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Ⅱ 暗黒武術会編

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✴︎45✴︎決戦のとき



時刻は正午キッカリ。

「浦飯チームの入場でーす!」

審判樹里のかけ声と同時に、闘技場の重厚感のある物々しい扉が開く。

「のこのこきやがってクソがー!」
「死ね死ね死ね死ねー!」
「お前らは今日までの命だぜー!」

幽助、蔵馬、飛影、未来の闘技場への入場と共に、観客達は罵倒を浴びせる。

「続いて戸愚呂チームの入場でーす!」

浦飯チームと反対側の扉から出てきたのは戸愚呂兄弟、鴉、武威だ。

「おい桑原と幻海はどうした?」
「戸愚呂チームも4人しかいねぇ」

異変に気づいた観客達は、ざわざわ騒ぎはじめる。お静かに、と樹里がアナウンスした後、ルール本を読み上げる。

「大会ルールによりますと、決勝戦は一対一で戦うこと!5戦行い先に3勝したチームの勝利となります!どちらのチームも戦いによって死人が出ていない以上、5人選手を揃えていただかなければなりません!」

「審判さん!桑ちゃんはもうすぐしたら来ると思います!…たぶん」

最後に自信なさげな一言を付け加えた未来。桑原はついさっき死出の羽衣によりどこかへとばされてしまったため、今は行方不明状態である。

「う~ん、まあ桑原選手の件はおいておくとして、5人目の選手はどうしたんですか?」

樹里が首を傾けながら尋ねる。

「まさかアイツ逃げたんじゃねーだろうな」

会場を見回し、姿を現さない5人目を探す幽助。
その時、ゴゴゴゴ…と再度、戸愚呂チームが入場した扉が開いた。

「さ、左京!?」
「あいつ戦えんのか!?」

戸愚呂チームのオーナーの入場に、観客は疑いと好奇の目を向ける。

「私が戸愚呂チームの5人目、すなわち大将として出場しよう。戦うつもりはないがね」

一番見やすい場所で彼らの死を見届けたいだけだ、と左京は浦飯チームの面々の顔を眺め言う。

「先に3勝した方が勝利…私にまで試合がまわってくる可能性は、ゼロだ」

「それを聞いて安心した」

早くも勝利宣言をした左京のセリフに続くように、闘技場に現れた男が一人。

「な、何これドライアイス?」

突然門の方を覆った白いモヤの中から出てきたのは、未来もよく知る人物だった。

「コエンマ様ぁ!?」

まさかの5人目の正体に、声が裏返ってしまう未来

「本来我々霊界を統治する者は直接下界に関われん。しかし場合が場合だけにワシも参加せざるを得んだろう」

もったいつけた登場の後、真面目な顔で語るコエンマからは、5人目の選手としての責務を負おうという真摯な態度が感じられる。

(コエンマ様…)

幻海の死体をあずかってくれた時といい、しっかりして頼もしいコエンマの姿を目にする機会が最近多い未来は、感謝と感激の思いでいっぱいになる。

「もし万が一…ワシに戦う機会がまわってきたら…」

バッと背中のマントを翻したコエンマ。

「いつでも逃げる準備はできておるからな!!」

コエンマの背中には、『努力』の文字が刻まれた脱出ロケットが備えつけられていた。

(や、やっぱりコエンマ様はコエンマ様だナ…)

ガクーッとズッコケる未来と幽助、苦笑いの蔵馬と、はじめから期待しとらん、と冷ややかな視線をおくる飛影なのであった。

「ちょっと待った!幻海選手がいる以上、補欠との交代は認められませんよ」

「かまわんさ。誰でもいい、とにかく5人選手を揃えればよいことにしよう。大会本部の責任者である私がルール変更を認める」

本部の人間である左京に言われては、審判樹里も黙ってうなずくしかない。

「見たところほとんど霊気も感じない。お飾りの人数合わせといったところか」

「ふ…よくぞ見抜いた」

「なんでいばってんですか」

鴉に貶されているにもかかわらず、胸を張るコエンマに未来はツッコむ。

「…審判。桑原くんが来ないまま浦飯チームが優勝した場合、彼の望みはどうなるんだ?」

「え~…桑原選手は準決勝まで皆勤で出場していますから、望みを叶える権利はありますね!」

蔵馬に尋ねられ、パラパラとルール本をめくると樹里が答えた。

(よかった…万が一、ということもある)

魔性使い戦後の左京主催の“ゲーム”に伴い、蔵馬と桑原は鈴駒と酎の命を背負っている身。
もちろん蔵馬は勝つつもりだ。妖狐の姿に戻り、鴉に勝利する絶対的な自信をつけている。
だがもしも自分が死んでしまった場合は、桑原に彼らの命を託すしかなかった。

「なんだよ蔵馬、優勝するつもりか!?」
「生意気言ってんじゃねー!」

優勝前提で話をした蔵馬に、観客達は怒号をとばす。

「とりあえず、桑原選手がこのまま戻らなかった場合を考えて、彼の代わりの人を決めてもらえませんか?」

浦飯チームに頼む樹里。

「…よし。私が桑ちゃんの代わりをやるよ」

決心した未来がぐっと気合いをいれるように拳を握った。

「はあ!?何考えてんだ未来!オメーが戦えるわけねーだろ!」

ムチャ言うな、と幽助が止め、蔵馬も思わぬ未来の申し出に目を丸くし驚いている。

「問題ない。オレと蔵馬、幽助で3勝すればいいだけの話だろ」

負ける可能性など微塵も感じていない飛影は、顔色ひとつ変えない。

「だって早く人数を揃えなきゃいけないし、この場にいる私が桑ちゃんの代わりをやった方が手っ取り早いよ。裏御伽戦の時と同じように桑ちゃんがわりとすぐに帰ってくることを期待しよう」

未来が言うも、幽助と蔵馬はまだ腑に落ちない表情をしている。
もし未来が武威だの戸愚呂兄だのと戦うはめになったらと思うと、うなずくことはできない。

「よし、左京との相手は未来に譲ろう。ワシが桑原の代わりを、未来には幻海の代わりをやってもらう」

まあ試合がまわってくることはないだろうと、高をくくっているコエンマが男をみせた。

「…言ったなコエンマ。男に二言はねーぞ」

カッコつけたいがために言ったのではないか、と疑う幽助はコエンマに念を押す。
やっと出場メンバーが決まり、審判である樹里もひと安心だ。

「了解です!では浦飯チームの5人目の選手は未来さんに変更ですね!」

こうして幽助、未来、蔵馬、飛影、コエンマの新生浦飯チームが誕生した。
コエンマは桑原が戻るまでの代理なので、メンバーを降りる可能性は十分あるが。

「ハハッ優勝商品が選手として出場かよ!」
「しかも5人目ってことは大将じゃねーか!」
「な~んか面白くなってきたんじゃね!?」

観客の妖怪達は予期せぬ未来の決勝戦参加に興奮し、盛り上がっている。
両チームとも選手の人数が足りないというアクシデントにみまわれたが、ようやくそれも解決し、試合開始を宣言しようと樹里がすうっと息を吸う。

「え~決勝にのぞむ10人が決定したことですし、第一試合を始めまーす!」

いよいよ開始だ、と待ちくたびれていた観客達が騒ぐ中、リングに近づいたのは鴉。
これから蔵馬に起こることを象徴したつもりなのだろうか。BANG!と自分の頭を銃で撃つしぐさをし、蔵馬を挑発する。

「オレが行こう」

蔵馬がリングへと歩きだした。

「蔵馬、気をつけて。薬は…?」

「大丈夫。数分前に飲んだよ」

未来を安心させるためか笑顔をつくった後、また真剣な顔で蔵馬はリングに上がっていった。

(蔵馬、死なないで…!)

やはり決勝戦というと、これまでとは緊張感が違う。
未来はぎゅっと祈るように手をくみ、蔵馬の背中を見送った。

「楽しみだよ蔵馬。お前を殺すのが」

「死ぬのはお前だ」

リング上で向かい合う鴉と蔵馬。

「好きなものを殺すのは快感だ。好きなものの好きなものとなればより一層だろうな…」

未来の話を鴉が持ち出すと、蔵馬の目の色が変わった。

「その目だ。好戦的なお前のその目…私は大好物だよ」

樹里が始めの合図を出し、妖気を上げた鴉の手は電流がはしっているのかバチバチという音と共に光りだす。

「そのままでいいのか?むざむざ殺されにきたわけじゃないだろう?」

未来のためにも、と付け加えた鴉。妖狐の姿にならなくてよいのかと彼は問うているのだ。

「じきにわかるさ。貴様を倒すためなら…」

蔵馬の手のひらから、無数の薔薇の花びらが彼を守るように舞いだす。

「なんにでもなってやる」

ヒラヒラと舞う花びら。
その中心にいる蔵馬。

蔵馬らしい美しい技だが、領域を侵す全てのものを切り刻む恐ろしい技でもある。

「妖狐に戻るまでの時間かせぎか」

戦いの際の蔵馬のクセと傾向を熟知している飛影が呟く。

「鴉に触れられると爆発しちゃうみたいだから、蔵馬は距離をとって戦うためにあの技を使ったのかな」

戸愚呂チームの準決勝戦を蔵馬と観に行っていた未来が推測した。

「刄のように研ぎ澄まされた花びらの布陣か…なかなか華麗だ」

躊躇せず風華円舞陣の中へ突入した鴉の頬を花びらが切り、一筋の傷をつくった。

「しかし脆弱だな」

にもかかわらず、鴉はおかまいなしに蔵馬へ近づく。
かと思うと、爆発を起こし蔵馬の花びらを燃やしつくしてしまった。

「何っ!」


鴉は花びらに触れてはいなかった。予想外の展開に、蔵馬が思わず狼狽した声を漏らす。

「くく…お前は私の力を勘違いしているのではないか?」

全てを見透かしているかのごとく鴉が低く笑う。

「私が触った相手の体内に妖気を送りこみ内部破壊を起こす…とでも考えているのではないか?」

違うのか、とたじろぐ蔵馬と未来

「お前には私の妖気の本体が見えていない。これは私とお前の妖力の差を表している」

そう述べた瞬間、鴉は蔵馬に攻撃を仕掛ける。
鴉のパンチを咄嗟によけた蔵馬だったが、彼の左腕で爆発音がし鮮血が吹き出した。

「いやあ!」

準決勝で鴉が起こした爆発により、体の節々を次々と吹き飛ばされていった対戦相手の姿が目に焼きついている未来が、思わず目を覆う。

「安心しろ未来。蔵馬の腕はちゃんとくっついておる」

コエンマに言われおそるおそる未来が瞼の上の手を離すと、痛みに悶え苦しみしゃがみこむ蔵馬の姿があった。

(おかしい…もう妖狐に戻っていいだけの時間はたった…!)

さすがに蔵馬も焦り、冷や汗と痛みが止まらない。

「くくく。今私はお前に触れていなかったぞ。ヒントをやろう…お前が植物を妖気で支配できるように私もあるものを支配し、しかも創りだすことができる」

鴉はゆっくりともったいぶった仕草で右手をかかげる。

「それは今私の右手の中にある。…といってもお前の妖力では見ることはできまい」

鴉が右手を広げるが、蔵馬には何も存在していないようにしか見えない。

「フフ…情けないな蔵馬。今私がこれを未来の鼻先に移動させても、お前は守ることはおろか彼女の危機に気づくこともできないのだから」

悔しいが、その通りだ。これほどまで蔵馬は南野秀一の肉体を呪ったことはなかった。

「最後に私が支配している精神的物体を見せよう。お前にも見えるように、より強く具現化してやる」

鴉の右手には、時限装置らしき時計が巻き付けられた爆薬が。

「なっ…!」

蔵馬だけではない。未来やコエンマにだって“それ”は見えるようになっていた。

「そう、爆弾だ」

愉快げに右手の爆弾を鴉が蔵馬に投げつければ、
大爆発が起き、焦げ臭い煙の匂いが辺りに充満する。

「蔵馬ーー!!」

爆風に吹き飛ばされないよう必死で地面に足を着けながら、幽助が彼の唯一無二の仲間の名を呼ぶ。

「蔵馬あ!!」

幽助に庇われている未来も力いっぱい叫んだ。

「キャー!」

リング上にいた樹里はふっ飛ばされ、観客席との間の壁に背中を強打する。
その時、煙の中から放たれた一輪の薔薇が、鴉の右手を突き刺した。

「きわどかった…南野秀一の肉体じゃコナゴナだった…」

しだいに晴れる煙の隙間から揺れる銀髪がチラチラうかがえる。

「爆弾を支配し創りだす妖怪か…支配者級と会えたのは嬉しいが…」

ペロッと自身の血を舐めとる仕草でさえ、妖艶で美しいその姿。

「お前は殺すぞ」

妖狐蔵馬、復活の瞬間だ。


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