Ⅲ 魔界の扉編
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✴︎55✴︎恋模様
「せっかくなんだから、飛影も幽助たちに会いなよ」
渋る飛影を誘い、未来は幽助の家があるマンションへ足を運んでいた。
幽助と合流したら桑原の家に行き、その後に蔵馬とも連絡をとるつもりでいる。
「おい、あれはあのバカじゃないのか」
道を歩いていると飛影が立ち止まり、前方を指差した。
「え…。あ、桑ちゃん!?」
ドタドタと無我夢中で走る桑原の姿を、未来もとらえる。
「未来ちゃんに飛影!ナイスタイミングってのはこのことだぜ!」
桑原は足に急ブレーキをかけ、二人の隣でストップする。
「今ちょうど幻海ばあさん家に行って未来ちゃんに会おうとしてたとこなんだよ。とにかくコレを見てくれ!」
桑原が広げた一枚の紙切れを、飛影と未来は覗きこむ。
___________________
今夜十一時、ろくろ首町四次元屋敷にて待
つ。何人でも可。
ただし桑原和真・飛影・蔵馬(南野秀一)・
永瀬未来の四人は必ず来ること。
この条件を守らぬ場合、浦飯幽助の命は保
証しない。
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「なにこれ…。ここに書いてあること、本当?」
顔を上げ、不安と疑惑の表情でいっぱいの未来が尋ねる。
「ああ、きっと間違いねえ!」
「まさか…。あの幽助を拐うなんて、一体どんな強者なの!?どんな妖怪!?」
仮にも幽助は暗黒武術会の優勝者である。そんな彼を現にこうして拐うことのできる者がいたなんて、未来は信じられない。
「…いや、浦飯を拐ったのは人間だ」
神妙な顔をして桑原が衝撃の事実を告げる。
「人間だと?人間にそんな真似ができるわけないだろ」
「そうだよ。幽助や桑ちゃんじゃあるまいし」
「いや!浦飯はケンカふっかけてきたあの三人に拐われちまったとしか思えねえ!」
飛影と未来は納得できずすぐには信じないが、桑原も引こうとしない。
かくかくしかじかと桑原は最後に見た幽助の姿と、その時の状況を語る。
「んで、ケンカ場所のはずである学校の裏の原っぱにこの紙と浦飯のカバンが落ちてたんだ。プーはもう家に帰らせた」
「ただの人間に幽助が拐われたなんて…。しかも相手は私たちのことも知ってる」
早く人質となった幽助を助けなければと、未来の気持ちは逸る。
「とにかく、早く蔵馬に会いに行こう」
「そうだな!二つ駅先に蔵馬の家と学校があるんだっけな!」
駅の方向へと駆け出した未来と桑原だが、数メートル先で立ち止まる。
と、いうのも。
「おい飛影、なんで来ねーんだよ!」
桑原が怒鳴るが、飛影は微動だにしない。
「行く必要がないからだ。オレには関係ない」
「なっ…」
耳を疑いたくなるような飛影のセリフに、未来は唖然とする。
「オレは頭にきてるんだぜ…。生死をかけた戦いの後にあっさり捕まるあいつのまぬけさ加減にな」
そんなバカの面倒をいちいちみてられるか、と無情にも幽助を切り捨てた飛影。
「それでも、飛影が行かないと幽助が殺されるかもしれないんだよ!?」
「知るか。あの世で後悔するだろうぜ、上には上がいたとな。武術会の優勝でいい気になっていたのが仇になったな」
「飛影のバカ!!」
言うや否や、ペシっと未来が飛影の頭を叩いた。
「何するんだ貴様!」
「飛影がひどいことばっか言うからでしょ!!」
「あ~も~二人共落ち着け!」
これは珍しい。
いつもは飛影と言い争いなだめられる立場の桑原が、未来と飛影の間を取り持っている。
「飛影、行くか行かねーかはとりあえず蔵馬の意見を聞いてから決めろ!蔵馬に会うまではオレが半殺しにしてでもテメーを連れていくぜ」
ボキボキと指を鳴らし、真面目な表情の桑原が飛影に語りかける。
「半殺しだと?貴様にオレが殺せると思っているのか?」
「今聞きてーのはそんなことじゃねえ。行くか!?行かないか!?」
急く桑原に問われ、飛影は。
「…いいだろう。蔵馬に会うまでは付き合ってやる」
飛影とて、蔵馬の意見は聞いてみたかった。仲間内で飛影が一番実力共に信頼しているのは蔵馬だ。
「よっしゃ、じゃあ早速駅に行くぞ!」
「桑ちゃん、ありがとね」
感情的に飛影を怒った自分に対し、冷静に彼を諭した桑原に未来は感謝する。
「別にすごかねーよ。蔵馬なら飛影を説得できると思ってよ。結局人頼みってことだ」
小声で桑原が未来に述べると、三人は駅へ急いだ。
***
桑原が校舎を見上げ…。
「ここが蔵馬の学校だよな」
三人は目的地の盟王高校に到着していた。
校門は帰宅する生徒で溢れかえっている。
ちなみに電車の乗車料金は飛影の分は桑原と未来でワリカンした。
余談だが、飛影は子供料金でいいだろうとの桑原の主張に未来も同意したのであった。
「三人で行くとかなり目立つね。私だけで蔵馬を呼んでくるよ。前に一度来たことあるから、蔵馬の教室の場所覚えてるし」
実際、学校の生徒でない三人を何者かと通り過ぎざまに見てくる視線は多い。
大人数で押しかけては蔵馬も迷惑だろうと考え、未来は一人で校舎に入ると名乗り出る。
「そっか。じゃあ任せたぞ未来ちゃん!」
「うん。いってきます!」
駆け出していった未来の背中を桑原は見送った。
「つーか飛影、久しぶりだな。一体今まで何してたんだよ?」
二人きりになり、桑原は約一ヶ月ぶりの対面となった飛影に話しかける。
「未来ちゃん、会うたびにオメーのこと心配してこぼしてたぜ。飛影はどうしてるかな、ってな」
未来の名前を桑原が出し、それまで無反応だった飛影の心が揺れる。
「ようやく今日未来ちゃんに会いに行ったんだな!なんでまた?」
「特に理由はない。貴様には関係ないだろ」
未来にもされた質問を桑原からもされ、若干うんざりする飛影。
こういうことを聞かれると分かっていて、だけど答えられないから、ずっと会いに行かなかった。行けなかった。
だが未来は今日、“会いたい”という気持ちだけで、理由なんてなしに会ってもよいのだと言った。
仲間同士ならば。
「蔵馬でもなく、未来ちゃんに会いに行ったんだなー…。そういや裏御伽ん時も邪眼で未来ちゃんを見守ってたし…」
「…何が言いたい」
自分をまじまじと見つめる桑原の視線にさらされ、居心地の悪さを感じる飛影。
「オレの勘は当たんだよ!単刀直入に聞くけどな!」
突然大声を張り上げた桑原を、幾人もの盟王の生徒が振り返る。
「オメー、未来ちゃんのことが好きだよな?」
今度はこそっと、飛影の耳元に手を当て小声で桑原が言った。
「なっ…」
「おっ、その反応は当たりだな!やっぱオレの勘は当たるんだよな~!」
激しく狼狽する飛影の様子に、得意げな桑原である。
「だったらどうする!?貴様には関係ないだろ!」
弱味を握られたようで、悔しく腹立たしい飛影が怒鳴る。
(意外。否定しねーんだ…)
冷静さを欠き未来への気持ちを認めた飛影が物珍しい桑原は、目を丸くする。
そして、ピンとある考えが思い浮かんだ。
「そんな怒鳴るなよ!この桑原和真様が協力してやってもいいぜ」
「協力?」
桑原の言っている意味が分からない飛影は、眉間にしわを寄せる。
(ここで飛影に貸しを作っとくのも悪くねーな)
完全に悪巧みをしている顔になり、ニヤッと笑う桑原。
「オメーと未来ちゃんの仲を取り持つ協力をするって言ってんだよ!」
「…? くだらん。貴様の助けなどいらん」
釈然としていなかったが、とにかく桑原の協力などいらないと思った飛影はバッサリと彼の申し出を断る。
「待った待った!飛影は未来ちゃんと付き合いたくねーのか!?」
付き合うの意味を理解していないのか、未だに要領を得ない飛影の表情にしびれを切らした桑原は、
「恋人同士になるってことだよ!」
ズバリ説明した。
恋人…。
仲間という関係では満足できないのはなぜかという疑問が、飛影はその言葉で解消された気がした。
「それは相手を自分の女にするということだな?」
「お、おお、まあそういうこったな。オメーも意外と結構ダイレクトに言うのな…」
恋愛に対する純粋さ故か、恥ずかしげもなくそのようなことを口にする飛影に桑原はたじろぐ。
そうか、と飛影は思う。
(オレは)
仲間では、現状の関係では満足できない。
(オレは未来が欲しい)
未来がいて、この想いは初めて満たされると飛影は実感した。
***
誰あの子?と部外者である周囲の視線にもめげず、未来がやってきたのは2年C組の教室だ。
(蔵馬は…。あれ、いないや。もう帰っちゃったのかな)
ひょこっとドアから顔を覗かせるが、教室に蔵馬の姿はない。
「あの、南野くんがどこにいるか分かりますか?」
教室から出ようとした蔵馬のクラスメイトであろう男子生徒に、意を決して未来は話しかけた。
「南野…。生物部の部室かな?三階の端にありますよ」
「わかりました!ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げ、超特急で未来は校舎内を駆けた。
「なあ南野ー。部長やってくれよ」
ところかわって三階、生物室。
部員数が少ないのか、教室は閑散としている。
「オレまだ2年ですよ。それに責任感ないですし」
「いや!オレたち3年じゃダメなんだ!我が弱体生物部を救うのはお前しかいない!」
さらりと蔵馬は断るが、それでもなお熱く語る現部長。
「次の生徒議会で予算を勝ちとれそうなのはお前しかいないんだよ!」
現部長が固く拳を握り必死に説得を試みる中、ドタドタと廊下を走る音が響いたかと思うと。
「蔵馬ー!!」
ガラッとドアが開き、未来が室内に飛びこんできた。
「未来!?」
思いがけない未来の登場に、蔵馬の声は裏返る。
「蔵馬!大変なの!これ見てこれ!」
焦る未来が蔵馬に紙を手渡す。
「南野、その子誰?」
「他校の彼女か!」
「てかクラマ?何それ?」
「あだ名ですあだ名」
部の先輩たちに蔵馬が弁明する。
(まずいですよここでは南野!)
(ハッ!)
蔵馬の無言の訴えに、顔を青ざめる未来。
「ごめん、ついうっかり…。とにかくこれを見て」
未来が差し出した紙の文面を読み、蔵馬の表情が曇る。
「外で桑ちゃんと飛影が待ってる。皆で幽助を助けに行かなきゃ」
「ああ」
仲間の危機に内心穏やかではない蔵馬だが、努めて冷静さを保ち未来にうなずく。
「すみません、先輩。ちょっと急用で先に帰らせてもらいます」
蔵馬はドアに手をかけ、未来と共に教室を出ようとする。
「変な言い訳しなくていいぜ。デートだろ」
「独り身のオレたちの分まで楽しめよ南野」
「部長の件、あきらめてないからな!」
蔵馬は肯定も否定もせず、いつもの微笑で先輩たちをかわすと教室を後にした。
「ねえ蔵馬、なんか色々誤解されちゃってるけどいいの?」
廊下に出て、未来は蔵馬に問いかける。
「気にしなくていいよ」
蔵馬がいいと言うのならいいのか…と未来はそれ以上追及しない。
「なんで蔵馬は生物部に入ったの?」
「一番楽で暇そうだったから」
やる気のない蔵馬の答えに、未来は吹き出す。
「蔵馬のそういうとこも私、イイと思うよ」
「それはどうも」
「あと、蔵馬に飛影の説得もしてほしいんだよね…」
おずおずと未来が切り出す。
「飛影がまんまと拐われた幽助に怒っちゃって、助けに行かないなんて言うんだ」
「…飛影らしいな」
「ほんと、心配じゃないのかな~。…あ」
ほとほと飛影に困り果てていた未来だったが、はたと気づいた。
「どうしたの?」
「いや、えーとね、私、勘違いしてたなあって」
様子が変わった未来に蔵馬が尋ね、彼女は口を開く。
「飛影は幽助が心配じゃないのかなって思ってたけど、だったら怒るわけないよね。どうでもいい存在だったら怒ったりしないもん」
幽助のことがどうでもよかったら、飛影は怒りもせず無反応だろう。
心配だから、怒る。
大事だからこそ、怒るのだ。
「まあとにかく、蔵馬には飛影が幽助救出に参加するよう説得してほしいんだ」
「了解です。ところで…」
今度は蔵馬が話題を切り出す番だ。
「居場所が不明だった飛影を見つけることができたんだ。驚いたな」
「今日はたまたま飛影が会いに来てくれたの!びっくりでしょ?」
嬉しそうな未来とは反対に、蔵馬の表情は固い。
「…そう」
別に驚くことじゃない。
蔵馬にとっては。
飛影は未来が好きで、いつ彼女に会いに行ってもおかしくないと蔵馬は知っていたから。
一方、校門前で待機する二人は。
(飛影と恋バナなんて変な気分だぜ…)
ありえない状況下におかれつつ、桑原はあることを思い出す。
(未来ちゃんは名前の頭文字が“す”の奴が好きなんじゃなかったっけ。まあ今も好きかどうかは知らねーけど…)
だが、飛影に暗に忠告するにこしたことはないだろう。
「飛影、頑張らねーと!ライバルがいるかもしれねーしよ!」
「ライバルだ?」
「他にも未来ちゃんのこと好きで狙ってる奴がいるかもしれねーぞ!」
桑原の口から出た言葉に、飛影は目を大きく見開く。
そんな可能性、今まで微塵も考えていなかったのだ。
「そんな物好きな奴、いるわけないだろ」
「…オメーそれ自分のこともディスってんぞ」
自覚しているのかしていないのか、飛影の物好き発言に、静かにツッコミを入れる桑原。
「つーかそんな根拠ねーだろ、他に未来ちゃんに惚れる野郎がいないなんて」
危機感の足りない飛影にハア、と桑原はため息をつく。
「オメーもこの一ヶ月、何うかうかしてたんだよ。未来ちゃんに会いに行ってアピールしろよなあ」
「うるさい。くだらんことをペラペラと。貴様に言われる筋合いはない」
呆れられている。
しかもよりによって桑原に。
それがどうしても許せなくて腹立たしく、飛影はムッとする。
「オメーに必要なのは素直さだな、素直さ。もっと素直に相手に好意を伝えねーと」
「だからなんなんだ貴様は!説教じみたこと言いやがって」
桑原に一方的に諭され、飛影のイライラが最高潮に達する。
(こりゃ、もっと飛影に危機感を持たせねーとな…。コイツが動かねーと何も進展しねえ)
貸しを作るという当初の目的がすっかり頭から抜けている桑原は、ただただ恋愛初心者の飛影が焦れったく、アドバイスをおくろうと決意する。
「オメー、もっと焦ろ!」
ビシッと飛影の顔に指を突き立て言った桑原。
(もっと飛影を焦らせて、行動に移させること言わねーと)
先ほどは飛影に根拠のあるなしを問うたが、そんなことは関係ない。
いるか分からないライバルの存在を示唆し、飛影を焦らせようと、すうっと息を吸い口を開ける桑原。
「オメーがボケ~っとしてたこの一ヶ月間、ちゃ~んとアピールして未来ちゃんとの距離縮めてた奴がいるかもしれねーぞ!」
「蔵馬連れてきたよー!」
桑原が飛影へ言ったのと同時に、遠くから未来が叫んだ。
未来と蔵馬が駆けてきて、桑原と飛影のところへ到着する。
「お待たせ」
「おう、蔵馬!久しぶりだな!」
言ってから、桑原は気づいてしまう。
(そういえば、蔵馬はこの一ヶ月、未来ちゃんに勉強教えてたんだっけ)
先ほどの自分の発言とリンクするが、ぶんぶんと首を横に振り、頭からその考えを払拭する。
(考えすぎだ!まさかな)
今回ばかりは、嫌に当たる自分の勘が外れであってほしいと願う。
「蔵馬。幽助が拐われたことについてどう思う?」
蔵馬の意見を聞きたがっていた飛影が、彼に尋ねる。
「未来から事情は聞いてる。妖怪ではなく人間に幽助が捕らえられたと…。驚いたよ」
「人間だと思ってそいつの強さに気づかず、油断してたんだろ。蔵馬、お前もあのバカに付き合う必要はないぜ」
「仮に」
フ、と幽助を嘲るように笑ってその場を立ち去ろうとした飛影だが、蔵馬がまた口を開いたので足を止める。
「仮に敵の力が全く未知のものだったら…」
思わぬ蔵馬の仮説に、背を向けていた飛影が振り返った。
「未知のもの?」
疑問符を浮かべ、繰り返したのは未来だ。
「幽助は通例オレたちが指す“力”でねじ伏せられたのではない。腕力などの筋力や霊力で幽助を捕らえることができる人間がいるとは考えにくい」
「じゃあ、どんな力をその敵は使ったってんだ?」
「それが分からないから、未知なんですよ」
桑原の問いかけに、それが分かったら苦労はしないとでも言いたげに蔵馬は述べる。
「飛影。そんな力を持つ、幽助を拐うことのできた人物に貴方も会いたくないですか?」
返事はわかっているという口調で蔵馬が飛影に投げかける。
「…まあな」
全く未知の力となれば興味がわき、Yesと言わざるをえない飛影である。
(おお!蔵馬、さっすが~!)
飛影を幽助救出に参加させることを簡単に成功させた蔵馬に、未来は心の中で拍手喝采するのだった。
拐われた幽助。
未知の力を持つ敵との遭遇。
事態はかなり荒れそうな模様だが、それだけじゃない。
(オレは未来が欲しい)
先ほど自分の気持ちを自覚した飛影。
(近いうち、未来のことできちんと飛影と向かいあわないとな)
なにやら意味深なことを考えている蔵馬。
彼らを取り巻く恋模様の方も、一波乱ありそうだ。