Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎38✴︎死出の羽衣
美しいとしか形容のしようがなかった。
銀髪の妖狐から、幼い少年へ…そして未来の知る南野秀一の姿へと。
幻想的な煙の中、変化していく蔵馬に未来は目を奪われる。未来自身も、幼児から元の体の大きさへと戻っていった。
「なんと銀髪の妖怪の正体は蔵馬選手でした!彼の背後にいる小さな少女は未来さんだったようです!」
実況小兎もこれは意外だった。
「未来、立てる?」
蔵馬が後ろを振り向き、腰を抜かしてぺたんと座りこんでいる未来に手をかす。
「うん、ありがとう…」
蔵馬の手をとると、じ~っと彼の顔を探るように見つめる未来。
「…オレの顔に何かついてます?」
「いや!そうじゃなくて…本当にあの妖狐は蔵馬本人だったんだなあって」
目の前にいるのはもう妖狐ではなく、未来が今まで接してきた蔵馬の姿。
「ちゃんと戻ってくれて、なんか安心した。めちゃくちゃびっくりしたよ!いきなり妖狐の姿の蔵馬が現れてさあ…」
頭では同一人物だと理解していても、いきなり仲間の外見が変わったらやはり違和感があるというものだ。
「オレだって驚いたよ。気づいたら小さくなった未来が目の前にいたんだからね」
「っ……ごめん」
真剣な蔵馬の表情に、心配をかけてしまったと感じた未来が潔く謝る。
「未来はオレを助けようとしてくれたんだろうが…もう、未来に危ないことをしてほしくない」
繋がれたままだった手をギュッと強く握られて、未来が目を瞬く。辛そうな顔をしながら真剣に絞り出されたのは、蔵馬の心からの本音だった。
迷宮城での無茶な行動や、雪菜を庇ったこと、先の爆拳との試合だってそうだ。他人のために自分の身もかえりみず行動する未来が、蔵馬は心配だった。
「未来に何かあったらと思うと、気が狂いそうになる」
「…そんなの、私だって同じだよ。蔵馬に何かあったら…考えたくもない」
想像するだけで身震いがする。それくらい蔵馬は未来にとって大事な存在になっていた。
「蔵馬が危険な目にあってたんだよ…助けに行くのは当然だよ。蔵馬を守ることができたのは、あの時私しかいなかったから…」
大事に思ってくれている蔵馬に胸が熱くなりながら、未来は一言一言、かみしめるように言葉を紡ぐ。
自分だって蔵馬のことがすごく大切なのだと、彼に伝えたい。
(未来…)
一生懸命話す未来を見つめる蔵馬の胸に、ぐっと愛しさが込み上げる。
“助けに行くのは当然”
自分が未来に対して思っていたことを彼女も思ってくれていたと知り、ただ単純に嬉しかった。
「あの~次の試合を始めたいので、早くリングから降りてください」
困っている樹里の発言に、ハッとする蔵馬と未来。
「す、すみません!蔵馬急がなきゃっ!」
オーバーに慌てて蔵馬の手を引きリングから降りる未来の姿に、彼はくすっと笑ってしまう。妖狐のような妖艶さはないが、その代わり柔らかく優しい笑みだった。
「未来ちゃんはちっちゃい頃も可愛かったな~」
桑原がリングから降りてきた未来を褒める。
「ほんと~?でも蔵馬の小さい頃の方が私より断然可愛かったよっ!もうキュンキュンしちゃった!私が今まで見てきた赤ちゃんの中でダントツの可愛さ!」
「……」
熱く語る未来に、複雑な心境の蔵馬である。
「おいそんなくだらん話をしている場合か。サイが振られるぞ」
ごもっともな飛影のセリフに、未来達は死々若丸の手から放たれたサイコロに注目する。
出た目は“自由”と“死々若丸”だ。
「さあ誰だ?最初に死ぬのは」
強気な死々若丸が浦飯チームの男三人に向かって言う。
「真打ち登場だぜ!」
「死々若~!一矢を報いろ~!」
裏御伽チームの星、死々若丸に観客達も期待十分だ。
その時。
バッ
ガサッ
会場の至るところから現れた段幕と、そして…
「キャーー!!若様ーー!」
耳をつんざくような女性たちの歓声。
「な、何事…!?」
異様な会場の光景に、未来は興味深そうに辺りを見回す。
視界に入るのは、死々若丸命、若様LOVE…そんな文字ばかり。気合いの入った段幕に、未来の目はチカチカする。
「キャー!若様がんばってー!」
「浦飯Tなんか殺ってちょうだーい!」
「若様愛してるー!」
やっとまわってきた死々若丸の出番に、彼のファンは精一杯の応援をする。
「すごい…暗黒武術会とは思えないね。ジャニーズのコンサートが始まるみたい」
圧倒される未来は、裏御伽チームに潜入した際、彼のファンに遭遇したことを思い出す。
(あの時もファンの女の子たちにはびっくりしたけど、今の方が迫力がある…)
恐るべしファンパワー&死々若丸のモテ男ぶり、である。
「あ でも蔵馬は殺さないでほしいー!」
「あ~浮気者!」
(蔵馬もモテてるじゃん!)
未来は蔵馬を冷やかそうとしたが、
「あんな男女より、若様の方が断然魅力的よぉ!」
オトコオンナ。ファンの女の子のひとりから出た単語に、蔵馬がまとうオーラが黒く変化したのを感じた。
(い、今のは聞かなかったことにしよう…)
蔵馬の顔を見るのが恐くて、未来はゆっくりと彼から視線を外す。
「うるせーな、浮かれ女どもが。闘いの場をなんと心得てやがるんだ、まったく」
不機嫌そうな桑原が会場を見渡すというより睨んでいると、
「おい そこの失敗ヅラ」
すっと死々若丸が彼に向かって指をさした。
「次の試合、お前が出たらどうだ?ただ立っているだけではヒマだろう」
「なっ…誰が失敗ヅラだ コラァ!」
失礼きわまりない発言をした死々若丸に桑原は噛みつく。
「うまいな」
「敵ながら、的確な表現だ」
「座布団一枚あげたい!」
「オメーらも何言ってんだコラァ!!」
死々若丸に便乗する浦飯チームの面々であった。
「ったくどいつもこいつもこの世紀の美男子桑原和真様に向かって~!」
「やるのはオレだ。あいつらの中じゃ一番歯ごたえがありそうだ」
プンプン怒っている桑原を無視し、一歩前に出たのは飛影だ。
「ダメだよ飛影は!その傷で闘うべきじゃないよ」
飛影の右肩の深い傷を心配し、未来が止める。
「未来の言う通りだ飛影。オレが行こう」
「正直に言え蔵馬。お前、あの煙の秘密を聞き出したいんだろ」
蔵馬の裏に隠された目的を飛影は見抜いている。
「待てい!ああまで言われちゃ黙ってられん!あいつはオレが直々に折り畳む!」
失敗ヅラ発言が許せない桑原も乱入し、事態は三つ巴の争いへと発展した。
「…なら戦って決めるか。誰が次の試合に出るか」
「上等だ!」
「ほう…貴様、オレに勝つ気でいるのか?」
提案にのった桑原に、飛影は無謀だと言いたげに笑う。
「試合前にチーム内で戦うなんて…そんな本末転倒な」
「…ここは平和的に、ジャンケンで決めましょうか」
未来が飛影らに呆れていると、蔵馬が名案を出した。
「ジャンケン?なんだそれは」
一人ハテナマークを浮かべる飛影。
「えー!飛影ジャンケン知らないの!?」
「今までどうやって生きてきたんだよ!?」
自分たちが幼い頃から慣れ親しんできたジャンケンを知らないなんて…と、未来と桑原は絶句する。
「決め事や勝負事をする時に使うものですよ。これがグー。これがパー。これがチョキ」
蔵馬が飛影に、実際に自分の手の形を変えて教える。
「で、グーはチョキより強くて、チョキはパーより強くて、パーはグーより強えんだ」
「……」
桑原が解説するが、表情から察するに飛影は理解しきれなかったようだ。
「えっとね飛影。グーは石、パーは紙、チョキはハサミって考えるといいよ。ハサミで紙は切れるけど、石は切れないでしょ?」
ふんふん、と未来の説明を一生懸命に聞く飛影。
(カ、カワイイ…)
母性本能をくすぐられる未来である。
「初心者はグーしか出せねーんだ」
「桑原君!ウソを教えないよーに」
間違った知識を吹き込む桑原を蔵馬がたしなめる。
「…なんだそんなカンタンなことか。やってやるぜ。ジャンケンとやらを」
未来から説明を聞き終わり、妙に自信を持った飛影は開戦への準備万端といったところだ。ボキボキ指を鳴らし、対戦相手の蔵馬と桑原を威嚇?する。
「ジャーンケーン…」
ついに、ジャンケンバトルの幕がおろされた!!
「ポン!」
蔵馬と飛影はグーで、勝ったのはパーを出した桑原だ。
「うっしゃ!オレの勝ち!」
「待て!貴様、今のは後出しだぞ」
「て、てめぇ初心者のくせになぜそんな専門用語を…」
ビギナー飛影に見抜かれ、たじろく桑原である。
ジャンケンポン!
あいこでショ!
あいこでショ!…
「よっしゃあ!今度こそオレの勝ち!」
めでたくジャンケンバトルを征した桑原が、ずんずんと勇ましくリングに向かっていく。
「桑ちゃん、頑張って!」
「おうよ!」
未来の応援を受けた桑原がリングに上がった。なにやら白い羽衣を手にした死々若丸と向かい合う。
「あれならいいわー!さっさと殺してー!」
「若様に傷一つつけたら許さないからー!」
「おんのれ…」
若様ファンの言い様に青筋をたてる桑原である。
(愛されてるな~、死々若丸)
確かに彼は整った顔立ちをしているから、ファンがつくのもわかるかなと未来は思う。
(でも、ファンの子達はあいつの性格知ってるのかな。私、散々ボロクソ言われたよ、死々若丸に)
昨日の潜入中は彼が口を開く度に、バカ女と未来は罵られたのだ。
「一瞬で決めてやろう。その顔長く見るには耐えがたい」
「なんだと~、世紀の美男子をつかまえて…」
桑原が死々若丸に、一方的に火花を散らす。
「では始めっ!」
「刺身みてーにしてくれる!」
樹里の合図と同時に、霊剣を出した桑原。
ビュンッ
ビュンッ…
死々若丸に向かって何度も剣を振るが、すべて空振りしてしまう。
「…完全に見切られている」
死々若丸が結界を剣で破った時から予想はついていたが、彼の強さは蔵馬の想像以上だった。
ゆらりゆらりと舞うようにいとも簡単に桑原の攻撃を避ける死々若丸。ただ避けるだけではなく、自らも行動に出る。
「目眩ましか!?」
死々若丸は桑原を白い羽衣で包んでしまった。
すると…
「うわあああああ…」
桑原の叫び声が聞こえたかと思うと、もうそこに彼の姿はなく羽衣だけが残っていた。
!?
思いがけない展開に唖然とする蔵馬、未来、飛影。
「桑原君の…気が消えた」
蔵馬の一言に、未来の背筋は凍りつく。
「これは場外?カウントに入っていいのかしら?」
「無駄だ。見ての通り消してやったからな。どこへ行ったかはオレにも分からない」
樹里に言った後、バッと死々若丸は空中に羽衣を広げる。
「行き先はこいつに聞いてくれ。闇アイテム死出の羽衣にな!世界の果てか、魔界か、異次元か…まあおそらくロクな場所には行っていまい」
「ちょ…ちょっと!何無責任なこと言ってるの!?変なトコ行っちゃって、死んじゃったらどうするのよ!桑ちゃんを返せー!」
怒りと焦りに我を忘れ、未来は死々若丸に向かって叫ぶ。
「無責任だと?どこに対戦相手の命に責任をとるヤツがいるんだ。相変わらずのバカっぷりだな、バカ女」
「なっ…暴言反対!バカバカ言わないでって前も言ったじゃん!」
不毛な言い争いを繰り広げる死々若丸と未来である。
「う~ん…痴話ゲンカですか?」
「なんで!!」
見当違いの樹里の言葉に、んなわけないでしょ!と未来が激しくツッコむ。死々若丸はといえば、先程から表情を変えずただ涼しい顔をしているだけであった。
「…未来、桑原のゴキブリ並みの生命力はお前も知ってるだろ。どんな場所でもなかなか死なんはずだ。ヤツのしぶとさは異常だからな」
「うん…」
褒め言葉なのか悪口なのか分からない飛影のフォローに納得し、未来も気持ちを落ち着けた。
「あのコ、若様と喋った~!」
「ずる~い!」
会話の内容はアレなのだが、とにかく死々若丸と話した未来が羨ましくてしかたないファンの女の子たち。
そして。
(痴話ゲンカだと?どこがだフザけるな…)
樹里の発言にやけに反応してしまう飛影。
(“相変わらず”、“前も”?)
死々若丸や未来の言葉の節々を気にしてしまう蔵馬。
若様ファン以外にも、嫉妬の炎を燃やす二人組がいたのであった。