Ⅰ 四聖獣編
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✴︎15✴︎特訓の日々
「母さん!」
思いがけぬ母親の登場に驚く蔵馬。
(この人が蔵馬のお母さんなんだ!)
未来の予想通り、優しそうな母親だ。
「今パートの帰りで…お友達なの?」
蔵馬の母親、南野志保利が幽助と未来を見て問う。
「浦飯幽助くんと永瀬未来さん」
蔵馬が二人を紹介する。
「永瀬未来です。くら…秀一君にはいつもお世話になってます」
「戦いの時も、蔵馬の薬草にも助けられてるよな」
「ちょ、幽助!」
未来につっこまれ、しまった!という顔をする幽助だが、幸い志保利は彼のセリフはよく聞こえなかったようだ。
「幽助くんは病院にお見舞いに来てくれたことがあったわね。二人共ありがとうね、秀一と仲良くしてくれて。ぜひ今度うちに遊びに来てね」
普段息子の交友関係の話をあまり聞かないせいだろう。
志保利は幽助、未来と一緒にいる蔵馬を見て嬉しそうだ。
「くら…秀一、未来はオレが送るからオメーはもう帰れよ」
幽助が蔵馬に提案する。
「だが…」
「そうだよ、く…秀一君!せっかくお母さんと会えたんだから」
未来も幽助の案に同意する。
「…わかった、また明日会おう」
危うく蔵馬と呼びそうになる二人に苦笑いしながらも、蔵馬は母親と帰ることに決めた。
「秀一、絶対今度二人を招待しなさいよ」
「わかったって…」
離れていく蔵馬と志保利から聞こえてくる会話に、幽助と未来はあたたかい笑みをこぼす。
「幽助ありがとね、送ってくれて」
「気にすんな。ついでにオレもコンビニ行く用事思い出したし」
「ふ~ん、何買うの?」
「タバコ」
きれてたのすっかり忘れてたぜ…と呟く幽助に未来はくらっと倒れそうになる。
「中学生がタバコなんて何考えてんの!?こんな不良と息子が付き合ってるなんて蔵馬のお母さんが知ったら卒倒するよ!」
「うるせーオレは吸い続ける」
未来が怒って言うが、幽助はまったく気にしてない様子だ。
「も~…健康に悪いのに」
やれやれと肩をすくめる未来なのだった。
「幽助は蔵馬のお母さんと会ったことあったんだね。お見舞いに行ったって」
先程の志保利の発言を振り返る未来。
「ああ。霊界探偵の仕事の関係で蔵馬とは知り合ったんだ」
蔵馬、飛影、剛鬼を捕まえるのが初仕事だったと、幽助は当時のことを思い返す。
「蔵馬が霊界から暗黒鏡っていう秘宝盗んでよ、まあそれも母親のためなんだけどな。自分の命と引き換えに死にそうな母親の病気治そうとしたんだぜ、あいつ」
「え…そんな蔵馬のプライベートな話、私聞いちゃってよかったのかな 」
「未来ならいいと思うけどな。じゃあ詳しくはオメーが蔵馬に直接聞けよ」
幽助は未来の気持ちをくみ、これ以上自分の口から言うのは控えた。
「自分の命と引き換えにって…」
なかなかそこまで出来る人はいないだろう。
未来はかなり衝撃を受けていた。
「母親思いなんだよ、あいつ」
「蔵馬は優しいからね…」
未来がこれまで見てきた蔵馬はいつだって優しかった。
だが、蔵馬が母親の命を救うために死ぬことは本当に“優しい”行為だといえるのだろうか。
(私は幽助からほんの少し話を聞いただけだし判断できないけど…。なんか、違う気がする)
感じたモヤモヤが顔に出ていたのか、黙ってしまった未来を見て幽助が口を開いた。
「オレも蔵馬に間違ってないか!?って言ったぜ。まあ、あいつも色々考えてて…おっとオメーが蔵馬に聞くんだっけ」
慌てて幽助が口をふさぐ。
「ううん、聞かないよ。もう終わったことだし、蔵馬もお母さんも今元気なんだから私が詮索する必要ないでしょ」
ただ、幽助の言う通り蔵馬がとても母親思いだということはわかる。
(蔵馬みたいな息子がいて、お母さんも幸せだね)
そう信じて疑わない未来だった。
「今日はオレが送るからいいけどな、オメーこれから絶対に一人で出かけんじゃねーぞ」
コンビニに着き、弁当を選ぶ未来を見ながら幽助が再度忠告する。
「わかってる。私は興味深い存在なんだってようやく自覚したよ。幻海師範も私が異世界から来たとか、変な気を使えるとか特殊だから居候認めてくれたのかも…」
確かにあの幻海がただの親切心だけで許可したとは考えにくい。
「オメーに興味持ったんだろうぜ。悪人でも強ければ自分の奥義継承するってほざいてた不良婆さんだしな」
その不良婆さんの弟子である、これまた不良中学生の幽助が言った。
「ゲッ浦飯」
「逃げろっ」
コンビニに入ろうとした中学生数人が、幽助の姿を見た途端急いで出ていった。 カツアゲされてはたまらないと思ったのだろうか。
彼らだけでなく、コンビニの店員も幽助にビビっているようだ。
「ったくなんだよあいつら」
「幽助…何したらあんなに脅えられちゃうの?」
タバコを手にした幽助を、未来は白い目で見つめていた。
***
それから十日ほど過ぎたある日。
パシッ、ヒュンッと人気のない森の中で、鋭いムチの音が鳴っている。
「くそ~、蔵馬はどこにいるんだ?」
蔵馬が姿を見せず攻撃するため、桑原はムチが来る方向が分からない。
「その様子では先が思いやられるな」
「うおっ」
苦戦している桑原にいきなり殴りかかってきたのは飛影だ。
毎日、放課後の桑原たちの厳しい特訓は続いていた。
(私も頑張んなきゃ…!)
未来は戦えないため、多くの時間を聖光気の能力を磨く自主トレに充てていた。
だんだんと上達していっており、最終目標は蛇のように空中で気弾を自在に操れるようになることだ。
実際に使用するか分からないが、訓練していて損はないというのが幻海の持論である。
「みんな、おつかれさま」
「サンキュー、未来ちゃん!」
ヘトヘトになった3人は未来の聖光気によって霊力、妖力を回復させてもらい、しばしの休憩時間をとっていた。
「よっしゃ、特訓再開しようぜ!」
「あ、飛影、肩から血が出てるよ!」
「問題ない」
「飛影、今手当しておいた方が結果的に治りが早いですよ」
やる気十分の桑原が立ち上がった傍ら、未来が飛影の肩の怪我に気づいた。
いらん世話だと切り捨てかけた飛影だったが、蔵馬にも諭され、渋々手当てを受けることにする。
「さっさとしろ」
「や、やるけどさー、その態度どーなわけ…?」
飛影に命じられ、ブツブツ小声で文句を言いながらも未来は薬箱を取り出す。
「桑原くん、先に始めておきましょうか」
「おう!」
桑原と蔵馬は先に特訓を再開すべく、飛影と未来を残しその場をあとにした。
傷口を消毒して、蔵馬の薬草を塗り、包帯を巻く。最初は覚束なかった手際も、ほぼ毎日続けていると慣れたものだ。
未来は集中して飛影の傷を手当てしていた。
「はい、でき…」
俯いていた顔を上げると、思いのほか至近距離で飛影と目が合って、未来は続く言葉を失う。
近すぎる距離に面食らったのは飛影も同じようで、瞳を丸くして固まっていた。
「ご、ごめん!」
頬を朱に染めた未来が、慌てて飛影から顔を逸らす。
「……ふん」
それだけ言って、飛影は未来に背を向け立ち上がった。
今、彼女と同様に自分の顔も熱いような気がしたからだ。
「あ、飛影、水分とらないと!熱中症になっちゃうよ」
「いらん」
テンパる未来が飛影の背中に話しかけるが、苛ついた口調で断られる。
いやに速くなる鼓動が不可解で、たったこれだけのことで動揺している自分が許せないと……飛影はそんな心情でいた。
「未来ちゃんの言うこと聞ーとけよ、飛影!ったく、世話の焼けるガキだぜ」
そこへ、ちょうどウォーミングアップの蔵馬との組み手を終えた桑原が戻ってきて、やれやれとため息をつく。
「貴様、死にたいようだな」
「あぁん!?やる気かコラ!?」
ただでさえ機嫌が悪かった上、ガキ扱いされカチンときた飛影が腰元の剣に手をかける。
喧嘩上等の不良・桑原も、その手に霊剣を出現させた。
「あ、ちょっと!」
あっという間に森の中へ桑原と飛影の姿が消え、結局飲んでないじゃん!とむなしく未来が叫ぶ。
「も〜…」
「あの様子じゃ、当分戻ってこないな」
二人に置いていかれた蔵馬は苦笑すると、クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、未来に渡した。
「未来が飲みなよ。特訓を続けた上にオレたちに聖光気つかって、未来も疲れただろ」
「ありがとう…」
喉が渇き、疲労を感じていたのはたしかだったので、未来は素直に蔵馬からボトルを受け取る。
「蔵馬ってほんと優しいし、よく気がつくよねえ」
一口飲んだあと、しみじみと感じて未来がこぼす。
「あと努力家!薬草もさ、ちょっとずつ改良してるでしょ?前より治りが早くなってる気がするし、桑ちゃんがしみるって悲鳴あげなくなったもん」
「…よく見てるね」
これには蔵馬も些か驚かされる。まさか薬草を日々改良していることを、誰かに気づかれるとは予測していなかった。
優しくてよく気がついて努力家なのは、未来も同じだと蔵馬は思う。
「私も練習再開しようっと」
「あまりこん詰めてやり過ぎないように、気をつけて」
未来の聖光気は他者のために使う力だ。
他人のピンチになりふり構わず身体が動いてしまう、今もほぼ休みなく懸命に聖光気の修行にのぞんでいる未来のことが蔵馬は心配だった。
「蔵馬もね!」
ニカっと微笑まれ、自然と蔵馬の口元も緩む。
4人での特訓の日々は、そうして風のように過ぎていったのだった。
桑原たちが帰った後は、未来はまず風呂に入り、次に幻海、泊まり込みで修行中の幽助と夕食をとるのがルーティンだ。
よほど幻海とのマンツーマンの修行が厳しいのか、今日も今日とて幽助は食事中に気絶するように寝落ちしていた。
「今日のおかずは少し塩辛かったね」
「気をつけます…」
未来の作る料理に時折文句をつける幻海だが、なんだかんだいつも完食してくれている。
「未来、武術会についてだが…大会本部が優勝商品のあんたを戦いのただの傍観者にするとは思えない。覚悟しとくんだね」
「え、私も何かやらされるって意味ですか!?」
幽助たちの試合を見守るだけだと思っていた未来だ。
「たぶんね。あいつらはそういう奴等だよ」
そう言って幻海は茶をすすると、大の字になって寝ている幽助を横目でジロリと見る。
「あんたはそろそろ起きて早く最後まで食べな!」
叩き起こされた幽助の「いってェ〜〜!」という叫び声を聞きながら、なんだか師範が武術会に出たことがあるような口ぶりだったなあ…と考える未来だった。
―その真夜中、熟睡していた幽助と未来は気づかなかったが三鬼衆が幻海邸を訪れていた。
幻海を50年ぶりの大会出場に誘いに。
***
翌日、バイト終わりの未来は桑原と一緒に幻海邸まで歩いていた。
蔵馬からもらった植物を所持しているとはいえ、誰かと一緒だと安心感が違い、未来は桑原に感謝していた。
「未来ちゃん、ちょっとCDショップ寄っていいか?今日はメガリカのベストアルバムの発売日なんだよ」
「いいよ。メガリカって?」
「メガリカは最高よ!ヘビメタの神だぜ。未来ちゃんのいた世界にはねぇのか!?」
メガリカ大ファンの桑原は、熱をこめて語る。
「そんなに良いアーティストなら私もそのCD買ってみようかな。 師範の家にCDプレイヤーあったし」
「おう!買って損はしねえ、オレが保証するぜ」
二人がCDを購入すると、
「桑原さんじゃないすか!」
「桐島、大久保、沢村!オメーらも買いに行くって話してたもんな」
茶髪のイケメン風、小太り、丸刈り頭と三者三様な中学生と出会った。どうやら桑原の友人らしい。
「その子ですか?訳あって護衛してるっていう子は」
大久保が未来を見て問う。
「永瀬未来です。はじめまして」
未来が自己紹介すると、三人もそれぞれ自分の名を言った。
「ワケアリって累々淵中のボスに言い寄られてるとかっすか?桑原さん教えてくれないんすよ~。最近放課後は“特訓に行く!”って付き合い悪いし」
「あはは…まあそんなとこかな」
沢村に聞かれ、累々淵中ってどこ?と思いつつ未来は適当にごまかす。
「浦飯さんも全然学校来てないし、二人共おかしいですよ!」
不審感をあらわにする桐島。
幽助は一日中幻海との修行に明け暮れており、長い間登校していなかった。
「何でもねぇって!浦飯のあの噂もウソだし…」
「噂って?」
噂など初耳の未来が桑原に尋ねる。
「浦飯がヤクザ男の恋人を略奪して二人で駆け落ちしたって噂が広まってんだ。だから学校に来てないんだとよ」
噂のくだらなさにため息をつきながら桑原が説明する。
「えー何その噂!」
ほんとくだらない、と未来は噂を一笑した。
「でも信憑性はかなり高いっすよ。大勢の生徒が、校門でヤクザっぽい男に絡まれて浦飯さんと女の子が連れてかれたの見てるんです。桑原さん含めオレたちはその時もう学校から出てたんで見てませんけど」
桐島は噂を信じきっているらしい。
「夜にはオレのクラスの奴が浦飯さんとその女の子をコンビニで目撃してます。しかもその日を境に浦飯さんは学校に来なくなったんすよ!オレは二人がこれからの逃亡に備えてコンビニで買い出しをしていたとみてます」
熱く語った沢村。
「そんな証言当てになんねぇぞ?なあ未来ちゃん」
(浦飯はあの日戸愚呂と会ってたんだ。ヤクザと遊んでる暇はなかったはずだぜ)
幽助の事情を知っている桑原は、噂を事実無根と切り捨て未来に同意を求める。
「う、うん」
(証言は正しい、よね…)
身に覚えのありすぎる噂話をはっきりと否定することができない未来なのであった。