Ⅳ 魔界編
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✴︎84✴︎微笑みの爆弾
連れてこられたのは個室の居酒屋。
未来の両隣に幽助と蔵馬、向かいに桑原と飛影が座っている。
「みんないつの間に計画してたの~?師範とコエンマ様も知ってたみたいだし…ビックリしたよ!」
「さあな~、桑原発案とだけ言っておくぜ」
突然のサプライズに驚く未来が聞けば、メニューを眺めつつ幽助が答える。
「桑ちゃんが?」
「ま、優勝の打ち上げを口実にした未来ちゃんの見送り会だな!」
「そっか…ありがとね、桑ちゃん!」
別れの前に五人で集まる機会をもらえたことが、未来はとても嬉しかった。
「おい桑原、オレの見送り会は兼ねてねーのかよ」
「はんっ!浦飯の見送り会なんか誰がするか!勝手に一人でやってろ」
「ああ!?テキーラストレートでしこたま飲ませんぞコラ」
「あ、お酒はダメだよ!てかどう見ても私たち未成年だし出してもらえないでしょ」
「オレが一睨みきかせれば問題ないぜ。それにこっちには老け顔の桑原がいるからな」
「誰が老け顔だ浦飯ィ!」
「ちょっと、ここお店!」
机を挟んで幽助の胸倉を掴んだ桑原に、未来は仲裁に入りつつも半笑いだ。
出会ったばかりの頃なら、喧嘩っ早い不良のやり取りに怯えハラハラしていたかもしれない。
けれど四人との絆がある今は、彼らの小さな諍いにも動じなくなっていた。
「まあまあ、二人共抑えて。桑原くんの内申にも響くし今日はソフトドリンクにしましょうか」
「そうだね!学校にバレたら困るのは桑ちゃんと蔵馬なんだから。幽助は無問題でもさ」
「…わーったよ」
蔵馬と未来の言葉で、幽助も渋々納得する。
「アルコールでこれ以上飛影の背が伸びなくなっても困るしな!」
「なんだと?」
間髪入れず、次は桑原と飛影の間で喧嘩が勃発しそうになる。
「はいはい、その辺にして早く注文しようか」
一触即発の二人の間に蔵馬が有無を言わさずメニュー表を差し出し、ひとまずその場は収束した。
(この四人、蔵馬がいなかったらどうなっちゃうんだろ…)
黒龍波やら霊丸やらが飛び交いあっという間に丸焦げになった店を想像して、苦笑いの未来である。
「未来は何がいい?」
蔵馬が隣の未来にメニュー表を広げて見せる。
「う~ん、あ、私たこわさ食べたい!」
「……了解です」
「何今の間?」
意外にオッサンぽいチョイスだなと思うも口には出さなかった蔵馬。
「未来が乾杯の音頭とれよ」
「私!?なんで?大将の幽助がやりなよ」
「じゃ、大将命令でやれ未来」
注文をし終えるとまず先にドリンクが運ばれ、幽助が未来に命じる。
「…では、暗黒武術会の優勝と皆の健闘に~」
慣れない音頭に若干照れつつも、未来がコップを掲げて。
「「「「乾杯!」」」」
二ヶ月ごしの打ち上げは幕を開けたのだった。
「武術会からもう二か月か~」
フライドポテトをつまみながら、呟いたのは未来だ。
「皆と会ってからは、もう五か月経つんだね」
「あの台詞忘れられねーよな、美少女くらまちゃん~」
「あー!幽助!それ言わないで!」
「そういえば未来ちゃん、最初蔵馬のこと女だと思ってたよな」
「つくづくふざけた奴だぜ」
焦る未来の傍ら、桑原も飛影もニヤニヤ口元に笑みを浮かべている。
「く、蔵馬、怒った?」
「怒ってないってば」
少々機嫌を損ねた蔵馬だったが、恐る恐るこちらの反応を伺う未来の様子が面白く、クスッと優しく微笑む。
「よかった~。あの時、蔵馬怖かったもん。鞭を鳴らしたのも私への敵意の表れかと思ったし」
「あん時の蔵馬のオーラ黒かったよな」
「そんなつもりはなかったけど」
「迷宮城かー…白虎の野郎はしぶとかったな」
「朱雀も手強かったぜ。蔵馬や飛影の戦った奴は何て名前だったっけ?」
「たしかオレは玄武、飛影は青龍でしたよ」
「一瞬のうちに16回切って、飛影が青龍を倒してたよね。かなり衝撃的だったから覚えてる!」
「そうだったか?」
「飛影、倒した本人なのに覚えてないの?」
全てはあの日から始まったのだ。
迷宮城での戦いを振り返る彼らの話題は尽きず、あたたかく和やかな空気が場を包む。
(初めて会った時は、皆とこんなに仲良くなれるなんて想像もしてなかった)
わけもわからぬうちに連れてこられた迷宮城。
垂金の別荘での雪菜救出戦。
暗黒武術会では優勝商品になってしまって。
仙水との戦いでは命まで落とした。
今となっては大切な宝物となった激動の日々を、未来は慈しむように思い返す。
「迷宮城ではさ、皆知り合ったばかりでバラバラだったけど…今はすっかり“チーム”って感じだよね」
「あ、飛影テメー、それオレの分!!」
言ってるそばから、喧嘩を始める桑原と飛影。
どうやら桑原が後で食べようと残していた唐揚げを飛影が食べたらしい。
「チーム…?」
ぎゃんぎゃん騒ぎ諍いを起こしている二人に疑惑の目を向ける幽助。
「ま、まあ桑ちゃんと飛影の喧嘩は浦飯チームの風物詩というか…」
「恒例行事ですね」
「こいつら迷宮城の時から変わってねーな」
「ん?何笑ってんだよ」
初対面時にいがみ合って以来、全く変わらないその関係性にクスクス三人が笑っていると、桑原が訝しむ。
「桑ちゃんと飛影の喧嘩は、見てて安心するってこと!」
「「安心??」」
本人たちの意に介さずハモった桑原と飛影に、他三人はさらなる笑いの渦へと飲み込まれた。
「すごい!ピッタリだったよ!」
「仲が良いんだか悪いんだか…」
「今表情から仕草まで丸かぶりだったぞオメーら!」
腹を抱えて爆笑する三人の脳内が理解できず、置いてきぼりの桑原と飛影は全く意味が分からないという表情で顔を見合わせた。
「テメーら、笑いすぎだぞ」
「何がそんなに可笑しいんだ」
二人とも、喧嘩の真っ最中であったことはすっかり忘れている。
(…楽しいなあ)
笑いながら、しみじみと思う未来。
楽しい。
全ての瞬間が。
この四人と一緒に過ごす今の時が、全部。
(大好き)
幽助も。
桑ちゃんも。
蔵馬も。
飛影も。
大好き!!!
照れくさくて言えなかったけれど、未来がずっと心から思っていたことだった。
***
楽しい時はあっという間に過ぎる。
今現在個室にいるのは、男性陣のみ。
そろそろ店を出る時間となり、洗面所へ行った未来を待っているのである。
「なんか実感わかねーけど…ほんとに行っちまうんだな、未来ちゃん」
椅子にもたれかかり、桑原が宙を見上げ呟く。
「あとついでに浦飯」
「ついでとはなんだついでとは」
「幽助」
桑原からぞんざいな扱いを受ける幽助に、呼びかけたのは飛影だ。
「オレも今日魔界へ行く。軀の元にな」
その台詞が幽助や桑原へ与えた衝撃とは裏腹に、飛影はさらりと告げた。
「蔵馬。貴様は行かないのか?」
「さすがにこんな急には行きませんよ」
「全然話が読めねー」
「おいおいどういうことだ!?」
寝耳に水の二人に、事の次第を蔵馬が説明する。
「見損なったぜ、オメーら。これ幸いと声かけてきた妖怪ンとこ行くのかよ」
驚きつつも受け入れた幽助と違い、怒ったのは桑原だった。
「結局一緒だ。テメーら戸愚呂や仙水と変わらねー!戦えれば立ってる位置はどっちでもいいってわけだ!いいやポリシーがない分あいつらよりタチが悪い!」
幽助に続き、魔界行きを決めた蔵馬と飛影。
それは、互いが敵になることを意味する。
三人はそれぞれ、敵対する魔界の三大妖怪の元へと行くのだから。
「いいか、未来ちゃんには絶対言うなよ!?最後に悲しませて心配させたまま帰らせたくねーだろ、オメーらも」
「どうしたの?」
怒りに身体を震わせ捲し立てていた桑原も、幽助や蔵馬、飛影も振り返る。
「私にできない話って…?」
「いや、未来、別に何も…」
「言って」
取り繕おうとした幽助だったが、珍しく強い口調の未来に誤魔化しはきかないと観念した。
「三大妖怪がいるって前に話したろ?雷禅、黄泉、軀の」
「うん。雷禅が幽助のお父さんで、今日会いに行くんだよね」
「ああ。そんで蔵馬が黄泉、飛影が軀んとこにスカウト受けて行くんだと」
驚きでしばしの間、目を見開きっぱなしの未来だったが。
「…………すごい」
てっきりショックを受けるかと思いきや、キラキラ瞳を輝かせている未来にギョッとする幽助ら一同。
「すごいじゃん蔵馬、飛影!魔界の三大妖怪ってものすごく強いんでしょ!?その二人から見初められたんだ!」
「見初められたって…嫌な言い方しますね、未来」
ぞわりとした寒気に襲われた蔵馬である。
「蔵馬と飛影の強さが認められたってことだよ!おめでとう!」
「飛影はそうだろうが、オレはちょっと違うかな。黄泉は昔率いていた盗賊団の部下で、借りがあるんだ」
「え、昔の仲間がすごい出世してたってこと!?それは仲良くしとくべきだよ、蔵馬!人脈とコネは大事だからね」
「未来ちゃん、いいのか!?こいつら敵同士になるんだぞ!?」
斜め上のズレた反応をみせた未来に、ズッコケる桑原。
「そうなの??」
「安心しろ。軀につく気はない」
未来が疑問符を浮かべれば、飛影が言い切った。
「軀のところに行けば戦闘には不自由しないからな。せいぜい利用してやるぜ」
「ほら、飛影もこう言ってるし!軀につく気ないって」
「いや、いくら飛影がそう思っててもよ、情勢的に戦わざるをえない場面になるかもしれねーぞ?」
どこまでも楽観的な未来に脱力し、怒る気も失った桑原が静かにツッコむ。
「まあきっと大丈夫だよ。なんとかなるさ」
桑原の最もな正論を聞いてもなお、全くブレない未来。
耐えきれず、幽助と蔵馬が吹き出した。
「まったく、笑わせてくれるよな」
「未来らしいというか」
小さく肩を震わせて笑う幽助と蔵馬。
つい先ほどまでの張りつめた空気は、まるで嘘だったかのように消えていた。
「なんか未来ちゃんが言うなら大丈夫な気がしてきたぜ」
根拠のない謎の自信を持った未来の主張に、怒りに燃えていた桑原も呆れつつ懐柔される。
「本当にね、不思議だけど…大丈夫って思えるんだよ」
あたたかく優しい声色でポツリとこぼした未来に、皆の注目が集まる。
「もし皆が敵として戦うことになっても…絶対、悪いようにはならないって」
迷宮城での出会いから今日まで四人と過ごし、未来はそう強く確信することができた。
「これ皆にあげる」
バッグから取り出した写真を、一枚ずつ皆へ配る未来。
未来が渡したのは、一昨日の魔界の穴事件の打ち上げで撮った写真だった。
そっぽを向いた飛影の肩に手を置いて微笑む未来。
真ん中には腕を組んだ幽助、その隣に蔵馬。
最背列の桑原はワカチコポーズを決めている。
「…良い写真だね」
しばらく無言で写真を見つめ、しみじみと述べたのは蔵馬だ。
眺めているだけで、胸の内があたたかくなる写真だった。
「でしょ?この写真眺めてるとね、悪いようにはならない、なるわけないって思えるんだ」
表面上は敵同士になっても、皆の絆が壊れはしない。
戦うことになったとしても、悲惨な展開になるはずがない。
「四人とも頑張ってね。離れたとこからでもいつも応援してるよ!」
べたべたと馴れ合いはせず、ひたむきに刺激と強さを求め、深いところで繋がっている。
選択した道がバラバラなのも、浦飯チームらしくて好きだ。
「幽助と蔵馬、飛影はそれぞれ置かれた場所で強さ磨いて、桑ちゃんは目指せ骸工大付属!」
「い!?未来ちゃんなんでそれ知って…」
「静流さんから聞いた!」
「帰ってきたらいの一番に結果見てくるぜ。首席で合格してたら街中土下座で舟唄歌ってやるよ」
幽助が桑原の肩に腕を回し、彼なりのハッパをかける。
「未来も元気でな」
「うん!私も頑張るよ。来年は受験生だし、勉強も、他のことも…色々」
四人を見ていると、自分も頑張らなくてはという気持ちになったから。
「飛影、軀のとこでくれぐれも失礼ないようにね!」
「未来、そんな忠告飛影にしても無駄だぜ」
「たしかに」
飛影に居場所が出来たことを喜びつつ、新しい環境で彼が上手く馴染めるか少し不安がる未来。
まあ、幽助の言うとおり飛影にそんな助言は馬耳東風であろう。
どんな環境であれ、飛影はこれからも彼らしくやっていくはずだ。
ひとしきり笑い合うと、幽助と未来、飛影の出発の時間が近づき五人は帰路につく。
幻海邸までの道中、世間話をして談笑する五人。
まるでまた明日も会えるみたいな顔をして。
それは普段と変わらない日常を切り取ったかのような一場面で、別れがすぐそこまで迫っているとはとても思えないものだった。
そういう時間の過ごし方を、皆が自然と欲していたのかもしれない。
***
幻海邸には霊界特防隊、そして一昨日の打ち上げに集まった者たちが見送りのため再び集結していた。
「未来さん、これを受け取って下さい」
雪菜が未来へ渡したのは、薄ピンク色の紐で結ばれた、水色のまばゆい光りを放つ石だった。
「私の涙で出来た氷泪石です。紐をつけてネックレスにしました」
命の恩人である未来への餞別に、雪菜は自分の氷泪石を選んだのだ。
「雪菜ちゃん、ありがとう!大切にするね」
感激する未来が、さっそく首から石を下げる。
「本当に綺麗…不思議な石だね。眺めていると心が落ち着くよ」
雪菜ら女性陣とは抱擁を、男性陣とは握手を交わし、笑顔で感謝の言葉を一人一人へ告げていく未来。
「幽助、元気でね」
「おう」
「桑ちゃんも!健康第一!」
「あったりめえよ!」
短い挨拶のみで、余計な言葉はいらなかった。
交わした握手で、互いの想いは十分に伝わったから。
「未来、元気で。今までありがとう」
「蔵馬もね……」
そうして次に蔵馬と握手した未来なのだが、何やら様子がおかしい。
しばらく迷ったように俯いて、けれど意を決したのか真っ直ぐ蔵馬を見つめて。
「未来?」
小首を傾げたと同時、繋いでいた手をぐいっと未来に引っ張られ、前のめりになる蔵馬。
ちゅ、と頬に押し付けられた柔らかく温かい感触に、全ての思考が停止する。
それが未来の唇だと理解した時には、顔を真っ赤にした彼女が目の前にいた。
「昨日のお礼…」
そう述べるだけで精一杯の未来。
返事ができなかった代わりとしてはなんだが、身体中の勇気を振り絞った未来は蔵馬を引き寄せ、彼の頬にキスをしたのだ。
「蔵馬ー?おーい」
思いがけない未来の行動に、固まっている蔵馬の顔の前で手を振る幽助。
呆然としていた蔵馬は、参ったように片手で顔を覆って。
(可愛すぎるよ、未来)
たかが頬への口づけに、骨抜きにされてしまった妖狐蔵馬がいたのだった。
「未来ちゃん!飛影にもチューしてやれ!」
強引に飛影の背中を押し、未来と向かい合わせたのは桑原だ。
「貴様、ふざけるな…」
「協力するって言ったろ?テメーが素直にチューしてほしいですなんて言えるわけねーからよ」
狼狽える飛影に、小声で桑原が耳打ちする。
「飛影、いいの?」
「なっ…いや…」
しどろもどろになる飛影からの返事を待たずして、今度は少しかがんで未来がチュッと彼の頬にキスをした。
「握手も!」
気恥ずかしさを誤魔化すように、未来が飛影の手を握りブンブンと縦に振る。
人間、最後だと思えば大胆な行動も取れるのだな…と未来は照れながら自分を俯瞰していた。
「よかったな~、飛影」
冷やかす桑原からプイッと顔をそむけた飛影だったが、真っ赤になった耳で彼の胸中はバレバレなのだった。
「幽助と桑原にはキスしてやらんのか?」
面白がってコエンマが未来を小突く。
「するわけないですよ!幽助には螢子ちゃんが、桑ちゃんには雪菜ちゃんがいますから」
それを聞いてホッとした表情になった螢子を、未来は見逃さなかった。
「あーあ、心残りは螢子ちゃんと幽助の結婚式に出れないことだな~」
「未来さん!?結婚なんてそんな」
「幽助が螢子ちゃんにプロポーズしたの、私はこの目で見たもん。結婚しようって言ってたよね?」
「えー!そうなのかい!?」
真偽を明らかにするべく、興奮気味のぼたんが幽助に詰め寄る。
「ああ。言ったぜ」
言い方はぶっきらぼうだったけれど、ハッキリ肯定した幽助。
もう一度プロポーズされたようで、照れやら恥ずかしさやら、そしていっぱいの嬉しさが螢子の胸にあふれる。
(今までもこれからも、ほかの誰かの存在に不安になる必要なんてないよ)
心の中で螢子へ語りかけた未来。
幽助の芯には螢子がいる。
螢子が好きだという気持ちは、何があっても幽助の中で揺るがないと確信できるから。
「蔵馬のお母さんの結婚式も、出れたらよかったな。おめでとうって伝えてね」
「ああ。未来、ありがとう」
「準備は完了した。出発するぞ」
霊界特防隊が未来の元いた世界へと繋ぐ穴を完成させ、ついに別れの時が言い渡される。
幽助と飛影より先に、まず最初に未来が人間界を去ることになっていた。
「じゃあ、皆…バイバイ」
荷物を背負い、まさに暗い穴の中へ飛び込まんとする未来は、とびきりの笑顔になって。
「大好き!」
ずっと、ずーっと大切に抱いていた気持ちを、やっと口にすることができたね。
くるっと背を向け、未来は穴の中へ飛び込んだ。
(よかった。私、泣かなかった。泣かなかったよ!)
我慢していた涙が、ぼろぼろと未来の頬を伝う。
最後の一日、皆の前で笑顔でいようと未来は決めていたのだ。
「未来……」
霊界特防隊が穴を閉じた後も、浦飯チームの面々は未来の幸福だけを祈り、彼女が消えた辺りをしばらくじっと見つめていた。
同じ景色を隣で見ることは、たしかに魅力的だけれど。
遠く離れていても。
バラバラの選択をしても。
もう会うことが叶わなくても。
悲しみにくれる時や、挫けそうな時に奮い立たせてくれるのは、きっと心の中のあなた。
欲張りになっていいのなら…
五本道に分かれたそれぞれの未来が、いつか回り回って繋がったら素敵だな。
なんて願いを、性懲りもなく秘めていたりもする。
もしかしたら訪れるかもしれないその時までは、お互い自分の選んだ道を前進あるのみ。
順風満帆にいくとは限らないし、途方もなく高い壁が待ち受けているかもしれないね。
でもね、頑張れる自信があるんだ。
メチャメチャ苦しい壁だって、ふいになぜかぶち壊す勇気とPOWER湧いてくるのは…
メチャメチャ大好きなあなたが、今もどこかであなたらしく生きていると信じてるから!