
「……オメーはいいのかよ、蔵馬」
「なにが?」
片眉を上げた幽助が静かに訊ねたが、蔵馬はその綺麗な形の唇に小さな笑みを浮かべているままだった。
「そうと決まりゃ、着替えるぞ浦飯!」
桑原が幽助の首根っこを掴み、部屋を後にしていく。
(……名前、現実じゃアイツと付き合ってるんだよな)
部屋に残された二人の友人のうち——一人を視界の端にとらえながら、幽助は考える。
自分だけが、この“夢”の中でそれを知っていて。
そして名前は、見合い同然だという舞踏会に今から参加しようとしている。
なんだか胸にモヤモヤとしたものを抱えながら、幽助は桑原に促されるまま、パーティー用の華やかなタキシードに着替えるのだった。
◆
舞踏会の夜。
城の大広間は、まるで絵本の中の世界だった。
巨大なシャンデリアが煌めき、クラシックな音楽が優雅に流れる。
各国の貴族や令嬢たちがドレスとタキシードに身を包み、笑顔で談笑していた。
「これが“舞踏会”かよ……」
正直帰りたくてたまらなかったが、名前が隣にいる限り、幽助は一歩一歩、堂々とした足取りを意識していた。
「で、ここで踊ればいいのかよ」
「うん。よろしくね、幽助」
くすっと笑った名前に手を差し伸べ、幽助は軽く照れながらもエスコートした。
桑原からスパルタで短時間の特訓を受けた幽助だが、ステップなんてまともに覚えていない。
でも、名前は踊りながら小さく言った。
「大丈夫。幽助のリード、安心できるよ」
不器用ながらも真っ直ぐな幽助の動きに、名前は微笑み、二人の距離は少しずつ縮まっていった。
踊った後は、お酒を浴びるように飲もうとする幽助を名前が慌てて止めたりと、笑い合いながら楽しく時間が過ぎていく。
舞踏会も中盤に差しかかった頃。
一人の若い貴族の青年が、名前に近づいてきた。
「美しいお嬢さん。次の曲は私と踊ってもらえませんか?」
「えっと……」
困ったように視線を逸らした名前が、幽助の方を見る。
名前と目が合った瞬間、幽助は考えるより先に一歩前に出ていた。
「悪ィな。お嬢様、今夜はオレ専属なんで」
ニッと口角を上げて貴族の青年へ告げた幽助に、名前の目が瞬く。
「……ただの執事風情が」
「執事だからこそ、お嬢様を他のヤツに渡すわけにはいかねぇんだよ」
堂々と言い放つ幽助の鋭い眼差しに、たじろいだ貴族の青年がすごすごと去っていく。
名前は幽助の背中に守られながら、ホッとしたように小さく息をついた。
◆
その後、月明かりが差すバルコニーへ、名前と幽助の二人は自然と足を運んでいた。
「今日はありがとう、幽助。さっき、助けてくれて……それに、ちゃんとエスコートしてくれて」
「ま、オレにできねーことはないな!」
調子にのっている幽助に、くすりと笑いながら名前は穏やかな眼差しを向ける。
「桑原が言うには、今日はお見合いらしーじゃん。そのわりには名前、ずっとオレといるよな。さっきの男からの誘いも、迷惑そうにしてたし」
幽助からの指摘に、ギクっと名前が肩を揺らす。
「他の男と踊ってこなくていいのかよ」
「……お見合いは、桑ちゃんやお父様たちが勝手に言ってるだけだから」
ふいっと名前が目線を逸らして、ポツリと言う。
幽助はその様子を、探るような視線で眺めた。
「オレが好きなら、ハッキリ父親に言えば?」
「なっ、好きなのは幽助じゃなくて……!」
はっとして慌てて口を押さえた名前に、ニヤリと幽助が笑う。
やはりこの夢の中でも、名前たちは両想いのようだ。
「ま、いっか。もう一回くらい、踊ってやってもいいぜ、名前」
「うん」
そう言って差し出された幽助の手を、嬉しそうに頷いて名前が取る。
——他の男から名前を守る役目を、今日くらい引き受けてやるか。
しばらくはこのヘンテコな夢を楽しむことにした幽助は、名前の手を引いて、またダンスフロアへ向かうのだった。
*fin*
