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Ⅱ 暗黒武術会編

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✴︎27✴︎嵐の空中戦



「…10!勝者浦飯!」

カウントをとっていた小兎の前を素通りし、幽助はリングの壁に背をあずけている蔵馬と未来のところへやって来た。

「幽助、ありがとう!スッキリしちゃった」

散々蔵馬を痛めつけた爆拳を気持ちよく倒してくれた幽助に、やっと泣き止んだ未来が礼を言う。

「ああ。まだオレは怒りがおさまってねーがな。蔵馬、大丈夫か」

「すまないな…予定では三人はオレで倒したかったが…」

「ケガはどうなんだ?」

だいぶ血は止まっていたが、シマネキ草を全身にまとわりつかせた蔵馬の体に痛々しい傷跡は残ったままだ。

「ケガよりも自分で植えたシマネキ草が厄介だな。魔界の植物だけに枯らすのに時間がかかる。だがさっき未来に妖力を回復させてもらったから、予定より短い時間で枯れるだろう」

未来の聖光気によって、シマネキ草を早く枯らすことができるというわけだ。

「まさに自分でまいたタネだけどね」

こんな時でもうまいこと言う蔵馬である。

「ゆっくり休んでていいぜ。残り二人もオレがきっちりカタつける」

「幽助、頼りにしてるよ。頑張って!今戦えるのは幽助しかいないんだから」

「まかせとけ!」

未来の応援に、幽助はドンッと自分の胸を叩いた。

「油断だけはするなよ。前の三人は出てくる順番も強さもバラバラだった」

蔵馬は自分が戦った相手である、かなり強かった凍矢、けっこう強かった画魔、論外の爆拳を頭に浮かべる。

「後の二人は確実に大将クラスだ」

「陣と吏将か…」

自分の隣で倒れている爆拳を気にもとめていない陣と、いまだ黒マントを羽織ったままである吏将に未来は目を向ける。未来は彼らと会話したことはあったが、その強さは未知だった。

「どんな奴が相手だろーが、負ける気はしねー!」

幽助は陣と吏将をキッと睨み付ける。

「次の試合を始めます!」

小兎の合図でリングに上がった幽助に対するは…。

「陣だ!陣がやっと出てきたぜー!」
「陣が出りゃこっちのもんだァー!」

期待の星、風使い陣の登場にわき上がる会場。

「陣!浦飯をやっちまえー!」
「殺せ!殺せ!殺せ!…」

「うるせえなや。やりたけりゃ自分でやれっちゃ」

観客席を見渡し、陣がうっとおしそうに言う。

(とうとう陣がくる…!)

かなりの力を秘めているであろう陣に、未来は気持ちが身構える。

「ホレホレ、これ見てけろ。耳がピーンととがってるべ?」

しかめっ面をしている幽助に、陣は自分の耳を指差してみせる。

「オレな、コーフンしたりワクワクしたりすっとこうなるんだ。いや~こんなビンビンになったの久々だべ」

幽助と対戦することが楽しみで仕方ない、という陣の表情。拍子抜けする幽助は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。

「あ、それからオメが爆のヤロぶっとばした時スカッとしたんだオレ。正直言ってあいつの不実さにはほとほとあいそがつきてたからよ」

こそっと幽助に言った陣。これ吏将には内緒な、と付け加えて。

「ぷっ」

思わず吹き出した幽助。

「…ちっ すっとんきょうな野郎だなオメー。怒りにまかせてぶっとばしてやろーと思ってたのに毒気ぬかれちまった」

ぽりぽりと幽助は自分の頬をかく。

「あいつはあいつ。オレはオレだ。ギスギスした気持ちのまんまやりあっても楽しくねーべ」

陣が静かに妖力を高めていき…

「せっかく体はってんのによ」

周りに爆風が巻き起こり、陣の身体は宙に浮かび上がった。

「わお…」

彼の飛翔術を見るのは初めてではないが、やはり未来は感嘆してしまう。

「陣がうらやましいなあ。私、空を飛び回るのが夢なんだよね」

「へ~未来は空を飛ぶのが夢だったんか?オレと空に浮かんだ時はめちゃくちゃ怖がってたでねーか」

蔵馬へ話しかけた未来の台詞が聞こえ、不思議そうに陣が指摘する。

「た、たしかに…」

実際、空の上はかなり怖かった。夢と現実にはギャップがあり、未来は陣に何も言い返せない。

「くくくく…」

宙に浮くという凄技をいとも簡単にやってのけた陣を目の当たりにした幽助は、肩を震わせて笑っていた。

「すげぇぜ 。怒りなんざ完全にふっとんじまった。よーし力比べをしようじゃねーか!」

「始め!」

小兎の試合開始の宣言と同時に、幽助は陣を殴りにかかる。
しかし。

「なっ…」

幽助の拳は空振り。陣はロケットのように空中に飛び上がってしまっていた。

「高ーい!陣選手はるか彼方の空中にいます!」

小兎が地上から、陣を見上げ実況した。

「ここの風は元気がいいだなあ」

ヒュウウウ…と吹く暖かい風を感じる陣。

(なんで未来が怖がるか分かんねーだな。空を飛ぶのが夢なら、楽しいはずだべ?)

高いところを怖がっていた未来を思い出す。とてもいい風を未来自身は持っているのに、この風の心地よさを知らないなんてもったいないと思った。
どうしたら、未来は楽しんでくれるだろうか…。

「…そうだべ」

そこでなにやら思いついた陣が、地上にいる未来を見つめる。
リングの上では幽助が、早く降りてこいと怒鳴っている。

「この島は必ずオレがいただくだ。そして、未来にこの島の風を教えてやるっちゃ」

陣は今度は未来ではなく、幽助をまっすぐ見た。

「オメば ぶっ倒してな!」

そう言うと、幽助に向かって急降下してきた陣。

「陣選手垂直急降下で突っ込んでくるー!っと…空中旋回しましたァ!」

ドカッと、幽助が殴られた鈍い音が響く。小兎の実況通り、陣は反撃しようとした幽助を空中旋回して翻弄した。

(こいつ…あの体勢からひじ打ちとケリを入れようとしやがった)

圧倒的不利な状況にいながらも、攻撃を仕掛けた幽助に陣はぞくぞくする。それは、強いヤツと戦える喜び。

「っつ~すんげぇパンチだぜ。存分に楽しめそうだな」

幽助は殴られた頬を痛そうにおさえつつ、陣と同様、戦えることにワクワクしているようだ。

(幽助、またバトルマニア仲間を見つけちゃったかな?)

そんな二人の様子に、くすくすっと笑う未来がいた。

「あの体勢から攻撃しようとすっとはな~。くえねェ奴だな」

「オメーのパンチもけっこうきいたぜ。ふんどししめてかからねーとな」

お互いの強さを確かめ合う陣と幽助。

「ほめるのはちっとはええぞ」

ぐるんぐるんと、陣は右腕を回し始める。

「修羅旋風拳!」

高速で回した陣の右腕を囲むように、竜巻が出来ていた。陣は自らの手で竜巻を作りだしたのだ。

「いっくぞー!」

「うおおお!?」

殴りかかってきた陣の右腕を幽助は咄嗟によけた。だが、かするのは避けられず飛ばされてしまう。

「かすっただけですっとばされちまった!まともにくらったらどうなっちまうんだ!?」

飛ばされた幽助だったが、体をうまく反転して壁に激突するのはさけた。しかし、それを黙って見ている陣ではない。

「陣選手、後を追ってくるー!」

小兎が叫んだのと、陣が壁に強烈なパンチをしたのはほぼ同時だった。ドゴォッと大きな音をたて、数秒前まで幽助がそばにいた壁が跡形もなく破壊される。

「なるほど、ああなるわけね」

幽助は陣の底知れぬパワーを感じ、冷や汗をかく。

「な、なんて破壊力だ…」

壁があった場所の近くにいた観客の妖怪達は、腰がぬけてしまっている。

「ん~なかなかやるなオメ。そんでこそ倒しがいがあるだ」

陣はまた腕を振り回し、竜巻を作ろうとする。

「させねー!」

竜巻が出現する前に陣に拳を向けた幽助。二人はパンチと防御を繰り返しているようだ。

「全然見えない…」

試合を把握するのを諦めた未来は二人の戦いから、ふとテントに目線を移す。

(あ…飛影…)

未来は先程、蔵馬の件で飛影の前でかなり取り乱してしまったことを思い出した。改めて考えると、恥ずかしかったと顔を赤らめる。

未来、テントのところへ行きますか?」

未来の視線に気づいた蔵馬は立ち上がる。

「え、いいよ。蔵馬は休んでて」

「大丈夫。オレも行くよ」

そんなこんなで未来と蔵馬はテントまで歩いた。

「あのさ飛影、さっきは取り乱しちゃってごめんね。テントから出ないようにおさえてくれてありがとう」

「お前を止める必要はなかったがな」

未来は難なく結界を通り抜けたのだ。飛影は結界に阻まれ戦えない自分がもどかしかった。

「あー!そういえば私、なんで結界を通れたんだろう!?」

今頃思い出したように疑問を口にする未来に覆面は呆れながらも、瑠架にしたのと同じ説明をする。

「なるほど。そうだ、試合は…」

説明を聞いた未来はリングに目を向けると、まだパンチ&防御の攻防を繰り返している二人がいた。

「スピードはわずかに幽助が上か」

呟いたのは蔵馬だ。

「お!お!お!…」

幽助のスピードに追いつくのが困難になり、陣はあたふたしながらパンチを防御する。

「!! ぐ、え…」

ついに幽助の拳を腹にくらった陣は、気が遠くなるほどの激痛に顔をしかめた。

「チャンス!」

スキができた陣を幽助はもう一発殴るべく構えたが…

(だが、ヤツには風がある)

飛影の読み通り。

「くっそ~また上か!」

空振りした腕に、悔しがる幽助。陣は風を操り、一瞬で空中へ逃げてしまっていた。

「げっほげほきっつ~。なるほどこのパンチくらったら爆拳じゃひとたまりもねーわな」

空高く飛び上がり、腹をおさえて休息をとる陣。

「審判さん!空にいるのもカウントをとらなくていいの!?」

空中を闘いの場にできる陣に比べて不利な幽助を援護すべく、未来は小兎に尋ねる。

「場外ルールでは円闘場以外の地に体の一部が触れている場合に限りカウントをとることになっています!」

「え~何そのルール…」

ルールに文句をつける女・未来の再来である。

「へっへ~そういうこった未来!残念だっただな~」

「むむ~」

舌を出し得意そうに上空から叫ぶ陣に、未来は頬を膨らます。

「大丈夫だ未来。オレは勝つ」

幽助は空中の陣に向かって、渾身の霊丸を発射した。

「上空に逃れホッとした油断をついての霊丸!これはとらえたかー!?」

怒涛の戦いに興奮し、小兎のマイクを握る手にも汗がみえる。予想外の攻撃に陣も不意をつかれたようだが、

「爆風障壁!」

さすがは風使い。風で霊丸の方向を変え、楽々よけてしまった。

「風のヨロイがオレを守ってくれてるだからな。オレに霊丸を当てることはできねーよ」

「ぐっ…」

幽助の霊丸は完璧だった。それをよけられてしまい、彼は次にどう出るのか。

「霊丸が当てられないなんて…どうやって勝てばいいの!?」

「当てる方法はある」

慌てる未来に対し、冷静に飛影が言う。

「かなり危険なカケになるがな」

「しかしだからこそ幽助は気づいているはずだ」

蔵馬が飛影に続けた。

「…幽助はやばいカケほど好きな、危険な性格だからね」

呆れた調子で言った未来だが、口元は笑っている。そんな彼が魅力的だと思っていたし、幽助のカケが何なのか楽しみだった。

「勝負あっただかな~?ケリつけてやるだ!」

修羅旋風拳で右腕に竜巻を出現させた陣は、幽助に向かって急降下していった。


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