Ⅱ 暗黒武術会編
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✴︎17✴︎ルール
ソファーに座り、トランプを楽しむ桑原、蔵馬、未来たち。桑原は三枚、蔵馬と未来は二枚のカードをそれぞれ所持している。
時計は日付がかわったことを告げていた。
「二人共、寝なくていいの?明日の試合に備えて寝とかなきゃ」
彼らがしているのはババ抜き。
蔵馬のカードを一枚取りながら、心配する未来。
「ふふ、私もう残り一枚!」
蔵馬から引いたカードと手持ちカードがペアになり、微笑む未来である。
「緊張して眠れねえよ。のんきにいびきかけるあいつらが羨ましいぜ」
桑原は既にベッドに入っている幽助、飛影、覆面を横目で見やる。
「オレも今日はなぜか目が冴えてて…。あ、上がりですね」
桑原のカードを一枚引いた蔵馬が勝利を宣言する。
「ゲッ」
「桑ちゃん…悪いけど、私の勝ちだね」
「くそ~勘がいいオレ様が負けるとは…」
未来のカードは残り一枚であり、必然的に次にカードを引く番の桑原が負けるというわけだ。ババは桑原の手元に。
「次は7並べで勝負だ!」
「もうトランプは飽きたなあ。ほかの遊びしよ!」
桑原の提案を却下し、未来は部屋の棚に置いてあった色々なゲームをあさる。
「ホテルも気が利くよね、トランプとか部屋に用意してくれてて。オセロやダイヤモンドゲーム、将棋があるけど、どれにする?」
「よし、オセロで蔵馬と勝負だ!」
「望むところですよ」
無謀な戦いを蔵馬に持ちかけていると、この時の桑原、そして未来は気づいていなかった。
「もう一回!もう一回だけ勝負させて!」
「負けた蔵馬を見ねえと気がすまねー!」
時刻はとうに深夜をまわっている。
オセロで無敗の蔵馬に、あきらめきれない未来と桑原は何度も挑戦しては負けていた。
「蔵馬~なんでそんなに強いの?コツを教えて!」
「コツといっても特にないな…」
未来が蔵馬に頼むが、頭脳戦で彼に勝つなんて無理な話だ。
「まあ、あえて言うなら…」
ふんふん、と蔵馬の説明を熱心に聞く未来と桑原。
「よっしゃ!それ聞いたら勝てる気がしてきた!」
「またですか…」
幾度となく桑原に勝負を申し込まれ、うんざりしている蔵馬だ。
「私は…さすがにもう眠くなったな…」
未来はベッドへと足を運ぶ。
結局、桑原と蔵馬のオセロは夜が明けるまで続いていた。
***
これから始まる恐ろしい大会とは不釣り合いな、清々しい朝。
「皆様大変長らくお待たせいたしました!暗黒武術会、開幕いたします!」
「ウオオオ待ちくたびれてたぜえ!」
「さっさと始めやがれ!」
審判兼実況の小兎のアナウンスに、盛り上がる観客席。
「うひゃ~こんな広いとこで戦うんだ」
未来は会場の熱気に圧倒され、キョロキョロ辺りを見回す。
「浦飯チームの奴等、さっさと死んじまええ!」
「六遊怪、遠慮はいらねえ、ぶっ殺せ!」
「裏切り者の飛影と蔵馬!生きて帰れると思うなよ!」
罵倒を浴びせられる浦飯チーム。
「仲間意識のない奴等に裏切り者扱いされるのは心外だな」
蔵馬がため息をつく。
「あの女がナガセミライだな!?」
「へっオレは全財産ぶっこんででもあの女を優勝チームから買ってやるぜ」
「バーカ、テメーの持ってる金くれえじゃ買えるわけねーだろ!」
(また…)
船に乗る前と同じように、“商品” として見られて未来は不快だった。
「戦い方は両チームの大将同士の話し合いによって決めていただきます」
小兎が告げるが、
「大将って…浦飯は寝てるぞ」
まだ眠りから覚めない幽助に、どうすりゃいいんだ、と桑原。
「なら代わりは桑原くんしかいないね」
「え?オレ?いや~やっぱそうかなァ。浦飯の次ってのが気にくわねえが許そう!よっしゃいっちょ決めてやんぜ!」
蔵馬に推薦され、かなり嬉しそうな桑原は、六遊怪チーム大将である是流と向かい合う。
「どんな方法でも構わんぜ、出来れば1対1がいいがな。遊びは長く楽しみたい」
「そうだな、男の対決はタイマンが一番よ!」
彼らしいセリフを言い、是流の案にのった桑原。
カッと、突然焼けるような妖気を是流は発し始めた。明らかに幽助を挑発している。
「すごい殺気…」
未来は2ヶ月間の桑原、蔵馬、飛影との修行により、妖気や霊気を感じることが出来るようになっていた。是流がとてつもないパワーの持ち主であると分かる。
(まだ起きんとは…ただのアホか)
眠りこける幽助を見、是流は気を静めた。
「では先鋒、前へ!」
「行ってくるよ~」
「トップバッターはオレしかいねーだろ」
小兎のかけ声で、鈴駒と桑原がリングに上がる。
「1対1で戦うこと以外ルールなしで、道具可!場外はカウントをとり、10カウントでKO負けです。では始め!」
「ほいよっ!」
試合が開始すると、リング上を目に見えぬほどの素早さでとんでは跳ね、鈴駒は駆け回る。
「見えたぜ!」
鈴駒の動きをとらえた桑原は、見事パンチをヒットさせる。
「くそ~」
鈴駒が対抗するが、桑原には及ばない。
「なんだあの鈴駒とかいうチビてんで弱いじゃねーか」
「弱い奴はひっこめ!」
会場からブーイングが沸き起こった。
「いや、桑原君が強くなっているんだ。特訓のときに分かったが、彼は実戦で初めて実力が出せるタイプ」
「寝不足だから心配してたけど、やるじゃん桑ちゃん!でも児童虐待に見えないかな…」
桑原の勝利を確信した蔵馬と未来だったが。
「束の間の優越感楽しんだ?」
そう言うと、おもいっきり桑原の首を蹴った鈴駒。
「はははっどう?ハラハラした?ただ殺したんじゃ面白くないから、ちょっと演出してみました」
鈴駒はニコニコと笑っている。
「桑ちゃんっ起きてっ」
倒れた桑原に顔面蒼白の未来。
「くくく、ふざけたヤローだぜ。戦いを心から楽しんでやがる」
鈴駒の演出が、飛影は気に入ったのだろうか。
「未来、激弱な浦飯チームと一緒に行動しててもいいことないよ。オイラのチームが優勝するからさ、これからは六遊怪チームを応援したら?」
倒れる桑原をまるで虫ケラを見るような目で見下す鈴駒。
「どうせ浦飯チームの奴等は今日死ぬんだし。そこの桑原も、もう死んだはずだよ」
鈴駒の誘いを受け、未来が反論しようと口を開いたその時。
「誰が死んだって?」
「おーっと桑原選手立ち上がりました!」
思わぬ展開に、手に汗を握る小兎の実況が響く。
「優勝するのはオレら浦飯チームだぜ。自分達のためにも…未来ちゃんのためにも…絶対優勝するってチームのメンバー全員で誓ってんだよ!」
桑原が鈴駒を睨み付け、二人の間には火花がとぶ。
「…ふ~ん、首の骨折れてなかったんだ。あのキックで倒せないんじゃ妖力で倒すしかないね」
鈴駒はごそごそと何やら取り出した。
「魔妖妖(デビルヨーヨー)!」
八本のヨーヨーを手にした鈴駒。
「本領発揮か。それならこっちも、霊剣二刀流!」
二本の霊剣を手にした桑原に、鈴駒はヨーヨーを投げつける。
「ケッこんなもん…。!? なに!?」
楽々霊剣でヨーヨーを破壊しようとした桑原だったが、蛇のようにくねりながら攻撃してきたヨーヨーに打ちのめされてしまった。
「ただのヨーヨーじゃない…!」
「へへっそうだよ未来。魔妖妖には指から充分にオイラの妖気を送りこんである。八本すべてバラバラにオイラの意思通りに動かせるのさ」
「鈴駒の妖力は武器をもってはじめて発揮される。そのヨーヨーの威力はキックの比ではない」
鈴駒と是流が魔妖妖を解説する。
「くっそ~」
桑原は魔妖妖を自在に操る鈴駒に、翻弄されっぱなしだ。
「霊剣は桑ちゃんの体内から出たものだからいいけどさ、あのヨーヨーを使うのはズルくない!?」
負けそうな桑原に焦り、言いがかりをつける未来。
「道具可というルールだ。聞いていなかったのか」
飛影は鈴駒の正当性を述べる。
「聞いてたけど…納得できないよ。普通、道具はナシって決まってるのに」
「貴様の言う“普通”がわからんな」
「未来、道具がナシなら飛影の刀もオレの植物も使えなくなってしまいますよ」
冷静さを欠いた未来を蔵馬が諭した。
そうこうするうちに、桑原は鈴駒のヨーヨーで体を縛られ、天高くつり上げられてしまった。
「もう少し上げたら落としてやるよ!」
自分がどれほど恐ろしいことを言っているか気づいていないのだろうか、鈴駒は満面の笑みで魔妖妖を操る。
「桑原選手、絶対絶命です!この高さから落とされては命はないでしょう!」
「こ、殺したらダメってルールはないの!?」
小兎の実況が未来の焦りに拍車をかける。
「そんなバカげたルールがあるか」
未来の発言に呆れた表情の飛影。
「でも普通、殺したら負けってルールがあるよ!」
「貴様の考えは甘すぎる」
「この大会が狂ってるの!!」
暗黒武術会のルールは、未来のこれまでの常識をくつがえすものだった。
「気持ちは分かるが未来、この大会で“普通”は通用しない…。大会本部が定めたルールがすべてなんだ」
蔵馬が現実を告げた。
「ついに、落とされたーー!」
急降下していく桑原を見、小兎が叫ぶ。
桑原の死を望む観客たちは歓喜にわいた。
「剣よ、伸びろ!」
落下する桑原は、伸ばした霊剣を床に突き刺し、反動で横に飛んで鈴駒へ向かってきた。
「うまく考えたね!火事場のバカ力頭というのかな」
桑原が近づいてきても、余裕げな鈴駒は魔妖妖を彼に向ける。
「もう一本の剣、奴に向かって伸びろ!」
「ムダだね!まっすぐな剣なんかちょいと横に避ければ…」
鈴駒は意表を突かれた。
ヨーヨーの糸の間をぬって霊剣は曲がり、鈴駒にジャストヒット。
自らの道具を自在に操れるのは鈴駒だけではなかった。
桑原は霊剣を曲げて自由自在に操る術を特訓で身につけていたのだ。
桑原も魔妖妖を避けきれず、両者は場外にふっ飛んだ。
「相討ち!まさかの相討ちです!カウントをとります!ワン!ツー!…」
予想できない試合の行く末に、小兎も興奮気味である。
「桑ちゃん立てるかな…」
「わからない、このまま引き分けになるかも…」
固唾を飲んで試合を見守る未来と蔵馬。
カウントに、皆の緊張がはしる。
「ぐっ!」
うめきながらも先に立ち上がったのは鈴駒で、なんとかリングに這い上がった。
「んがァっ」
「ゲッ どこまでタフなヤローだ」
負けじと桑原も立ち上がろうとし、その驚異的なタフさに鈴駒は舌を巻く。
「ん!?なんだァこのヨーヨーはっくそっ」
必死にもがく桑原だったが…
鈴駒は桑原の体に巻き付いたヨーヨーを操り、彼を立てなくさせた。
「テン!勝者は鈴駒選手です!」
「バカ野郎ふざけんな!オレはまだやれるぞ!」
審判小兎に主張する桑原。
「冗談じゃないやい、まっぴらだ。こんなしつこいヤツ見たことねえ…」
ゴキブリ並の生命力としつこさを兼ね備えた桑原に、鈴駒はぞっとする。
「相当な使い手だ、手から離れたヨーヨーも操作するとは」
蔵馬は鈴駒の力に感心していた。
「フン、ルールに救われたな」
飛影はそう言うと、ルールに文句ばかりつけていた未来を何か言いたげに見やる。
「私、このルールにも異議唱えちゃおっかな…」
未来は飛影と目を合わすと、冗談混じりに力なく述べる。
鈴駒と桑原の激戦は終了した。
ルールが決め手となった試合であった、といえるだろう。