Ⅳ 魔界編
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✴︎81✴︎別れの足音
翌朝、未来が起きた時にはもう既に飛影は外出していた。近くの森にでも行っているのだろう。
土曜日の今日は、幻海邸で魔界の穴事件のお疲れ様会が夜から開かれる予定だ。
昨日の蔵馬のこと。飛影のこと。
なるべく考えないように、未来は朝から家事とお疲れ様会の準備に勤しんでいた。
お疲れ様会と称した打ち上げは持ち寄りパーティーで、各自が料理を用意し持ってくることになっている。
未来と雪菜は飲み物や紙皿の買い出しに行ったり、ピザや寿司の出前を頼んだりと夕方まで忙しく過ごした。
ようやく一息ついた時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。
「もう誰か来たんでしょうか」
「それにしては早いね。私出てくる!」
リビングに雪菜を残し、未来が玄関の戸を開けると。
「コエンマ様!」
「しばらくぶりだな、未来」
立っていたのはスラリと背の高く、端正な顔立ちの青年・コエンマだった。
今日はおしゃぶりをしておらず、額のJrの文字も隠しているので、黙っていればただのイケメンである。
「どうしたんですか?まだ打ち上げの時間には早いですよ」
「打ち上げの前に未来と二人で話したくてな。ま、つまるところデートの誘いだ」
ハッハッハと笑うコエンマは冗談で言っているようにしか見えず、彼の真意が未来は読めない。
「おや、実は四角関係だったのかい」
「おお、幻海。少し未来を借りてもいいか?」
「あたしは全く構わないよ」
幻海の謎な発言に疑問符を浮かべる未来を置いて、二人は話を進めていってしまう。
「さ、幻海の了承も得たし行こう未来」
「え、ええ~!?」
強引にコエンマから背中を押され、一緒にデート?に繰り出す未来なのだった。
そうして連れて来られた落ち着いた内装の、シックでおしゃれな店内にて。
(コエンマ様の話って何だろう)
向かいのコエンマを訝し気に見つめつつ、アイスティーに口をつける未来。
コエンマと未来は、近くの喫茶店に入っていた。
「幽助が魔界へ行くという話は聞いたか?」
「はい。知っているのは私と螢子ちゃんくらいだと思います。コエンマ様もご存知だったんですね」
皆には打ち上げの時に本人の口から話すとのことだったため、幽助が魔界へ旅立つことを誰にも未来は言っていなかった。
「ああ。幽助が魔界へ行く穴は霊界特防隊が開ける予定だからな。明後日、月曜日の夜11時半に決行される」
「そうなんですか…寂しくなりますね」
幽助は三年間、魔界へ行ってしまうのだ。遺伝上の父親である、雷禅の国へと。
「そこで、急な話で申し訳ないのだが…幽助と同じ日に、未来を元の世界に帰すことが霊界で決定した」
いつか来るとは覚悟していたその日を、あまりにも唐突に告げられた未来。頭が真っ白になった。
「未来?大丈夫か?」
反応を見せない未来を、心配するコエンマ。
未来が動揺するのも無理はないと、申し訳ない気持ちでコエンマはいた。あまりにも唐突で急な話だったから。
「あっ…はい。ちょっとビックリしちゃって」
未来は心を落ち着かせる意味も込め、ストローを咥え残りのアイスティーを飲み干す。
「私の元いた世界が見つかったってことは武術会の後に聞いてましたけど、もう私を帰すためのエネルギーが貯まったんですね。こんなに早いとは予想外でした」
「いや、実は貯まっていないのだ」
「え?」
小首を傾げる未来の前に、コエンマはポケットからおしゃぶりを出して見せる。
「魔封環だ。天沼を生き返すために少し霊力を消費したが、まだ未来を帰せるだけの量は残っている」
「そんな大事なもの、私を帰すために使ってもいいんですか?」
コエンマが暗黒期のために何百年も貯蓄していた霊力。
それを使用してまで己を元の世界に帰すと申し出てくれた霊界を、未来は不審に思う。
「実は、霊界は幽助と未来を人間界から追い出したいと考えておるのだ」
非常に言いにくそうに述べたコエンマだったが、その内容に未来はあまり驚かなかった。
「魔族大隔世で復活して、特防隊の人に殺されそうになったくらいですからね。まだ霊界の人には快く思われていなかったんだ…」
魔族大隔世で覚醒した妖怪は邪悪だという定説を、霊界上層部の者たちは信じて疑っていないのだ。
「霊界上層部は幽助を魔界へ追い出すのを機に、ワシの魔封環を使ってまで未来を元の世界に戻す選択を迫ってきた。ワシも忍の件では好き勝手動いてしまったからの…拒否は難しかった」
表面上はお咎めなしとなったが、上層部の命に背いて魔界の穴事件の際に行動したコエンマの、霊界での立場は日に日に悪いものとなっていた。
「霊界の殺手から逃げるためにも、未来はここを去るべきだとワシも思う。霊界は幽助と未来の抹殺命令を取り下げていないからな。幽助からの報復を恐れて今は特防隊も大人しくしておるが…」
しかし、幽助が魔界に行った後なら話は違う。
霊界が未来を抹殺しようとするだろうと、コエンマは危惧している。
「抹殺…」
想像以上に霊界の自分を見る目は冷ややかだったのだと知り、呆然と未来はその恐ろしい単語を復唱する。
魔族大隔世で復活した後も、以前と変わらない平和な日々が戻ってきたと思っていたが、それは勘違いも甚だしい錯覚だった。
未来は幽助の存在に守られていたのだ。
彼が魔界へ行けば、その庇護もなくなってしまう。
「これは霊界からの“命令”ってことですよね。早くこの世界から消えろって」
元の世界に帰ることは強制で拒否する余地はなく、己に決定権はないのだと未来は悟る。
もし断れば、その先に待っているのは死だ。霊界特防隊が未来を殺しに来るだろう。
「ま、帰ったところで何かの拍子にまた私トリップしちゃうかもしれませんね!」
希望を秘めて冗談めかしく笑って言った未来だったが、晴れないコエンマの表情から自分の楽観的な考えは叶わないのだと察する。
「その可能性は低いだろうな。霊界は今以上に亜空間の結界を強める予定だ。二度と未来や異世界の者の侵入を許さないように」
つまり、幽助たちとも今生の別れとなる。
「そんな…」
「すまない」
愕然とする未来だが、頭を下げて謝罪するコエンマの姿にハッとし急いで首を横に振る。
「コエンマ様が謝る必要ないです!私にとっても良い話なんです。早く家族や友達に会いたいし、高校生活に戻りたかったんですから」
嘘ではなかった。
復学するには早ければ早いほどありがたく、帰れるなんてありがたい話なのだ。
「皆に会えなくなるのは悲しいです。でもこれが自然な形なんです。私が望んでいたことなんです」
元の世界に帰る。元の生活に戻る。
未来がずっと願っていたことのはずだった。
「だから元の世界に帰してくださる霊界の方々には本当に感謝しています。それに…私、これ以上親不孝したくないんです」
ふと、入魔洞窟での出来事を回想する。
あの時、未来は両親に申し訳ないと思いながらも死の決意をし、一度命を落とした。
親より先に死ぬなんて、最大の親不孝だ。
「早く元気な姿を見せて、家族を安心させてあげたいんです」
自分に言い聞かせているような未来に、コエンマは胸を痛める。
「よし。ならばこれを渡しておこう」
コエンマが差し出したのは、ピンク色のパワーストーンのようなものが連なったブレスレットだ。
「可愛い。何ですか、これ?」
「妖力を封じ込めるブレスレットだ。元の世界で人間として生きたいなら数年間はそれを肌身離さず身に付けるとよい。妖化を止めることができる」
「私の身体、完全に妖怪になったわけじゃなかったんですか?」
「いわば半妖みたいなものだ。未来の身体は今も刻々と妖化し続けておる。魔界で完全に妖化した幽助と違っての」
幽助は雷禅に身体を乗っ取られたことで、完全に妖化して心臓は止まり“核”が動き始めた。一瞬のうちに伸びた長髪と、刺青のような全身の模様がその証だ。
しかし、幽助のように爆発的な妖力の放出のきっかけがなかった未来は、身体が妖怪になろうとしている最中でまだ人間としての心臓が動いているのだという。
「元の世界に帰るなら、妖怪として生きるのは色々と不都合かと思ってな」
「そうですね…ありがとうございます」
寿命の差。
身体の構造の違い。
人間社会で妖怪の未来が生きるには問題が多く、ブレスレットの存在はありがたかった。
(今日、皆にお別れ告げなきゃだなあ)
さっそく左腕につけたブレスレットを見つめていると、仲間との別れを実感して未来の胸に寂しさがこみ上げる。
そして、皆と騒ぐ今日一日を精一杯楽しもうとの思いが強まるのだった。
(いっぱい、いっぱい笑うんだ)
明日の蔵馬とのデートも。
***
集合時刻が迫り、幻海邸の広間には次々と打ち上げ参加者たちが訪れていた。
「この度は私ジョルジュ早乙女までお招き頂きありがとうございます!」
「こちらこそおにぎりありがとうございました。美味しかったです」
甚く感激している様子のジュルジュ早乙女に恐縮しつつ、入魔洞窟での差し入れの礼を述べる未来。
「今日もね、あたしとジョルジュさんとでおにぎり作ってきたんだよ」
「それしか作れんからな」
「あ~~コエンマ様のいじわるっ」
コエンマに料理のレパートリーの少なさを指摘され、むくれるぼたんである。
「あたしとカズは酒持ってきたよ」
荷物持ちの桑原が両手に下げた袋には、静流の言う通り大量のアルコール飲料が入っていた。
「未来ちゃんも、これを機に飲酒デビューしちゃったら?」
「そうですね…せっかくだし飲んじゃおっかな」
「オイオイ、酎の酒であんだけ二日酔いになってたのに大丈夫かよ!?」
「さすがにあんな強いお酒は人間界にないと思うし、今日は無礼講だもん。そうだ、桑ちゃんに朗報!なんと先週から雪菜ちゃんもここで同居してるんだ」
「何ィ!?雪菜さーーん!!どこですかーー!??」
聞くが早いか、桑原は瞬時に部屋を飛び出し想い人を探すべく屋敷内を駆け巡る。
「廊下を走るんじゃないよ!」
幻海の怒鳴り声も届いていないだろう。
「雪菜ちゃん、どこ行ったんだろ?」
「買い忘れに気づいたと言ってさっき出てったよ」
雪菜から預かった伝言を、幻海は未来に告げる。
「ええ、そうなんですか?言ってくれたら付き合ったのに、一人で行かせて悪かったな…」
「桑原のヤツ、相変わらずだな」
桑原と入れ違いに現れたのは、幽助と螢子だ。
「これ、父が皆で食べなさいって作ってくれました」
「わあ、やった!嬉しい!」
螢子の父親の作る料理はどれも絶品なので、嬉しい差し入れに未来の顔もほころぶ。
また、雪村食堂へバイトを急に辞めてしまうことの詫びと挨拶に伺わなくてはと思うのだった。
「こんばんは」
透き通った蔵馬の声と共に、海藤、柳沢、城戸が続々と登場した。
「オレたちはデザートを買ってきました」
蔵馬がケーキやらアイスやらを広げ、主に甘いもの好きの女性陣から喜びの声が上がる。
「肝心なときに役に立てなくてスンマセンした」
「何言ってんだ。オメーらがいなかったら神谷は倒せなかった」
肩身を狭そうにする柳沢と城戸に、神谷を倒せたのは二人の活躍があってこそだと幽助が主張する。
「蔵馬」
ちょいちょいと蔵馬を小突き、部屋の隅に誘ったのはコエンマだ。
「何ですか?」
「いや、何か変わりはないかな~と思っての!例えばその、言霊を受け取ったとか…」
「言霊?そんなの誰からも受け取ってませんけど」
コエンマの質問の意図が分からず、蔵馬は不思議そうに首をかしげる。
「ならいい!ワシの勘違いだったかもしれん。皆の輪に戻るか」
腑に落ちない表情をしている蔵馬の背中を押しつつ、コエンマは考える。
(黄泉からの言霊はまだ蔵馬に届いておらんようだな)
要らぬ心配をかけまいと未来には言わなかったが、霊界が危険視しているのは彼女と幽助だけではなかった。
幽助、蔵馬、飛影の身柄を引き受けると魔界の三大妖怪から霊界に打診があったのだ。
(軀からの言霊はどうなのだろうか…)
今この場にいない邪眼師の彼を思い、首を捻らせるコエンマなのだった。
***
木の幹に背を預け、コロコロと手の中の球体を転がし弄ぶ。
これを受け取ってから、もう五日になるか。
「飛影さん?もう打ち上げ始まりますよ」
振り向いた先には、ビニール袋を下げた雪菜がいた。
飛影は球体をポケットにしまい、無言で雪菜から袋を奪う。
「ありがとうございます」
代わりに荷物を持ってくれた飛影に、にこりと雪菜は礼を言った。
戸惑いはしなかった。
こうしてペースを合わせゆっくりと幻海邸の階段を上ってくれる飛影のさりげない優しさに、雪菜は今までも触れてきていたから。
「未来は一緒じゃないのか」
「買い忘れた物に気づいたので、一人でパパッと買いに行ってきました。さっき見ていた丸いものは…?」
「白々しいな。妖怪のお前なら分かるだろう、魔界からの言霊だと」
とぼける雪菜に、フ、と小さく口角を上げ飛影が指摘する。
「…魔界に、戻るんですか」
「わからん」
神妙な面持ちで雪菜が問えば、飛影にしては珍しくハッキリしない答えが返ってきた。
「私も人間界が好きです。だって和真さんや、未来さんがいますから」
「一緒にするな」
私も、と述べた雪菜の言い方に飛影は眉を寄せる。
「だから悩む飛影さんの気持ち分かります」
反論を無視して雪菜が断言し、飛影は押し黙る。
飛影を迷わせているのは、他でもない未来の存在だったから。
「お前は魔界の氷河の国に戻らないのか」
「兄を見つけるまでは帰れません」
「探してどうする」
もう意味のない兄探しなんてやめろ。
そんな思いから、突き放すような口調で飛影は雪菜に問いかける。
「もしかしたら、兄からすれば迷惑な話なのかもしれません」
雪菜の言葉が飛影の胸を刺し、少し、ほんの一瞬だけ息苦しくなる。
「ただ兄に会ってみたい。それが私の兄を探す理由です」
そう告げた雪菜の笑顔の裏に、嘘の匂いを微かに嗅ぎ取る。
「…そうか」
けれど、飛影はそれ以上何も言わなかった。
階段を上り終え、広間に来た二人は未来に迎えられる。
「二人共おかえり!買い出しありがとう」
「すみません、遅れてしまって」
「雪菜さん!???」
ドドドド…と大きな足音を轟かせ、雪菜の帰宅を察知した桑原が部屋に飛び込んできた。
「雪菜さん!武術会で別れてから、一日たりとも貴女のことを忘れた日はありませんでした」
歯の浮くような台詞を吐いた後、桑原は雪菜の隣にいる飛影に気づく。
「ん?何でこのチビが雪菜さんと一緒にいるんだよ?」
「飛影も一緒に同居してるんだよ。今、うち四人暮らしなの」
「何ィ~~!??」
未来が明かした驚愕の事実に、桑原は絶叫し飛影の胸倉を掴む。
「雪菜さんと一つ屋根の下だと!?許せねえ!つーか羨ましい!今すぐテメーこの家から出てけ!」
「フン…貴様に指図される謂れはない」
「雪菜さん!コイツに何か嫌なこと言われたりされたりしてませんか!?この漢・桑原が全力をかけて貴女を守ります!雪菜さんのためなら火の中水の中…」
「か、和真さん、大丈夫ですよ。飛影さん含め皆さんとても親切にしてくださっているんです」
どこ吹く風の飛影と、まくしたてる桑原に焦って弁明する雪菜。
「桑ちゃんが心配するようなこと何もないって!だって飛影は雪菜ちゃんの…」
瞬間、じろりと鋭い視線を感じた未来は慌てて口を塞ぐ。
「雪菜さんの何だよ?」
「…何でもない」
「よし、全員揃ったし始めるとすっか!」
幽助の一声で、各自グラスを持ち掲げる。
「乾杯!!!」
皆が声を揃えたと同時、宴は始まった。
「未来ちゃん、どう?酒の味は」
日本酒片手に静流が感想を尋ねる。
「飲みやすいです!この酎ハイ、ジュースみたいで美味しくて」
「よかった!初めてだしあんまり飲み過ぎないようにね。そうそう、未来ちゃんや螢子ちゃんに聞かせたい面白い話があんのよ」
途端悪い顔になった静流は、螢子を呼び手招きする。
「螢子ちゃんはもう受ける高校決めた?」
「はい、第一女子受けようと思います」
「女子校受けるんだ!女子校楽しいよ~!頑張って!」
中高一貫の女子校に通っている未来は、受験を控えた螢子にエールを送る。
「螢子ちゃんなら受かるでしょうね!問題はあの愚弟よ。アイツ骸工大付属受けるんだってさ」
「骸工大付属って…わりと進学校ですよね」
「そうよ!日本一無謀な男が家族にいたとはね」
目を丸くして驚いている螢子の横で、カラカラと静流は笑う。
「でも本気みたいでさ、最近は夜遅くまで部屋こもって勉強してんのよ」
「なんだか桑原くんなら受かりそうな気がします」
「私も。本気だした桑ちゃんはすごいもん」
今まで何度も奇跡を起こしてきた桑原の姿を見てきた未来は、螢子に同意する。
根性と粘り強さで彼の右に出る者はいないはずだ。
「だといいんだけどね」
静流とて、弟の合格を切に願っている。
「そうだ、静流さんに螢子ちゃん、私と写真撮ってくれませんか?」
未来がカメラを取り出せば、螢子と静流は快諾する。
明後日に元の世界に帰らなければならないと知った未来は、皆と記念に写真を撮ろうとカメラを用意していたのだ。
「おーい、未来ちゃん!ちょっとこっち来てくれ!」
写真を撮り終えた未来は、桑原に呼ばれ雪菜や飛影がいる輪に合流する。
「ほんとに飛影のヤローは雪菜さんに失礼してねーだろうな?」
「あはは、大丈夫だよ!飛影、雪菜ちゃんにすっごく優しいよ?金鉄すると、いつも私いじめて雪菜ちゃんには絶対貧乏神なすりつけないし」
金太郎電鉄、略して金鉄は、ゲームバトラーと並んで巷で流行りのすごろく型テレビゲームである。
「ほ~う、飛影、好きなコはいじめたくなるタイプか?ガキだな!」
「うるさい!」
小声でからかってくるニタニタ顔の桑原に、飛影は機嫌を損ねる。
「つってもムカつくな~、雪菜さんと同居とは…。飛影!今から金鉄すんぜ!テメーを借金地獄にしてやる」
飛影への怒り、恨みを金鉄で晴らそうと思いついた桑原。
「桑原くん、協力しますよ」
そこにひょっこりと現れたのは蔵馬だ。
「よし!蔵馬、一緒に飛影を破産に追い込んでやろうぜ」
「ええ、蔵馬まで!?」
「未来と同居するなんて、オレも黙っていられないからね」
もう未来への気持ちを隠そうともしない蔵馬に、照れて俯いてしまう彼女。
「くだらん。勝手にやっとけ」
「逃がさねーぞ飛影」
立ち去ろうとした飛影の肩を組んで引き留めたのは幽助だ。
「何か知らねーがオモシロそーじゃん。オレも参加するぜ」
「よっしゃ浦飯も加担だな!」
ガッツポーズの桑原が早速ゲームを開始し、四人は金鉄に熱中していく。
なんだかんだ仲の良い彼らの様子を、少し離れたところからあたたかい目をして未来は見守っていた。
(この光景がもう見られなくなるなんて寂しいな…)
願わくば、自分が去った後もこの四人の絆が永遠に続きますようにと祈った。
***
「「あ」」
宴も終盤。酔いをさまそうと廊下に出ていた幽助は、同じく外で涼もうと退室した未来とバッタリ遭遇する。
「幽助、いつ皆に魔界に行くこと言うの?」
「そろそろ言うぜ。またオメーと会うのは三年後だな」
「そのことなんだけど…私も明後日、元の世界に帰らなくちゃいけなくなったの」
「えええええ~~!??」
絶叫したのは幽助ではなかった。
トイレに行こうとちょうど通りかかったぼたんが、二人の会話を聞いてしまったのだ。
「どうした!?」
幻海を筆頭に、ぼたんの悲鳴を聞きつけ心配した皆が集まってくる。
「未来が元の世界に帰るって…」
相当動揺している様子のぼたんが震える声で言い、皆の注目が一斉に未来に集まる。
困惑した表情で見つめられ、未来はとうとう言うべき時が来たのだと観念した。
「私も今日コエンマ様に言われて知ったんだけどね、明後日、元居た世界に帰らなくちゃいけなくなって…」
「ワシからも説明しよう」
コエンマが前に出、未来が帰ることになった経緯を語る。
「無事に帰れることになってよかったね、おめでとう」
額に手を当てている静流はまだ混乱しているようだったが、未来を祝福する。
「正直残念です。未来さんとはもっと仲良くなれそうな気がしてたから…」
「螢子ちゃん、私もだよ!」
一昨日の腹を割って話した一件から、螢子と未来はこれからもっと仲良くなれそうな予感をお互い感じていたのだ。
「うわーん、二人まとめて抱いてやるっ」
「ぼたんちゃん、ソレ男の台詞だから」
涙ぐんだぼたんが未来と螢子を抱き寄せる光景を、微笑ましく眺めつつ静流がツッコむ。
「まあ、なんつーかその…元気でな」
こういう時、上手い言葉が出てこない自分の不器用さが怨めしいと思いながら、ポツリと独り言のように幽助が告げる。
「未来ちゃん……達者でな!」
「桑原、武士じゃねーんだからよ」
幽助も桑原も、未来に何と告げたらいいか分からないのだろう。
まだ彼らの頭の整理ができていないのは、傍から見ても明らかだった。
「皆に会えなくなるのはすっごく寂しいけど、早く帰って家族を安心させてあげたいんだ」
未来がこぼした“家族”という言葉に、棒立ちになっていた蔵馬の瞳が揺れる。
「そういうことなら仕方ないですよね。早くご家族の皆さんに元気な姿を見せてあげてください」
ハンカチで涙を拭きつつ言ったジョルジュ早乙女に、皆が同意しウンウンと頷いた。
「皆、本当に今までお世話になりました。ありがとう」
「元気でね」
「今まで楽しかったよ!」
和やかな雰囲気となり、それぞれ感謝と餞別の言葉を未来に送る。
輪の中心にいた未来は、突然強く右手首を掴まれた。
「行くな」
その一言で、しん、と場に静けさが訪れる。
(ひ、えい…?)
熱く縋るような眼差しに捕らえられて動けない。
掴まれた手首から伝わる体温で飛影を感じ、ただ未来は立ち尽くすのだった。