Ⅳ 魔界編
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✴︎85✴︎White Xmas
学期末試験の順位が張り出された掲示板に、盟王高校の生徒たちは群がる。
「また南野、海藤に負けてるよ」
「うわ~、また南野二位!?」
「おい、聞こえるぞ!」
ちょうど通りかかった赤い長髪の彼の姿を目にとめ、男子生徒が友人を小突く。
南野秀一。
端正な顔立ちと学年トップに君臨する成績で目立つ彼だが、特定の仲の良い友人はおらず“何を考えてるか分からない”という印象を周囲に与えがちだ。
噂の張本人が通り過ぎるのを、不自然に静かになりながら生徒たちは見送った。
「…南野くん、夏頃から調子悪いよね」
その背中が見えなくなった後、女子生徒がぽつりと呟く。
「やっぱあの噂、ホントなのかな。彼女と別れたってやつ」
「えー!何だよその噂!」
噂など初耳の男子生徒が身を乗り出す。
「知らないの?けっこう有名だよ。南野くん、何度か彼女らしき子とデートしてるとこ目撃されてるんだよ」
「誰とだよ?この学校の奴?」
「ううん。たぶん他校の子じゃないかな。可愛い子だったって」
「へー、さすが南野。やるなァ」
「でもね、夏前から目撃情報がぱったりなくなって、ちょうどその頃から成績も落ちてるの」
「なんか元気ない気もするしな。まあ前から元気いっぱいってキャラじゃないけど」
「やっぱり彼女さんが原因なのかな…」
そんな会話を交わす二人の横を、今期成績トップ・海藤優が小走りで通り過ぎていった。
「南野!」
校門前で蔵馬に追いついた海藤が呼びかければ、くるりと振り返る彼。
「ちょっとお前の答案見せてみろ」
大人しく指示に従い蔵馬が取り出した答案を、しげしげと海藤は眺める。
「ふ~ん。計算途中の掛け算で間違ってるとこなんかお前らしいけど」
「どうも」
蔵馬は口元に綺麗な弧を描いて笑うと、海藤から渡した答案を受け取った。
「明日から冬休みだな。どこか遠出でもするのか?」
「家族でゆっくり過ごす予定だよ」
「そうか。てっきりまた魔界に行くのかと思ってた」
「もしかしたら行くかもしれないが」
さくり。さくり。
白く積もった降雪を踏みしめる、二人分の足音が冬の乾いた空気に映える。
「にしても、雪が降るとはな。そのうち電車止まるんじゃないか?」
「ホワイトクリスマスだって、クラスの皆が喜んでたね」
「クリスマスイブを終業式にするなんて空気が読めない学校だって文句も言ってたよな」
今日は12月24日。
すなわちクリスマスイブだ。
吐く息の白さも。
凍てつくような寒さも。
降り積もる雪も。
全てが聖夜を彩る装飾となって、街はどこか浮足立っている。
「クリスマスイブかー…はやいな」
時の流れの速さをしみじみと実感する海藤。
いつからを基準にして海藤が“はやい”と言っているのか察しつつ、無言で蔵馬は隣を歩く。
「永瀬さんがいなくなってから、もう半年か」
そう。
未来が元の世界へ帰ってから、すでに半年の時が経過していた。
「夏頃から南野、情緒不安定だぜ。今日みたいに悲壮感漂ってる日もあれば、なんかこう…目の奥に怪物飼ってるみたいな時もある」
バイオリズムのせいだろう、と蔵馬は思う。
武術会以来、時々“秀一”でありながら“蔵馬”になっているような錯覚に襲われることがあった。
そんな時、ひどく好戦的になる自分に気づく。
黄泉に会ってから、その症状はさらに進み“蔵馬”に戻る周期は段々と短くなっていた。
「大丈夫か?今度は浦飯くんたちと敵同士になったっていうし…」
何か協力できることはないかと、暗に海藤は問うて心配しているのだ。
「大丈夫だ。オレもわりと楽しんでやってる」
「秀兄!」
中学生くらいだろうか、まだ幼い顔つきの少年が蔵馬の元へ駆け寄ってきた。
「新しい弟か?」
「ああ」
「奇遇だね秀兄!学校帰り?」
畑中秀一は南野志保利の再婚相手の息子であり、蔵馬の義弟にあたる。
「せっかくだし兄弟で帰れよ。じゃあな、また新学期」
気を遣った海藤は、片手を上げると一人で駅の方まで向かっていった。
(時間が解決してくれるまで、まだもう少しかかりそうだな)
最愛の女性と会えなくなってしまった友人の胸中を、慮りながら。
「わざわざ学校まで来るな。イヤでも家で会うんだ」
海藤が去った後、隣の少年へ鋭い眼差しをおくる蔵馬。
それは弟に向けるものにしては、あまりにも冷たい。
「まあそう言うなよ。オレだって仕事だ」
へらへら笑う弟と連れ立ち、帰宅した家は無人だった。
クリスマスイブの今宵、両親は食事に行くらしいので遅くまで帰らないだろう。
「あーあ、にしても帰るタイミング悪すぎだよなァ。オレもどうせならコイツじゃなくて未来って女の身体に寄生したかったぜ」
ドカッとリビングのソファに腰を下ろすと、心底残念そうな口調で文句を垂れる畑中秀一。
「あんたの反応も、もっと面白くて見応えがあったかもしれねぇしな」
いかなる場面でも冷静沈着な姿勢を崩さない蔵馬を忌々しげに眺め、煙草に火をつける。
その手をパシ、とはたいて蔵馬が煙草を奪い取った。
「空よ、黄泉に言われなかったか?人質は丁重に扱えとな」
「ムカツくヤローだ、口のきき方に気をつけろよ」
機嫌を損ねた空が、少年の耳穴からその細く鎌のような全身をのぞかせる。
妖怪・空は黄泉軍No.2である鯱の命令で、畑中秀一の肉体に寄生し取り憑いていた。
蔵馬が夏に参加した癌陀羅軍の会議で“半年以内に各国のNo.2が全て入れかわるだろう”と発言し、鯱の怒りを買ったことが原因だ。
「まあいーや。今回は寛大なオレ様に免じて許してやるよ。テレビでも見よーっと」
底の知れない蔵馬に歯向かうのは正直恐しく、英断でないとは分かっていた空が、テレビのリモコンを操作し電源を入れる。
そんな空を見届けると踵を返し、コートを羽織ると再度玄関へ向かった蔵馬。
「出掛けるのかよ」
「母さんたちが帰るまでには戻る」
なんだかんだ人間界での暮らしを満喫している様子の空は、テレビ番組に熱中していったのだった。
***
薄く積雪した住宅街の中を、一人歩く蔵馬。
巻かれたマフラーからはみ出た耳は赤く、厳しい寒さが窺える。
“未来が帰っていてよかったな”
何度も思ったことを、また蔵馬は胸の内で繰り返す。
思うようにしたこと、という表現の方が正しいか。
もしも未来がいたら、実際先ほど空もああ言っていたことだし、家族だけでなく彼女までもが人質の標的になっていたかもしれない。
また、黄泉は未来に興味を持ち癌陀羅へ招きたいと考えていたようだ。
蔵馬は未来を三竦みの争いに巻き込みたくなかった。
未来の手を離してよかったと…
自分は未来を守ることができたと、蔵馬は充足感に浸ろうとする。
そうしていると、夏、千年ぶりの再会を果たした際の黄泉の言葉がふと頭に浮かぶ。
“闇撫のお嬢さんが帰ってしまったなんて残念だ。彼女にも見て欲しかったのに”
つまらなそうに述べ、黄泉は足を振り上げると。
“こいつの最期をな”
一分の躊躇もなく、捕らえていた妖怪の命を絶った。
千年前、蔵馬が黄泉暗殺のため送った刺客である妖怪の命を。
「メリークリスマス!」
飛び散った鮮血の赤を思い出したと同時、大声で呼びかけられて蔵馬はハッとする。
振り向くと、大きなサンタクロースの人形に子供たちが瞳をキラキラさせて集まっていた。
呼びかけられたと勘違いしたのは、どうやらサンタの人形の音声だったらしい。
「はっ…」
気づかない間に駅前の繁華街に着いていたくらい、自分は物思いに耽っていたようだ。
蔵馬は自嘲し、駅の構内に足を踏み入れホームへ向かう。
もしも黄泉の命令通り未来を癌陀羅へ連れていっていたら、と考えれば。
黄泉は未来の目の前であの妖怪を殺し、千年前の蔵馬の裏切りを彼女も知ることになっていたはずだ。
“蔵馬は優しいし、仲間思いだし、極悪非道なんてイメージと結びつかなくて。盗みとか、裏切りとかいう単語の対極にいるもん”
そう自分を評してくれた未来は、一体その時どんな反応をしただろう。
なんて永遠に答えの出ない無意味な考えに取りつかれてしまう己に呆れながら、蔵馬は電車に揺られるのだった。
***
蔵馬がたどり着いたのは、うっそうと茂った森に佇む幻海邸。
山々は雪で白く彩られ、より美しい景観を創造している。
「おお来たな」
「どうですあの六人は」
「なかなか筋がいい。幽助より教えがいがあるよ」
未来が居候していた時とは違い、至る所が結界で包囲された敷地の中へ、幻海は蔵馬を招き入れる。
夏、半年以内に妖力値10万以上の妖怪六人を連れてくると黄泉に約束した蔵馬。
その六人を育てている場所が、この幻海邸であった。
「コエンマもちょうど来ているよ。六人の様子を見に行く前に、せっかくだから会っていくといい」
そう告げると、コエンマのいる居間へ蔵馬を通した幻海。
「よォ」
「ご無沙汰してます」
短く挨拶を交わすコエンマと蔵馬。
幻海の計らいにより、久しぶりの対面となった二人だった。
「またあいつら妖力が上がったぞ。そろそろ結界を強化せんと霊界にバレるな」
予想をはるかに凌ぐペースで六人は成長しており、霊界の目を欺くため張っている結界の効力は追いつかなくなっていた。
「それにしても蔵馬、何を企んでいるんだ」
雷禅、軀、黄泉が互いに牽制し合うことで辛うじて平静を保っていた魔界。
しかし近いうち必ず訪れる雷禅の死で、黄泉と軀の対決は避けられず魔界の情勢は大きく変わることになるだろう。
蔵馬がその時どう動くのか、今どんな策略をそのよく切れる頭で巡らせているのか、コエンマには分からなかった。
「魔界の均衡を保つためですよ。ひいては霊界や人間界のためです」
六人を育てているのは…
もっと言えば、“あの”六人を蔵馬が育てているのには深い意味がある。
蔵馬が最も重要視したのが人選だった。
妖力値の飛躍が見込める伸びしろと器を兼ね備えているのはもちろんのこと、いざという時に幽助側に寝返るであろう者たちが蔵馬の選んだ六人だ。
その時には妖力値10万以上をクリアし、六人は黄泉軍への対抗勢力として十分な強さを身に付けているだろうと蔵馬は読んでいる。
六人にはあくまで武術会で戦った幽助に雪辱を果たすため集まったことにしてくれと、既に根回ししていた。
蔵馬なりに幽助と戦ってみたい気持ちはある。
けれど。
“悪いようにはならない”
そう信じて疑わなかった未来の言葉を、想いを叶えてやりたい。
今の蔵馬の中でその気持ちが一番大きく、何よりも勝っていた。
未来が信じた四人の絆を守るために、現在は黄泉軍側にいる蔵馬の立場で可能な策の一つが六人を育てることだったのだ。
飛影に関しては、有事に幽助ではなく軀を選ぶことは考えにくいので余計な懸念はしていない。
「まさかお前が第三勢力になるつもりか」
「わかりません。幽助の出方次第ですね」
幽助がどう動くかによって、蔵馬の動きも変わる。
先の読めない幽助の行動を、蔵馬は楽しみにもしていた。
「望まざる戦いに思えたが、お互い合意の上なのか」
「なれあいより刺激を。そんな関係みたいです」
「不思議な関係だな。まあ、そんなお前らの関係が未来は好きだったのだろうな」
懐かしむように、目を細めたコエンマ。
三人が敵同士になると知って未来が斜め上のズレた反応をしたと、コエンマも桑原から聞いて知っていた。
「ワシも未来を信じてみたいと思う。悪いようにはならんとな」
未来がそうだったように、憂う必要はないのだとコエンマは改めて実感する。
「微力にしかならんだろうが、ワシも出来るだけのことはする。お前は自分のしたいようにやるといい。六人が魔界に行く時はワシに任せろ」
「ありがとうございます」
無条件に信頼し、背中を押してくれる人の存在が、どれだけありがたいことか。
蔵馬がぺこりと頭を下げれば、コエンマが首を横に振る。
「礼には及ばん。未来がおったら言ったであろうと思うことをワシが代弁したまでだ。ヤツも絶対にお前の力になりたいと思ったはずだからな」
そう言って微笑んだコエンマに、蔵馬はまた感謝する。
こんなにあたたかく和やかな気持ちになるのも、かなり久しぶりだった。
***
コエンマと蔵馬が会話している頃、稽古場では六人の妖怪が激しい特訓に汗を流していた。
「なあ、今日は人間界では“クリスマスイブ”っつー日らしいべ!?」
修行の合間の休憩中、突拍子もなく思い出し、その元気な声で叫んだのは風使い・陣。
「オイラも聞いたぜ!ケーキとかご馳走食べる日で、いい子にしてた子供はサンタってジイサンからプレゼントもらえるんだってさ」
「だっはっは!じゃあ年中悪さしてる鈴駒はプレゼントもらえねーな!」
「なんだと酎~!?」
「いでででホレ見ろ!どうしようもねー悪ガキじゃねーか!」
耳たぶを思いっきり鈴駒に引っ張られ、喚く酎である。
「まあ、今日がどんな日だろうがオイラたちには関係ないよなァ」
日々修行に明け暮れる自分たちにイベントなんて無縁だと、遠い目をした鈴駒が肩を落とす。
「ケッ。どうせ今日も夕飯はあの不味い薬草だろうな」
「ケーキやご馳走など夢のまた夢だ…」
子鬼姿の死々若丸を肩に乗せた鈴木が、腕で涙を拭く仕草をした。
「毎日草じゃひもじいべ…」
「カーッ!今日くらい酒が飲みてー!」
ぐるると陣の大きな腹の音が鳴り、禁酒中の酎が頭を掻きむしる。
「まあまあ。三月までに妖力値10万越えを達成できると考えれば、こんな我慢どうってことないだろう」
強くなりたい!という気持ちが人一倍強い彼ら。
凍矢の台詞に他五人も納得し、そうだよなと頷く。
「でもさー、未来がいたらケーキとか作ってくれて楽しかったかもしれないよね!」
暗黒武術会で出会った彼女を懐かしそうに思い出し、鈴駒がひょうきんに笑う。
「オイラたちと入れ違いに帰っちゃったけど、未来もここに居候してたんでしょ?あーあ、未来がいてくれたらなあ」
「あいつ祭ごと好きそうだべ。未来がいたら絶対楽しかったっちゃ!」
「賑やかだっただろうな」
陣も凍矢も、口々に同意した。
「男六人、むさくるしい修行の毎日も未来がいたら華やぐもんだぜ。お疲れ様!ってレモンの蜂蜜漬け差し入れしてくれてよォ」
「甲子園の土を集めるオレを、鈴木が頑張ってたの知ってるよ!ときっと未来は励ましてくれただろう…」
「ああー!未来がいてくれたらやる気アップ!ノーヒットノーランだって夢じゃなかった!」
「いや、完全試合だって達成だ!未来の応援があれば…!」
「いつから高校球児になった貴様ら」
本気で悔しがる酎と鈴木に、白い目を向け死々若丸が冷たくツッコむ。
「フン、オレはあの五月蠅いバカ女がいなくてせいせいしてるがな」
「とかなんとか言って死々若、一番未来がいなくて寂しがってるのはお前なんじゃないのか?」
ニヤニヤする口元を隠そうともせず、鈴木が死々若丸をからかう。
「笑えん冗談はやめろ」
「いやいやだって死々若、絶対未来のこと気になってただろ?素直じゃないや…ブホォ!!」
最後まで言い切る前に、瞬時に青年姿に戻った死々若丸が鈴木を張り倒していた。
床に伸びた鈴木を踏みつけると、スタスタ戸の方へ向かう死々若丸。
「死々若、どこ行くんだ?」
「便所だ」
凍矢に告げると、死々若丸は稽古場を後にした。
「おーい鈴木、大丈夫け?」
死々若丸から理不尽な暴力を受けた鈴木の身体を、陣が起こしてやる。
「なんだなんだ、死々若は未来に惚れてたのか?」
「気持ちは分かるべ。未来はめんこいもんな!」
酎が鈴木を問い詰めれば、ニカッと陣が笑う。
「惚れていたかは微妙だが、興味は持っていたと思うぞ。同チームだったオレが言うんだから間違いない」
「ん~、まあ本気で惚れてたら武術会で別れてそのまんまにしねーもんなァ」
「つまり惚れてはないけど、気に入ってたってことだろうね」
死々若丸の胸中を勝手に結論づける酎と鈴駒であるが、あながち間違ってはいないだろう。
「そうかもしれないな。武術会の時の死々若は何かと気が多かった…」
「未来の他にも死々若が気に入った女がいたのか!?」
一体それは誰なのかと、興味津々の酎が身を乗り出す。
「お前たちもよく知っている奴だぞ」
「もったいぶらずに早く言えよ!」
「フ…待て待て。そんなに逸るな。せっかちな男は女にモテんぞ」
急かす鈴駒を、手の平で制止する鈴木。
いい男気取りなのが鼻につく。
「その女性の名は…幻海師範だ!!」
「! げ…」
二の句が継げない鈴駒、酎、陣、凍矢ら一同。
「死々若が幻海との試合の後、医務室でポロッと口を滑らせたんだ。惚れてたかもな…と」
目を伏せ語った鈴木は、唖然とする四人に気づいていない。
「お、そろそろ休憩時間終わりだな。オレも急いでトイレに行ってくる!」
多大な衝撃を受けている四人を残し、尿意を感じた鈴木は稽古場を去っていく。
「死々若…さすがだ。モテる男ってのは守備範囲広いんだな」
「いや違う!そうか、分かったぞ!」
何故か感心している酎の横で、コテリン!という効果音と共に閃いたのは鈴駒。
「死々若のストライクゾーンはかなり狭いんだ!おそらく人間で例えれば70代それも前半に限る!あんなにモテるのに彼女がいない理由はそれだよ!」
「なるほど!じゃあ鈴木の前で未来に惚れた素振りをしていたのは…!?」
「カモフラージュさ。鈴木、まんまと騙されたね」
どこから持ち出したのか眼鏡と蝶ネクタイをつけ、某小学生探偵ばりの名推理を披露する鈴駒である。
「そうだったのけ…。ちょっとオレには理解できねー世界だっちゃ。死々若の見る目変わっちまうべ」
ドン引きしている様子の陣が、やっと口を開いた。
「陣!そんなこと言ってやるな。誰にだって秘密の一つや二つあっても不思議じゃない。死々若は、たまたまそれが他人に理解されにくい性癖だったというだけだ」
陣を窘める凍矢だが、いまいち死々若丸をフォローしきれていない。
「鈴木によって間接的にバレてしまったが、死々若はオレたちに知られたくなかったかもしれない。このことは各自胸に秘めて、今後も変わらない態度で死々若と接しよう」
「そうだな。あいつプライド高いし」
「それが仲間ってもんだべな!」
「からかったりしたら可哀想だもんな」
凍矢の提案に、他三人もうんうんと頷き同意する。
美しく、熱い友情がそこにあった。
「あ!死々若!おかえり!」
戻ってきた死々若丸に、トコトコと鈴駒が駆け寄る。
「お前がどんなでも、オレたちは同じ目標に向かって邁進する仲間だ!」
「死々若、これからも一緒に頑張っていくべ!」
「なんだ貴様ら!鬱陶しい!」
突然やけに馴れ馴れしくなり、肩を組んできた酎と陣を死々若丸は気味悪がる。
“若い姿の”幻海師範と鈴木が言い忘れたせいで、本人の意にそぐわず熟女好きのレッテルを貼られてしまった死々若丸なのであった。