Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎40✴︎美しい魔闘家鈴木
幻海が死々若丸に勝利し、ついに裏御伽チームの選手は残すところあと一人となった。
「ほっほっほ。決勝までに死々若丸くらいは残ると思っていたが…」
危機的状況にもかかわらず、怨爺は余裕な表情で浦飯チームの分だけのサイコロをふる。出たのは“覆面”の目だ。
「あんな爺さんで大丈夫なのかよ!?」
「ジジイとババアのデスマッチなんか見たかねーぞ!」
観客たちはあまり怨爺に期待していないようだ。
「待ったァー!!」
その時、闘技場に飛び込んできた漢が一人。
「桑ちゃん!?世界の果てまでイッテQしてきたんじゃなかったの!?ま、まあ無事でよかった…」
あまりにも早い桑原の帰還に、未来は驚く。
「さっきの試合じゃ納得できねぇ!次の試合はオレがやるぜ!」
なにがなんだか分からないうちに死出の羽衣で消された桑原は、次こそは!と気合いをいれている。
「桑ちゃん、おかえり。だけどもう幻海師範が試合に出るって決まっちゃってるよ…」
「ただいま~ってえ!?幻海の婆さん!?」
申し訳なさそうに未来が言い、桑原がリングに目をやると、既に幻海と怨爺は向かいあっていた。
「いい加減そのジジィ言葉と変装をやめたらどうだい?どこの誰だか知らないが、年寄りのかっこで油断させようってなら相手が悪いよ」
「変装…!?」
幻海が怨爺に言い放った言葉に、会場中がざわつく。
「腐っても鯛か。よく見破った。妖気の波長も変えていたのにな…。いいだろう。お初にお目にかける」
怨爺が自分の顔に手をやり、その仮面を取っていく。
「老人に変装したわけは、年寄りは私の最も嫌いな生き物だからだ。最も嫌いなものに化けることで自らの闘争心をさらに高めた。老いは醜い!もはやこれは罪だ」
ボン!と怨爺がいた辺りが煙に包まれ…
「そうなる前に私は死のうと思う。美しいままで」
現れたのは、ピエロの姿をした若い男性だった。
「エーー!!」
裏御伽チームに潜入中、おじいさんとして接して親しみすら感じていた怨爺のまさかの正体に、未来は開いた口がふさがらない。
「私が主役の恐怖神話を作る!この大会の優勝はその伝説の第一歩となる!お前たちは伝説の証人となる。この大会の目撃者すべてに私の伝説の語り部となってもらおう」
「くだらん野郎だ」
飛影がごもっともな一言を呟いた。
「自己紹介が遅れたな…。私は千の姿と千の技を持つ、美しい魔闘家鈴木!!美しい魔闘家鈴木だ!!」
大事なことなので二回言った鈴木。
「私のことを人にしゃべる時、名前の前に“美しい”をつけるのを忘れるな」
なんじゃそら、と会場中が鈴木…じゃなくて美しい魔闘家鈴木にドン引きしている。
「ところで未来、美しいとは私達のためにある言葉だと思わないかい?老人の姿では君に告白できずもどかしい思いをしたが、やっと堂々と愛を語ることができる…」
美しい魔闘家鈴木がくるっと、彼いわく華麗なターンで未来の方に体を向け、彼女に話しかけた。
「未来の私のチームへの潜入が決まった時、私は思った。これは運命だと。愛の引力が美しい者同士を結びつけたのだ!運命には逆らえない…」
「え、ちょ、ヤメテー…」
大人数の目の前でされた身の毛もよだつ告白に、未来をものすごい寒気が襲い、小声で呟く。
蔵馬も飛影も、露骨に嫌そうな顔をした。
「未来、君は実に美しい!私の次に!」
結局自分が一番美しいんかい、と観客一同や浦飯チームの皆も脱力する。
「未来は世界で二番目の美しさを誇る!トップの私とツーの君、こんなに似合いのカップルはいないだろう?」
ニヤリと鈴木に微笑みかけられた未来の顔は引きつっている。
「フザけんなァ!お前より未来ちゃんの方が、1000倍は美しいわ!」
さすが漢・桑原。好きな人が一番と言えよ!と思った彼は鈴木に噛みつく。
「私はいつも自分に正直でありたい。よって私が一番という真実は否定できない。ただ、お前が私より1000倍醜いという事実は認めよう」
「ンだとぉ!?」
超失礼な鈴木の発言に、頭に血がのぼる桑原。
「失礼だよ、謝って!」
「ああ、私は本当に美しい…美しすぎる!」
未来の言葉が耳に入っていないのか、鈴木はうっとりと自己陶酔している。
「馬鹿げたことをぬけぬけと」
「見てるこっちが恥ずかしい」
飛影も蔵馬も、冷ややかな視線を鈴木におくる。
「美にこだわるくせに素顔を隠すのが分からないね。そんなに顔に自信がないのかい?」
こんな馬鹿を相手にするのもアホらしいという無表情で幻海が問う。
「巨大な伝説は永遠に残る。その伝説に必要のないものが素顔だ」
鈴木は自信たっぷりに言う。
「人は姿形の分からないものを恐れたり、それに惹かれたりしてあれこれ想像するものだ。神や悪魔が最も良い例ではないか。私もそういう存在になりたいと思っている」
リングは鈴木のオンステージと化し、彼は闘技場の中心で自分の野望を語る。
「私は宣言する!私が優勝したあかつきには、まず手始めに老いたる者は皆殺し!それに反対する者も皆殺し!私に従う者にのみ生きる権利を与える!」
「誰がお前に従うかよ!」
「バカ野郎ふざけんなー!」
聞き捨てならない鈴木の発言に、会場中から大ブーイングが起こった。
「未来、二人で恐怖神話を共に作り上げようではないか!」
「もういいや始めまーす!」
長ったらしい鈴木の話に飽き飽きした樹里がとうとう試合開始の合図を出し、会場にいる全員が内心彼女に感謝する。
「幻海、私の伝説の一ページにお前も入れてあげよう。“霊光波動拳の幻海は美しい魔闘家鈴木にコテンパンにやられました”とな。レインボーサイクロン!」
鈴木が放った七色の光の技が幻海に命中し、彼女は場外に飛ばされ壁に激突した。
「私はこれが美しい技の中で一番気に入っている!おやおやもう終わりかな?ほかの999の技もお見せしたかったのに」
カウントをとられる幻海を見、鈴木が残念そうに肩をすくめる。だが、どこか得意気だ。
瓦礫の山の中から現れ、リング上へ戻ってきた幻海。
「なかなかいい形の鼻をしているじゃないか。素顔の方が伝説を作りやすいんじゃないのかい?」
彼女の手には、鈴木ピエロのトナカイのような真っ赤な鼻が握られていた。
「き、貴様っ…!」
意表を突かれ、幻海への怒りから鈴木は青筋をたてる。
「前にも言ったが私は正義の使者じゃないからね。気に入らないヤツは容赦しないよ」
「師範、カッコいい!」
幻海を見つめる未来の目は、まるで死々若丸を見つめる若様ファンのごとくハート状態だった。
「お前の敗因を教えてやる。確かにお前はほかの妖怪たちの性質に合わせて武器を作ることに関しては天才的だ。だがそれを自分の強さと勘違いした。お前に比べたら死々若丸の方がまだ強かったよ!」
バッサリと言い捨てた後、幻海は一度未来の方を見、また鈴木に向き直る。
「強さだけじゃない。あの子に対しても、お前より死々若丸が何歩もリードしているんじゃないのかい?」
「黙れ黙れ黙れーー!!」
フ、と小バカにしたように笑った幻海に、完全に堪忍袋の緒が切れた鈴木。
「お前ごときに霊気は使わん。拳だけで十分だ」
「うるせェ老いぼれ!ならばオレも妖気は使わん!爆肉鋼体!」
筋肉が隆起し、体は一回り大きくなり、ムキムキマッチョになった鈴木。なりふり構わず幻海に向かっていくも。
「ぐわぁあぁ……」
当然というか、返り討ちにされてしまう。
蹴り&パンチが一方的に幻海から鈴木へ入れられる。
「す、すげえ…!」
「違う。あいつが弱すぎるんだ」
反撃の暇を与えない幻海に感心する桑原だが、蔵馬に言わせればそういうコト。
数百発のパンチを鈴木の顔にいれた後、
「しまった…!」
不覚だった、と呟く幻海。
「こいつの“美しい顔”とやらを拝むの忘れてた」
「あ…ひる…」
変形し元の顔が分からないほど醜くなった鈴木は、意味不明な一言の後バタリと倒れたのであった。
「ひゃあ…」
無残な鈴木の姿と幻海の強さに、圧倒される未来。
「幻海選手の勝利!浦飯チームの決勝戦進出が決定しました!」
樹里が宣言し、やったあ!と未来が飛び跳ねた。
「みんなお疲れ様!すごいね、裏御伽チームに圧勝しちゃった!」
未来が浦飯チームの皆をねぎらう。
「今回の勝因は、お前が活躍しなかったことだな桑原」
「なんだとこのチビ!」
毎度の言い争いを繰り広げる飛影と桑原である。
「まあまあ、期待してるよ桑原くん」
「決勝戦は桑ちゃん大活躍かもしれないし!」
蔵馬と未来がフォローをし、桑原は飛影に向かって振り上げていた拳を下ろしたが…
「そうだな!決勝戦はぜってー雪菜さんにイイトコ見せてやるぜ!」
“雪菜”はNGワード。この発言が、火に油を注ぐ結果となり。
「…お前のようなバカにはやはりあの鈴木とかいうアホがお似合いだな」
またギャーギャー騒ぎ始める飛影と桑原なのであった。