Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎25✴︎呪氷使い凍矢
「まずいな…手足は鉛のように重くて思い通りに動かない。その上妖気まで封じられるとはうかつだった」
リングの上で棒立ちになった蔵馬は、絶対絶命である。
「蔵馬…!」
「未来、動くな」
蔵馬を心配し、思わずテントから出ようとした未来を飛影が引きとめる。
「ふふふ、ただの人間のあなたが私の結界に触れたらひとたまりもありませんわ。テントから出ようとすれば命はないことをご承知くださいませ。あなたも大変ですわね、優勝商品だなんて…」
瑠架が未来を鼻で笑いながら忠告する。
「貴様に言われる筋合いはない」
瑠架から未来を隠すように、飛影は立つ位置を変えた。
そんな飛影の行動さえもおかしいとでもいうように、瑠架は口元に笑みを浮かべたままである。
「未来、大丈夫だ」
未来を少しでも安心させようと蔵馬が笑顔を作るが、その表情はやはりひきつっている。
「蔵馬、無理はしないでね。ヤバそうだったら幽助に代わってもらってね。画魔みたいなこと絶対しないでよ!」
蔵馬の無事が、未来の一番の願いだった。
画魔のように、自分の命を捨ててまで勝利に貢献してほしくない。
「オレは生き残るつもりだって、昨日未来の前で誓ったつもりだ」
昨日、蔵馬と未来が二人で訪れた展望台。そして、呂屠戦後のこと。
母親のためにも、自分のためにも、生きたい。生きなければならない。
それに気づかせてくれたのは、まぎれもなく未来だった。
「蔵馬…その言葉、信じてるよ」
未来は蔵馬の無事を祈るように両手をくんだ。
「お前の死、ムダにしないぞ画魔。奴はオレが殺す」
凍矢の目は、冷たく蔵馬を見据えている。同時に画魔のカタキを討とうとする彼の目は熱くもあり、確かな忍同士の絆がうかがえる。
「ひとつ教えてくれ。なぜ最強の忍と呼ばれる君たちがこの戦いに参加した?」
「…光さ」
蔵馬に訊ねられ、凍矢がおもむろに口を開いた。
「闇の世界を生きるオレ達には一片の光もない。だが気づいたのさ。オレ達の力があればいくらでも表の世界を生きられるとな…」
淡々と述べる凍矢。
「オレ達の望みは誰の手にも染まっていないナワバリ、この島さ。ここは出発点にすぎない。いずれはオレ達自身が光となりこの世をおおってやる」
「忍の反乱か」
魔忍・凍矢の発言に対し、覆面が呟いた。
飛影がそれを聞き言葉を続ける。
「奴等魔忍は命をかけた戦いの前に一番弟子に自分の奥義をたくし部隊を維持する。それを繰り返せばあんな奴等も出てくるさ」
「命をかける…、光、か…」
想像以上に凍矢たちが厳しい闇の世界を生きているのだと知り、未来は神妙な面持ちでいた。
「問題はいかに奴等を倒すかだが、呪氷使い…かつてオレが倒した青龍とは比べものにならん氷の使い手だぞ」
「えぇ!玄武より白虎より強い青龍よりもさらに上なの!?」
「ああ。かなりな。奴は氷系の能力を使う妖怪の中で最も位が上だ」
凍矢の強さを飛影から伝えられ、未来は蔵馬が心配でたまらなくなる。
「おしゃべりはここまでだ。画魔が命と引き換えに作ってくれた時間、無駄にできない」
戦闘体勢に入った凍矢の妖気が上昇し、両掌にそれが集中していく。
「お前は頭が切れる…しかも用心深く奥の手をいくつも隠している。妖気が使えないとはいえ近づくのは危険とみた。撃ち殺すことにしよう!」
凍矢の両手の上には無数の氷の塊。ふうっ、と息を吹きかけ蔵馬に向かって凍矢は氷結晶をとばした。
「魔笛霰弾射!」
「うあっ」
蔵馬は動きにくい体で必死にそれをよけようとするが、やはり当たるのは避けられない。氷の固さと凍矢の妖気が融合してもたらされた痛みに顔をゆがませた。
(…ダメだ。妖気なしで戦える相手じゃない)
凍矢の強さを肌で感じた蔵馬。攻撃をよけながら、ふとテントの下で不安気な顔をした未来が目に入る。
(…負けられない。絶対に。なんとか…なんとか呪縛を解かなくては……そうだ!)
蔵馬は自分の血で、画魔の血によってつけられた胸の呪縛の文字を落とそうとする。
「フ、血で血を洗うか…考えたな…。だがムダだ。そんなことで呪縛が消える程度の持ち主じゃないよ、画魔は。戦ったお前が一番よく分かっているだろう」
凍矢は蔵馬の行動を感心したように見たが、並でない画魔の妖力を知っている彼は少しも怯まなかった。
出血の痛みに耐えながらも、息を切らして蔵馬は呪縛から逃れようとするが、妖気は一向に回復しない。
「残りあと5分!画魔の妖力が消えない限り、お前の妖気は外に出せないのさ!」
「あうっ」
「ダウン!」
さらに凍矢から魔笛霰弾射を浴びせられた蔵馬はリングの床に手をつき、小兎にカウントをとられる。
(妖気を外に出せない…?…あったぞ、妖気を使う方法が)
凍矢の言葉からピンときた蔵馬は、よろめきながらも立ち上がる。
「蔵馬、もう立たなくていいよ!」
テントから未来が悲痛な声で叫ぶ。蔵馬が凍矢に殺されるよりは、カウント負けになってほしかった。
だが…
(蔵馬…?)
リングの上から未来に顔を向け、彼女と目を合わせた蔵馬。信じてくれ、とでもいうように。
(蔵馬は、何か策があるんだ…)
信じるという意味をこめて未来がうなずくと、蔵馬は一瞬微笑み、またすぐ真剣な瞳で敵を見据えた。
リング上とテント下。二人の間に距離はあったが、しっかりと思いは伝わった。
「お前は恐ろしい奴だ。オレが狙った急所をその体で全てよけている」
蔵馬のしたたかさに冷や汗をかく凍矢。
「よけながらオレに勝つ方法を考えている…!」
まるで勝利を諦めていない、見ているだけで空恐ろしい蔵馬の瞳に、ゾッと凍矢が身震いする。
(まずいな、呪縛がそろそろ切れる時間だ。どんな深手を負っていようと奴に妖気を使わせるのは危険だ)
凍矢は早急に勝利を決める手段をとることを選ぶ。
(それならば接近戦で確実に…!)
凍矢が右腕に妖気を集中し始める。すると、凍矢の右手を包みこむように鋭い氷の剣が出現した。
「妖気を使えない素手のお前にこの剣から逃れる術はない!くらえーー!」
ザシュッとリング上で響いた肉体を切り裂く貫通音。凍矢の氷の剣は、蔵馬の顔から数センチ先で止まっている。
その代わり、シマネキ草に腹を刺された凍矢の姿があった。
「く、蔵馬…よかったあ…」
蔵馬の無事に安堵した未来は、へなへなと力なくその場に座り込む。蔵馬を信じていたとはいえ、未来はハラハラしっぱなしだった。
「傷口から植物が…!?お前…自分の体にシマネキ草の種を…!」
敗因を知った凍矢が驚きの声をあげる。彼の目線の先には、蔵馬の腕の傷口から生えたシマネキ草があった。そのツルが凍矢まで伸び、攻撃を仕掛けたのだ。
「妖気を封じられて外に出せないならば、体の中を使うしかないだろう」
「たいした…奴だ…」
蔵馬への敗北を悟り、力尽きた凍矢は倒れた。
「…10!蔵馬選手ふたり勝ち抜きです!」
カウントをとった小兎が蔵馬の勝利を宣言する。
「お前の勝ちだ。殺せ」
忍の世界では、敗北はすなわち死だ。
「断る」
だが、蔵馬は凍矢の要求を拒否する。
「キミ達が光の後に求めているものを知りたい…。なにより…正直なところ…オレのダメージはキミより…大きい…」
「蔵馬もういい!戻ってこい!後はオレがやる!」
途切れ途切れ、辛そうに言葉を紡ぐ蔵馬に幽助は大声で呼びかける。
「光、か…お前の光はなんだ?」
今度は凍矢が蔵馬に問う番だ。
自分を負かした相手である、確かな強さと頭脳を兼ね備えた蔵馬という男の光に、凍矢は興味を持った。
「光…」
オレの光は…
蔵馬の目はだんだんと閉じていき、腕はだらんと下がる。
「蔵馬…?ねえ…蔵馬どうしちゃったの…?」
震える声で未来は両隣の飛影と覆面に尋ねる。最悪の事態が頭に浮かんで。
「蔵馬ァーー!!」
目を瞑ったまま棒立ちでピクリとも動かない蔵馬。幽助の声が届いたかどうかは、分からない。