Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎32✴︎ 潜入!裏御伽チーム
「未来ちゃん、おかえり!飛影はどうした?」
部屋に一人で帰ってきた未来に、桑原が尋ねる。
「飛影は…もうちょっとしたら帰ってくるよ。たぶん…」
そう答えると、ぽすっと力なく桑原と蔵馬が座っているソファーに未来は自分も腰をかけた。
「未来、どうかしました?」
「なんか元気ねーぞ?」
暗い未来の表情を見、蔵馬と桑原が心配する。
「えっそうかな~、なんでもないよ!」
未来は努めて笑顔を作り、明るく振る舞った。
(飛影と何かあったのか…?)
わかりやすい彼女に、蔵馬は問い詰めようとはしなかったが勘づいていた。未来は目線をおとしたままだ。
(私、飛影に言い過ぎたかな…)
時間とともに怒りが落ち着き冷静になってみると、自省の思いもわいてくる未来。だって言い方こそ乱暴だが、飛影は自分のことを心配してくれたからこその言動だったはずだ。
「あーー!」
突然叫んだ桑原に、未来の思考は中断された。
「そういえば、覆面はどうした!?」
「ゲームが終わった後、ふらっと一人でどこか行っちゃったみたい」
未来は闘技場を一人で出ていく覆面の姿を見ていた。
「ったく、飛影といい浦飯チームには単独行動好きが多いな~」
やれやれと桑原が息を吐いたと同時、ガチャ、と部屋の扉を開ける音がした。
(飛影…!?)
身構える未来が、緊張の面持ちで扉の方に目を向ける。
「浦飯!って、なんだその頭の上のマヌケなヤツは!!」
幽助の頭上を指差す桑原。帰ってきたのは飛影ではなく、不機嫌そうな顔をした幽助だった。ぶ厚い本を手にして、頭の上には鳥に似た得体の知れないモノをのせている。
未来は帰ってきたのが飛影でなくて、ほっと胸を撫で下ろす。
会いたくなかったわけではない。ただ今飛影に会っても、どんな顔をしたらいいのか分からなかった。
「もしかしてコエンマ様が言ってた霊界獣の卵から孵化した子!?可愛い!おいで!」
「プー!」
霊界獣は未来が手を広げると、彼女の元へパタパタと飛び、おとなしく頭を撫でられる。
「キミ、名前は?幽助につけてもらった?」
未来が霊界獣に尋ねた。
「プー」
「プーちゃんっていうのかあ」
「…名乗ったわけではないと思いますけど」
ただの鳴き声だろ、と心の中でつっこむ蔵馬。
「ぎゃははははー!!コイツがお前の分身かよ!!」
「笑いすぎだぞ桑原!」
コエンマとぼたんにも相当笑われてきたらしく、ご機嫌ナナメな幽助である。
「そうだ未来、コエンマからこれ預かってんだよ」
「プ」
幽助が未来との距離を縮めると、プーはまた幽助の頭の上に舞い戻った。
「よっぽど浦飯の軽い頭の上が気に入ってんだな!!」
「頭の軽さはテメーといい勝負だコラ」
笑い続ける桑原に、カチンときた幽助は拳を握る。
「コエンマ様から預かったものって、この本?」
未来は幽助から手渡されたぶ厚い本を眺める。
“霊界重要参考人”と表紙に書かれていた。
「これまでに霊界と関わった前科持ちの奴の名前と写真、プロフィールなんかが書かれた本らしいぜ。コエンマに、未来に渡してくれって頼まれた」
「なんで私に?」
「オメー明日、敵チームにスパイとして潜入しなきゃなんねーだろ?敵チームの奴等がこの本に載ってるかもしれねーから見とけってよ」
「なるほど…」
未来はパラパラと本をめくる。
「あ、犯罪者だけじゃなくってさ、歴代の霊界探偵も載ってるよ!ほら、幽助も!」
未来が広げたページには、幽助の顔写真と四聖獣を倒したなどの功績が記載されていた。へ~と幽助も興味深そうに本を覗きこむ。
「これまでの霊界探偵の人たちは…。真田黒呼、仙水忍……幽助の先輩だね!」
次に未来が開いたのは、犯罪者のページ。
「蔵馬と飛影も載ってるぜ。霊界から三大秘宝を盗んだってよ」
ニヤニヤしながら幽助が蔵馬を見る。
「あ」
はた、と未来が目をとめたのは、“四聖獣・朱雀”のページ。
「朱雀か。アイツもやっぱ載ってんだな」
昔の強敵を思い出す幽助。
(目の保養になるな…)
顔写真つきの霊界重要参考人という本をくれたコエンマに、改めて感謝する未来なのであった。
***
次の日。
「これからの試合で、未来ちゃんが潜入するチームが決まるんだな」
緊張の面持ちで闘技場へと足を運ぶ桑原。そして幽助、未来、覆面。ちなみに蔵馬と飛影は先に闘技場へ観戦に行っている。
「私が潜入するチーム、すなわち浦飯チームの準決勝での対戦相手ね。うわ~緊張するなあ」
敵チームにスパイとして潜入することに、未来は恐怖も感じていた。どんな恐ろしい奴等なのか分からない。
そのための事前調査として、コエンマからあの本をもらったわけだが…
「未来、あの本には獄界六凶チームか裏御伽チームの奴等は載ってなかったのか?」
「それが、載ってなかったんだよね。一応2チームの奴等の名前を調べて、載ってるか探してみたんだけどさ」
幽助の問いに、未来は肩を落とす。
(どっちのチームに私は潜入することになるんだろう…)
それはすぐに判明することとなる。
「信じられねえ!オレたちがこっちにくる5分の間に決着つけたってのか、その裏御伽チームは」
「どんだけ強いの…!?」
桑原、未来は開いた口がふさがらない。
「正確には2分だ」
「とるにたらん。相手が弱すぎただけだ」
試合を観戦していた蔵馬と飛影は、さして裏御伽チームにおののいてはいないようだ。
「弱すぎって…」
飛影からみたらそうかもしれないけどさあ、と続けようとして未来はやめた。飛影と昨日の一件から言葉を交わしていないことに気がついたからだ。
飛影も未来と目を合わそうとしなかった。
「どうしたオメーら、ケンカでもしたのか?」
「…別に。なんでもないよ!」
「ほんとかあ~?」
ぎこちない二人の雰囲気に、幽助は訝しげな顔をする。
「雪菜さんはこの試合見に来てなかったのかな~」
キョロキョロと辺りを見回し呟く桑原。
「そうだ、雪菜ちゃんはお兄さんを探しに来たんだよね!早く見つかるといいけど…」
幽助の怪しむ視線から逃れるべく、未来が話題を変えた。
「この大会が終わったらオレも協力すんだ!」
桑原が熱く宣言する。
「ほぉぉお、それは大変だ!飛影!オレたちも手伝おうじゃないか!」
わざとらしく蔵馬が飛影に言う。
「飛影!オレたちも協力するべきだぜ!」
便乗する幽助。飛影はそんな二人を罰が悪そうな顔で睨みつけた。
幽助はコエンマから、蔵馬は幽助から、雪菜の兄が飛影だと聞いていた。
「…な~に、この白々しい感じ」
「オメーら三人、オレと未来ちゃんに何か隠してんな!?」
「私たち仲間はずれだよ、桑ちゃん!」
「おお!向こうを見ろよ!」
未来と桑原が三人を問い詰めようとしたが、ある観客の叫び声に気を削がれた。
「あれは戸愚呂チーム!?」
ちょうど浦飯チームと反対側の観客席の廊下に立った戸愚呂兄弟、鴉、武威。
圧倒的な存在感を放つ四人の姿に、未来は息をのんだ。
観客席からは戸愚呂コールが鳴りやまない。
すっと右手を上げ、人差し指でまっすぐ幽助を差した戸愚呂弟。今度はその指を自分の喉元に当て、とんとん、と叩く。
“上がってこい、ここまでな”
明らかに、幽助を挑発している。
“ぶったおす!”
そこで怖じけづく幽助ではない。右手の親指で自分の喉元をかっ切るようにし、戸愚呂に応えた。
戸愚呂はそれを見て口角を上げると、チームメイトと共に去っていった。
「ま…まじかよ…アイツら妖気は抑えているはずだ!なのに…ちくしょう!オレは本当にあんなとんでもねー奴と戦ったのか!?」
桑原は戸愚呂の妖気の凄まじさに衝撃を受ける。垂金の別荘で戦った時には気づかなかった確かな戸愚呂の強さを、今はひしひしと感じている。
「戸愚呂の恐ろしさがわかるのは、オメーが強くなったからだ桑原。敵の強さがわかるのも強さのうち。あのヤローの受けうりだがな」
ニッと笑って幽助は励ます。
「おいおい、オレ達を忘れてんじゃないのか?」
浦飯チームに近づく五人組がいた。裏御伽チームの一行である。
声をかけてきたのは長い髪をひとつにまとめ、着物を着た美青年で、どうやらチームのリーダー的存在らしい。
「正義の味方気取りか?ヘドが出るぜ。オレは黒桃太郎。未来っていったっけ?よろしくな」
「オレは魔金太郎だ」
金髪で大柄な妖怪と色黒の巨体な妖怪が自らの名を言った。
「これから未来とは長い付き合いになりそうだからのお。自己紹介といこうか。ワシは怨爺じゃ。こっちは裏浦島。そして死々若丸」
大会参加者中で最も高齢であろう怨爺が、小柄な釣竿を持った男と、先ほどの美青年を紹介した。
「へっ 何が未来ちゃんと長い付き合いになりそうだ、だ。テメーらとは明日の試合でおさらばよ!」
桑原が五人を睨む。
「こりゃいいぜ。未来がウチのチームに潜入することで、オレらは優勝商品の品定めができるっつーわけだ」
魔金太郎がニタニタと下品に笑い、未来を不快感と恐怖が襲う。
「テメーら、未来にふざけたマネしやがったら許さねーからな」
幽助が魔金太郎の目から未来をかばい、威嚇の意をこめて五人を睨み付ける。
「ほっほっほ、ワシらは信用されてないようじゃのう」
「信用なんかするわけねーだろ!」
プーを頭にのせているため、イマイチ迫力に欠けた幽助が叫ぶ。
「安心しろ、優勝前に商品傷モノにするようなことしねーよ。ま、優勝した後は売ろうが殺そうが自由だがな」
「なんだとォ…!?」
「優勝するのはオレたちだぜ!」
聞き捨てならない黒桃太郎の発言に、幽助と桑原は噛みつく。
「未来。くれぐれも気をつけて」
そう言って髪に触れてきた蔵馬に、未来の心臓が跳ねる。急な蔵馬のダイタンな行動に、幽助、桑原、飛影もギョッとした。
「え、う、うん……」
優しく髪を撫でられてドギマギする未来だったが、頭皮に触れた感触から蔵馬の意図に気づく。
(これ……植物の種?)
無言の未来の目配せに、蔵馬は小さく頷くと名残惜しそうに彼女の髪から手を離した。
「覚悟しとけ。お前らはオレ達の名を轟かすための踏み台だ」
死々若丸を筆頭に裏御伽チームの一行は未来を連れ、幽助たちの前を通りすぎる。
「眼中ねーんだよ。ヒョットコがよ」
挑発するように言ってのけたのは幽助だ。
「名を売りたきゃテレビにでも出ろよ。色男」
途端、ばっと振り向いた死々若丸。
「今の言葉、必ず後悔させてやる」
「えっ!?」
綺麗な顔立ちはどこへやら、突然角を生やし、般若のような形相になった死々若丸に未来は目を丸くする。
「必ずな…ひひひ…」
「み、みんな、いってきまーす」
そんな死々若丸に、ためらいながらも未来はついていく。敵チームと行動するという恐怖を払拭するように、笑顔で仲間たちに手を振りながら。
「テメーら、ぜってー未来に危害加えんなよ!!」
幽助が大声で呼びかけた。
「くそっ、 桐島たちを人質にとられてなけりゃ、未来をスパイなんかにさせねーのに」
桐島たちを人質にされているため、幽助らは左京の提案を飲むことしかできないのだ。
「幽助」
悔しさにじたんだを踏む幽助に、話しかけたのは覆面だ。
「話がある…」
「な、なんだよ」
覆面…いや、幻海は幽助に最大の試練を与えようとしていた。霊光波動拳の奥義を継承するために。
***
(一応、私はスパイなんだもん!敵の情報を収集して、浦飯チームの勝利に貢献しなくちゃ)
裏御伽チームの一行と共に歩きながら、気合いをいれる未来。
(一番何か喋ってくれそうな人は…)
未来が狙いを定めたのは…
「怨爺さん!」
「ん?なんじゃ?」
年配の人には敬語という意識が働き、怨爺にさん付けをする未来。
「裏御伽チームの皆さんには、何か必殺技とかあるんですか?」
「ほっほっ。皆、ワシが作った闇アイテムを使うからのう」
「闇アイテム?」
聞き慣れない単語に、未来は首をかしげる。
「おいおい、なに敵チームに情報与えるようなことしてんだよ」
「いや~、すまんのう。ついつい孫のような年齢の子には甘くなってしまうようじゃ。じゃがどんなに情報を与えても、ワシらの勝利は揺るがないと思うがのう?」
黒桃太郎に咎められ、謝る怨爺。自分が作った闇アイテムは無敵だと自負しているようだ。
「フン。準決勝で浦飯チームと当たったせいでオレ達はこの女の、子守りを任されたようなものだな」
いかにも面倒くさそうに死々若丸は未来を見やった。
(子守りって…私はもう子供じゃないし!好きでスパイになったんじゃないし!)
死々若丸にムッとした未来だが、怖いので心の中で反論することしかできない。
「まあいいじゃねーか死々若丸。お前以外は全員喜んでるぜ。さっきも言ったが、優勝前に品定めができるんだ」
「たいしたことなかったら優勝後にすぐ殺せばいいしな」
魔金太郎と、彼に同意した黒桃太郎のセリフに背筋が凍った未来。
(やばい…私たいしたことないのに。絶対に浦飯チームに優勝してもらわなきゃ…)
改めて自分が置かれた境遇の恐ろしさを痛感した未来なのであった。
「とりあえず、腹へったな。飯でも食いに行くか」
ぐ~と裏浦島の腹が鳴る。
「んじゃ、ホテル最上階のレストラン街のどっかの店に入るか」
空腹なのは黒桃太郎も同じようだ。六人はホテルへの歩みを速めた。
そうして六人がホテルにたどり着き、エレベーターへ続く廊下に足を踏みいれると。誰かを待ち構えていたかのように、廊下の両端に長い列ができていた。
「キャー若様よ!」
「今日もかっこいい…素敵…」
「準決勝進出おめでとうございます!」
妖怪の女の子たちの黄色い声援が舞い、熱視線が死々若丸にそそがれる。若様命と書かれた段幕を持つ者、ジャニーズのコンサートばりのうちわを持つ者…様々である。
(わお。モッテモテ~)
モテる妖怪なんて見たのは初めてで、未来にとっては興味深い光景だ。好奇心にあふれた目をして、女の子たちと死々若丸を交互に見つめる。
(私はどっちかっていうと朱雀の方が顔は好みかな。死々若丸もかなり美形だと思うけど)
キャーキャー騒ぐ女の子たちの悲鳴にも似た叫び声を聞きながら、未来は思った。
「ちっ、オレらは完全無視かよ」
ぼそっと裏浦島が不機嫌そうに呟いた。
(オレはオレより顔がよくて背が高い奴が大嫌いなんだよ…!)
ますます裏浦島が眉間にしわを寄せる。
(この裏浦島って人…おとなしそうな顔して、けっこう死々若丸にイラついてんのかも!?)
裏浦島の表情を見逃していなかった未来だった。
「いいわよね、あの未来ってコ」
「若様と一緒にいられるのよ!?」
「羨ましすぎる…!」
女の子たちの、嫉妬も混じった羨望の目にさらされる未来。
(羨ましいって…私優勝商品なんだよ!?いいわけないでしょー!!)
恋はいかなる判断力も鈍らせる。恋の病におちいる死々若丸ファンの女の子たちの発言を、猛烈に心の中で否定する未来なのであった。