Ⅲ 魔界の扉編
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✴︎69✴︎遊熟者-game master-
暗闇の中を、恐る恐るアカル草の明かりをたよりに進んでいく。
(怖いなあ…私お化け屋敷とか苦手なんだよー!)
今、未来は入魔洞窟内にいる。
洞窟の先を突破するには七人プレーヤーを揃えて天沼とゲームバトラーで対戦しなければならず、人数合わせのために外で待機していた幻海、海藤、未来も駆り出されたのだ。
一人置いていかれるぼたんは多少むくれていたが、ゲームバトラー未経験だから仕方ないと納得し、応援の言葉と共に皆を送り出してくれた。
「師範、ちょっと掴まらせてください…」
「なんだ未来、怖いのか?全くうっとおしいねえ」
そう言いつつも、幻海は腕に絡む未来の手を払おうとはしない。
「どうせなら蔵馬にくっついたらどうだい?」
「なんで蔵馬!?」
「未来、オレは構いませんよ」
からかうような蔵馬の声が前方から聞こえるが、その姿は見えない。
アカル草の微かな明かりだけが灯る洞窟内では、最後尾の未来は前を歩く幻海と御手洗、その前にいる海藤の姿を捉えるのがやっとだった。先頭にいる幽助や蔵馬、飛影らの姿は未来には全く見えない。
「未来、蔵馬が嫌ってんならオレでも構わねえぜ」
調子のよい幽助の声が洞窟に響く。
「…なんか蔵馬が言うとスマートなのに」
「幽助が言うと下心が見え見えだな」
「ああ!?どう考えても紳士的だろうがよ!」
未来と幻海の女性陣二人に不埒な心を見透かされ、ギクッとするも憤慨する幽助である。
そんな一幕があったりしつつ、七人は洞窟内を歩いて行く。
(うはあ、緊張する…)
未来だけではない、全員が程度に差はあれ戦いの前の緊張感を抱えており、それぞれ胸中で思うことがあったのだろう、七人は無言で暗闇を進んでいた。
まあ、未来に関してはお化けが出ないかという恐怖からの緊張が大半を占めていたが。
散々妖怪と遭遇し霊界に行ったことがあっても、やはり幽霊は怖いらしい。
(一番後ろは怖いなあ…私、真ん中に移動させてもらおうかな)
先頭を行くのは最も嫌だが、最後尾を進むのも恐怖がある。
だって、なんだか存在しないはずの誰かに後ろからポン、と肩を叩かれそうだから。
「ひっ…」
そう、こんな風に。
「きゃあああああー!!!」
「未来!?」
「どうした!?」
突然の未来の悲鳴に、蔵馬と飛影が後ろを振り返る。
「だ、誰かが私の肩を…」
誰もいないはずの後ろから何者かに両肩を触られた未来が、半泣きになって訴える。
「そこか!」
「うおおっちょっと飛影タンマタンマ!」
蔵馬が大量のアカル草を取り出せば、剣を振りかざした飛影に幽助が焦っている光景が照らし出された。
幽助はこっそり後ろにまわり、未来の両肩を叩いて彼女を驚かせたのだ。
「飛影!殺す気かよ!隣にいたオレがいなくなったんだからちょっと考えたらオレだってわかるだろ!」
「…ちっ」
未来の悲鳴に冷静な思考力を失った自分が少し恥ずかしくなり、飛影が舌打ちして剣を鞘に戻す。
「……」
実はローズウィップを取り出し戦闘態勢に入っていた蔵馬も、無言で薔薇をしまう。
それに唯一気づいていた海藤にジーっと何か言いたげな視線を送られるが、素知らぬ顔してガン無視する蔵馬である。
「な、なんだ幽助か…やめてよ!心臓止まるかと思ったんだよ!?」
「いや~こうも上手くいくとはな~。あだっ」
「バカタレ!悪ふざけが過ぎるよ!」
未来に責められるも全く悪びれる様子のない幽助だったが、幻海に頭をはたかれる。
「我々が混乱しているところを敵が狙う可能性もある。さっきのお前の行動は敵にみすみすスキを与えたようなものだ」
「…もっと明るい方がいいね。皆、一人ずつアカル草を持ちながら進みましょうか」
蔵馬の提案により、全員にアカル草が配られ未来の恐怖はだいぶ軽減された。
「御手洗、天沼って奴は一体どんな能力者なんだ?」
気を取り直して一行は再出発し、歩きながら幽助が御手洗に尋ねる。
「天沼はゲームを実物大で表現できる。そしてそのゲームに関係ない者は領域(テリトリー)の中に入ることさえできないんだ」
「私も誘拐された時にその能力を体験したよ。ゲームバトラーじゃなくてカーレースゲームだったけどね。本当にレース場で運転してるみたいだった」
敵のアジトでの体験談を未来も話す。
「領域(テリトリー)を脱出する方法は、天沼くんに勝つことだけ。かなり手強いよ」
天沼がわざと負けてくれなかったら、未来はあの部屋から出ることはできなかっただろう。
「ただね、天沼くんはまだ小学生なんだ。こんな計画から手を引きさせたくて…。生意気だけど、なんだか憎めなくて可愛い子なんだよ」
しかし強情な彼を説得するのは相当難しいだろうと、頭を抱える未来なのだった。
緊張の面持ちで未来は中央に“G”とゲームの頭文字が描かれた門を見つめる。
『デビルシティへようこそ!君達七人は選ばれた戦士だ!これから君達は街の平和をとり戻すため悪の市長ゲー魔王を倒さねばならない!』
天沼の待つ領域(テリトリー)まで一行はたどり着いたのだ。
「ようやく七人揃えてきたようだね」
門が開くと、ゲームバトラーを実物大に再現した室内に、ゲー魔王を模したフードを被った天沼が鎮座していた。
「天沼くん…こんな計画から手を引くのは今からでも遅くないよ」
「未来、しつこい!早くゲームを始めよう。スロットまわしちゃうよ」
相変わらず強情な天沼に、やれやれと未来は溜息をつく。
「オレたちは一人一ゲームだけ敵と戦い先に四勝した方が勝ちだ。このゲーム未経験者は飛影だけか?」
ゲーム参加者を決めるため、蔵馬が皆に確認する。
「飛影もあるよ!私と協力プレーで前に天沼くんと対戦したもん」
ね?と未来が飛影の顔を覗き込む。
「…そうだったな」
好きな相手の可愛い顔が間近にきて、ドキッとして思わず顔をそらしてしまう飛影である。
「いい!?飛影もやったことあんのかよ!?しかも天沼と対戦済みだったのか!?」
衝撃の事実に、驚きの声をあげた幽助だけでなく蔵馬も皆、目を丸くしている。
「ゲーセンでたまたま対戦したんだ。天沼くんの実力は相当だったよ。ゲー魔王よりも強いと思う」
実際のゲーム内のボスよりも天沼は手強いと、身をもって経験している未来。
「ゲー魔王である天沼と戦う前に三連勝しておきたい。エンディングまで行ったことのある者は?」
ゲー魔王はプレーヤーが三勝するまでは部下のゲー魔人に戦わせる。
効率よく勝利にこぎつけるため、蔵馬は皆に実力のほどを尋ねる。
「十回やれば七~八回は勝てる」
「一度だけだが最後までいったぞ」
「ボクも一度だけだ」
「私も。蔵馬の家で幽助と三人でやった時に」
「同じく。つーかその時しかオレはこのゲームやったことねーし」
海藤、幻海、御手洗、未来、幽助が口々に述べる。
「ブーッ!時間切れ。もうスロットまわすよ」
しびれを切らした天沼が、ゲームの種類とレベルを決めるスロットを回す。
「…よし。幻海師範、未来、御手洗。三人で三勝してくれ。あとはオレと海藤でなんとかする」
プレイ経験の少ない幽助と飛影は除外し、蔵馬が三人を指名した。
スロットが出した目は“スポーツ”“テニス”“レベル7”。
「これならボクが得意だ。やらせてくれ」
「御手洗くん、ファイト!」
立候補した御手洗に、未来が声援を送る。
「仙水さんの言う通りだった。あんたやっぱりオレたち裏切ったね」
コントローラーを操作する御手洗を見定めるようにしげしげと眺め、厭味ったらしく言った天沼。
「それともオレたちを裏切ったふりしてそいつらを騙してるのかな?だとしたら表彰もんだよ。オレあんた見直すな~」
「天沼くん!」
年上の御手洗に向かって不遜な態度をとる天沼を、強い口調で未来が嗜める。
「あんたもオレも学校じゃ仲間はずれだったって話したことあるよね。でも仙水さんに言わせるとオレとあんたじゃその理由が全く違うんだってさ」
「おいテメーごちゃごちゃうるせーぞ!」
野次をとばす天沼に幽助が怒鳴るも、当の御手洗は無言でゲームを続けている。
「天沼は強いから疎外される、御手洗は弱いから疎外される、だってさ。たしかにオレは周りの人間があまりにバカなんでわざとそいつらと外れてたんだけど」
「おい未来、あいつのどこがカワイイんだクッソ腹立つガキじゃねーか」
「う、うん…」
御手洗は大丈夫かなと、未来はちらりと彼の横顔を盗み見る。
「あんたはオレと全く逆だったんじゃないの?」
天沼くん、ともう一度彼を諫めようとして未来はやめた。
モニター画面を見つめる御手洗の表情が、その必要はないと語っていたからだ。
『ゲーム終了。御手洗の勝利!』
「よし、まず一勝だ!」
「やった!」
ゲームアナウンスにガッツポーズする幽助と未来。
「天沼…君の言う通りだ。ボクは弱いそれを認める勇気さえなかったから周りの人達を呪った」
野次にも屈せず勝利をきめた御手洗が、天沼に静かに語りかける。
「人の優しさを受け入れる勇気さえも持てなかった。信じて裏切られるのが怖かったからだ。魔がさしてこんな恐ろしい計画に手をかしたのもボクが弱いせいだ」
本屋で助けてもらった未来と海藤の方を横目で伺いながら述べる御手洗。
「でも変わる」
先ほど彼はもう大丈夫だと、未来が信じることのできた意志の強い瞳をして御手洗は言った。
「未来。遅くなったけど、ひどいこと言ってごめん。それに…ありがとう」
「御手洗くん…」
水兵(シーマン)の能力で彼女や友人を襲ったこと、幽助のマンション前での暴言を、御手洗は謝罪する。
「でも…絶対に変わるから、これから。そう決めたんだ」
強く宣言した御手洗に、未来が優しく笑う。
「御手洗くん、もう変わってるよ」
既に見違えるくらい彼は変わったと。以前と比べ、かっこよく頼もしい顔つきになったと。
未来の目にも、誰の目にもそれは明らかだ。
御手洗は、もっと強くなれる。もっと良い方向に変われる。
そう確信する未来だった。
「はいはい。次のゲーム行こうっと」
御手洗の言葉を聞き流し、天沼がスロットを回すと出たのは“シューティング”“バトルヘリ”“レベル6”の目。
「あたしがやるよ。魔人のレベルが6なら楽勝だ」
幻海は言葉通り、華麗なコントローラーさばきで見事勝利をおさめた。
「師範すごい!」
「すげえ、婆さん圧勝じゃねーか」
「伊達に暇人やってないよ」
ピースサインで未来と幽助に応える幻海。
「いいの?そんな上手い人先に出しちゃって。後で後悔しても知らないよ~」
余裕の天沼がスロットを回すと、“音ゲー”“太鼓の超人”“レベル7”の目が並ぶ。
「やった!これなら得意だよ」
「未来、頼みますよ」
「任せて!」
モニター前に躍り出た未来は、蔵馬の声援にも自信たっぷりに親指をあげる。
「邪魔だから髪結ぼうかな」
参戦に向けやる気十分、本気度Maxな未来は腕に巻いていたヘアゴムで髪をひとまとめにし、高い位置で結んだ。
「…っ」
現れたうなじに、なんだか落ち着かない気分になってくる飛影。
ふわふわなおくれ毛にもそわそわさせられて、そんな自分が不思議でしょうがなく、どうかしてるんじゃないかと思う。
「おい未来」
「ん?」
胸の音がうるさく、途方に暮れる飛影が出した解決策は。
「その髪やめろ」
「えー?なんでよ」
飛影の命令に、唇を尖らせ不服そうな未来。
「似合わん」
しかし、ストレートな一言にガーーンと打ちのめされた。
「ひ、ひどい…。いいもん!似合わなくても変でも私は結んでやるもんね!」
プンプンと怒ってしまった未来に、狼狽える飛影。
「未来、似合ってますよ」
「蔵馬、ありがとう」
未来は不自然なくらいニッコリと蔵馬に微笑むと、これみよがしにジロリと飛影を睨む。
「なんだその目は」
「別に~」
プイッと未来はそっぽを向いてしまった。
「…今のは完全に貴方が悪いと思いますよ」
文句言いたげに自分を見てきた飛影に、そっと蔵馬が告げたのだった。
「あ、そういえばさあ。未来、最初洞窟の中に来なかったでしょ。駄目だよ、未来は洞窟内に来いって仙水さんからの命令なんだから。じゃないと桑原は巻原が食っちゃうってさ」
「え…」
唐突な天沼の言葉に、仙水の意図が読めず未来は訝しがる。
「どうして仙水は私に来させたいの?」
「オレは知らないよ。仙水さんに聞いてよ」
そんなこと自分に聞くなと言わんばかりに、天沼はふあ、と欠伸をかいた。
「蔵馬、どういうことだ?」
幽助が隣の蔵馬を小突く。
「さあな…だが裏を返せば桑原くんはまだ無事ということだ。御手洗、仙水の発言の理由に何か心当たりはあるか?」
「いや、ボクも全く思い当たる節はない。仙水さんは何を考えているんだろう…」
未来に戦いの場への同席を求める仙水の狙いが分からず、一同は首を捻る。
『曲を選ぶドン!』
「あ、そうだ曲を選ばないと…」
バチを握る未来が曲を選択するとゲームが開始し、ノーミスでクリア、つまりフルコンボを達成した。
「よしっ」
「やったぜ、あと1勝でオレたちの勝ちだ!」
いえーい、と未来は幽助とハイタッチを交わす。
「天沼くん」
そして、くるりと天沼の方に向き直る。
「今からでも考え直せないかな。天沼くんは全然分かってない。どんなに恐ろしいことに自分が加担しているか。天沼くんのお父さんやお母さん、学校の皆も全員死んじゃうんだよ?」
説教は聞き飽きたと、面倒くさそうに溜息をつく天沼。
「言っただろ未来、しつこいって。学校の奴らは馬鹿ばっかだからどうでもいい。父さん母さんだっていなくなったらせいせいするさ」
「…天沼くん、寂しいの?」
静かに問うた未来に、図星を突かれた天沼は一瞬反応が遅れる。
「は…?」
寂しい?
その言葉で、脳裏に浮かんだのはラップがかかった夕食が置かれた食卓。
母親からのメモ書きをポイッとゴミ箱に投げ捨てる。
“月人へ。今日も遅くなります。温めて食べてね!”
朝、さりげなく食卓テーブルに置いてから登校した満点の答案には、何も触れられていなかった。
「っ…見当違いなこと言うなよな。ゲームを続けるよ。ここからが本番だ」
ついに見参、ゲームマスター。
フードを脱ぎ捨てた彼の、実力はいかに。