Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎22✴︎魔忍との出会い
イチガキチームとの戦いを控えた翌日、未来はベッドの中で二日酔いに苦しんでいた。
(うう…気持ち悪い……)
というのも昨日、展望台から蔵馬と帰ってきた未来が「これはノンアルコールだから大丈夫だ!」と酎にすすめられるまま飲んだ酒が、よりによってアルコール度数が魔界屈指の超濃獄酒だったのだ。
本当に大丈夫かと一抹の不安を感じつつ、せっかくすすめてもらったしと酎からグラスを受け取った未来は一口だけでぶっ倒れた。
パッケージが似ているから酔っていて間違えたと、酎は平謝りだった。
「その様子じゃ布団から出れそーにねーな」
「未来ちゃん、大丈夫か?」
超濃獄酒を飲まなかった幽助と桑原は、あれだけベロンベロンに酔っ払っていたにもかかわらず二日酔いもなく全快していた。蔵馬の薬草のおかげである。
「薬のおかげでだいぶマシにはなってきてるんだけどね…」
ベッドサイドのテーブルに置かれた蔵馬が調合した薬を、未来は追加で口に含み、水で流し込む。
「それにしても、もうすぐ試合なのに蔵馬も飛影もどこ行っちゃったんだろうね…」
あの二人に限ってまさかとは思うが、何かトラブルに巻き込まれてはいないかと未来は心配だった。
「アイツらのん気に島内観光でもしてそのまま迷子になってんじゃねーか?」
「心配ねーよ。きっと来るさ」
訝しがる桑原。ニッと幽助が笑うと、自然と未来も小さく微笑んだ。
「じゃ、未来、オレたちは試合に行ってくるな。覆面がこの部屋に結界をはってくれるらしいからよ、部屋から出るなよ」
「未来ちゃん、お大事にな」
「うん……頑張ってね!」
行きたい気持ちは山々だが、この体調では仕方ない。布団の中から精一杯の応援と共に未来は試合に向かう幽助、桑原、覆面を見送った。
その頃、蔵馬と飛影はといえば絶賛観光中…なわけがなく、島の鬱蒼とした森の中にいた。
「大丈夫か飛影」
木の枝に座っていた蔵馬が、飛影を見下ろし声をかける。
「片手で勝ち続けられる程、楽な戦いじゃないのはわかっているだろう」
蔵馬が心配しているのは、是流との戦いで犠牲にし致命傷を負った飛影の右腕だ。
「黒メガネが言っていただろう。もう抜けられないのさ。オレもお前もな」
「抜けたいとも貴方は思っていないでしょう。未来のためにも、抜けられないはずだ」
「…ふざけるな」
図星をつかれて悪態をつく飛影を、冷静に蔵馬は観察していた。
飛影の心の機敏に気づかない蔵馬ではない。
幽助への気持ちと同じように、飛影の中で未来の存在が大きくなっていることは彼の言動を見ていればわかる。
もしくは、幽助に対するものとはまた別種の感情が生まれはじめているのかもしれない。
(未来の聖光気に治癒能力はないしな。薬草も気休め程度にもなるかどうか…)
気を揉む蔵馬が、サッと木から降りる。敵の気配を感じたからだ。
闘技場の外でも、イチガキチームメンバーとの戦いの火蓋がきられようとしていた。
***
どれくらい寝ていたのだろう。
「まずシャワー浴びたい…」
蔵馬の薬が効き、すっかり体調もよくなって目覚めた未来はシャワールームに向かった。
「みんな大丈夫かなあ」
気になるのは、イチガキチームとの試合の行方だ。
風呂から出て身支度を終えた未来は一人ベッドに腰かけるが、そわそわして落ち着かない。
「ひっ…!?」
その時、前触れもなく急にパチっと部屋のテレビの電源が入り、突然の怪奇現象に未来は怯える。
『驚かせてすまないね。未来さん、はじめまして』
テレビ画面に映ったのは、唇に不敵な微笑を携えた黒い長髪の男だった。
「あ…!」
たしか幽助と酎の試合の時にVIP席にいて、目が合った男だ。
警戒する未来が、キョロキョロと辺りを見回す。
『監視カメラの類いは付けていないから安心して。私が君へ一方的に話している映像を流している。ホテル中のテレビはオーナー側で遠隔操作できるようにしているからね』
まるでこちらの様子を見ているかのような男の言葉に半信半疑の未来だったが、たしかに監視カメラなんて物が部屋にあれば、聡い幻海や蔵馬がいち早く気づいているはずだ。
『自己紹介が遅れたね。私は戸愚呂チームのオーナー、左京だ。大会本部の人間の一人でもある』
つまり、左京は未来をこの大会の優勝商品にした張本人だということだ。
戸愚呂チームのオーナーが自分に何の用だというのかと、未来は生唾を飲み込む。
『君をあるゲームに誘うためにこんな事をしている…。ぜひ今すぐ闘技場に来てほしい』
未来の姿が闘技場になかったため、テレビを使って来訪を呼びかけているのだと左京は語る。
『君が闘技場に現れずゲームに参加しなければ、人質の安全は保障できない』
「人質…!?」
物騒な言葉を出した左京に、未来の顔が青ざめる。
『それでは闘技場で待っている』
「あ、ちょっと…!」
無情にも、プツンとそこでテレビは切れた。左京に聞こえていないとは分かっているが、未来が引き止める声を出す。
(一体何なの…!?)
テレビが消えてもなお、動揺する未来の心臓はバクバクと高鳴っていた。
突然テレビ画面に現れ、謎のゲームに誘う左京という男の目的が全く分からない。
(罠かもしれない。それでも…!)
人質をとっていると仄めかされたら、未来は行かないなんて選択肢はとれない。
イチガキチームとの試合はどうなっているのだろう。幽助たちは無事なのだろうか。人質とは誰のことなのか。
全てを確かめるべく、意を決して未来は単身部屋から出た。
(他の妖怪に見つからないよう移動しなきゃ…!)
蔵馬から2ヶ月前にもらっていた魔界の植物の種を握りしめ、誰もいない廊下を歩く。
無事ホテルのロビーを通り外に出てホッとしたのも束の間、危惧していたことが起きた。
「ナガセミライじゃねーか!なんで一人でいるんだ!?」
「ラッキー!さらっちまおうぜ」
雑魚妖怪二人に見つかってしまったのだ。彼らは優勝商品の未来を発見し、鼻息荒く興奮している。
「えと、人違いで…」
焦りながらも頭をフル回転させ、この危機的状況を打破する策を考える未来。
「は?人違いなわけねーし!」
「バレバレな嘘つくな!」
「あ!UFO!」
突然未来が空中を指差し、どこだどこだ!?と妖怪たちは目を凝らして空を見上げる。
「あ!しまった!」
妖怪たちが気づいた時には、未来の姿は目の前から忽然と消えていた。
「はあ、はあ…」
全速力で逃げ出していた未来は、息切れしながらも無我夢中で走り続ける。
「きゃっ」
曲がり角で誰かとぶつかり、しりもちをついた。
「ご、ごめんなさ…」
見上げて目が合ったのは、切れ長で水色の瞳をした妖怪だった。
(ヤバい!この妖怪はさっきの奴らみたいにバカそうじゃない!)
先程の古い手は使えない。未来の頭に警笛が鳴り響く。
「いや、オレこそすまない。大丈夫か?」
スッと未来に手を差しのべた妖怪。未来は思いがけない彼の行動に拍子抜けしつつ、その手をとって立ち上がった。
「ありがとう…ございます」
「凍矢!」
横からとんできた声に、未来はぺこりと下げていた頭を上げる。
どうやら未来に手を差し伸べてくれた妖怪は、凍矢という名前のようだ。
「凍矢、なんでお前が優勝商品の女といるんだ!?」
「画魔、今なんと言った?」
画魔、というらしい妖怪の発言を、聞き間違えかと凍矢は確認し直す。
「1回戦を見に行っていない陣とお前は知らなかったな。この女は優勝商品のナガセミライだ」
「お前が…」
目を丸くして凍矢は未来を見つめる。妖怪に囲まれた未来は、ポケットに入れている蔵馬の植物をお守りのように握りしめた。いざとなったら使おう…と心に決めて。
「こんなところでナガセミライと出会えるとはな」
「でかしたぞ凍矢、ひひ」
「吏将、爆拳!」
凍矢が新しく現れた二人の名前を呼んだ。
「ちょうどいい、今からオレたちと共に彼女も闘技場に連れていこう」
「何言ってんだよ画魔!オレたちの部屋にこの女を閉じ込めときゃいいじゃねーか!」
画魔の提案に、爆拳は噛みつく。その爆拳を、吏将が制した。
「どうせオレたち魔忍が優勝するんだ。浦飯チームの敗北を彼女自身の目で見てもらうのもいいな。それに今から部屋に戻る時間はない」
吏将はリーダーらしく、爆拳も渋々彼に従う。
(この人達も選手で、幽助たちと戦うの!?)
闘技場に連れていってくれるという彼らを信用していいものなのか。未来は固唾を飲んで逃げるチャンスを窺う。
「おい、早くしねーと試合始まるべ」
突如ありえない方向…はるか頭上から声が聞こえた。
「え!?」
空中に浮いている赤髪の青年に、未来は目を疑う。
「遅いのはお前だ、陣。全員そろったな。皆、これを被れ」
吏将がメンバーそれぞれに体全体を覆ってしまう黒いマントを渡す。
「ん?オメ、誰だべ?」
陣が未来の姿を見て問う。
「あ、私は未来と言いまして…」
敵の妖怪相手に自己紹介するのも変な気がしたが、一応名乗る未来。
「未来っていうんか!オレは陣だべ」
ニカッと太陽みたいな笑顔を向けられて、未来は面食らう。
「お前は体のデカイ奴…陣か爆拳と一緒にマントの中に入れてもらえ」
既にマントをはおった吏将が未来に命令する。
その体はすっぽりマントに覆われて、声でしか誰だか判別できない状態だった。
「オレんとこ来いよ」
ニヤリといやらしく笑う爆拳に悪寒がはしった未来。だが、断るのもこわい。
「陣にしてもらえ」
凍矢が未来に助け舟をだした。
「未来も闘技場に行くんか?いいだよ、一緒に入るっちゃ」
地上に足をついていた陣がかぶりかけのマントをたくし上げ、未来を誘う。
「ありがとう…」
ええい、もう乗り掛かった船だ。陣の笑顔を信じてみようと、未来はためらいながらもマントの中に入った。