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Ⅳ 魔界編

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ヒロイン
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✴︎78✴︎home sweet home



閉め切ったカーテンから漏れる西日が瞼を刺激し、泥のような眠りから未来は覚める。
布団に入った際も既に太陽は昇っていたが、その時は眩しさなんて気にならないほど疲労していた。
起き上がるのが億劫で、布団の中で身じろぎしつつ枕元の時計に目をやる。

(…もう三時か)

さすがにもう起きないとまずいだろう。
そう思うのに、なかなか身体は動かない。

(さすがにこの時間から二度寝するのは怠慢だよね…起きよう)

心地よい寝床からやっとのことで出る決心をした未来なのだった。
身支度を整えた未来は、幻海の待つ畳が敷かれた茶の間の戸を開ける。

「師範、おはようございます」

「ようやく起きたのかい」

とっくに起床し、茶を飲みながらテレビを観ていた幻海である。

「師範は早起きですね」

「年寄りは短時間睡眠で済むんだよ」

未来は幻海に注いでもらった茶に口をつけ、共にテレビを眺める。
平日の夕方なんて面白い番組は放送していないが、未来は幻海と共に過ごすこの何気ない時間がとても好きだった。
また以前と変わらない平和な日常が戻ってきたのだと実感する。

(日常、か)

思えばこの世界にトリップした時は全てが非日常だったが、もうすっかりこの生活にも慣れた。

掃除・洗濯・炊事をこなし。
雪村食堂へバイトに行き。
幻海と寝食を共にして。
高校に通えていないため、自主的に勉強をする。

またいつもの穏やかな日々を過ごすことの出来る幸せを、胸いっぱい噛みしめる。

「結局打ち上げとやらはいつになったんだっけね」

「来週の土曜です。蔵馬と海藤くんの中間試験が終わった後がいいだろうってことになって」

未来提案のお疲れ様会は、今週の土曜がまず候補日にあがったが、盟王高校が来週から中間試験だと蔵馬・海藤の会話から判明したため、次週に持ち越されたのだ。

「じゃあ蔵馬との勉強会も今週はやらないのかい」

「はい、次は来週の日曜になりました」

蔵馬は試験前も勉強会はできるし打ち上げも今週土曜で構わないと言ったのだが、未来は遠慮し断った。

「ふうん。じゃあ来週までは確実に動きナシかい」

つまらなそうに小さく呟いた幻海。

「師範、何か言いました?」

「別に」

よく聞こえなかった未来が問いかけるも、ズズッと幻海は茶をすするだけなのであった。

「いってきまーす」

幻海に見送られ、夕飯の買い出しに出かける未来

「今日は何作ろうかな~」

幻海邸の階段を降りる未来は、ふもとの木陰に馴染みの仲間の姿を見つけた。

「飛影!?」

急いで階段を駆け降り、彼の元に向かう。

「おはよう!私もさっき起きたとこでさ」

「その様子だと、幽助が勝ったんだな」

「そうだよ!もうすっごいパワーだったんだから!飛影、絶対幽助の戦い見れなかったの悔しがるだろうなって思ってたんだ」

黒龍波を使った疲労で早々に眠ってしまった飛影に、未来は熱く一部始終を語る。

「…今に追いついてやるぜ」

「飛影なら、きっとすぐだよ」

誰に言うでもなく呟いた飛影に、未来は同意する。
なんたって彼女は飛影最強説の提唱者なのだから。

「今から私、食料品の買い出し行くんだ。飛影も一緒に行ってついでにうちで夕ご飯食べてく?」

「付き合ってやる」

仙水のアジトで振る舞われた未来の朝食を思い出し、心惹かれた飛影は即答した。
二人は並んでスーパーまでの道のりを歩く。

「蔵馬とは何か話した?」

「オレが起きた時にはもういなかった」

「蔵馬、飛影のことおんぶして家に連れて帰ってくれたんだよ」

入魔洞窟前で解散した一同は熟睡する飛影を放置して帰るわけにもいかず、ひとまず蔵馬が彼を自宅に連れ帰ったのだ。

蔵馬の部屋で飛影が目覚めた時、既に彼の姿はなく登校したあとだった。
窓から勝手に抜け出しそのままここへ来た飛影である。

「にしても蔵馬、あんな死闘の後の徹夜明けで学校行ったのか。えらいな~」

夕方三時まで寝ていた自分が恥ずかしくなってくる。

「いらっしゃいませ~」

そうこうするうちに目的地のスーパーに到着した二人は、ちょうど出入り口付近にいた店員の声に出迎えられる。
様々な物品が並び軽快なBGMが流れる店内を、きょろきょろ眺める飛影。初めてのスーパーが目新しいようだ。

「何か食べたいものある?」

「任せる」

「う~ん…リクエストがないならハンバーグにしようかな。あと適当におかず数品」

万人受けしそうな料理を作ることにした未来は、買い物カゴの中に野菜や合いびき肉を入れていく。

「今日はアイス買ってこ。魔界の穴の事件が無事解決したお祝いとご褒美にお風呂上りに食べるんだ!」

あらかた食材を選び終え、最後にアイス売り場へと足をのばす。

「あいす?」

「冷たいデザートのことだよ。美味しいよ~」

ひんやりとした冷気がこもる冷凍室を、飛影は興味深そうに眺めている。

「飛影もいるしファミリーパックにするか」

彼とこうしてスーパーに来ているなんて、不思議な気分だ。
この世界での生活に慣れたように、もしかしてこんな場面も日常に変わる可能性があるのだろうか。

そんな予感がほんの少し未来の頭を掠めたのだった。

「おや、今日は客人がいるのかい」

未来と一緒に帰ってきた飛影の姿に意外な様子の幻海だったが、特に咎めることもせず二人を迎え入れる。

「へえ…薄々感づいてはいたけどねえ…」

去り際、意味深な台詞を吐いてはいたが。

ゆっくりしてていいよ、と未来に言われた飛影は特にすることもないため彼女がキッチンで料理を作る様子を座って眺めていた。

「いただきます」

出来上がった夕飯を円卓に並べ三人で囲む。

「美味い」

「本当!?よかったー!」

ハンバーグを一口食べた飛影の感想に、未来は顔をほころばせる。

(飛影は正直だから、余計嬉しいや)

飛影はまずかったらまずいと言うはずだ。
嘘をつかない彼からの、滅多に出ない褒め言葉はとても嬉しかった。

「そいえばさ、飛影の家ってどこにあるの?今度遊びに行かせてよ。武術会が終わった後、誰も飛影の居場所知らなくて困ったんだから」

仲間内で飛影の家だけ知らないと気づき、未来が何気なく尋ねる。

「ない」

「…え?」

飛影の返答が飲み込めず、パチパチと数回まばたきする未来

「家はない」

「えええええ!?」

「逆に何故あると思った?」

大袈裟に感じるほど驚く未来に、呆れた視線を送る飛影である。

「いや、だって衣食住は生活の基本だし…!まさか家なき子だとは思ってなかったよ!どうやって生活してるの?どこで寝て何を食べてるの??」

「木の上だ。飯はそんなに食わなくても生きていける」

「へー!妖怪って便利だねえ…」

未来、あんたも妖怪になったんだろう?」

「あ、そうでしたね。じゃあ私も飛影みたいな生活が可能なのかな?特に体に変化がないから妖怪になったって実感がないんですよね」

妖怪の生態に感嘆の声をもらせば、幻海にツッコまれた。

「木の上でぐっすり寝れるの?」

「別に平気だ」

「そうなの…?おうち欲しくない?」

「持ったことがないから分からん」

「そ、そっか…」

本当に大したことなさそうにスープをすすりながら答えた飛影に、それ以上未来は何も言えなくなり、沈黙が流れる。

この夕飯を食べ終わったら、飛影は幻海邸を出ていくだろう。
妖怪の感覚からしたら普通なのかもしれないが、帰る場所がない飛影を見送るのは未来は気が進まなかった。

「じゃあ、あんたもしばらくここに住んでみるかい?」

思わぬ幻海の提案に、飛影も、未来も目を丸くする。

「師範…いいんですか?」

「かまわないよ。未来も同年代の奴が家にいた方が楽しいだろう」

「ありがとうございます!」

この家の主である幻海から飛影同居の許可が出て、彼の代わりに未来は礼を述べる。

「おい、何勝手に決めてやがる」

「不満かい?あんたにとっても悪い話じゃないと思うけどね」

ふふんと見透かすような視線を幻海から向けられ、居心地の悪さを感じる飛影。その通りなので反論できない。

(こいつ、少し蔵馬に似てる)

この婆さんは自分の苦手な部類の人間なのかもしれないと、今更気づく飛影なのだった。

***

風呂上がりの飛影が中庭に面した長い廊下を歩いていると、戸の隙間から書き物をしている未来の姿が見え足を止める。

「あ、飛影。お風呂あがったんだね」

先にもう風呂に入り終わっていた未来は、パジャマ姿で机の上にノートと参考書を広げていた。

「勉強していたのか」

「うん。今ちょうど数学やってたとこ」

隣に腰をおろした飛影に、未来はパラパラと参考書を広げてみせる。

「妖怪になっても、まだやる必要があるのか?」

未来が妖怪になった今、彼女が勉学に励む必要性を飛影は感じなかった。

「さっきも言ったけどあんまり実感なくて…私は感覚的には人間のままだし、今の生活を変える気はないの」

そうか、と飛影は納得する。
彼からしても、未来が人間だろうが妖怪だろうが関係なかった。

飛影が見ているのは、好きになったのは、未来という一人の存在なのだから。

「魔界に学校はないの?」

「魔界のどこかには学校とやらもあるかもしれんが、少なくともオレは通っていなかった」

「じゃあずっと戦ったりトレーニングしたりしてたんだ」

「まあな」

「飛影はどうして闘いが好きなの?」

妖怪と人間という溝。
あまり感じたことがなかったその差を、今日飛影が家なき子だと知ったことで実感させられた。

ならば、もっと飛影を知りたい。もっと妖怪を理解したい。
今までそうしてきたように、歩み寄りたいと未来は思った。

「愚問だったかな。理屈抜きにさ、幽助や桑ちゃんも、生活の一部で生きがいみたいなもので闘いが好きなんだよね!」

黙ってしまった飛影を見て、未来はそう結論づける。
この質問は人間と妖怪の違いを問うものではなかったと気づいた。

「オレは…」

未来は一人納得したようだったが、それでも飛影は静かに言葉を紡ぎ始める。

「オレは…ただ強くなりたいと思う。お前のためにも」

彼のストレートな返答に、未来の頬にうっすらと朱がさす。

「そっか。…ありがとう」

生き返って魔界で再会した際、自分が仲間を想うように、自分も深く想われていたと知った。
皆の優しさ、気持ちは今までも十分に感じてきたつもりだったが、想像以上だった。

役立たずなんかじゃないと言ってくれて嬉しくて…。
その時、飛影は寝ていたから、今こうして彼からの気持ちを直接聞けて、未来の胸に幸せなあたたかさが広がった。

その後、キッチンに行った二人は冷凍庫から取り出した棒アイスをリビングで頬張る。
アイスの冷たさと美味しさに驚く飛影。ペロッと完食したあたり、お気に召したようだ。

「飛影が今日来てくれてよかったよ。来週の土曜にお疲れ様会やる予定で、飛影にも来てほしかったから」

居場所不明の飛影を呼びたくても呼べず、困ったことになっていたかもしれない。

「そうだ!雪菜ちゃんも呼びたいんだけどどこにいるか分からないからさ、また明日でも邪眼で探してくれないかな」

「…雪菜?」

「うん!雪菜ちゃん!」

その名前に、飛影は大いに動揺したが未来に気づく様子はない。

「雪菜ちゃん、お兄さんを探しに人間界に来たらしいじゃない?もしかしたらもう氷河の国に帰ったかもしれないけど…また会いたいなあって」

切実に頼む未来だが、飛影はすぐに首を縦には振らなかった。

「お願いだよー。桑ちゃんのためにも」

「…桑原だと?」

「桑ちゃん、雪菜ちゃん大好きだもん。また会えたら喜ぶよ」

あの吏将戦の愛の奇跡は忘れられないよね~と無邪気に笑う未来とは対照的に、飛影の眉間の皺は深くなっていく。

「やらん。絶対に探さん」

「ええ?なんで!?」

頑なに拒否した飛影が予想外で困惑する未来だったが、その顔はだんだんと青白く変化する。

「もしかして…飛影も雪菜ちゃん好き…とか?桑ちゃんと同じくその…恋愛として…」

おずおずと非常に言いにくそうに切り出した未来に、あんぐり口を開けて飛影は絶句した。

「何故そうなる?」

「だ、だって桑ちゃんの名前だしたらすごく不機嫌になったし…垂金の別荘にも助けに行ってたし…」

未来が喋るたび、さらに眉間の皺を深くしていく飛影。明らかに怒らせてしまったようだ。

「お、怒った…?ご、ごめん!」

「雪菜はオレの妹だ」

触れてはいけない話に触れてしまったかと焦っていた未来は、飛影の一言に固まる。

「えっ…え…ええええ!?」

「驚きすぎだ」

やっとこさ反応できた未来は仰天し、広い幻海邸に響き渡るほどの大声を出した。
うっるさいねえ!という幻海の文句の声が遠くの部屋から聞こえる。

「全然似てないねー!そういえば四次元屋敷で幽助が、飛影に妹がいるって言ってたね…。他に誰が知ってるの?」

「蔵馬と霊界にはバレた」

「私と桑ちゃん以外ほとんど知ってたんじゃん!」

内緒にされていたことに、些かショックを受け唇を尖らす未来

「雪菜ちゃんに自分が兄だって名乗ればいいのに。あんなに一生懸命探してるんだから…」

「言う必要はない。今後も言わんと決めている」

お前も雪菜に教えるなよと、暗に忠告する飛影である。

「そう…わかった。私も言わないよ」

「ずいぶん物分かりがいいんだな」

「だって飛影が言わないのは何か理由があるんでしょう?」

核心をついた未来に、飛影は目を見開く。

「やっぱり雪菜ちゃんの気持ち考えたら、いつか飛影が本当に言いたいなと思えた時に教えてあげてほしいけどね」

兄妹の問題に口を出す権利はないと身を引いた未来だが、最後にそう付け加える。

「ねえねえ、じゃあせめて桑ちゃんに教えてもいい?」

「駄目だ」

勿論、速攻で否定する飛影なのであった。

***

夜は深く、もう日付は変わろうとしている。
リビングで駄弁っていた二人は、それぞれ床につくことにした。昼過ぎまで寝ていたのに夜になるとちゃんとまた眠くなるのが不思議だ。

「じゃあ飛影、おやすみ」

未来

幻海邸は広く空き部屋は多い。
その一室に飛影を案内し、自室に行こうとした未来を彼が呼び止める。

「聞かないのか?」

「何を?」

「どうしてオレと雪菜が生き別れたか」

「魔界ではよくある話なのかなって勝手に解釈してたんだけど」

違うの?と未来が首を傾げる。
妖怪と人間の価値観は大きく違う部分もあるようだし、家族の関係も希薄なのではないかと考えていたのだ。

「…違わない」

それは事実だったから、飛影は素直に肯定する他なかった。

「でももし飛影が話したかったら、いつでも聞くよ。なんなら今からでもいいけど。オールして語りあっちゃう?」

「いや、いい。寝ろ」

おどけて笑った未来にそう告げる。
おやすみ、と言って去っていく彼女の背中を飛影は見送った。

部屋に入ると布団にもぐり込み、目を瞑る。
木の上で寝ても平気だと未来に言ったのは嘘ではないが、ふかふかの寝床で眠るのはやはり心地よいものだと感じた。

暗闇の中、どうして先ほどあんな質問を未来にしてしまったのだろう、と飛影は考える。

雪菜と生き別れた理由を話すということは、すなわち自分の生い立ちを白状するということを意味する。
聞いて気持ちの良い話ではないことは飛影も自覚していた。

未来に話したところで、一体どんな反応を期待したというのか。
同情か?慰めか?どちらも飛影が嫌うものだったはずだ。

(それでも…あいつに知ってほしくなった)

きっと、受け入れて、ただ受け止めて欲しかったのだ。
未来に話すことで、自分の全部を。

その実、誤解されたくなかったため未来には雪菜が妹だとあっさり教えてしまっている。

(馬鹿な考えを持つのはよせ)

受け入れてほしいなんて、ひどく甘く身勝手な幻想を抱いた己が恥ずかしくなる。
明日また起きれば、未来の笑顔が見れるという確信がある。今はそれだけで十分だった。

蔵馬の部屋で起きた時、平和な人間界の様子を見て幽助が勝ったのだなと察した。
そして次に飛影が思ったのが、未来だった。

生き返った彼女と再会した後、自分はすぐに寝てしまって。
もしかしてあれは夢だったのではという不安に襲われ、確かめたくなった飛影はいてもたってもいられずこの屋敷を訪れたのだ。

(明日また未来に会える)

今まで当たり前に感じていた尊く幸せな喜びに浸り、飛影は眠りについていった。

***

次の日、早朝。
幻海邸の庭先には、箒とチリトリといった古典的な用具を持ち掃除に勤しむ飛影の姿があった。

(なんでオレはこんなことを…)

素直に従っている自分が情けなくなるが、働かざるもの食うべからず、という幻海のお達しなので仕方がない。

「飛影」

ガラッと戸を開けて、室内から未来が顔を出す。

「玄関掃き終わったら一緒に部屋の雑巾がけしよう」

「……ああ」

「じゃあ私は先に始めとくね」

そう言い残し、室内に戻っていく未来

未来はいつもこんな生活をしているのだろう。
家事をして、勉強をして、幻海と歓談して。襲ってくる敵なんていない平和な日々。

それはいつも戦闘に身をおいてきた飛影にとって退屈な毎日に思えたが、同時に昨日の未来からの問いが頭を掠める。
“飛影はどうして闘いが好きなの?”と。

生まれた時から、闘うことは飛影の日常で当たり前だった。
幸い、血を見るのは好きでその生活に疑問、ましてや不満なんて感じたことはなかった。
魔界ほど弱肉強食がハッキリした分かりやすい世界はない。

幽助は根っからのバトルマニアだ。蔵馬だってわりと好戦的である。
飛影も彼らと同じで、闘うのは好きだ。強い敵を前にすると血が騒ぐ。

未来を一度失い、己の無力さを思い知らされた。
もっともっと、強くなるため鍛錬を重ねる必要がある。
未来を守るためにも、強くなりたい。

けれど…
未来さえいれば、闘いは自分の人生に必要ないのかもしれない。
きっと、強くなるため修行はするが、闘いがなくても未来がいれば自分は生きていける。

ふと、真っ青な空を見上げる。
見渡す限り暗い魔界の空とは正反対な、青く眩しい空。
人間界の澄んだ空気も、頬を撫でる風も、心地よく感じる日が来るなんて考えてもいなかった。

未来と共に過ごす、こんな穏やかな毎日も悪くない。そう、自然に思う。

「あの…」

途端、女性の声がして意識がそがれた。
振り向いた飛影の手から箒が滑り落ち、けたたましい音を立てて倒れる。

「雪…菜?」

「お久しぶりです。飛影さん」

幻海邸を訪れたのは、他ならぬ飛影の妹・雪菜だった。

「あれ~雪菜ちゃん!?」

未来さん!お久しぶりです」

窓から未来が顔を覗かせ、雪菜がぺこりと礼をする。


居候がもう一人、増えるかもしれない。


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