Ⅲ 魔界の扉編
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✴︎58✴︎模写-copy-
「なんだこりゃ!?七つも階段があるぞ!?」
目の前に現れた七つの階段が立ち並ぶ光景に、桑原はすっとんきょうな声をあげる。
そんな桑原、未来、飛影、蔵馬の横には柳沢の姿もある。
柳沢を眠らせたまま先を進んだ一行だったが、つき当たったドアに“このドアを柳沢の許可なく開けることは浦飯の死を意味する”との貼り紙があったため、やむなく彼を起こしたのだった。
「浦飯は二階にいる…が、一人一人違う階段を使ってもらおう」
「べ、別行動!?」
皆と離ればなれになると柳沢から告げられ、とたんに心細くなる未来。
(そんなあ。この階段の先に誰か敵がいても私じゃ太刀打ちできないよ。四聖獣みたいなのがいたらどうしよう…)
心配しているのは、未来だけではないらしく。
「このどれかの階段に罠や化け物がいるんじゃねーだろうな!?」
「さあね~。全部の階段にいるかもよ?」
「んだとォ!?未来ちゃんもいるってのに…」
桑原ははぐらかす柳沢に牙をむける。
「…今度は何を考えているんだ?」
「さあな。だがあんた達はオレの指示に従うしかねェはずだぜ」
蔵馬が問うも柳沢の言う通りであり、人質となっている幽助がいる以上、おとなしく指示に従うしかない。
「しょうがない!とにかく先を進もう。私はこの階段にする」
未来は勇気を振り絞り、自ら率先して階段を選んだ。
「十分気をつけて…」
「オレはこの階段を行くぜ」
蔵馬、桑原、そして無言の飛影もそれぞれが選んだ階段の前に立ち、上っていった。
「長い階段だなあ…」
暗く長い階段を、恐る恐る上っていく未来。
しばらくすると光が見えてきて、たどり着いた先の部屋には…。
「幽助!」
金髪頭のヤンキー風の男の側に、幽助が立っていた。
「未来、下手に近づくな!こいつの能力は影(シャドー)!影を踏んだ相手の動きを封じることができるんだ!」
「なんだと?」
幽助の叫びに呼応するように部屋に入ってきたのは飛影。
ほぼ同時に階段を上り終えた蔵馬と桑原も現れた。
「そういうこと…。オレは城戸亜沙斗。能力名は影(シャドー)」
金髪頭が自ら名乗り出る。
彼に影を踏まれている幽助は、全く身動きがとれない状態であるようだ。
「でも次の相手はオレじゃない。浦飯さん、あの四人の中に一人だけ偽者がいます」
「な!?」
仲間の中に偽者がいる。
思わぬ城戸の発言に、皆が狼狽する。
「ウソ!どう見たって全員本物だよ!そんなに早く上手に変装できるわけないよ」
未来は反論するが、
「柳沢の能力は模写(コピー)。四人の中の誰か一人は確実に柳沢が化けています」
城戸は自信たっぷりに主張する。
「浦飯さんは10分以内にその偽者を見つけて下さい。他の四人は浦飯さんからの質問に答えるだけでいい」
「フン。そんな回りくどいことをせんでも、今この場で貴様を倒せばいい話だろ」
「分かってないなあ」
一歩進み出た飛影に、白々しく溜め息をつく城戸。
「四人の中に偽者がいるってことは、本物が一人つかまってるってことですよ…。オレに何かすれば仲間が本物を殺します」
すなわち、幽助が偽者を見つけるしかすべはないということ。
(私は本物だし…。蔵馬か飛影か桑ちゃんが偽者!?)
三人の顔を順にまじまじと見つめる未来だが、とうてい誰もが偽者とは思えないのであった。
「本当に偽者なんていんのかよ!?桑原!オメーの生年月日と血液型は!?」
半信半疑の幽助だが、急かす口調で桑原に訊ねる。
「言ってもいいけどよ、オメー、オレの生年月日と血液型知ってんのか?」
「あ…知らねーや」
「それじゃ意味ねーだろボケ!」
桑原から幽助にもっともなツッコミが入り、他三人は呆れて脱力する。
「それじゃオメーの姉貴の名前は!?」
「静流だ。こないだ18になった」
「未来!オメーと同居してんのは誰だ!?」
「幻海師範。幽助の師匠ね」
「蔵馬!オメーの母ちゃんの名前は!?」
「南野志保利。今秋再婚予定」
幽助の問いにそつなく答えていく桑原、未来、蔵馬。
「ほんとか!式には呼んでくれよな!」
「おめでとうってお母さんに伝えといてね!」
「あと7分」
おめでたいニュースに歓喜する幽助と未来の横で、城戸が平淡な声で残り時間を告げる。
「フン。ばかばかしくてやってられん」
「んじゃ飛影!オメーの妹の名前は!?」
「……」
飛影はすんなりとは答えず、しばらく黙った後。
「言う必要はない。お前もよく知っている奴だ」
「…ますますわからなくなったぜ」
飛影の性格ならそう言うとしか思えず、質問のチョイスを誤ったと痛感する幽助。
「へえ、飛影に妹がいたんだ!見てみたいな~」
「こいつの妹じゃ目つきと性格悪いだろーな」
未来と桑原だけ、雪菜が飛影の妹であると知らないのだ。
(こいつらに教えてやるのは…)
(彼が許さないでしょうね…)
飛影の無言の圧力により、幽助と蔵馬は沈黙を強いられる。
「つーか、全然誰が偽者か分からねー!蔵馬、オメーは誰が偽者だと思う!?」
一応霊界“探偵”であるのだが、慣れない推理に頭がパンクし、あろうことか幽助は蔵馬に意見を求める。
そんな幽助に、ガクーッと思わずズッコける未来と桑原。
「ちょ…もしかしたら蔵馬が偽者かもしれないのに、なんで訊くの!?」
「アホすぎるにも程があるぜ!」
「うるせー!もう蔵馬に頼るしか方法が思いつかなかったんだよ!」
窮地に立たされた幽助は、蔵馬が本物だろうが偽者だろうが構わず頭脳派な彼に助けを求めてしまったというわけだ。
「…これは幽助を混乱させそうで言うのを躊躇していたんですけど」
ギャーギャー三人が喚き、飛影が白い目を向ける中で、静かに口を開いたのは蔵馬。
「オレが一つ確信していることは…」
「な、なんだよ蔵馬、早く言えよ」
もったいぶる蔵馬を幽助が急かす。
未来と桑原、飛影も黙りこみ、蔵馬の次のセリフに注目する。
「未来は偽者じゃない。未来が本物であることは間違いない」
キッパリと迷いのない口調で蔵馬が述べた。
「えっ…。たしかにその通りだけど、なんでそう思ったの?」
自分が本物であることは、自分がよく分かっている。
蔵馬が妙に自信を持って言い当てたことに、未来は驚く。
「それは今ここでは言えないかな」
え~!と幽助、未来、桑原からブーイングが入る。
口にこそ出さないが、飛影も蔵馬がそう断言した理由がかなり気になっているようだ。
「うお~…。さらにワケわかんなくなってきたぜ…。蔵馬は偽者?本物?未来は本物ってのは本当か?」
頭を抱える幽助だが、おかしな質問を蔵馬にした彼の自業自得だとも言える。
(蔵馬が勘や適当にあんなこと言うわけない。何か筋道の通った理由がありそうだけど…わかんないな)
頭の切れる彼のこと。
何か明確な根拠があるのは間違いないのだが、未来には見当もつかない。
(いや、もし蔵馬が偽者だったとしたら…。…なんであんなこと言ったんだろ。本格的に意味わかんないや…)
まあ蔵馬が本物であっても偽者であっても、彼の発言が皆の思考に混乱をきたしたことには変わらない。
「誰が偽者か分からないってことは本物は別に必要ないってことですよね。じゃあ本物には死んでもらいましょうか?」
城戸の言葉が幽助を追い詰めるが、彼は冷や汗をかくだけで偽者を言い当てることはできない。
「タイムリミット。さあ誰が偽者か答えてもらいましょう」
10分が経過し、城戸が幽助の影を解放した。
オレに妙なマネをしたら本物はどうなっても知らない、と一言添えて。
「今からあんたが偽者だと思う奴を、思いっきり殴ってもらう!チャンスは一度しかやらない」
柳沢の能力を見破る方法は、強い痛みを与えることだという。
「~~テメーら、何が目的だ!?」
「ある人に頼まれてやってる。オレ達も楽しんでやってますよ」
誰か一人を殴るよう指示された幽助が掴みかからんばかりの勢いで問うが、城戸は涼しい顔をしている。
「…よし。殴るヤツは決まったぜ。悪く思うな」
ボキボキと関節を鳴らす幽助が、定めたある一人を見据える。
「それはオメーだ!!」
バキッと鈍い音がしたと思えば、そこには失神し倒れた桑原…いや柳沢の姿があった。
「よく分かりましたね…。なぜ桑原さんが偽者だと思ったんスか」
「こいつが一番殴りやすかった。もう少し言えば、蔵馬と飛影はオレと違ってテメーらにつかまる程マヌケじゃねーからな」
感心して問う城戸に答える幽助の発言を聞き、
「飛影、耳が痛いんじゃないですか?」
「うるさいな!」
早々に海藤に魂をとられた飛影をすかさずからかう蔵馬である。
「そうなると偽者は未来か桑原の二人のどちらか。さっき蔵馬が未来は本物だって言ってたから、それを信用して桑原を殴ったってわけだ」
「幽助、冴えてる!すごいよ!」
「すばらしい!感動しましたよ」
未来と共に拍手をしているのは、なぜか敵である城戸。
「おい蔵馬、なぜ未来が本物だと気づいた」
そんな中、飛影が蔵馬に気になっていたことを訊ねる。
「…この件が落ち着いたら話しますよ」
「今話せ」
「今日中に必ず話します。オレもあなたに言いたいことがあったので、いい機会ですから」
意味深な蔵馬の発言に、彼が何を考えているのか読めず、飛影は眉を寄せた。
「桑原さんは返します。ついでに黒幕にも登場してもらいましょう」
ひとしきり幽助に拍手をおくった後、そう述べた城戸が合図をすると奥の扉が開いた。
「し、師範が黒幕~!?」
奥の扉から姿を現した幻海に拍子抜けし、開いた口がふさがらない未来。
「他県に出張に行ってたんじゃ…」
「ありゃ嘘だ、嘘」
「一体どういうことだよクソババア!返答次第じゃただじゃすまねーぞ」
全く悪びれる様子のない幻海に、拳を固く握る幽助はマジギレ寸前だ。
「すんません!本当にすんませんでした!」
幻海が答えるより前に、床にひれ伏し土下座したのは城戸だった。
「お前が謝ることはない。ほとんどあたしが仕組んだようなもんだからな」
城戸の言動に皆が呆気にとられる中、幻海が彼を諭す。
「全く師範も人が悪い。途中から薄々感づいてはいましたが」
「え、どういう意味!?」
「さっさと説明しろ蔵馬!」
全てを読んでいるのか力が抜けたようにため息をついた蔵馬に、未来と幽助は詰め寄る。
「少々悪趣味な自己紹介。そんなとこでしょう?師範」
「まーな。だが別に趣味でやったわけじゃないよ。こいつらの能力を肌で感じてほしくてな」
こいつらとは、もちろん海藤・城戸・柳沢のことである。
この三人はその気になりもっとずるくやれば、簡単に幽助ら全員を倒すことができたはずだが、しなかった。
そこに違和感を感じた蔵馬は、幻海の仕業ではと考えたわけだ。
「理由がまだわからんな。なぜそうまでしてそいつらの能力をオレ達にわからせる必要がある?」
飛影の疑問は抱くに当然であり、同調する未来はコクコクとうなずく。
「お前達四人は強い。だがやり方次第でお前達を殺すこともできる奴がいることをまず知ってほしかった」
幻海の言う四人とは、もちろん幽助・桑原・蔵馬・飛影のこと。
「あの~、じゃあなんで私も来るようにあの紙で命じられたんですか?」
理由がわからず、未来は自分を指さして訊ねる。
「未来にこの計画を教えたら、幽助たちにポロッと話してしまいそうで危なっかしいからね。それに、アンタは騙すより騙される方が似合ってるよ」
幻海の発言に、プッと吹き出す幽助と蔵馬。
「ばーさん、そりゃ正論だわ」
「ちょっと幽助!てか、私ってそんなに信用ないの!?」
隠し事が下手そうだと未来は周囲に思われているのだろう。
「話を戻すぞ。飛影、お前が素手で海藤と戦えば100%お前の勝ちだ。だがお前は海藤に魂をとられた。幽助、お前も同じだ」
「ケッ。敵の能力がわかってりゃそんなヘマしねーよ」
ぐうの音も出ないのか沈黙する飛影とは対照的に、幽助は言い訳をし、
「バカタレが!本当の敵がわざわざ自分から能力を明かすと思うか!敵につかまることは即、己の死を意味するんだよ!」
案の定、幻海に怒鳴られる。
「しかし敵っていってもよ、一体誰なんだよ!そいつらは結局違うんだろ?じゃ他にいねーじゃねーか」
「実はオレ達、この力のことで幻海さんのところに相談に行ったんですよ」
まだ腑に落ちない幽助の横で、床に手をついたままの城戸がおずおずと切り出す。
「オレ達がこんな力を持ってしまったのは、魔界の穴のせいらしいんです!魔界と人間界を繋ぐ、界境トンネル…!」
「界境トンネル、魔界と人間界を繋ぐ穴…。私、その話聞いたことある」
未来の脳裏に浮かぶのは、暗黒武術会決勝戦でのある人物との会話。
そう、今は亡き戸愚呂チームのオーナーの…。
「左京の遺志を継いでいる者達が人間界にいる!」
幻海の一言に皆が息を飲み、その場の空気は一瞬にして凍りついた。