Ⅰ 四聖獣編
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✴︎14✴︎強くなりたい!
しばらく黙っていた二人だったが、
「帰るか。送る」
幽助が沈黙を破った。
「うん…」
未来は混乱する頭で、なんとか返事をする。
「幽助、未来」
闇の中で聞こえたよく知る声に振り返れば、蔵馬が立っていた。隣には桑原と飛影がいる。
「オレたちも今、戸愚呂と会いましたよ。暗黒武術会に招待するとね」
「なんか大変なことになったね…」
蔵馬も未来も、その表情は穏やかではない。
「信じられねぇ…戸愚呂はやべえ。妖気が強すぎて、足がすくんで動けなかった」
桑原は戸愚呂が去った今もなお身体を震わせ続けている。
「まあ、いい暇潰しにはなるな」
飛影が平然と述べたが、彼も確かな勝算があるわけではなかった。
「強くなんなきゃなんねえ」
幽助がまっすぐ前を見て言った。
「今のままじゃ絶対に殺される…。みんなで幻海婆さんの家に行こう。オメーらも修行するにはあそこがいいだろうし、今後のこと色々話さねーとな」
幽助に同意し、五人は幻海邸に向かった。
それぞれ考えることがあったのだろう…。到着するまで皆無口だった。
***
「ただいま」
幻海邸に到着すると、玄関を開けた未来に幽助たち四人も続く。
廊下の突き当たりの座敷部屋には、茶を飲みながらテレビを観る幻海の姿があった。
「おかえり。今日は客が大勢だね」
テレビから目を離さず、背後の気配を感じ取った幻海が言う。
「強くなりてェ。二ヶ月でできる限りだ」
幽助の瞳は戸愚呂に脅えていた時とは一変し、確固たる決意に満ちていた。
「今度は容赦せんぞ」
振り向いた幻海の声色は厳しかった。
***
座敷の机に円をかくように座った一同は、幻海へ一部始終の説明を行った。
机の上には、未来が用意した人数分のお茶が置かれている。
「暗黒武術会のゲストにあんたら全員なったってわけかい」
一通り話を聞き、幻海が皆を見渡す。
「私はゲストじゃなくて優勝商品として呼ばれたんだけどね。私たいした人間じゃないのに…」
未来は優勝商品になるほど自分がたいそれた人間だとは思えない。
飛影は下を向く未来の横顔を見ると、
「自己評価だけは的確だな」
「ほめてないでしょ、それ!」
「戸愚呂も見る目がないぜ。未来にそんな価値はない」
「知ってるけど!」
飛影の失礼発言連発に目くじらをたてる未来。
「オレは間違ったことはひとつも言っていないだろう」
フ、と飛影は笑う。
「キー!悔しい!」
未来はハンカチを噛むマネをした。
「へ~飛影も笑えんだな」
迷宮城で飛影は一切笑わなかったので、意外そうな桑原だ。
「オレは高笑いなら見たことあるけどな」
飛影の黒歴史を幽助は回想する。
「笑うとけっこうかわいいよね」
飛影が嫌がることを承知で未来が言う。
「…殺すぞ」
「照れなくていいよ、飛影!」
今度は未来が飛影をからかう番だ。
「……」
知らない間に距離を縮めていた飛影と未来に、顔には出さないものの蔵馬はしばらく鳩が豆鉄砲をくらったような心境でいたが、
「未来は怖いもの知らずですね」
遅れて二人の掛け合いにくすっと笑った。
「よっ キラースマイルを持つ男、飛影!」
「この世紀の美男子桑原和真様には及ばないがな!」
未来に便乗して飛影をからかう幽助に、自称笑顔が素敵なイケメン桑原。
「鏡をよく見てから発言しろ、つぶれ顔」
「つぶっ…ンだとコラ!」
久々の飛影と桑原の言い争いである。
さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやら、ワイワイ騒ぎだした若者たちに幻海は呆れる。
「あのねえこれからの二ヶ月をどう過ごすかであんたらの生死が決まるんだよ!少しは真面目に話しな!」
ごもっともな喝に、はた、と口を閉じる一同。
「婆さん、また修行させてほしい。それと桑原たちもここら辺の森で特訓した方がいいよな」
幽助がまた真剣な表情に戻る。
「オレもそれは助かる!公園で霊剣だすわけにもいかねえしよ」
ありがたい、と桑原。幻海の私有地の森は広くて人も来ず、格好のトレーニング場所だった。
「桑原くん、オレも付き合いますよ」
名乗りをあげたのは蔵馬だ。
「蔵馬に特訓してもらえたら鬼に金棒だな!」
「猫に小判とも言うぜ」
「カーッ やんのか浦飯ィ!」
幽助の胸ぐらを桑原は掴む。猫を馬鹿にしたことわざを使ったせいもあるかもしれない。
「飛影ももちろん、特訓に参加するよね?」
一瞬でおちゃらけた空気に逆戻りした場に幻海が頭を抱えた横で、未来が飛影の顔をのぞいた。
「なぜオレがこいつらと馴れ合って修行せんとならんのだ」
「飛影、君も分かっているだろう。一人より、複数人で特訓した方が上達が早い」
「…まあな」
蔵馬も飛影も単身で強さを磨いてきたタイプだが、団体の力を侮ってはいない。
「未来、あんたはどうするつもりだい」
のほほんと彼らの会話を聞く未来に幻海は訊ねる。
「え、私は…みんなの応援する!」
「アホ! あんたも自分の能力を磨くんだよ」
ハ~っとため息をつく幻海。
「あんたの聖光気の能力はね、今はせいぜい当てた相手の霊力を二割り増し程度に高めるだけだよ。エネルギー弾も小さいし、近くにいる人物にしか当てられない。コントロール力も皆無!」
「おっしゃる通りですけど…」
ボロクソに言われ、少しヘコむ未来。
「幽助はあたしがマンツーマンでしごくが、未来は三人の修行に付き合いな。三人の体力や霊力が底をつきそうになったら聖光気弾を撃て。できるだけ遠くからね」
「なるほど、そしたら未来ちゃんも能力を極めることができるし、オレらも短時間でたくさんの修行ができるっつーわけか」
幻海の言葉に、ポンッと桑原が手をうった。
「了解です。私もがんばんなきゃね!」
特訓は毎日桑原と蔵馬の学校が終わった午後四時から始められることとなった。
休日は朝から晩までだ、と幻海から命令が出る。
「ところで未来、あんた今日の夕飯は」
家事を任された居候の未来をじろりと見る幻海。
「いや、それどころじゃなくて何も用意してませんけど…今から作りましょうか?」
「作り慣れてないあんたが今から作ったら明日になるよ!そこのコンビニで買ってきな!」
「さすがに明日にはなんないもん…」
ささやかに未来が反論するが、所詮幻海には敵わない彼女である。
「未来、行き帰り送りますよ」
「いいよ、もう遅いし蔵馬も早く帰らなきゃ!家に連絡してるの?」
「本当にバカだな貴様は」
蔵馬の申し出を断った未来に飛影が言いはなつ。
「バカって…蔵馬のおうちの人が心配してるかもしれないじゃない」
「未来、蔵馬に送ってもらいな。あんたは自分が置かれた状況を分かってないね」
やれやれと頭を振り、腕を組む幻海が未来を諭す。
「あんたは優勝商品なんだよ、妖怪に狙われるかもしれない。あんたの異質な気もこの世界になじんでだいぶ目立たなくなったから大丈夫だとは思うが、念には念を、だよ」
「そっか…」
未来は自分が危険な立場にあると幻海の言葉でしみじみと感じた。
飛影は蔵馬の家族が心配するわけないと言いたかったのではなく、危機感のない未来をバカと言ったわけだ。
「私には価値がないだの言ってたくせに、飛影」
「オレは他の妖怪どもと自分の価値観が違うことを知っているからな」
「……そうですか…」
かわいくない返事の飛影に未来のテンションは下がる。
だが、未来のことを飛影が少しでも心配する気持ちがなければバカ、とわざわざ言わなかっただろう。
「そうと分かればさっさと行ってきな」
幻海に半ば追い出される形で、幽助たちと共に家から出た未来。またこの長い石段を往復しなければならないと思うとげんなりしたが、これも修行のうちか。
「私一人で出歩いちゃだめか…不便だなあ」
「安心してくれ未来ちゃん!オレン家から皿屋敷中までの道の途中に幻海婆さん家も雪村ン家もあるからよ、学校の行き帰りに毎日送るぜ」
任せとけ、と自分の胸を叩いた桑原。
桑原の登下校と時間を合わせて未来がバイトの行き帰りをすればいいというわけだ。
「桑ちゃん本当に!?ありがとう、超~助かるよ」
親切な桑原に未来の目は輝く。
石段を下り終えた一同は、明日から修行をすることを確認して解散した。
「じゃあ未来、行こうか」
「ありがとう、蔵馬」
不用心な行動をすると皆に心配をかけてしまう。送ってくれるという蔵馬の申し出に未来は甘えることにした。
コンビニがある方向に幽助の家もあるので途中まで彼も一緒だ。
「未来、一応これを渡しておく」
蔵馬が取り出したのは、未来が今まで見たことのない謎の植物の種。
「魔界の植物ですよ。たいていの敵はこれで攻撃できる」
「蔵馬…ありがとう。すごく心強いよ」
蔵馬や桑原、みんなに支えられている自分は幸せだと未来は思った。
バイト中未来は無防備なので蔵馬の植物の存在はありがたい。
「明日からの特訓、気合い入れねーとな」
幽助の言葉にうなずく蔵馬と未来。
「秀一?」
並んで歩いていた三人は、横から女性の声に呼び止められた。