Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎16✴︎死を呼ぶ島へ
「待たせたな…」
そう言って現れたのは幽助だ。
隣には未来と覆面をした謎の人物が立っている。
「浦飯!未来ちゃん!…となんだァその覆面の奴は!ほんとに待ったぜ、おせーぞ!」
桑原が口をとがらせる。
ついにこの日が来た。
明日開催される暗黒武術会のため、未来たちは会場がある島へ出航する船に乗ろうとしていた。
「おい、あいつが浦飯らしいぜ」
「朱雀や乱童を倒したあの有名な…」
「隣の女は異世界から来た“ナガセミライ”か」
「絶対優勝してオレがあの女を手に入れてやる」
ザワザワと騒ぎだした周りの妖怪たち。
未来は“商品”として奇異な目で見られ、気分が悪かった。
妖怪たちのセリフから察するに、どうやら未来の顔は知られていなかったらしい。未来が武術会までの2ヶ月間何事もなく無事に過ごせたのは、そのせいもあるだろう。未来の異質な気が薄れていたおかげでもある。
「幽助」
名を呼ぶと、飛影はいきなり幽助に斬りかかった。
ヒュッ ヒュッ…と、辺りには飛影の刀を斬る音だけが聴こえる。
「まったく見えない」
「オレは目で追っかけるのがやっとだ…」
彼らのスピードに、未来と桑原は圧倒された。
「少しはできるようになったようだな」
気がすんだ飛影は、刀をおさめる。
「少しだとォ!?あれで!?ぶっちぎりで強くなっちまってるじゃねーかよ」
「大丈夫。今の動きが見えているなら君も充分成長している」
「そうだよ!あんなに修行したんだから」
冷や汗だらだらの桑原を、蔵馬と未来が諭した。
「ところでまさかあのチビが5人目のメンバーなのか」
ありえない、と覆面に目を向ける飛影。
「最強の助っ人だよ!安心して」
キミもちびっ子ですよ、とつっこみたくなる衝動を抑えながら未来が言った。
未来は覆面の正体が幻海だと知っていたが、誰にも言うなと口止めされていた。
「桑原、蔵馬、飛影。今までもそうだったが、これからは絶対に未来を一人で行動させるな。未来を狙ってる妖怪がうようよしてやがる所に行くからな」
幽助がそう言っている間にも、妖怪たちの未来を物欲しそうに見る視線は止まらない。
未来を危険な場所へ連れて行くのは気がひけたが、幻海邸に一人で残しておくよりはよっぽど安全だ。
彼女は自分達が守りぬこうと幽助は幻海と話し決めたのだった。
「そんなのわざわざオメーに言われなくてもわかってらあ!」
「そのつもりで来てますよ」
当然だと口をそろえる桑原と蔵馬。
飛影は何も言わなかったが、彼だって十分承知していた。
「みんな、ありがとう」
「おいおい水くせーぞ未来!」
深々と頭を下げた未来の背中をバンッと幽助が叩く。
(背中こわれる…)
幽助にとってはかなり手加減したつもりだったが、垂金に撃たれた時並の痛みを必死にこらえる未来であった。
***
武術会参加者を乗せた船は海上をゆっくりと進み出した。
「これからこの船の上で予選会を行いやす」
船長が皆に告げると同時に船の一部がせり出し、闘技場が出現した。
「実はすでにトーナメントに出場する15チームは決定し島で待機しておりやす。この船上にいる中で参加できるのはたったの1チームのみ!」
えええ~っと船上中からブーイングが起こる。
「チームの中で最強と思われる人物を1名選んで、闘技場でバトルロイヤルしてくだせえ」
「そんなの聞いてないよ!」
武術会参加権利さえまだ与えられていなかったと知り、未来は船長に抗議する勢いで言う。
「ここは大将の浦飯が…って寝てやがる!」
いつの間に深い眠りに入っていた幽助に桑原が驚愕する傍ら、すっ…と沈黙を保ったまま覆面が闘技場に向かう。
「面白い、奴が行く気だぞ。どれ程の実力があるか見物させてもらおう」
お手並み拝見だ、と飛影。
「あいつが負けちまったらどうすんだよ。オレたち出番なしでとんぼ返りかよ!未来ちゃんのためにも優勝しなきゃいけねえのに!」
桑原は覆面が戦うことに乗り気ではない。
「そのときはオレ達でこの船の奴等を皆殺しにすればいいだけの話だ。そうすれば誰も文句を言う奴がいなくなるだろ?」
「なっ…」
「その発想は…なかったなあ」
さらりと言ってのけた飛影に、桑原と未来はドン引きである。
「では始め!」
船長の一声を合図に、バトルロイヤルがスタートする。
「一番弱そうな奴からくたばれえ!」
「まずはテメーだ!」
一斉に覆面へ攻撃しようとする他の代表者達。
集中的に狙われた覆面だったが、その手から霊丸のようなものがいくつも飛び出し、あっという間に全員を倒してしまった。
「トーナメント16チーム目は浦飯チームに決定!」
一瞬の出来事に皆が呆気にとられ、しんとした船上に響く船長のアナウンス。
「あれは浦飯のショットガン。あいつは何者だ…!?」
「…フ 幽助がなんの心配もなく、ぐっすり眠れる理由が分かるね」
覆面の強さを桑原や蔵馬に知らしめす結果となった。
(だって、あの幻海師範だもん!勝つのは当然だよ)
幻海の活躍を、自分のことのように喜ぶ未来だ。
「こうなりゃルールなんか関係ねえぜ!」
「浦飯チームの奴等をぶっ殺してやらあ!」
めでたくトーナメント進出決定!と思われたが、船内の妖怪は飛影的発想を持った者ばかりだった。
ほかの妖怪全員が桑原達めがけて走ってくる。
「ちょ、あきらめが悪いよ!」
巻き込まれてはたまらん、と未来は眠っている幽助を引きずり船の隅っこに避難する。
「準備運動にもならんがじっとしているよりはマシか」
「同感…」
飛影も蔵馬も、それぞれ刀と薔薇を取り出し戦闘体勢に入る。
やはり強かった浦飯チーム。幽助以外のメンバーは余裕で敵を倒していった。
「みんな、さすが!」
その様子を歓喜して見ていた未来だったが。
「寝込み襲ったるわあああ!」
「浦飯死にくされえええ!」
「きゃ…」
未来の隣で寝ている無防備な幽助を数十名の妖怪が襲ってきた。
「オラあああババア来やがれーー!オレはまだやれるぞ、ちくしょおお」
幽助は目覚めないが、殺気を感じて熟睡しながらも拳を振り回す。
彼の猛攻撃により、次々と海の底に沈む妖怪たち。
「み、見境なくパンチしないで~。私も殺す気!?」
殺人パンチを四方八方に繰り出す幽助から、未来は離れる。
「熟睡してなおトレーニングしているとは…よほどひどい特訓を強いられたとみえる」
ローズウィップをしならせつつ幽助の様子を見ていた蔵馬は、感心しながらも半ば呆れている。
(もしかしてあの覆面は幻海師範!?いや、わざわざ来るようなババアじゃねーし…)
新技、二刀流霊剣で戦う桑原は覆面の正体に勘づいていた。
「くそ~浦飯チームの奴等は強すぎる」
「こうなりゃ優勝商品のナガセミライの首を取って自慢してやるぜ!」
「首だけでも高く売れるだろうな!」
一人ぽつんと立っていた未来に、数名の妖怪が襲いかかった。
「やべえ!!」
叫ぶ桑原が未来の元へ走るも、間に合う距離ではない。
「…っ」
未来は恐怖で目をつむる。
その時、ふわっと誰かに体を持ち上げられた。
(あの妖怪達にさらわれた…!?)
しかし、支えるその腕は、あたたかく…未来を安心させる。
未来が目を開けると、自分を片腕に抱きかかえた飛影が、刀で妖怪をバラバラにしていた。
「ギィヤァーー…」
容赦のない刀さばきに、断末魔のような妖怪の悲鳴が辺りに響く。
事切れた妖怪たちの死体が未来の前に転がっており、まさに一瞬の出来事だった。
「飛影…ありがとう…」
未来は妖怪達にいきなり殺されそうになった驚きと恐怖から、震える声で飛影に礼を言った。
(飛影が助けてくれるなんて…)
意外なことはもうひとつある。
ちびっ子だと思っていた飛影の自分を抱きかかえた腕が、筋肉質で力強く、すごく“男の人”だったことだ。
「…これで借りは返したぞ」
雪菜を守ってもらった借りを…
「借り?」
雪菜が飛影の妹であると知らない未来は、借りとは何か見当もつかない。
「心臓止まるかと思ったぜ…ナイス飛影!」
「未来…よかった」
桑原と蔵馬は、未来の無事に安堵し胸を撫で下ろした。
すべての敵を倒し終え、ここにおいて本当に浦飯チームの勝利が確定したのだった。
***
「わあ~綺麗なホテル!」
島に上陸し、宿泊場所であるホテルのロビーに入った一行。
未来は豪華なホテルに目を輝かす。
幽助はといえば眠り続けており、桑原に担がれている。
「当ホテルにようこそ。部屋へご案内いたします」
「船とはえらい待遇が違うね」
「なんか逆に不安になってきたぜ」
丁寧なホテルマンの後をついていきながら、不信感を募らせ未来と桑原は小声で話す。
「ごゆっくりどうぞ」
案内された部屋は、404号室。広い部屋に6つのベッドとL字型の高級感あふれるソファーが置かれ、ことのほかリッチである。
「こんな大会なら何度来てもいいぜ!」
「……」
テンションが上がる桑原と同様に喜ぶかと思いきや、黙りこんでいる未来。
「? どうした」
様子がおかしい彼女に飛影は気づく。
「いや、別に何でもないよ…」
未来は皆と同じ部屋に通されたことに動揺していた。寝室はせめて別だと思っていたからだ。
そこでピンときた桑原。
「未来ちゃんが考えてることわかったぜ。おこちゃま飛影には早い話だろうがな!」
「なんだと?」
ガキ扱いされた飛影が眉間にしわを寄せる。
だが、未来の様子がおかしい理由はさっぱりわからないままの飛影である。
「大丈夫だ未来ちゃん!この紳士・桑原が、男達が何かやらかそうとしたらそいつをボコボコにしてやるぜ!」
桑原が威嚇の意味をこめ、幽助、蔵馬、飛影を順々に見渡す。
「く、桑ちゃん、私そんなこと心配してないよ…」
桑原の発言を焦って否定する未来。ただ未来は皆と同室という事実を意識してしまい、緊張していただけなのだ。
「未来ちゃん、特に浦飯には気をつけろよ。夜這いに来るかもしれねーからな」
ベッドにぐっすり横になる幽助を見ながら冗談半分に桑原は言った。
が、
「おい桑原ァ!テメーこそ未来と法を犯すんじゃねーぞ!」
眠りながらも桑原に反論してきた幽助である。
「おかすか!!」
速急に桑原は否定する。
「あははっ夢の中で聞いてたのかな?」
おかげですっかり緊張がとけた未来だった。
「さ、冷めないうちに飲んじゃおーか」
そう未来が仕切り直して、一同はソファに座る。
机の上には、ホテルマンによって出されていた人数分のコーヒーがあった。
「まさかこの中に毒がもってあるんじゃ…」
「え…」
コーヒーをじっと見つめ呟いた桑原の言葉に、青ざめた未来はカタン、とカップを置く。
「そんなセコい大会じゃないよ。目的はあくまで純粋な戦いさ」
「開催者の意図は実力の戦闘でオレ達を八つ裂きにすることだ…」
蔵馬と飛影は気にせずカップに口をつける。
覆面はもうコーヒーをほとんど飲みほしていた。
「ま、用心にこしたことはねー。オレは持参した飲み物をいただくぜ」
桑原は自分のカバンからペットボトルを取り出した。
「……!?」
蔵馬がある異変に気づいた。
「おかしいぞ、カップがひとつ足りない」
「え?ちゃんと6つあったはずだけど…」
未来はカップの数を改めて数える。
「5つしかない!?」
ズズ〜。
突如聞こえたコーヒーをすする音に、皆が一斉に振り返る。
そこには、コーヒーカップを手にした見知らぬ少年の姿があった。
「いつの間に部屋の中に…!?はじめっから部屋に隠れていたに違いねえ!」
「仮にそうだとしてもオレ達に気づかれずにコーヒーを持っていったことは事実…」
「隠れてたなんて人聞きが悪いなあ。オイラちゃんとドアから入ったぜ!おっとノックは忘れたかな」
警戒する桑原と蔵馬とは反対に、明るく言う少年。
「自己紹介が遅れたね、オイラは鈴駒。明日の1回戦でキミたちと戦う六遊怪チームの特攻隊長さ」
くるくると飲み終わったカップを指で回し、愉快げに鈴駒が名乗る。
「ゲストはいいよね、退屈な開会式や説明会に出なくてよくてさ。あ、そーか、どうせみんな死ぬから優勝商品の交渉なんか必要ないもんね」
(なんなの、この子…)
奇妙な落ち着きをはらった鈴駒に、未来は訝しげな目を向ける。
「キミが優勝商品の“ナガセミライ”?異世界から来たって、魔界じゃお姉さんの話題で持ちきりだったよ。こんなに可愛いとは知らなかったな」
未来に話しかけてきた鈴駒は、ひょうきんに笑った。
「しゃべりすぎだ鈴駒…」
またもや気づかない間に部屋に侵入していた男が一人。
「また一人!?いつの間に!?」
「嘘っいつの間に!?」
いつの間に、を連発せざるをえない桑原と未来である。
(今度は油断じゃない)
飛影は男の実力を感じた。
「ゴメンよ是流!つい調子に乗っちゃった!」
是流、と呼ばれたその男に駆けていく鈴駒。
「せいぜい最後の夜を楽しむことだ。明日お前達はそのカップと同じ運命なのだからな」
そう言うと是流は鈴駒と部屋を出ていく。
「これまたいつの間に!?」
真っ二つに割れていたカップに、開いた口がふさがらない桑原。
「なんか圧倒されっぱなしだったね…。でも、あんなに修行したんだもん。勝てるよね!」
明日の試合の浦飯チームの勝利をせつに願う未来。
カップのようになっちゃ困る。
優勝商品の彼女の命運は、浦飯チームと共にあるのだ。
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