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Ⅲ 魔界の扉編

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✴︎59✴︎WILD WIND



「ばーさんから話は聞いた」

「桑原!」

一同が静まりかえる中、現れたのは神妙な顔つきをした桑原だ。

「魔界の扉を開こうとしているヤツがいる!とてつもなくヤバくてデカイ穴だ」

ごくりと息をのみ、桑原が恐ろしい事実を告げる。

「…表情とカッコウが合ってねーよ」

「っせーな、わかってるよ!」

柳沢に制服を奪われていたためパンツ一丁の桑原に、幽助が冷静なツッコミを入れた。

「ま、詳しくはコエンマが直接説明してくれるよ」

幻海の言葉に呼応するように窓が開き、入室してきたのは…。

「はーい!呼ばれて飛び出てぼたんちゃんでーす!」

ぴょいっと櫂からおり、コエンマの部下で霊界案内人のぼたんが登場した。
非常事態とはいえ、いつもの明るさは変わらないぼたんである。

「ぼたん!久しぶり!」

未来!元気してたかい?あ、魔界の扉のことはコエンマ様が今から話すからね」

久々の再会に女子同士で喜びあった後、ぼたんは霊界とつながるモニターを取り出す。
モニターには、霊界の自室で椅子に腰をおろすコエンマの姿があった。

『幻海の説明の通り、異常なスピードで魔界との穴が広がっておる。もう既に人間に影響が出ておるようだな』

コエンマの発言にうなずき、幻海が言葉を続ける。

「ここ一ヶ月くらいで30人くらいの人間が相談に来た。能力に目覚めたのは全て蟲寄市の人間だ」

「ああ、だから最近はお客さんが多くて…って、蟲寄市?」

一ヶ月前に奇妙な経験をした、未来にとって忘れがたい市である。

「オレたち三人は全員蟲寄市出身なんです。能力に目覚めたのは一ヶ月ほど前で、激しい頭痛と吐き気に襲われました」

城戸の話が、未来のある記憶と結びつく。

(…そういえばあの時、御手洗くんも…)

彼も能力に目覚めたのでは、と思わざるをえなかった。

『穴は蟲寄市にできているからな。魔界との穴のせいで、蟲寄市の人間に特殊な能力を持った者が現れておるのだ』

「…コエンマ。穴がさらに広がると、どんな影響が?」

蔵馬に問われ、コエンマが悩ましげにため息をつく。

『穴が半径1㎞を越えると…B級妖怪やC級妖怪が人間界を自由に行き来できるようになる』

「あの~コエンマ様、その何級とかっていうくくり初耳なんですけど」

「オレもだ。説明しろコエンマ」

冷や汗をかきながらコエンマが述べるが、階級について無知な未来や幽助にはその深刻さが分からない。

『…B級妖怪とは戸愚呂クラスの妖怪だと考えて間違いない』

コエンマの一言はあまりにも彼らにとって酷であり、事態の恐ろしさを簡潔に伝えるには十分だった。

「B級…?戸愚呂がB級!?」

あの戸愚呂が。
あの、とてつもない強さの戸愚呂でさえも。

拳をぶつけあった間柄、誰よりも彼の強さを知る幽助は驚愕し、あまりの衝撃に未来は言葉が出ない。

『さらに魔界の奥底には、A級妖怪と超A級といわれるS級妖怪がいる』

「なっ…」

幽助は自分の知っている強さ、世界の狭さを思いしらされた。

『A級とS級妖怪だけは一匹たりとも人間界に侵入させてはならん!絶対にだ!』

ダンっと机を叩き力説するコエンマ。
B級妖怪全てより、A級以上の妖怪一匹が脅威なのである。

「一体何の話してんだよ!B級グルメとかそういう話か?モニターが見えねーオレにも説明しろ!」

「あ…桑ちゃん霊感がなくなってるから見えないのか」

「桑原くん、オレが説明しますよ」

たった一人現状を把握していない桑原の発言に未来の緊張の糸は少しとけ、蔵馬が語り手を名乗り出る。

「…まだ納得できんな。どうやってそんな穴を開けたというんだ」

飛影の疑問は、皆が抱いていたものだった。

『結界に穴を開ける術者がおるのだろう…。未来のように結界を通り抜ける能力を持つ者もおるのだから、穴を開けられる者がいてもおかしくはない』

「なるほど。じゃあ私の力の進化系ってとこかな?」

未来未来自身しか結界を通り抜けられないが、その術者は結界に穴を開けて自分以外の他人をも移動可能にするということか。

『進化系と呼ぶにはだいぶ話が飛躍した気もするが、まあそういうことだな』

「じゃあその術者を倒せば、穴を開けんのは阻止できるんだな!?」

自己完結し、すくっと立ち上がる幽助。

「よっしゃ今すぐぶちのめしてやるぜ!オメーら地元なら案内しろ」

「バカタレ!!」

城戸らに命令し部屋を飛び出そうとした幽助に、幻海から鉄拳がお見舞いされた。

「敵の能力も知らずに今回と同じヘマをやる気か!何のためにこんな芝居をやってみせたと思ってるんだ」

「でもよ、もたもたしてたら穴は広がる一方なんだぜ!?」

「敵が何人かボスは誰かどんな能力か。これを知ることが先決だ」

はやる気持ちを抑えられない幽助だが、幻海の言うことはもっともである。

「幽助、急がば回れっていうじゃないか。蟲寄市の偵察は後日にしよう。あたしも同行するからさ、頼りにしとくれ!」

「…別にオメーの活躍に期待してねーよ」

あーヒドイ!っとぼたんがむくれ、クスクスと周りの者は笑い、重い雰囲気がいくらか柔らかくなった。
しかし、そんな和やかムードが続くこともなく。

「コエンマ、今のオレは何級だ?霊界ではオレを何級にランクしている」

唐突に投げかけられた飛影の質問に、コエンマはたじろぐ。

「飛影!」

「答えろオレは何級だ?」

蔵馬が咎めるも、飛影は無視をし再度問いかける。

(うおおお~…やっぱりそこ聞いちゃうか飛影)

コエンマが何と答えるか、未来もドキドキだ。

『…今のお前はB級の中位妖怪にランクされている。戸愚呂弟はB級上位だ』

非常に言いにくそうにコエンマが答えた。

(あんなに強い飛影でもB…。AだのSだの、世の中にはすごい妖怪がいるもんだな…)

思案していた未来が視線を感じそちらを見やると、飛影と目が合いすぐに逸らされた。

「…ちっ。みくびられたもんだな」

強くありたいと思う。
特に、未来の前では。

コエンマに階級を告げられた飛影は、反射的に未来の反応を伺ってしまった。

(オレはいつから、人の顔色を伺うような野郎になった?)

本当は分かっている。
未来に出会ってからだと。

どう思われているかとか。
自分を良くみせたいとか。

彼女の前限定で、無性に気になる。
そんな、くだらないことが。

『だ、だがな、お前が幽助と戦った時はまだD級上位妖怪にランクされていた。それからわずか半年たらず…お前の格闘センスには驚かされるばかりだ』

「フン。それでおだてたつもりか?」

コエンマの言葉も、飛影にはとってつけたようにしか感じられない。

(やっぱ気にしてる、かな?飛影は強いよって励ました方がいい!?いやダメだ。飛影の性格的に一番してほしくないことだ、それ)

ぐるぐる考えこみ、一人おろおろする未来

「……」

それはよけい飛影を苛立たせる要因となる。
そんな表情を彼女にさせている自分の弱さに、苛立つのだ。

「…人間界がどうなろうがしったこっちゃない」

その苛立ちを他にぶつけず自分を保っていられるほど、彼はまだ大人じゃない。

「魔界との巨大な穴が開くなら願ったりだ。直径2㎞になればB級妖怪は自由に出入りできるんだろ?」

魔界に行けば未来とも会えなくなる。
それを理解してのセリフだった。

「あとは勝手にやればいいさ。お前らのジャマもしないが助けもしない」

「飛影!!」

立ち去ろうとする飛影を、ひときわ大きな声で桑原が呼び止めた。

「てめー、それ本気で言ってんのかよ」

こめかみに青筋をたてた桑原が静かに問う。

「ああ。オレは魔界へ帰るぜ」

飛影はこちらを振り返らず、背を向けたままで答えた。

「…あ~…そういうことかわかったよ…」

プツンと桑原の堪忍袋が切れた音がした。

「やっぱりオメーはそういう奴だったぜ!前言撤回!協力するって言ったがあれナシだからな!別に見損なったなんて思っちゃねーぞ!オメーは元々…」

「おい落ち着け桑原!」

今にも飛影に殴りかからんとする桑原を、幽助とぼたんがおさえる。

桑原に罵倒を浴びせられるも、飛影は全く気にする様子もなくスタスタと歩いていく。
しかし。

「飛影…」

聞き逃しそうなほど小さな未来の声をとらえ、一瞬足を止めそうになったが…。
結局、飛影が振り向くことはなく、閉められたドアの向こうに彼の姿は消えた。

「はん!本当に行きやがった…っておい蔵馬?」

飛影を追いかけるのか、ドアノブに手をかける蔵馬に桑原は気づく。

「おい!あんなヤツ引き止める必要ねーぜ蔵馬」

「引き止めるわけじゃないよ」

蔵馬は別に飛影を説得するつもりではないらしい。

「ただ彼に、話しておかなければならないことがありますから」

意味深な言葉を残し、飛影に続き蔵馬も外へと消えていった。

「どうしたんだろうな、蔵馬」

「さあ…」

幽助やぼたんも、蔵馬の行動が謎である。

(飛影、行っちゃった…)

未来は何も飛影に言うことができなかった。

それくらいショックだったのだ。
飛影が去ってしまったことが…。

(今度いつ会えるかわからないのに、またいなくなることないじゃん…)

魔界に帰る。
そう言っていた飛影。

(私だって、この世界に、長くいられないかもしれないのに…)

「あれ、未来、泣いてんのかい!?」

「っ…泣いてない!」

未来の目尻に薄く溜まった涙にぼたんがいち早く気づく。

「…未来、飛影は来るさ」

「!」

ぽん、と未来の肩に手を置き、迷いない口調で幽助が言い切った。

「オレたちがヤバい状況になった時、あいつは絶対来る!」

なぜだろう。
ほかでもない、幽助が言うと、すごくすごく説得力があるのは。

「そんなこと、未来。オメーもわかってんだろ?」

「…っうん!」

未来はぎゅっと目を瞑るのと同時に頷いた。

「飛影もきっと戸惑ってるんだよ…。魔界が近くなった影響はなにも人間だけに起きてるわけじゃないと思うよ」

ぼたんも幽助と共に未来を諭す。

「おっ、ぼたんたまにはイイこと言うのな」

「たまにはってなにさ!」

「はー、浦飯もぼたんちゃんも飛影に甘いぜ」

わざとらしく桑原がため息をつき、未来の口元はふっと緩む。

「まあ今はあいつにおとなしくしてもらっていたほうがいいかもしれん。当面の敵は正々堂々一対一で戦いを挑んでくるとは限らんからな」

とにかく一人での軽率な行動は避けろ、と幻海が皆に念を押す。

「今日は全員戻ってぐっすり寝ることだな。行動をおこすのは明後日だ。二手に分かれて街の様子を探る」

「じゃあ帰るか。すっげー遅くなっちまったな」

「帰ろう帰ろう」

「あの~」

サッサと帰ろうとする幽助や未来におずおずと切り出したのは柳沢&城戸。

「海藤が魂抜かれたままなんすけど」

一同はすっかり忘れ去られていた海藤が放置されている部屋に行き、幻海が無事に彼の魂を戻したのであった。

一方、四次元屋敷の外では。

「飛影」

背後からの蔵馬の声に、飛影は振り向いた。

「なんだ蔵馬」

未来が本物だと分かった理由、貴方に話すと約束したでしょう」

「…そうだ。お前、なぜ分かった?」

柳沢が仲間の一人に化けた際、蔵馬は未来は本物だと言い切った。
その理由とは…。

「まず、未来が偽物だと仮定する。そうなると飛影は本物だということになる」

「それがどうした」

偽物は一人なのだから、他の三人が本物であることは当たり前である。

「その場合、飛影が未来は偽物だと主張するはずなんですよ」

「!」

飛影は蔵馬の言葉を否定しない。
ただ、蔵馬に見抜かれていたことに狼狽した。

「あの時飛影は何も言わなかったから、未来は本物だと分かる。飛影が本物でも偽物でもね」

飛影の無言は未来が本物であることを意味する。
それは、彼が本物であっても偽物であっても変わらない。

「飛影、オレたちがバラバラの階段を選択した時、邪眼で未来の様子を見ていただろ?」

飛影は一人きりになった未来が危険な目にあわないか邪眼で見守るだろうと、蔵馬は確信していた。

「…どうしてそう言い切れる」

「図星ですか。オレも貴方と同じ気持ちを彼女に抱いているからですよ」

飛影は意味がわからない、という顔をして眉間にしわを寄せる。

「言い換えれば、もしオレに邪眼の能力があれば飛影と同じことをしたから」

蔵馬は今一度その翡翠色の瞳でまっすぐ飛影を見つめる。

「オレも未来が好きなんだ」

ザ、と風の音が止まる。
飛影は大きく目を見開いた。

考えたこともなかった。
蔵馬も未来が好きだなんて。

「もう貴方に伝えたことですし、遠慮しませんよ。飛影が戦線離脱したのはオレにとっては好都合だったかな」

蔵馬は踵を返し、四次元屋敷内へ戻るため歩いていく。

未来を譲るつもりはありませんから」

そう言い残し、パタンとドアを閉め蔵馬は去った。

残された飛影はしばらく呆然と立ち尽くす。

“他にも未来ちゃんのこと好きで狙ってる奴がいるかもしれねーぞ!”
桑原の言葉がフラッシュバックする。
バカにしていたが、彼の忠告は正しかったわけだ。

「…ちっ」

飛影は屋敷を後にし、夜の闇へ姿を消していった。


彼女を手に入れる方法も。
恋敵に勝つ方法も。

飛影は知らなかったから。


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