Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎20✴︎霊界トップ!酒界トップ!
「幽助!やっと起きたの!?」
「ああ、よく寝たぜ。テメー、オレらの前で未来を口説くたあ、いい度胸してんじゃねーか」
未来に返事をした後、ぶっ飛ばした青年にガンをとばす幽助。寝起きなので機嫌が悪いらしい。
倒れていた青年が殴られた顔をさすりながら体を起こす。
「イテテテ…幽助!自分が何をしたか分かっておるのか!?よくも霊界トップであるこのワシを殴ったな!」
「うるせー!って…。その口調とおしゃぶりはもしかして…」
幽助はまさかと思いつつ青年の正体に勘づいた。
「コエンマ様ーー!」
闘技場に入ってきた青鬼…ジョルジュ早乙女である。
「コエンマ様ぁ、大丈夫ですか!?」
涙ぐんだジョルジュが青年に駆け寄る。
「大丈夫もクソもないわ!幽助、お前を霊界裁判で訴えるぞ!」
キッ、と幽助を睨み付けた青年…もとい、コエンマ。
「ええええええーー!!」
未来は目の前の青年がコエンマであることが信じられず、驚きの声をあげる。
口にしたおしゃぶり、額のJr.の文字からすれば、確かにコエンマだ。
「可愛い赤ちゃんだったコエンマ様が…」
未来は美形コエンマに見惚れるというよりも、驚きでその顔を穴が開くほど見つめた。
「はっはっはっ カッコいいワシもいいだろう!」
「ギャップ萌えっていうやつですね~」
すかさずジョルジュがコエンマに合いの手をいれる。
「2ヶ月ちょっと前はあんなに小さかったのに…急成長しましたね」
「フ、毎日牛乳5リットルくらい飲んでたからな。…って違うわ!成長期だったわけではない!これは人間界バージョンだ!」
勘違いも甚だしい、と未来にコエンマは声を荒げる。
「ノリツッコミか、すごいなあ~」
マルチな才能を持つコエンマに感心するジョルジュ早乙女。
「……」
幽助はそんな3人のかけ合いに脱力していた。
「おいコエンマ、何しに来たんだよ」
邪魔だと言いたげな目でじろりとコエンマを見る幽助。
「お前の霊界獣の卵の件もあるし、未来が心配だったからな。浦飯チームのオーナーとして、試合を近くで見に来たのだ!」
「オーナー?」
初耳の言葉に、未来は首をかしげる。
「なんだ未来、知らないのか。各チームには一人ずつオーナーがつく。だいたい人間の金持ちばかりだな」
あそこにいるぞ、とコエンマがオーナー達が観戦しているVIP席を指差す。
未来がVIP席にいる人間を眺めていると…
「!?」
黒い長髪の男と目が合い、ニヤリと意味ありげに笑われた。冷たい、生気のない目をした男だった。
(なんだろ、あの人…)
未来は後にこの男こそ戸愚呂チームのオーナー、左京であると知ることになる。
「もしかして補欠の制度も知らないのか」
呆れ顔のコエンマだ。
「その制度なら、あの人を見たらよく理解できるんじゃないですか。百聞は一見に如かず、ってね」
蔵馬の言う“あの人”とは、リングに立つ六遊怪チームの選手。
「おい、オレは待ちくたびれたぞ!」
酒瓶を手にしたその選手が叫んだ。
「すごいお酒の匂い。あんな人、六遊怪チームにいたっけ?」
「六遊怪側の残り二人が彼いわく“不慮の事故”で死んでしまったので、補欠の酎という選手が出てきたんですよ」
コエンマと話していて状況を把握していない未来に、蔵馬が説明する。
補欠は各チーム一人、メンバーの誰かが死んだ場合のみ許可されるらしい。
「おっと蔵馬とかいう兄チャン、説明が足りないぜ。オレは補欠だが実力はチームNo.1!ジャンケンが弱いだけだ!」
酎が小兎からマイクを奪い取り、未来に話しかけた。
「六遊怪チームは補欠をジャンケンで決めたそうです!」
準備していた予備マイクで小兎が裏エピソードを解説する。まさに実況の鏡である。
「よし、寝起きの運動だ。オレが行ってやるぜ」
ボキボキ体を鳴らしながら幽助がリングに上がった。
「ようやく起きやがったぜ浦飯ィィーー!」
「酎、ヤツをぶち殺せーー!」
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」
観客席からは殺せコールが鳴りやまない。
「えれぇ殺気だぜ。おまけに酎の妖気は得体が知れねえし…。ま、大丈夫だよな!ムードは実質的にこっちが楽に全勝してるみてーなもんだからな」
たじろぐ桑原だったが、すぐ思い直す。
「桑ちゃんに関してはノーコメントとして、蔵馬と飛影は楽勝の圧勝だったもんね!」
(楽に…いやそれは違う)
桑原が未来に、それはヒドくねーか!?と言っているのを耳にしながら蔵馬は考えていた。
(是流の強さは本物だった。だからこそ飛影は未完成の必殺拳を出さざるを得なかったんだ)
蔵馬の視線は、ポケットに突っ込んだ飛影の右腕に。
(是流ほどの炎の使い手を焼き尽くす魔界の獄炎だ。召還した飛影の体も、無事では済まない)
“右腕だけで十分だ”
その発言は、右腕を犠牲にして飛影が是流を倒したことを意味する。
(あの右腕はもう使えないだろう…)
窮地に立たされた飛影に気づいているのは、蔵馬と覆面だけだった。
「いいか先に言っておく!オレの技は酔拳だ!酔うほどに強くなる!その不規則な動きで不意をつかれたり、油断した敵を翻弄する拳だ!」
「さ、先に言っちゃっていいの…?」
「だめだあいつ…」
リング上で幽助と向かい合った酎は、高らかに宣言した。
最初に手の内どころを見せてしまう酎に、未来と鈴駒はズッコケる。
「ただの酔拳じゃ芸がねーな」
対する幽助は、いたって真剣な表情である。
「オメーにしかできねーとっておきの裏技がある。でなきゃあ面白くねーよなぁ?」
挑むようにまっすぐな幽助の目。
未来も、酎も…誰もがその瞳に引き込まれてしまうだろう。
「いい目だ。久しぶりに見られたぜ」
楽しめそうだ、酎がニヤッと笑う。
そんな酎に、未来は幽助と近いものを感じた。
「始め!」
小兎の掛け声で戦闘体勢に入った酎は流れるような動きで、彼の言葉通り幽助を翻弄し始めた。
「未来、ちょっとこっちに来い」
「何ですか?」
試合を見守っていた未来を、コエンマが手招きしてリングから少し離れた場所へ連れていく。
「未来が武術会の優勝商品になったと聞いた時は驚いたぞ。やはり異世界からお前が来たという情報が漏れていたようだな」
「私だって戸愚呂から言われて驚きましたよ。あの、幻海師範に私も武術会で何かやらされるかもしれない、って言われてるんですけど、そうなんですかね?」
1ヶ月前、幻海に夕食後忠告されたことは、ずっと未来の心に引っかかっていた。
「幻海がそんなことを…まあ、あり得んことでもないな。観客を楽しませるため、そして自分達が楽しむために本部が何か仕掛けるかもしれん」
「何やらされるんだろ…。私戦えって言われても出来ませんよ」
「そう気を落とすな!お前が危険な目にあいそうになったら、幽助達が黙っとるわけないだろ!」
ワシもな、とコエンマが付け加える。
「…ありがとうございます」
コエンマの気遣いが嬉しくて、未来がはにかむ。
「それでは未来、本題に入るぞ…」
「コエンマ様、未来さーん!」
「…なんだジョルジュ」
ジョルジュに遮られたコエンマの声は不機嫌そうである。
「呼ばれてますよ」
ジョルジュがリングを指さした。
「そこのお嬢ちゃん…未来っていったな!これからオレの必殺技をキメてやるんだ。おしゃぶりした変態兄チャンと喋ってないで、オレの雄姿を見といてくれ!」
「は、はあ…」
リング上から叫ぶ酎に、未来は戸惑う。
「酎…悪酔いしてるな」
いつものことだ、と鈴駒。
「お、恐れおおくも霊界トップのワシを変態呼ばわりだと~!?許せん!お前が死んだ時は即刻地獄行きだ!」
「コエンマ様、抑えて、抑えて…」
怒りに我を忘れているコエンマを、ジョルジュ早乙女が必死で落ち着けようとする。
「はっは~ん、ならオレは酒界のトップだな。霊界トップなんざあ、こわくねえ!」
かなり酔っているらしく、酒界トップという意味不明なことを口走る酎。
「おのれ~!冥獄界行きにしてやる!幽助、絶対勝てよ!」
コエンマが上司の権限を振りかざし、幽助に命令した。
「ここで新たな一戦が繰り広げられております!」
火花を散らす酎とコエンマを見、小兎が実況する。
もう、周りにいる未来も蔵馬も飛影も桑原も…呆れるしかない。
「おい酎!テメーもオレと同じバトルマニアなら、オレとの勝負だけに集中しろよ。 コエンマにかまってる暇はないぜ」
リングに仁王立ちした幽助が怒鳴る。
「ワリイ、ワリイ。見せてやるぜ、オレのウル技をよ。魔界の重濃酒、鬼殺し。こいつは効くぜ」
酎は酒瓶を取り出し、一気に飲み干した。試合中に飲酒…普通考えられない光景である。
「おおおおおお…」
酎がパワーアップしているのだろう。雄叫びをあげる彼に、皆の視線が集中する。
「おええええええ…」
かと思いきや、リング外に吐き出した酎。
「だ、大丈夫ですか!?」
小兎が酎の背中をさすっている。
「……私、こんなに緊張感ない戦い見るの初めて」
「オレもです」
未来に同意する蔵馬は苦笑いだ。
だが、変わっていく酎の妖気に気づかない彼ではない。正体不明だった酎の妖気が、酒気と融合しているのだ。
「でも完全にへべれけになった酎が本当の姿なんだ!深酒と酔拳は真の自分を人間界に呼び込む儀式なのさ!」
そう言った鈴駒の目はいきいきとしており、酎を深く信頼していることが伺える。
「すまねえな、あんた良いお嫁さんになるぜ」
「いやあ…」
酎に礼を言われ、照れる小兎。
「未来もこの司会さんを見習わなきゃな!後でオレんとこに酌に来な!」
「え!?」
酎からいきなり話をふられ、未来はうまい返事ができない。
「ち…酔っぱらいがふざけやがって」
イラついた様子で飛影が呟いたのを、酎は聞き逃さなかった。
「ヘイ!兄チャン恐い目だねえ。男の嫉妬ほどみっともねえモンはねえぜ」
「なんだと?」
「ちょ、飛影をからかわない方がいいですよ!」
一触即発の飛影に、焦る未来がオロオロする。
コエンマの件といい、酎はケンカを売りっぱなしである。
「またもや新たなバトルが勃発しています!」
すかさず小兎の実況が入った。
「のんべ錬金妖術師の酎!最高の技をもって相手をしよう」
酎は自らの綿菓子に似た妖気を使い、飴細工の様に物体を作り始めた。
「未来、話の続きをしよう」
コエンマがまた未来をリングから離れさせようとする。
「え、でも…試合の後じゃだめなんですか?」
「ワシはこの後すぐ霊界獣の卵を見に霊界に帰らんとならんし、何より未来と二人きりで内密に話したいのだ」
「コエンマ様、忙しいんですもんね。分かりました」
幽助の試合が気になる未来だったが、潔く頷いた。
「優勝チームにはメンバー一人ずつ望みを叶えてもらう権利があるな。きっと幽助たちが優勝したら誰かの権利を使ってお前を元の世界に帰してくれるだろう」
「あ…そんな話、全然みんなとしてなかったな…」
皆、望みを叶えてもらう権利のことなど考えず修行していたように思える。
「これはワシと一部の霊界の者しか知らん機密事項なのだが、未来がいた世界が見つかりそうなのだ」
「ほ、本当ですか!?」
未来の心臓がドクンとはねた。
「このことはくれぐれも内密にな!お前の存在が妖怪たちにバレていたように、またこの情報も漏れたら混乱を招く」
未来が自分の世界に戻ることを知った時、彼女をその前に手にいれようと妖怪がどのような行動をとってくるか分からない。
と、コエンマは危惧していた。
「だから万が一、万が一だぞ。幽助たちが負けた場合、ワシが速急に妖怪たちの目を盗んで未来を霊界に避難させる」
「コエンマ様!縁起でもないこと言わないでください!浦飯チームは勝ちますよ!」
コエンマの配慮はありがたいが、未来は憤慨する。
「わかっておる!だが万が一の時のため、覚悟しておいてほしいのだ」
コエンマは未来の肩に手を置き、彼女を落ち着かせようとする。
「浦飯チームが負けた場合には、ワシとジョルジュがスタンバイしておるから即刻霊界に行って…準備ができておればすぐにお前を元の世界に帰すぞ」
その時、閃光が走り、コエンマと未来はリングを振り返る。
どうやら、幽助の霊丸と酎の妖気の玉が衝突したらしい。
「幽助!」
「あいつ…大丈夫か」
ボロボロの幽助を見、未来とコエンマはリングに駆け寄る。
「お互い…力を使い果たした…ようだな…だが…白黒はつけねーと…」
息も切れ切れに言った酎。
「あたりめーだ…」
幽助もゼーゼー言いながら頷く。
「よし…決着は…ナイフエッジ・デスマッチで!」
酎は地面にナイフを2本突き刺した。
「靴を脱いで右足をナイフの前にしてふんばりな」
酎の命令通り幽助は従う。
「そのナイフが死の境界線だ。この線を越えないことが唯一のルール。破った場合は死をもって償うこと」
「死…!?」
酎から出てきた言葉に、未来が息を飲む。
「これがバトルマニア、男の勝負よ」
未来は戦う前の、吸い込まれそうな幽助の瞳を思い出した。
今も幽助は、その目をしている。
やめてなんて言えなかった。
「使うのは肉体のみ!ぶちのめした方の勝ちだ。実況、合図を頼む」
酎に頼まれ、小兎はすぅっと息を吸うと、
「始め!」
高らかに叫んだ。