Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎19✴︎炎vs炎
「中堅、前へ!」
六遊怪側の選手は…是流。
「是流だ、是流が早くも出てきたぜー!」
観客は、かなりの実力を持った是流がラストではなく三試合目に出場することに意外そうである。
「やつが大将じゃないのか」
同じく意外そうな蔵馬。
「じゃ、あとの二人はもっと強いのかよ!?」
桑原は幽助を起こすのをあきらめ、第二試合が終わるとリングのそばに戻ってきていた。
「いや、ヤツがあの中で一番強いのは間違いない。オレが行く。あいつは昨日なめたマネをしてくれたからな」
「飛影!ファイト!」
未来の応援を背中に受けながら、飛影はリングに上がった。
「火の妖気、火炎術者か…」
是流と向かい合うと、ニヤッと飛影は口角を上げる。
「コップの切り口を見たぜ。鋭い刃で切ったように見えるが、はしが少し溶けていた。技が荒いな」
いつの間にか割れていたコーヒーカップ。
飛影はそれを話に持ち出し、挑発めいたことを言う。
「それがどうした?ネズミ臭い邪眼師ごときに、とやかく言われる覚えはない」
「なっ “ごとき”って…。飛影の邪眼の力は凄いんだから!なめないでよ!さっきも蔵馬のために千里眼を使ってさ〜!」
飛影を馬鹿にした是流に、未来は頬を膨らます。
青龍戦以来、なんだかんだ未来の中で飛影最強説はその地位を保ち続けている。
小鳥が騒いでいるくらいにしか感じていないらしく、是流は反論してきた未来を一瞥するのみだった。
「ずいぶん信頼されてますね、飛影」
「嬉しいでしょう」とさも言いたげな蔵馬の笑みに、図星であったため飛影はムッとする。
「始め!」
小兎が合図を出すと同時、ゴオオオオ…と音を立て妖気を上げていく是流。
蔵馬にからかわれて顔をしかめていた飛影も、ハッとして是流に向き直る。
「スミクズにしてやる…」
是流は炎の妖気を身にまとっていた。
「うおっ出しやがった!信じられねえ妖気だぜ、これは…」
「燃えちゃいそう…」
リング外にいる桑原と未来は、是流の熱い妖気を必死で耐える。
「どうだ!?声も出まい。ネズミには一生ねり出せん妖気だろうが」
「またネズミって言った!」
飛影を馬鹿にして嘲笑う是流が、未来は許せない。
「優勝商品未来、か…。鈴駒はあの女が気に入ったようだな」
是流は横目で未来を見ると、飛影だけに聞こえる声で言った。
未来の名前を出した是流に、飛影の眉がピクリと反応する。
「さすがに優勝商品だけある。とても魅力的だ。桑原とかいう奴を治した能力も素晴らしかったし、ツラも悪くない」
「ごたくはいい。来い」
飛影は是流の言葉に、先ほどの蔵馬の発言よりもずっと、自分がひどく苛立っているのを感じていた。
「オレが優勝して、あの女を手にいれる。安心しろ、かわいがってやるからな…」
是流はそう言っている間にも、妖気を放出するのをやめない。舐めるように未来を見ていた。
その視線が、飛影をさらにイラつかせる。
「いいから来いと言っているんだ!」
飛影が言うままに、是流は遠慮なく腹を殴った。一瞬で飛影の体を炎が包み、リング外へふっ飛ばされる。
「飛影っ…!」
これにはさすがの未来も飛影の身を案じ、不安に襲われた。
「く…笑止な…相手にならんな」
火だるまになった飛影を確認すると、リングを降りようとした是流だったが。
「いい腕だ。殺すには惜しい。オレと当たったのが運のつきだな」
背後から聞こえた低い声に、背筋が凍りつく。
「飛影!よかった…」
生きていた飛影に、未来に笑顔が戻った。
「オレの妖火に…耐える程の…妖…気…?」
唖然とする是流。彼の目には、燃え盛る炎に包まれ、額の邪眼が怪しく光っている飛影の姿が映っていた。
そのすべてが、是流を恐怖で震えさせる。
「喜べ!貴様が人間界での邪王炎殺拳の犠牲者第一号だ!」
「邪王炎殺拳!あれは人間界では使えない、正真正銘魔界の拳のはず…」
魔界の炎を召喚した飛影に、蔵馬はまさか、と圧倒される。
「人間界では使えないはずなのに、飛影は使えちゃってるの!?」
「おっそろしいヤツだ…」
未来と桑原は、是流の妖気以上の熱さを、飛影の妖気から感じていた。
「右腕だけで十分だ。加減は出来ん…気の毒だがな。今はまだオレ自身でコントロールしきれん。だが近いうち完全な技にしてみせる」
まさに未完の奥義。
飛影の右腕には、黒い炎が渦巻いている。
「こ…これは危険すぎます!実況として不本意ではありますが、一時避難させていただきます!」
小兎は這々の体でリング上から降りていった。
黒い炎が燃えたぎり、飛影自身の上半身の服も破れていく。この炎に耐えられる物質も、生き物も…飛影以外いないだろう。
「見えるか!?貴様の火遊びとは一味違う魔を秘めた本当の炎術が」
「あ…う…」
是流は黒炎を操る飛影に恐怖し、言葉らしい言葉を紡ぐことができない。
「未来の言う通りだ…邪眼の力をなめるなよ!くらえ!炎殺黒龍波!」
飛影の右手から、是流めがけて飛び出した黒龍。
気づけば、闘技場と観客席の境となっている壁に人型の黒い影ができている。
「一瞬だ、まさに」
目の前で起こった出来事に会場が凍りつき、声をだした者は蔵馬のみ。
皆、呆気にとられてしまっている。
「すべて焼きつくしてしまった。この世に残ったのはあの影だけだ」
飛影が右腕を下ろした。
「…と、いうことはカウントをとっても無駄ですね…勝者、飛影!」
小兎の目にも、誰から見たって飛影の完全勝利である。
「凄い…凄すぎるよ、飛影!」
未来が提唱する飛影最強説に、また彼女の中で大量の票が入れられたのだった。
「っしゃー!スカッとしたぜ、これで2対1だ!」
拳を振り上げる桑原。
「と、言いてえところだが、とてもそんな気分じゃねえぜ。飛影はいつ敵にまわってもおかしくない。その上あんなスゲー技が…」
「安心しろ、この大会が終わるまではこっち側にいてやる。オレの邪王炎殺拳も完璧ではないからな」
邪眼をむきだしにした飛影が言った。
「そうなの…?」
「…何が言いたい」
意味ありげな目で自分を見る未来に、飛影は眉をひそめる。
(飛影、垂金の別荘で雪菜ちゃんに、自分は幽助たちの仲間だって言ってたのに)
大会が終われば飛影が敵になるとは思えない。
未来は先程の飛影の発言を、素直じゃない彼の言動のひとつだと考えることにした。
「飛影、これで是流に未来をとられる心配がなくなりましたね」
からかい口調で、こそっと飛影の耳元で囁いたのは蔵馬だ。
「…聞こえてたのか」
飛影は罰が悪い気分になる。
是流が未来の名前を出し、舐めるような目で彼女を見た時…
どうしようもなく不愉快になった自分の胸中が、蔵馬にはすべてバレている。
そんな気がしてならなかった。
「まあ、是流のほかにも未来を狙っている奴はくさるほどいますからね」
「分かっている」
「あんな奴とか?」
蔵馬と飛影の会話に乱入した桑原。
二人が桑原の指差す方向に目を向ければ…
「未来!聞いたぞ、幽助たちと同室で寝ているそうじゃないか!いかん、何かあったらどうする!」
「いや、大丈夫です…。あなたは誰…?」
未来が見知らぬ青年に両手を胸の前でつかまれていた。
「ダメだ、ダメだ!ホテル最上階のワシの部屋にするんだ!」
「「「なっ…」」」
蔵馬、飛影、桑原が青年の発言に拳を握ったそのとき。
ボカッ!!と何者かに殴られ、未来の手を掴んでいた青年の身体が宙を舞い、ぶっ飛ばされた。
「兄チャン、ナンパならほか当たんな」
幽助のお目覚めだ。