Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎23✴︎Trap
大きな黒マントに、陣と共にすっぽりおさまった未来。
真っ黒なマントであるにもかかわらず、内側からは外の様子がよく見えるようになっていた。
「なんでわざわざこのマントに入って移動するの?動きにくそうなのに」
マントの中で、未来が陣を見上げて尋ねる。
「これはただのマントじゃねーべ。オレの妖力がこめてあっからな」
「あなたの妖力?」
「オレはあなた、じゃなくて陣だべ」
聞き返した未来に、陣が訂正する。
「う、うん。陣、ね」
未来は戸惑いながらも頷いた。
「これから陣たちのチームが戦うってことは、浦飯チームは連戦ってこと?」
「そうだべな」
まさか連戦を強いられているとは。イチガキチームに勝利した様子なのは良かったが、幽助たちは大丈夫だろうか。蔵馬と飛影は来てくれているのか。
心配でたまらない未来は、早く闘技場へ向かいたいと気持ちが逸った。
「よし、出発するぞ」
吏将の一言と同時に、5つの黒マントが空中に浮かぶ。
「え、嘘!?」
ふわりと身体が浮かび上がる感覚に、驚きの声をあげる未来。マントに包まれた未来たちの身体は、地上1mほどのところで浮いていた。
「きゃああああ!」
そこから一気にマントは急上昇。未来を激しい浮遊感が襲い、思わず隣にいる陣の腕を掴む。
「び、びっくりしたあ…!」
「な?ただのマントじゃねーべ」
空高くで上昇はストップし、彼らの目前に一面の青空が広がる。
空飛ぶマントに大きな反応をみせる未来の様子に、陣が愉快げに笑った。
「笑ってる場合じゃないよ!怖すぎて失神しそう…」
足が地面に着いていないことが、こんなにも心細いとは。未来の顔は真っ青だ。
「なんでオメが怖がるか分かんねえだな。風が気持ちいいべ?」
「風なんて感じてる余裕がないよ…」
恐怖のせいで、だんだんと語尾は小さくなっていく。
「行くぞ」
吏将の合図で、黒マントは空中から姿を消す。
体が回転しているような奇妙な感覚に、未来は目をぎゅっと瞑った。
「未来、着いたっちゃ」
「ここは…」
陣の声に未来がおそるおそる目を開ければ、広がっていたのは観客席。一昨日見覚えがある光景…そう、暗黒武術会の闘技場だ。
「なんでなんで!?瞬間移動したの!?」
「瞬間移動とは違うだよ。オレの妖力で風を操って、高速でここまで移動したんだべ」
「すごい!陣は風を操るんだ!」
未来がピョンピョン飛びはねんばかりに興奮して言った。
「魔性使いチーム、チーム名通りまるで魔法を使ったような入場です!」
1回戦と同じように、実況は小兎である。
「出やがったな。もったいつけやがって」
幽助が5つの黒マントを睨み付ける。まさかそのマントの一つに未来が入っているとは思いもしていない。
(幽助たち、みんな…!)
浦飯チーム全員が無事揃っていることにホッとしたのも束の間、敵と共にマントの中にいるというこの状況をどう説明しようと未来は焦った。
「桑原は今回はとても戦えねェ。オレたち4人でなんとか戦わなきゃな」
イチガキ戦で重傷を負った桑原を気遣い、幽助が蔵馬、飛影、覆面に呼びかける。
(戦えないのは彼だけじゃない)
イチガキ戦で霊力をかなり消費した覆面と、右腕に致命傷を負っている飛影を蔵馬が横目で見やる。
(未来がいてくれれば覆面の霊力を回復させることができたが…)
彼女は二日酔いで部屋で休んでいるため仕方ない。幽助と自分だけで一戦をのりきることを、蔵馬は覚悟する。
「誰が行く?最初に戦いたい奴が代表でいい」
吏将の問いかけに答えるように、ビュオッと一つのマントが翻った。
「オレが行くべ」
中から出てきたのは陣と、まさかの未来だ。
「陣だ!」
「風使いの陣だぜ!」
有名な妖怪、陣の登場に会場はざわつく。
「未来!?」
浦飯チームの面々が注目したのは、陣より未来の方だ。存在をなるべく消そうとマントが飛んでいった瞬間しゃがんだ彼女だが、幽助たちには丸見えである。
「みんな、無事でよかった!」
目をまんまるくして驚いている浦飯チームの面々の元へ、未来が駆け寄った。
「いや、そりゃこっちのセリフっつーか…未来ちゃん、アイツらに拐われたのか!?ケガはねーか!?」
「なーんにも、こわいこともされてないよ!桑ちゃんこそ、そのケガ大丈夫なの!?」
見る限り無傷で元気な未来の返答に、ホッと浦飯チームのメンバーは安堵する。
「厳密に言うと拐われたっていうのも違ってね、あのね、部屋のテレビが突然ついて」
「テレビィ!?何の話だ!?」
支離滅裂としか思えない未来の言動に、ハァ!?と幽助が声を上げる。
「ほんとにテレビが勝手についたの!私も何がなんだかわからなくて〜!ひゃっ」
左京に脅されたり敵に捕まったり、短時間で色々なことが起こり過ぎて未来もまだ混乱の最中にいるのだ。頭がパンクして喚いていると、飛影に軽く頬を摘まれる。
「いひゃい…」
「フン。少しは目が覚めたか」
ちょっとは冷静になれと、憮然とした飛影の表情が言っていた。
「未来。ゆっくりでいいですよ」
「うん……ありがとう」
蔵馬にも優しく促され、落ち着きを取り戻した未来が淡々と一部始終を語り始める。
「ゲームだとォ!?」
「ホントに人質がいるのか!?」
未来から話を聞いた幽助たちは、無理もないが騒然としていた。
左京の魂胆は皆目見当もつかない。ただ皆が、何やら気味の悪い不吉な予感だけは感じていた。
「とにかく、未来が無事ここまで来れたんだ。今は彼らとの試合に臨むしかない」
「外野が何を企てようが皆殺しにすればいいだけだ」
蔵馬の言葉に、皆も同意し気持ちを切り替える。
飛影の物騒な発言も、今はいつも以上に頼もしく感じる未来だった。
「あのー、お取り込み中すみませんが、早く対戦方法を決めてください」
「あ、ワリイ。そうだったな」
小兎に促され、大将である幽助がリングに上がり陣と向き合った。
「1対1で勝ち抜き戦。相手がゼロになるまで戦うべ!」
「上等だ!」
陣の提案に受けて立った幽助。
「テメーら、どういうつもりで未来を連れてきたんだよ」
返答次第じゃただじゃおかねーと、幽助が陣へガンを飛ばす。
「未来が闘技場行きてえらしいから一緒に来ただけだべ。オメら、未来の仲間なんか?」
「とぼけんじゃねぇぜ」
優勝商品となっている未来のことを陣が知らないはずはない、と思った幽助は捨てゼリフを残し、リングを降りようとする。
「オメ、いい風ば持ってるな。未来に負けねえくれえ」
「…?」
すれ違いざま言った陣に、肩透かしをくらった気分の幽助だった。
「なんだあいつは…」
「奴は風使い陣。かなり有名な妖怪だ。魔性使いとは仮名だったようだな。奴らの正体は魔界の忍だ」
「忍…そういえばあの人たち、自分たちのことを魔忍とか言ってた!」
「ああ。妖怪同士の勢力争いの影で暗躍する戦闘集団魔界忍者。奴らはその中でも最も恐れられている修羅の怪だ」
こくりと未来に頷き、魔界事情に詳しい蔵馬が解説する。
(最も恐れられている、か…)
ひょうきんな陣とのそのギャップが、未来は信じられないのだった。
『ここで対戦の前に運営本部によるメディカルチェックを行います。日程の都合上連戦となる浦飯チームの体調を考慮しての特別処置です』
その時、会場内に設置してあるスピーカーからアナウンスが流れた。
「あなたとあなたと、あなた。ちょっと来ていただけますか」
ナース服を着たロングヘアの女性が現れ、飛影と覆面、未来を指名する。
「いらん世話だ。オレの後ろに転がっている奴を診てやったらどうだ?」
「そうですよ。桑ちゃんはひどいケガだから診てあげてください。私は選手でもないし」
未来は飛影に同意し、彼女の誘いを断る。
「二、三問診するだけですわ。それにあなた、二日酔いだったんでなくて?」
しょうがなく三人は女性に連れられ、救急テントに入っていった。
テントの中でナース服の女性がカルテに何か書き込みながら三人に質問する。
「気分は悪くありませんか?おなかは?」
「貴様なめてやがるのか?」
くだらない質問に、飛影が眉をひそめる。
「フフ、かなりストレスが溜まっている御様子ですね。やはり少し休まれた方がよろしいですわ」
「バカが。自分の脳みそでも直してろ」
そう吐き捨ててテントから出ようとした飛影は、電流のような結界に阻まれた。
「結界師瑠架でございます」
瑠架はナース服を脱ぎ、ほぼ裸の体にヒモを巻き付けただけの状態になった。
「ぎゃっ!ちょ、服着てください!」
刺激の強すぎる姿に、同性である未来が一番慌てふためいて顔を赤くしている。
「もう試合が終わるまではここから出ることはできません」
閉じ込められた未来、飛影、覆面を眺めて、ふふっと瑠架は嘲笑った。
「束縛術か…!あれでは動くだけでも危険だ。未来、じっとしておくんだ」
抵抗力のない未来に忠告しつつ、蔵馬は冷や汗をかく。
(計算が狂った…!未来の聖光気で覆面の霊力を回復してもらうつもりでいたが…)
連戦となる浦飯チームの試合前の霊力回復を避けるべく、本部は覆面と飛影だけでなく未来も一緒に結界に閉じ込めたのだろう。
『メディカルチェックの結果、飛影選手と覆面選手を治療のため欠場といたします!』
「やり方が汚いよ…!」
窮地に陥ってしまった浦飯チーム。
本部の罠が許せない未来が唇を噛んだ。幽助と蔵馬の二人だけで魔性使いチームと戦えだなんて、あまりにも酷すぎる。
「くそ!ハメやがって…!テメー説明しろ!」
「わ、私は中立な立場の司会です。何も知りません!」
怒りに歯をくいしばる幽助に責められ、オロオロする小兎がぶんぶん首を横に振る。
「フフフ、2対5になったな。陣!お前ひとりで片付けられるな」
「はーあ、どっちらけ…。気が変わったや。誰かいってけろ」
「なに!?」
黒マントの下で不敵に笑う爆拳であったが、戦う気が失せた陣はあろうことかリングから離れようとする。
「相変わらず勝手な野郎だ。つべこべ言わず行きな!」
去ろうとした陣の肩を、憤慨した爆拳が掴む。
陣は爆拳を睨みながら、うっとうしそうに肩に置かれたその手をどけた。
「オレさ指図すんじゃねー」
そう言った陣の迫力に押された爆拳は、無言で陣の背中を見送る。
(陣は、ただニコニコしている人じゃない…)
魔忍として恐れられる陣の一面を、未来は垣間見た気がした。
(陣め、久々に歯ごたえのありそうな奴に会えて機嫌がいいな)
闘技場の隅に座りこんだ陣の心情に、凍矢は気づいていた。
「くく、いいよ私がいこう」
自らマントを剥いだのは、化粧使い画魔。
画魔に続き、蔵馬が前に出る。
「オレで全員片付けるといいたいが、奴らの妖気がそうさせてくれそうもない。出来る限り奴らの手の内を暴いてみる。その後は…頼む」
幽助に自分の後を託し、蔵馬がリングに立った。