Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎28✴︎win or lose
陣が急降下してくるが、幽助は何の構えもとらず、ただ立ちつくしている。
「浦飯選手、微動だにしません!まさか覚悟を決めたのかー!?」
小兎が叫び、そのまま修羅旋風拳をまとった陣のパンチを幽助はくらうかと思われたが…
「さあどっちがタフかな!?」
「!!」
陣が幽助の狙いに気づいた時にはもう遅かった。カッと閃光がはしり、衝撃波で二人がいたところから爆風が渦巻く。
「幽助、霊丸を撃ったの!?」
風で乱れた髪を直しながら、未来が叫ぶ。
「そう。奴がパンチをくりだす瞬間、敵に接触して撃つ霊丸だ」
“カケ”の正体はこれだ。飛影が未来にうなずいた。
「あ!幽助!」
「くそっ しくじったか…!」
その時、未来はテントそばにふっ飛ばされ、悔しがっている幽助を発見した。
「陣はまた上か…」
蔵馬は空中にいる陣を見、彼の手強さを痛感する。
「あぶねーあぶねー。直撃くらったらやばかっただな~」
幽助とは対照的に、ケロリとしている陣である。
「飛影、また解説お願いします!何が起こったの?」
「霊丸と旋風拳が激突する瞬間ヤツは逃げることを考えなかった。突風を上昇気流のように操り、衝撃波の方向を変えることでダメージを最小におさえた」
淡々と未来に述べた飛影。
「百戦錬磨というやつだ。キャリアが違うな。幽助、あの拳をおさえて勝つ方法は何かあるのか」
「ねェ!だが終わるまでわかんねーぜ!」
「ないんかい…」
即答した幽助に、未来はズッコケる。蔵馬は苦笑いだ。
「…お前らの勝ち負けなどどうでもいいが、ただつっ立ってるのも飽きてきた」
だんだんと復活してきた飛影の妖力に気づいていた瑠架は、彼の台詞に怯えた様子でぴくっと肩を反応させる。
「先に言っておくぞ。お前が負けたら次はオレがやる。ルールなんぞくそくらえだ。文句のある奴は殺す」
飛影はそこで一置きすると、いかにも愉快げに笑みを浮かべ…。
「皆殺しだ」
さらっと一言。
「ひ、飛影もルールに文句言い隊に入るの…?」
平然と言ってのけた飛影の発言の恐ろしさを緩和させようと、未来は現在隊員彼女一名である隊を即興で作った。
瑠架はといえば大量の汗をかき、ガクガクと震えている。彼女は知っているのだ。復活した飛影の妖力にかかれば術師もろともこの結界を消し去れることを…。
「7、8、9…」
幽助は審判小兎のカウントギリギリでリングの上に戻った。
「まかせとけ。2回戦はオレでケリをつける」
幽助は陣、そして吏将を自分で倒すことを宣言する。
「お でかくでただな。次のこと考えたらオレは倒せねーぞ」
空中の陣が幽助の強気な発言に、愉快そうにふふんと笑う。
「未来ー!ワリイけど勝たせてもらうだよー!」
「なっ…幽助が勝つもん!」
突然上空から叫んだ陣に、浦飯チーム側の未来は言い返す。
飛影は未来にちょくちょく馴れ馴れしく話しかけてくる陣が気にいらず、露骨に不機嫌そうな顔をしていた。
蔵馬はそれを見て、飛影の未来に対する特別な感情の存在を改めて確信するのだった。
(飛影自身はきっと…気づいていないだろう)
このまま気づかないでいてくれたら、もしかすると己にとっては都合が良いのかもしれない。
チームメイトに抱くものとしてはあまりにも身勝手な心の声には、聞こえなかったフリをして蔵馬はまた空を見上げた。
「霊丸封じ第2弾だべ」
空中では陣が両腕をぐるんぐるんと勢いよく回している。陣は今度は右腕だけでなく、両腕に竜巻を作りだしていた。一気にカタをつけるつもりなのだろう。片腕でしか撃てない霊丸では対抗できない。
幽助がとった策は…
「何!?あの構え」
幽助がとったのは、未来が今まで見たことのない構えである。腰を低くして右の拳に力をためているようだ。
「あの技をやる気か」
解説役をかってでたのは覆面。
「指一点に集中する霊丸に対し、あの技は全身の霊気をフルパワーで高めてやる技で相当な霊力を消耗する。失敗すれば力尽きた幽助には勝ち目はないだろう」
「陣に勝つ方法はもうそれしかないとはいえ…根っからの博打好きですね」
彼らしい選択だ、と蔵馬。
「そこまで幽助を追いつめることができるほどの強さ…」
陣の底知れぬ強さを感じ、未来は息をのむ。これからの二人の一騎打ちに、緊張がはしった。
「勝負だー!」
両腕に修羅旋風拳で竜巻をまとった陣が、猛スピードで幽助に向かってきた。
「なにっ!?」
意外そうな陣。右腕の陣のパンチを幽助が左手で受け止めたのだ。
「うおおおお!」
雄叫びをあげる幽助に右腕をはじきとばされたが、陣も負けじと左腕でパンチをくりだそうとする。
ところが、幽助はそれも受け止めてしまった。
“やばい”
陣の頭にその三文字が浮かぶ。
「くらえー!霊光弾!」
「クリーンヒットォー!陣選手風を使う間もなく観客席に激突ー!」
ぶっ飛ばされた陣を見て、小兎が叫ぶ。
「霊光弾…!?初めて聞いた」
「幽助め、まだあんな技を…」
幽助の新技に、未来と飛影は衝撃を受ける。
「離れた相手でも弱い相手ならその衝撃波で倒せるが霊丸ほどの威力はない。むしろ今のように敵の体に直接拳を当てて、本当の威力を発揮する技だ」
幽助の師匠である覆面、もとい幻海が技の解説をした。
「今の幽助が使える中で最も破壊力があるパンチだ。もしもあれで陣が倒せないと…」
覆面はそれ以上言わなかったが、その先は容易に想像ができた。未来は生唾を飲み込み、陣がふっとんだ辺りを見つめる。
「いててて…」
瓦礫に埋もれていた陣が、体を起こし外に顔を出すが…
「いいパンチだった~おめ…強えなァ~」
バタンッとまた力尽きた陣は倒れたのだった。
「場外10カウント!浦飯選手の勝利です!」
カウントをとっていた小兎は、陣の場外負けを宣言した。
「なんとか勝てた…。陣がまた立ち上がってたら勝負はどうなるかわからなかったね」
未来は安堵のため息をつく。
「ふ~」
幽助もはりつめた緊張から解き放たれ、ひとまず肩の力が抜けたようだ。
「魔性使いチーム大将 前へ!」
小兎の言葉と同時に黒マントをはいだ吏将が、リングに上がる。
「予告しよう。私に指一本触れることなくお前は負ける」
「なんだと~!?」
なめた口をきく吏将に、幽助はおかんむりである。
「おもしれえ試してやんぜ!」
『その試合ストップ!!』
吏将に向かってとびかかった幽助は、突然のスピーカーからのアナウンスに勢いを削がれた。
『先程の試合で浦飯選手が場外に落ちた際、審判のカウントのとり方が遅かった疑いがあり…協議の結果、陣・浦飯両選手を場外10カウント引き分けとします!』
「引き分け!?」
予想外の宣告に、未来の声は裏返る。
「カウント、遅く感じたか?」
「いや普通だと思ったが…」
観客の妖怪たちもざわつき、動揺を隠せない。
「ともかく欠場となった飛影と覆面は戦う権利がねえから…」
「浦飯チームでもう戦える奴はいねえよな…」
「吏将が残っている魔性使いチームの勝ち…?」
浦飯チームの負けだ!
そう観客が気づいた途端、急速に会場は盛り上がる。
「どうした審判。やつらの負けを宣言しろ」
「な、納得できません!」
急かす吏将に小兎は刃向かう。
「引き分けなんておかしい!審判さんのカウントは正しかったよ!」
未来の声にも、吏将は耳も貸さない。
「吏将!オレもこんな勝ち方は納得できない。命をかけた画魔になんと言えるのだ!」
痛む腹をおさえながら凍矢が吏将に叫ぶ。
「甘ったれたロマンチシズムは捨てろ。言ったはずだ。目的は勝つこと。無駄な殺しあいはせずに楽に勝てればいいのさ」
凍矢の主張をバッサリと吏将は切り捨てた。彼の頭にはどんな手を使ってでも勝つことしかないのだ。
「一番納得いかねーのは誰か、わかってんのかテメー」
勝利をくつがえされた張本人である幽助が、静かな怒りを燃やし吏将を睨み付けた。
「幽助、勝ちなんざ奴等にくれてやれ。こんな奴等のルールに付き合う必要はない」
ほとほと馬鹿らしい、と言いたげな口調で飛影は幽助に告げる。
「ここからはオレのルールでやってやる。本当に強い奴だけが生き残るサバイバル・ゲームだ」
ルールに文句言い隊の隊員No.2である飛影がその凄まじい妖力を放出し始めた。
「ほ、本部!私の結界ではこやつをおさえきれませんわ!」
瑠架は自分の死が現実味をおび、相当焦っているようだ。
「…確かにな。オレもぶっちぎれる寸前だぜ。付き合うぜ飛影!派手に暴れてやる!」
幽助が飛影に同意し、固く拳を握った。勝利は本当に強い者に与えられるのだということを証明するべく。
「浦飯チーム戦闘可能選手不在のため魔性使いチームの勝…」
「待っったぁあーーー!」
小兎の宣言をさえぎって闘技場に響いた、ある漢の声。
「さっきからきいてりゃテメーら、このオレ様の存在をすっかり忘れやがって」
「く、桑ちゃん!?」
「よ~っす 未来ちゃん!最後をキメルのはオレだぜ」
未来に手を振り、ずんずんと桑原はリングへ進む。
「おお まだあんなのがいたな」
「にをこの…」
飛影の発言に憤慨した桑原だが、傷の痛みに腹をおさえ何も言えなくなる。
「ほーれムチャだバカ野郎!オメーはイチガキ戦でもうボロボロなんだぞ」
しゅたっとリングから降り、幽助はうずくまる桑原の元へ駆ける。
「オレしかいねーんだろが」
桑原は幽助と目を合わせると、真剣な瞳で言った。その瞳に射すくめられた幽助は声が出ない。
「ムカつくまんま暴れるだけなら奴らと変わんねーぜ。キタネェ奴らにも筋通して勝つからかっこいいんじゃねーか?大将」
「桑ちゃん…かっこいいよ!」
桑原から飛び出した名言に感激する未来。
「勝てればな」
「いちいちっせーんだよテメーはよ!」
一言付け加えた飛影に、桑原は唇を尖らせる。
(やれやれ、完全に引き立て役だな)
彼らのそばで一人笑う蔵馬がいた。
「頭の悪い奴だ。そんなに死にたいか」
「ふん、オレはしぶてェぜ!」
勝った方が準決勝進出。すべては吏将と桑原の試合に賭けられた。
しぶとさ、タフさ、そして根性が桑原最大の売りである。
「れ、霊剣が出ねぇ!」
試合開始早々、窮地に立たされた桑原。
「桑原くんのケガは普通の人間ならとっくに死んでいるほど重いもの。今は体の回復で精一杯で、霊剣が出せないんだ…」
笑っていた時とは一変、蔵馬は冷や汗をかく。
「桑ちゃんの霊力を上げてあげたいけど…」
『試合中の聖光気による回復は当然失格とします!』
こちらの思考を読んだかのようなアナウンス通り、試合中の未来によるパワーアップはご法度だ。
「未来~!」
「未来さ~ん!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、未来は振り向く。こちらへ駆け寄ってくる、魔性使いチームのそれのような黒マントをかぶった二人組がいた。
「もしかして、コエンマ様とジョルジュ早乙女さん…?」
「その通りだ!」
バッとマントをはぎ、一昔前のヒーローばりに現れた青年コエンマとジョルジュ早乙女。
幽助や飛影、蔵馬らはコエンマには目もくれず、桑原の試合を見ている。気にとめる必要もない、という感じである。
「なんで二人がここに…」
ほかにもつっこみたい点は山々だったが、未来は一番の疑問を尋ねる。
「もちろん未来を迎えにきたのだ。さあ早く霊界へ行こう!」
「え、ええ~!?ちょっと待ってくださいよ!」
腕をひっぱるコエンマに、未来はあらがう。
「言っておったろう!浦飯チームが負けた場合はワシが速急に未来を霊界へ連れていくと」
コエンマがこそっと未来の耳もとで囁く。彼は確かに酎と幽助の試合中、そのようなことを言っていた。
「じゃあ、コエンマ様は桑ちゃんが負けると思ってるんですか!?」
「無論」
間髪入れずうなずいたコエンマ。
「なっ…」
「今の桑原が勝てるとは思えん。奇跡がおきない限りは、な」
冷静に、そして真剣な口調でコエンマが言った。おきるか分からない奇跡に賭けて、未来を危険にさらすことなど彼はできなかった。
ふとリングに目を向ければ、霊剣が出ない桑原が一方的に土使いである吏将に痛めつけられている。
「桑ちゃん…」
何もできないでただ見ているだけの自分が、未来はもどかしかった。
吏将に痛めつけられながらも何度も立ち上がる桑原。その痛々しい姿に未来は目をふざきたくなる。
「なぜだ…なぜ立ち上がる!?」
吏将には桑原の行動が不可解でしかない。
「負けたく…ねェからに決まってんだろ!」
流血した桑原がさも馬鹿げた質問だ、というように返した。
「死んでもてめェは道連れだ。引き分ければ延長戦決定。そうすりゃ浦飯が今度こそケリつけてくれるぜ」
「…コエンマ様、やっぱり私は勝負がつく前に霊界へ逃げることなんてできません」
桑原の覚悟を聞いた未来は、彼を信じていないような行動はとりたくなかった。いや、できなかった。
未来の言葉に、コエンマは諦めたようにハ~とため息をつく。
「わかった。ワシも桑原の底力に賭けてみたいと思う。桑原は秘めたパワーを持っておるからな…」
コエンマに未来は深くうなずいた。浦飯チームの勝利を信じて。
覚悟をきめた桑原は、仲間たちの顔を順々に眺める。
飛影…
憎たらしいがてめーは強えぜ…確かにな。
これからの試合もてめーがいたら安心だな。
蔵馬…
オメーや飛影、未来ちゃんとの特訓でここまでやれたぜ。
オメーの薬草は効いた。サンキュな。
覆面…
結局オメーが誰か分からなかったな。
どっかで会ってる気はするんだがな。
未来ちゃん…
数日で失恋しちまったが、気持ちはホンモノだったぜ。
元気で…幸せにな…
幽助…
……
後は頼んだぜ!
「桑原…?」
「桑ちゃん!?」
ニッと口元をあげた桑原の笑顔がひっかかった幽助や未来をはじめとする仲間たち。まるで永遠の別れを意識しているかのようだったからだ。
「行くぜェー!!」
最後の力をふり絞り、桑原は吏将へ向かっていった。